インドネシアのメイクアップがいま熱い(上)

女性がますます美しくなっていく

インドネシアのメイクアップがいま熱い

「美しくなりたい」のは女性である以上、誰もが抱く願望である。
その美を追求する動きが東南アジアのインドネシアでこのところ急速に高まっている。
パーティーや食事会などの「夜の会合に参加するためにはどうすれば自分を美しくできるか」という夜向けの化粧を学ぶ講習会に女性が殺到している。
女性が懸命にお化粧し、ショッピングモールなどで化粧品を品定めするような姿はインドネシアの経済が安定し、国民、特に女性の心にも余裕が出てきた表れと言えるだろう。
多数を占めるイスラム教徒の女性用のハラル化粧品市場も拡大しており、今インドネシアの女性はますます美しくなっている。

 

「夜のための美しい化粧」を学ぶ講習会に殺到する女性たち

2017年の年の瀬も迫った12月21日、インドネシアの首都ジャカルタ中心部にある商業ビルの1室は約20人の女性の熱気に包まれていた。メイクアップ(化粧)を専門家から学ぶ「ビューティー・クラス」が化粧品会社と銀行の協賛で開かれていたのだ。

参加した女性は年齢層も幅広く、専業主婦もいれば、仕事を抱えている女性もおり、もちろん、独身もいれば、既婚者もいる。ただ、どの女性にも共通していたのは「化粧でもっと美しくなりたい」という思いだった。その思いの熱さがガンガンと冷房が効く室内の温度を上げていたようだ。

「ビューティー・クラス」の講師を務めるのは民放テレビ局「ANTV」でメイクアップ・アーティストを務め、現在は独立しフリーの「ビューティー・トレーナー」として活躍するルル・CQ・ムアさんで、この日のメイクアップのテーマは「夜のための美しい化粧」だ。

インドネシアでは職場や家族・親族、近所あるいは同窓、同好の仲間などでアフターファイブに集まり、食事をする機会が多くなってきている。さらに、誕生日、結婚記念日、休日などのあらゆる機会に際して、ホテルや宴会場で開かれるパーティー、食事会、シンポジウムなども社会の安定、経済の活況を背景に近年増えている。

そうしたアフターファイブの機会に臨むにあたっての化粧方法を習得するのがこの日のテーマだった。

会場には共催社でもあるインドネシアの化粧品会社「inez」から提供された化粧道具が各人の机に並べられ、ルル講師の指導で化粧のイロハを実体験として学んでいく。

会場内には複数のinezの美容部員が控えており、各自に丁寧な指導や助言、手伝いときめ細かい対応ができる態勢が整えられていた。

「夜のための美しい化粧」はまず、「クレンジング・フォーム」から始まった。額、頬、あごの周辺などを丁寧にクレンジングして化粧の下準備を整える。その後はトナー、モイスチャー、基礎ファンデーション、基礎メイクアップと続いていく。

さらに、細かい手順として、フェイス・パウダー、2ウェイケーク、アイブロー、アイシャドー、アイラッシュ、マスカラ、アイライナー、ブラシュオンと目の周辺を念入りに仕上げて、約4時間に渡ったクラスの最後はリップスティック(口紅)での仕上げとなる。

女性同士の集まりだけに、ランチやスナックを食べながらの化粧教室は実に和気藹々とした雰囲気の中で進み、美容部員やルル講師には間断なく質問が飛んだ。

平均的なインドネシア人女性の肌の色は日本人女性の肌に比べると褐色で色濃く、鼻は日本人と相違はあまりないものの、やや平べったく、目は比較的大きいという特徴がある。

このため、化粧はインドネシア人女性の肌の色、目の大きさに合った方法、化粧品を選ぶことが大切だとルル講師は強調する。

この日は「よりゴージャスな化粧で夜を楽しもう」を目標にして、目周辺には紫や灰色などの色をその女性の肌の色、目の大きさ、雰囲気に合わせて選択し、よりスモーキーに仕上げることを目指した。仕上げの口紅は「よりセクシーに、そして女性らしく」見せるために濃い目の赤系にこだわって選択したという。

 

多様化し、洗練された化粧の拡大

インドネシアは熱帯性気候で平均気温は32・6度、平均湿度は約60%で、屋外にいれば汗が噴き出す気候だ。化粧は天候や温度、湿度のことも勘案しなければならないが、今回のテーマである「夜のための化粧」では特別な配慮は不要だという。

「パーティー会場との往復は冷房の効いた車だし、会場は常に冷房でギンギンに冷えていることが多いからだ」(ルル講師)として特に汗で化粧が落ちることなどは想定していないという。

メイクアップが終わった参加者たちは会場に来た当初より際立って美しくなった。化粧のワンステップごとに携帯電話のセルフィーで撮影したり、隣同士で仲良く写真に納まったりするなど参加者全員がそのプロセスを十分楽しんでいた。

ルル講師によると化粧の究極の目的は「より自分を自分らしく見せること」であるというが、極度にセクシーで蠱惑(こわく)的な化粧は「インドネシア社会はイスラム教が多数で、女性もヒジャブ(頭部を覆う布)を着用したイスラム教女性が多いことからあまり歓迎されない」ことなどから、常に「自然に、質素に自分らしさを表現することがインドネシア女性の化粧の大きな特徴ではないか」と分析する。

インドネシアは1998年の民主化実現後、政治・社会・経済のあらゆる分野で「自由」を謳歌、満喫することを国民は学んできた。女性の社会進出も増え、それとともに化粧も一様、一律で控え目、最低限度の化粧という従来の一般女性の化粧から、TPO(時間と場所と機会)に合わせた多種多様な、そして、よりお洒落な化粧がトレンドとなってきている。

やや古いが、2016年に埼玉県が三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社と実施した「インドネシアの化粧品市場調査」というものがインターネット上で公開されている。

これはインドネシア人のイスラム教徒女性20歳から60歳を対象に実施した調査で277人から回答があり、化粧をする機会について「日常的にメイクアップしている」が53・4%、「買い物や喫茶店などへの外出時」が40・4%、「パーティー、結婚式などに参加する場合」が36・5%、「外で仕事をする時」が29・2%「外で家族以外の人と会う時」は25・6%、「家族と外出」が24・5%となっている。

この数字から分かることはインドネシア人の圧倒的多数を占めるイスラム教徒の女性の約半数しか「日常的に化粧」をしていないということであり、外出やパーティーなど外に出かけることが化粧をする理由にはなっているものの、そうしたケースでも半数以上の女性は化粧をしないという実態が浮き彫りとなっている。

確かに首都のジャカルタ市内でも公共交通機関のバスや近郊電車などに乗っている女性は、簡単に眉毛と口紅だけという、ごくごく基礎的な化粧だけの人が多い。地方都市に行けば眉毛はそり落として手書きしていることが多いが、口紅すらつけていない女性も多く存在するのが実情である。

その一方で、都市部の公共施設や民間会社、大学などで見かける女性がここ数年、美しくなっていることも事実である。もともとの美しさに化粧がさらに美を洗練させて、その美しさを際立てているからではないか、と感じている。

 

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大塚智彦
(おおつか・ともひこ)ジャーナリスト

Pan Asia News 所属。毎日新聞社ジャカルタ特派員、産経新聞社シンガポール特派員などを経て、2014 年からPan Asia News の記者兼カメラマンとして東南アジアを中心に取材活動を続けている。現在、インドネシアの首都ジャカルタに在住。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、「ジャカルタ報道2000日──民主国家への道」(小学館)がある。

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