オーガニック野菜をタイで開発し、 世界に売る日本人 (上)

自然と人間が調和した社会を目指す

 

地球の環境と人間の健康を守りたい

タイで起業してオーガニック(無農薬有機農法)による野菜作り、同農法の普及、関連商品の開発と販売などに取り組んでいるのが、日系企業のハーモニー・ライフ・インターナショナル(本社バンコク)創業者で代表取締役の大賀昌(おおが・しょう)氏。1999年から農薬と化学肥料を一切使わないオーガニック(有機栽培)農法で「環境と健康」をテーマにした野菜づくりをタイ東北部の入り口あたりにあるカオヤイ国立公園の高原に開拓したハーモニー・ライフ・オーガニック農園をベースに活動している。

農園内にあるオーガニック製品を作る工場も含め110人ほどが働く同農園は、バンコクから車で2時間ほどのカオヤイ国立公園の海抜400メートルの山麓にある。開園当初は50ライ(1ライは約1600平方メートル)だったが、その後70ライに広げた。

「私がこの土地を買ったときの8倍に高騰しています。資産価値は増えたのですが、農園の拡張が難しくなりました」と大賀さん。現在は70種以上のオーガニック野菜を生産している。
大賀昌氏は1956年2月に九州の宮崎市生まれ。かつて日本の医療機器メーカーのタイ代表として赴任したことがタイと関わるきっかけだった。この商社はタイ東北部の入り口であるコラート支社があり、大賀さんはひんぱんにバンコクとコラート(ナコンラチャシマ)を車で往復していたが、コラート近くの現在のハーモニー・ライフ・オーガニック農園前の国道を車で通るたびに大賀さんは『ここで農業をやれ』という天の声が聞こえたという。今も農園の裏の山腹にはお寺と大仏像が見えるが、ここでの起業を考えた当時からこの大仏があったと大賀さん。

商社マンとして36歳だった1992年、大賀さんはブラジルのリオデジャネイロで開催された世界環境サミットに参加したところ、カナダから参加した当時12歳だったセヴァン・スズキさんによる世界の環境を変える必要性を訴えたスピーチに感動したという。それから7年の後、大賀さんが43歳の時にバンコクにハーモニー・ライフ・インターナショナルを設立した。
「ハーモニー・ライフ」の社名には、自然と人間が調和できる願いを込め、地球環境と健康を守りたいと考え、食の安全や地球環境改善を大賀さんは提唱してきた。化学肥料を使用しない有機農法から工場排水などの水質改善に至る広い分野で、タイ、カンボジア、日本などで指導する活動も展開しているのも、農民の生活向上、消費者の食の改善につながってほしいと期待しているからだ。
大賀さんは主に月曜から水曜はバンコクにおり、週の後半はカオヤイのハーモニー・ライフ・オーガニック農園をベースに活動をしている。

ハーモニー・ライフ・オーガニック農園で収穫した野菜はバンコクの日系スーパーであるFUJIスーパーや伊勢丹などで販売されており、バンコクのスクンビット通りのソイ(小道)39の横道に大賀さんが経営するオーガニック野菜やオーガニック製品を売る「SUSTAINA(サスティナ)」がある。1階がショップで2階と3階は同農園で採れたオーガニック野菜を主な食材として使用した料理を出すオーガニック・レストランにしている。生産者自身が経営している店のため、比較的安いことをセールスポイントにしている。店名の「SUSTAINA」は「自然と人間が調和した持続可能な社会を目指すサスティナビリティー(持続可能性)から名付けたという。

オーガニックとして認定される厳しい条件をクリア

オーガニック農園として認定されるためには厳しい条件がある。まず農薬と化学肥料を3年間以上使用せずに農作物を栽培、4年目に栽培している農作物、土壌、農業用水から農薬と化学肥料がゼロ検出でなければならず、その証明を得てから1年間が「オーガニック農園」として認可される。オーガニックの認可条件は単なる無農薬栽培とは比べものにならない厳しさが求められている。
オーガニック国際基準では、すでに認可されたオーガニック農園でも、その後の検査で農薬が少しでも検出されると、その時点から再び3年間以上に渡り農薬と化学肥料がゼロになるまでの土壌改良が求められる。検査にパスするためには近隣の農地から風に乗ってやってくる化学肥料や農薬もオーガニック農地に入らないように注意する必要がある。
ハーモニー・ライフ・オーガニック農園では、カオヤイ山脈からの伏流水を150メートルのボーリングで汲み上げて人工池を作って溜め、EM菌など有用な菌を入れて植物に優しい水を作って農園の作物に撒いている。川の水を一切使わないのは農薬や生活排水などで汚染されている可能性が高いからだ。ハーモニー・ライフ・オーガニック農園を開拓した時点で農園周りに40本近いニームの木も植えたが、これまでに大木に育っている。ニームはインド原産でインドでは「聖木」扱いされており、害虫を寄せ付けないパワーがあるとされる。ニームの葉は食用にも使えるが、ハーモニー・ライフ・オーガニック農園ではニームの葉を発酵させてそのエキスから虫よけスプレーも製造している。

タイの農業省(正式には農業協同組合省)でも同じ基準でオーガニック認定活動を実施している。ハーモニー・ライフ・オーガニック農園は2004年5月にタイ農業省からオーガニック認可「Organic Thailand」を取得、2006年にはタイ農業省からオーガニック農業のモデル農園としての指定を受けた。2009年にドイツの国際オーガニック認可機関であるIFOAM(アイフォーム)からも認証されている。そして、2011年にはハーモニー・ライフ・オーガニック農園は最も厳格な審査で知られる米国オーガニック認可であるUSDAが認証され、同年には欧州の国際オーガニック認可のEUROオーガニック、そして、カナダからも認可されている。

タイでオーガニックが知られるようになったのは、亡くなったプミポン国王自らが主にタイ北部で進めた「ロイヤル・プロジェクト」でオーガニックを推進したことがきっかけだった、と大賀さんは感じている。そして、タイ政府もオーガニックの促進に力を入れ、農家をサポートしている。日本で農薬を使う農業を進める農協のような組織はタイにはなく、大観光国であるタイのイメージ高揚にもなるオーガニック産物で輸出促進を図りたいとタイ政府は考えている。

2008年1月22日にタイ政府の閣議でオーガニック製品を促進することが決まり、商務省が中心になって促進事業を展開している。オーガニック食品の見本市「Organic & Natural Expo」もタイ商務省が主催して毎年バンコクで開催しており、2017年7月末に開催された同展も消費者向けであることからタイ市民で会場はあふれかえっており、タイ人のオーガニックへの関心の高さが感じられた。

「Organic & Natural Expo」に出展しているタイ企業も「Organic Thailand」のオーガニック認証や欧米機関の認証も得ているところが出展していた。大賀さんによると、世界で最も権威があるオーガニック見本市はドイツの「BIO」(バイオ)。この見本市へは出展料金を支払うだけでは出展できず、世界で初めてオーガニックの規格を作ったドイツの国際オーガニック認可機関であるIFOAM(アイフォーム)から認証されている企業だけが出展できる。

大賀さんによると、タイでは農業省内にタイのオーガニック栽培を促進するオーガニック協会があり、タイの各県にも検査機関を置いている。タイ農業省が認証する欧米制度に似た厳しい基準によるオーガニック認可「Organic Thailand」を取得するための認証料金をまったくの無料にしている。欧米や日本では1000米ドルといった認証料が必要だが、タイでは政府のオーガニック奨励の意気込みが分かるというものだ。

ハーモニー・ライフ・オーガニック農園では当初はオーガニック栽培の現状の認証などのためにバンコクから農業省の職員が来ていたが、5年ほど前からは農園があるコラートの農業省事務所から検査にやって来るという。

 

オーガニック研修を世界中から受け入れ

オーガニック(無農薬有機農法)を普及させる指導活動もハーモニー・ライフ・オーガニック農園では取り組んでおり、世界各地から同農園のオーガニックを研修したい人を広く受け入れている。毎年500人から600人の研修生が農園に来ているが「タイ国内からが最も多く、半分強となりますが、マレーシア、ベトナム、ラオス、カンボジア、フィリピンなどASEANの国々からの他、日本やインドなどからの研修もあります」と大賀さんは説明する。

ハーモニー・ライフ・オーガニック農園ではカンボジア政府からも、世界遺産であるヒンドゥー寺院があるプレアビヒア地域(タイとの国境紛争が絶えない地域としても有名)でのオーガニック栽培の指導を依頼され、同政府の農業指導員8人にハーモニー・ライフ・オーガニック農園に来てもらい、40日間のオーガニック農法の指導を実施したこともあった。2017年末には大賀さんはミャンマーの高地のアラビカ種のコーヒー農園から招かれてオーガニック栽培の指導に行くという。

筆者は、カンボジアやラオスで取材した現職の副首相を含む国のリーダーから「我が国は歴史的に農薬で汚染させていない土地だからオーガニック栽培に適する」と説明され、日本の漢方薬メーカーや日本人が野菜の栽培も始めている現状を聞かされたことがあった。しかし、大賀さんは「(農薬使用を広く認めている)日本は、カンボジアやラオスに対する政府援助で農薬使用を拡散させているのではないか」と懸念している。

オーガニック野菜をタイで開発し、 世界に売る日本人 (下)

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松田健(まつだ・けん)

アジアジャーナリスト。元日刊工業新聞記者。主な著作には、『タイで勝つ!! 直感力こそ成功のカギ』(重化学工業通信社)、『今こそフィリピンビジネス─アジア投資の穴場』(カナリア書房)、『魅惑のミャンマー投資』(カナリア書房)などがある。

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