アジアの本はこう読め!

第1回 日本人は本当に中国人のことを知らない

 

日本人はずっと中国に負け続けている。中国人を正しく理解できなければ、日本は今後も負け続けるだろう。

 

新宿歌舞伎町は日本じゃない

中国とどう向き合うべきか。なんてのは尖閣問題以来の産経・読売新聞や雑誌『正論』の見出しによく出てきそうな言葉だが、まあその中身と言えばどれもこれも似たり寄ったりで、「暴挙許すまじ」「おとなしくしているからつけ上がる」「習近平を相手にするな」みたいな日中戦争時代の新聞論調か近衛文麿の国会演説と何ら変わりがないのが情けない。

 

そもそもどうして日本人は、対中国となるとこれほど無茶苦茶な論調になってしまうのか。中国人は自分たちと同じ「漢字民族」だからと思ってしまうからなのか。文法なんてまるで違うのに。

 

いや。根はもっと深くて日本人は人類皆兄弟で理解し合えると信じているからなのだろう。外国人であっても話せばわかるし中国人だってわかり合えるし、ましてアジア人なのだから理解できないはずがないと。だから自分の考えと違う言動をされると怒り叫びうろたえて逆上する。困ったものだ。

 

アジア人なんて枠組みは日本人の幻想でしかないし八紘一宇に大東亜共栄圏なんぞ甘ちゃん日本人が考え出した夢想でしかない。押し付けられた側からすればバッカじゃねぇのてなもんだ。

 

と前置きが長くなったところで『歌舞伎町案内人』(角川文庫)という一冊。著者は李小牧(リシャム)という中国人。1988年、28歳の時に私費留学生として来日。東京モード学園に学ぶ傍ら、新宿歌舞伎町で中国・台湾・香港人観光客相手の風俗案内人=キャッチとなった人物だ。そんな彼が経験した歌舞伎町アンダーワールドを綴ったのがこの本。世界に名だたる風俗街の裏の顔と、そこに集う中国・台湾人観光客の素顔を描いたノンフィクションである。

 

日本の外交官は中国人に交渉術を学べ!

とにかく押しの強さと自信は並大抵ではない。背が高くて容姿もいいから女に不自由はないと豪語する。腕力があるわけでもない。知略と度胸に長けているのだ。だから所場代やケツ持ちにうるさいヤクザとも関わることなく、逆に可愛がられてキャッチ仕事の個人事業主となってゆく。それでいながら中国マフィアに対抗するためヤクザにガードを頼みに行くしたたかさもある。しかし言いなりにはならない。3時間のねばりの交渉でガード代を月1万円に負けてもらったという。さすが中国人である。TPP交渉であたふたしてる日本の農水・外務省は見習っていただきたい。

 

李小牧は言う。「侵略行為を絶対に認めない。私の権益を脅かす「敵」は断固として潰すのみである。日本政府のような『弱腰』の対応をしていては、この町で生き残ることはできない」自分が常に正義。交渉するなら妥協はなし。まるでフランス人。日本人が考える「アジア人」ではない。

 

ウブな日本人は中国人のしたたかさを見習え!!

著者の李小牧は2015年の2月に日 本国籍を取得・帰化した。驚いたのは帰化して早々、2015年4月に行なわれた新宿都議選に立候補したことだ。その選挙については『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)という本にして出版。これがまた日本の選挙事情の不可思議さ奇怪さを元・中国人目線から逆照射して面白い。選挙は落選したが、政治家はあきらめずに今も新宿 大久保駅に立って演説しているという。ついでに言えば日本人名は中国名の李小牧と変わらず、読み方を「りこまき」にしただけだそうだ。実利優先。中国人である。

 

中国人から見た歌舞伎町裏世界や日本選挙事情を描いた異色のノンフィクション2冊であるが、中国人が日本人とまるで違う外国人だということをしたたかに教えてくれる案内書として最適だ。「外国人」に不慣れな日本の新聞記者諸君もぜひ読んでお勉強していただきたい。

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黒田信一 (くろだ しんいち)

フリーライター

1955年北海道生まれ。札幌で映画会社に勤務していた時、同僚たちと映画館建設を決定。苦闘の末、1982年、札幌に48席のJABB 70 HALLをオープン。映画館経営の傍ら映画雑誌『BANZAI まがじん』を創刊し編集長に。1992年、映画館を閉館、 雑誌も廃刊。ライターに転向してアジアを 中心にうろつく。2004 年、ラオスでカフェを開業。2007年に閉店し帰国、ライター業に復帰する。スポーツから雑記まで幅広く執筆。本の雑誌別冊『文庫王国』のノン フィクション部門や北海道新聞の新刊書評なども担当。主な著作には、『カフェビエンチャン大作戦』(本の雑誌社)『アジア大 バカ珍道中』(情報センター出版局)『アジ アバカうまレシピ』(情報センター出版局)『インド人、大東京をゆく!―なんと、アジ アで最も熱い都市が日本のなかにあった』(青春出版社)『ルチャリブレがゆく』(講 談社文庫)『突撃!グフフ映画団』(講談社 文庫)などがある。

 

 

 

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