インドネシアで未踏のビジネスに挑む日本人

インドネシアで未踏のビジネスに挑む日本人

内田クレペリン検査で業務を効率化

日本国内や海外の企業、会社、工場にとって、そこで働く人々、あるいは新規に採用しようとする人々の個人の性格、潜在能力、得手不得手などをどう把握し判断するか、そしてそれを企業活動の中でどう活かしていくかは大きなテーマでもある。いわゆる適材適所で効率良く、そして本人が持つ能力を100%発揮できる環境に配置することはその企業の成長や業績にも関わってくるとさえ言われている。その個人をアセスメント(評価)するツールで「内田クレペリン検査」と呼ばれるものが今、インドネシアで日本人の若者が起業した会社によって本格的に導入されようとしている。この「内田クレペリン検査」を有力商品として日系企業などへの営業活動を通じて「組織の活性化」「人事の効率化」に貢献しようとしているのだ。

 

インドネシア人にとっては初めての経験

10月11日、インドネシアの首都ジャカルタ東部チカンペックにある日系四輪ロジスティック会社の一角では、同社のインドネシア人従業員11人が「内田クレペリン検査」受検前の説明を真剣に聞き入っていた。

検査の説明は英語の動画で行なわれるが、理解不足を補うためにインドネシア語でも丁寧に繰り返し説明は行なわれる。

 卓上に用意されている検査用紙の「上下左右」の向きが正しいか、各自に2本の鉛筆は行き届いているかなどが確認される。

そして、何より大切なのがほぼ全てのインドネシア人にとって初めての体験なので、「被検者の顔色を見てきちんとこれから何をやろうとしているのか理解しているかどうかを確認する」、そして「少しでも疑問がありそうな表情の被検者には近くに行って説明を補足する」という。

基本的に検査中しか鉛筆を持ってはいけないルールになっているが、気が急くのか、何度も注意するが、ついつい鉛筆を手にしては注意が繰り返されるのがインドネシア人の特徴という。

検査開始の直前に再び「質問、疑問はないですか」と問いかけ、何も質問がないことを確認して最後に「何も考えずに素直な心で精一杯取り組んでください」と結ぶ。

「レディー、スタート」の掛け声とともに一斉に始まった検査は用紙一面に1桁の数字が横に116個、それが縦に17行並んでいる。横の左右に並ぶ2つの数字を左端からひとつずつ順番に足し算して、その答えの「1の位の数字」を書きこんでいく、というものだ。1桁の足し算なので算数が苦手な人も極めてスムーズに進めることができるのも特徴である。

つまり、1行目に「7 9 3 6 7 3」という数字が横の並んでいたら、初めの「7と9」を足した結果の「16」の1の位である「6」を「7 9」の中間の下部に書きこんでいくという作業である。従って「7 9 3 6 7 3」という数字列は「76923963703」(横線の数字が回答で実際は数字の間の下部に記入していく)というのが回答を書き加えた後の横の数字の行になる。

「正確さ、速さ」はあくまで自己判断の基準であり、他人との競争ではないことがこの検査の要点だが、ややもすると「他人より多く回答を」と急ぐあまり、誤答が増えることもあるという。

「それもその人の性格、素質が反映され、検査結果の判断に表れてくる」という。

開始後60秒で改行し、15分間続けて、5分の休憩後に再び15分の2ラウンドで検査は実施される。単純な足し算の連続ではあるが、この単純作業の連続にその人の「性格」や「らしさ」が思いのほか如実に表れるという。それはつまり仕事ぶりでもあり、「受検者のパーソナリティー」の反映でもあるという。

この日、内田クレペリン検査を実施した日系の会社では、今回受検した11人を含めて合計約200人の従業員に同じ検査を受けてもらい、その結果を今後の業務、人事に反映させていくことを検討しているという。

ドイツ人クレペリンの研究成果が反映

「内田クレペリン検査」とは、ドイツ人医学者で精神科医でもあり、ノーベル医学賞候補にもなったというエミール・クレペリン氏(1856~1926年)が作業心理の実験的研究を進める中で開発した「連続加算法」を基に、日本の心理学者である内田勇三郎氏(1894年~1966年)が様々な時間条件を吟味してした理論が土台になっている。

内田氏はクレペリンの平均作業曲線とクレッチマーの性格類型論を結び付けて、そこから「健康者常態定型」を発見し、それに基づく性格理論を提唱した。

そしてクレペリンの実験的段階から実用的な検査へと収斂されたものが「内田クレペリン検査」と呼ばれるアセスメントツールで、「精神活動の普遍的なメカニズムの探求」の一つであると言われている。

この内田クレペリン検査は雇用側や企業側にとっては①いい人材を確保、採用したい②社内の配置や人事異動、安全管理に活かしたい③社員教育の一環として使用して個人に結果をフィードバックさせたい④働く従業員、社員のコンディションの悪化を発見、見抜くため活用したい⑤健康管理のために利用したい⑥組織の中でのリーダーや管理職候補を選抜する資料としたい──などの目的に資することができるという利点があるといわれている。

 

検査結果で分かる5つの特性

制限時間一杯で記入の終わった用紙は回収され、専門の訓練と知識を有する専門家、さらにクラウドによって分析、解析される。

そしてそこから浮き彫りとなってくるのが、各個人の「行動や性格に関わる5つの特性」である。

これは①発動性②柔軟性③敏感性④抗耐性(打たれ強さ、最後までやり抜く力)⑤回復性の5つで、それぞれの特性における短所と長所が「不足」「やや不足」「中程度」「やや過度」「過度」に分類された特性のいずれかに類型化されることになる。

たとえば、①の発動性が不足のカテゴリーと判断された人の長所は「じっくり」であり、短所は「気乗りしにくい」などとなり、過度のカテゴリーでは長所は「環境への適応が早い」、短所は「軽はずみ」などとなる。③の敏感性では不足のケースが長所は「落ち着きがある」だが、短所は「マイペース」、過度のケースでは長所が「状況を敏感に察知」で、短所は「ムラが激しい」というように分析される。

各国で多様な企業が検査を導入・活用

この「内田クレペリン検査」は、日本では、警察などの官公庁を始め、JR、東京メトロ、トヨタ自動車、セイコーエプソン、ヤマト運輸、日本通運、三菱重工業、本田技研工業などの企業が導入。採用や配置、事故防止の安全管理、教育、休職者の復職判定などに活用しているという。

さらに海外では中国、韓国、台湾で現地企業や日系企業が新規採用者に対するテストの一環として利用されている。

東南アジアでは、ベトナム、タイ、ミャンマー、カンボジアなどで同じように現地企業や日系企業、メーカーなどで新規採用や技能実習生の採用などに活用されているという。

東南アジアなど外国で「内田クレペリン検査」を利用する利点としては「就職に際して会社に提出する履歴書などに記載されている職歴や経歴が日本ほど確実で信頼が置けるものでない可能性があること」「言葉や文化さらに宗教などの背景の違いから、日本人が面接官を務める場合、コミュニケーションが十分にとることが難しい場合がある」「労働者や被雇用者、さらに新規採用の人材の潜在的な能力、基礎的なパーソナリティーを測定するツールが他に存在しない」ことなどが原因で就職の面接や企業内での個人面談などで生じる客観的資料不足を補うツールとなることが指摘されている。

世界中どこでも同じ用紙で同じ時間をかけて、と同一条件で検査は実施されている。その結果「ベンチマークカーブ」と呼ぶ30分で何行計算を済ますことができたかの平均行数について、東南アジアでは、ベトナム、タイが多く、ついでミャンマー、インドネシア、カンボジア、ラオスと続いている。

繰り返すが、この検査は算数の能力試験ではなく、あくまでの被検者の性格や心理を調べるためのひとつの手段であり、30分間で回答した数字や行数の多寡、その正解率などはその人の能力や知能とは直接関係ないとみなされる。

 

日本人の若者らが起業して検査を販売

インドネシアではかつて別の企業が「代理販売店」として「内田クレペリン検査」の業務を行なっていたものの、その企業がインドネシアで事実上の休眠会社となっていた。

そのころ、以前に「内田クレペリン検査」のセミナーに参加していた日本人などが中心になって、「販売店」業務を引き継ぐ動きが始まった。

その結果、2017年7月17日に、日本人4人、インドネシア人3人からなる「ブルッゲン・バタビア・インドネシア(BBI)」が起業され、「内田クレペリン検査」の本格的販売を再スタートさせた。

会社名の「ブルッゲン」はオランダ語の「橋」で、バタビアは首都「ジャカルタ」のかつての呼び方である。インドネシアは長年オランダの植民地だった(1602年から約300年)歴史があり、インドネシアのバタビアとの架け「橋」となるような仕事をしたいという気持ちを込めた社名だとBBIの取締役、八木橋優氏(31)は説明する。

八木橋氏は福島県双葉町の出身。父親の仕事の関係で幼いころからインドネシア在住でジャカルタ日本人小学校、日本人中学校で学んだ経歴を持つ。高校、大学は日本に戻ったものの、就職で再びインドネシアに戻り、人材派遣の会社に登録して日系企業での就職活動をする中、日系企業相手の大手コンサルティング会社に2001年に就職し、インドネシアで社会人としての一歩を踏み出した。

BBIで同じく取締役を務める益見朋宏氏(30)は神奈川県横浜市出身で、2003年にインドネシアの高校に進学して学んだ経歴を持つ。日本に一時帰国後ワーキングホリデーでオーストラリア・ゴールドコーストに渡ったが、複雑な人間関係から3か月で再び「古巣」のインドネシアに戻り、大手コンサルティング会社に2012年に就職し、ここでBBIの共同創業者となる八木橋氏と出会った。

八木橋、益見両氏は日頃から「コンサルティングの会社は面白かったが、デスクワークが中心だった。もっと外で日系企業などを回ってする仕事がしたい」と夢を語りあっていたという。

タイミング良くその頃に2人は高野泰範氏(45)と出会った。高野氏はインドネシア歴18年のベテランで、大手電機メーカーや自動車メーカーなどの労務人事コンサルタントを経験したコンサルの専門家だった。

3人はたちまち意気投合してコンサルティング会社を新たに起業しようとそれまで勤務していた大手コンサル会社を退社、BBIの共同創業者のメンバーとなったのだった。

休眠状態の会社から「内田クレペリン検査」の販売を引き継ぎ、新規ビジネスの主軸とする会社を設立、事業展開、営業開始と急ピッチで進んだ。

BBIにはこのほかにもう1人日本人スタッフとして武井宏幸氏がいて別の分野でビジネスを進めているという。

 

信頼性が低い性格診断ツールもある

個人の性格を判断する材料としては紙の上にこぼしたインクの染みに見える左右対称の図をみせて、そこから何を想像するかを問うロールシャッハテストが日本では有名である。

これはスイスの精神科医師、ヘルマン・ロールシャッハが1921年に考案したもので、投影法による性格検査として個人がその絵図から想像することを表現する言語表現を分析することで、被験者個人の思考過程や性格、さらに障害を推定することができるとされている。

このほかにも様々な性格診断の方法があり、インターネット上にも簡単に自己診断できる「性格診断ツール」「精神科医が使う性格判断テスト」などが溢れている。

試しに挑戦してみれば、その結果が自身で納得できるものなのか、それとも、とうてい納得できないものなのかが分かる。

もっともその結果の納得度と結果の妥当性はまた別のものであり、やはりネット上のツールによる個人での性格判断である以上、その結果や分析の客観性が保たれているかどうかの判断は難しいといえるだろう。

そういう意味で「検査の客観性」と95年に渡る長期間に全世界で累計5000万人に上る被験者という「実績」、さらに時間にしてわずか30分という「短時間」の検査時間、足し算という「単純な方法」などから、この「内田クレペリン検査」は、いま最も客観的に信頼できる性格判断、評価のツールの一つとされている。

インターネットで手軽に挑戦できる「エゴグラム」という性格適正検査は質問が50問あり、「はい」「どちらともつかない」「いいえ」から回答を選ぶ三択方式で「1問目から飛ばさずに全問回答」が求められるものだ。

設問はたとえば「他人への思いやりの気持ちは強いか」「自分をわがままと思うか」「怒りっぽいか」「待ち合わせの時間は厳守する方か」などとなっている。

こうした設問と回答から個人性格を正確に判定するのはかなり難しいと言わざるを得ない。

例えば「待ち合わせの時間厳守」だがインドネシア人は必ず「はい」と応えるだろうが、30分や1時間遅れることに全然「申し訳ない」という意識は生まれない民族性である。さらに「怒りっぽいか」

「わがままか」などの質問を自問した場合に、周囲から間違いなく「怒りっぽい、わがまま」と思われている人も自分による自己判定となると、果たして「はい」と回答するだろうかという疑問も沸く。誰しも自分を少しでも良く評価されたいと思い、願うのが悲しいかな人間の「性(さが)」ではないだろうか、と思うからだ。

ちなみに、筆者はこの「エゴグラム」にかなり正直に答えるつもりで挑戦した。その結果として「性格は浪花節的人生を送る可能性のかなり高いタイプ」「相当なわがまま者で言いたいことを言い、やりたいことをやる」「その割には考え方は保守的」と判断された。

それが的を射っているのかどうかの判断は知人などの他人に任せたい。

さらに、もうひとつネット上で「すごく的確すぎて怖い」との評価がある(といってもこれ自体を疑いたくなるが)「Neris Type Explore」というツールによる「無料性格診断テスト」での自己分析にもトライしてみた。

「正直に12分以内に、中立の答えはできれば避けて答えよう」との指示で「通常自分から話を始めることはない」「他人より自分が優れていると感じる」「気分が非常に変わりやすい方である」「他人を羨ましく思うことがある」など計60問に「同意する、同意しない」から中立まで並ぶ7つの○をチェックしていくテストだ。

エゴグラムも同様だが、こうした設問であれば回答する際に必ずや「自分はそこまでは」と自らを忖度する余地が生じてくる。周囲の誰もが下している評価と正反対の自己判定すら可能となる。

どんなひねくれた人間でも分析して特性を導く

こうした客観性の担保に難点が残る自己分析テストや性格評価検査に比べると、繰り返すが「内田クレペリン検査」は方法が「単純な足し算」という作業だけに、相当の客観性を結果に持たせることが可能になるのではないだろうか、と感じる。

もっとも、「わざと足し算の答えを間違えてみよう」とか「わざわざ時間をゆっくりかけて答えよう」などという天邪鬼的なことを試みるのであれば、その客観性に揺らぎが生じるかもしれない。

だが、「内田クレペリン検査」では、そうした天邪鬼的抵抗も「結果にそういうことが反映されて分析される」という。つまり天邪鬼的な試みはしっかりと「天邪鬼のような性格・傾向」として反映される可能性があるという。

BBIでは「内田クレペリン検査」の実施とその個人の分析結果に関して、「心理検査はその結果として統計的な『典型像』を指摘しますが、リアルな人間はもっともっと複雑です。検査結果で(被検者に)レッテルを貼らずにひとりひとりのリアルな『個別性』にアプローチすることを忘れないでください」と特に注意を呼びかけている。

これはどういうことかというと、「内田クレペリン検査」といえども完全なものでなく、一人の人間を分析、理解するには、検査結果だけに依存するのでなく、より複眼的、複層的にとらえることを念押ししているのである。

10月11日の四輪のロジスティック会社に次いでBBIの八木橋、益見両氏は12日にもジャカルタの東ブカシにある二輪製造業の会社で社員26人に対して検査を実施した。

検査を受けるインドネシア人からは「回答欄を1行飛ばしてしまった場合はどうするのか」などというテクニカルな質問に加えて、「そもそもクレペリンとは何なのか」「検査結果から導き出される類型の7つの性格タイプと5つの特性とはどういうものなのか」「注意したい傾向が出た場合はどうしたらよいのか」など検査や結果に対する詳しい質問が出たという。

ジャカルタ周辺には現在約2500社の日系企業が進出し、多くが工業団地に所在している。工業団地は、チカラン、ジャバベカ、チビトゥン、カラワン、タンゲラン、チカンペックと6か所が点在している。

BBIでは、こうした工業団地の日系企業を中心に現在は「内田クレペリン検査」を説明しながらの営業活動に重点を置いている。

若い八木橋、益見両氏の夢は、日系企業の多くで検査を採用してもらい、そしていつかはインドネシアの会社、官公庁、国軍や警察などでも「内田クレペリン検査」を導入してもらいたい、と大きな夢を抱いて、日夜、工業団地を中心に営業活動に飛び回っている、

筆者は八木橋、益見両氏の「一度検査受けてみませんか」という再三の督促に対して、快諾の返事を渋っている。それはこの検査方法で分析されたら相当的確に自分を分析されるだろうとの躊躇があるからだ。

読者の皆さんもご自分の会社や企業、組織でぜひこの「内田クレペリン検査」の導入を検討してみてはどうだろうか。それには「論より証拠」、まずはあなたから挑戦してみてはどうですか、躊躇することなく。

 

大塚智彦
(おおつか・ともひこ)
ジャーナリスト

Pan Asia News所属。毎日新聞社ジャカルタ特派員、産経新聞社シンガポール特派員などを経て、2014年からPan Asia Newsの記者兼カメラマンとして東南アジアを中心に取材活動を続けている。現在、インドネシアの首都ジャカルタに在住。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、「ジャカルタ報道2000日──民主国家への道」(小学館)がある。

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