タイの製造業が東南アジアを牽引する

アセアン最大の金属加工展

「METALEX(メタレックス)」が熱い

タイの展示会オーガナイザーであるリード・トラデックス(Reed Tradex)社では毎年多くの産業見本市を開催しているが、「METALEX(メタレックス)」が同社で最大の展示会となっている。タイの不動産会社であるピラットブリ社が開発・運営する「バンコク国際貿易展示センター(BITEC)」が「METALEX」の会場だ。バンコクにはこの「BITEC」よりも大きい見本市会場はあるが、「BITEC」はバンコクの高架鉄道(スカイトレイン)であるBTSのバンナー駅に連結しているため、出かけるのに便利。昨年はこのバンナー駅側に高層のオフィスビルもオープンしている。また、2016年11月に開催された第30回「METALEX」からそれまでの3万2000平方メートルの展示場に比べて45%拡張して過去最大規模での開催となっている。

10万人近い集客力を持つ国際見本市

タイの「METALEX」はアセアンでも最大の金属加工関係の国際見本市と定義されており、毎年ブランド数で3000社以上が出展、10万人近い集客力が評価されている。同名の産業見本市が同社主催でベトナムでも毎年10月に開催されているが、規模はタイに比べると断然小さい。それでもベトナムでは最大の産業見本市となって定着している。

タイの「METALEX(メタレックス)」はバンコク国際貿易展示センター(BITEC)で毎年11月に開催されており、昨年は11月22日(水曜日)から25日(土曜日)までの4日間が「第31回」として開催され、ブランド数で3300社が出展した。リード・トラデックス社の主催で毎年「Manufacturing Expo」がプラスチック/ゴム技術展、金型加工技術展(インターモールド)、自動車製造展、組立技術展の併催で開催されており、産業関係ではタイのもう一つの国際見本市のオーガナイザーであるUBM社も「INTERMACH」を開催しているが、いずれも「METALEX」に比べると小規模である。

タイ政府では国家戦略として産業高度化を図る「タイランド4・0」を掲げ、その実現に向けて取り組んでいるが、目標である知識集約型産業を育成する「IOT(モノのインターネット)」とともに最近のバンコクの国際産業展でのキーワードにしている。プラユット首相は、メタレックス開催期間中に毎日発行された『ショウ・デイリー』の初号にメッセージを寄せ、「4000の革新を含む1万を超える技術が展示されるタイにとって重要な機会であり、『タイランド4・0』とアセアンの発展に寄与できる展示会だ」と語っている。開会式ではタイ工業省工業促進局のコプチャイ・スンシタサワード局長も「メタレックスが『タイランド4・0』やIOTの時代に向けた重要な存在」だと強調した。

リード・トラデックス社のイサラ(ISARABurintramart)社長は「金属加工の分野でもすべてが根本的に変化する『タイランド4・0』の実現に向けて競争や改革の高度化が要請される。これまで経験したことがないレベルに生産性を高めていくことは大変だが、幸いにも(展示会の場で)協力し合あえる関係を構築することなどで共に成功できる」と語った。

世界50か国から出展

タイ政府ではタイが陥りつつある「中所得国の罠」から抜け出し、2036年までに高所得の先進国入りを目指す「タイランド4・0」を取り組んでいる。「タイランド4・0」の一環として取り組むEEC(東部経済回廊)開発では次世代自動車、航空・宇宙、スマート・エレクトロニクス、ロボットなどのオートメーションなど10の産業を重点的に育成していく方針だ。タイの中小企業がロボット7などを導入して自動化を図る場合には政府が税制恩典などで支援する方針も発表されている。人手不足のタイでもロボット販売が好調になっていることもあり、スイスのABB、ドイツのクーカ(KUKA)、不二越、川崎重工、安川電機など各社の展示は例年以上に力が入っていた。

「今回初めてタイの展示会に出展してみたが、当初考えていた以上に多くの来訪者があった。来年もぜひまた出たい」とブースの日本人が説明してくれたのは、産業用ロボットの関節機、精密減速機のメーカーとして6軸関節機では世界の60%のシェアを持つハイテク企業であるナブテスコ。同社にはまだタイの販社はないそうだが、タイで現地調達の動きが高まっていると聞いて今回の出展を決めたという。

中国家電大手の美的集団は、ドイツの大手産業用ロボットメーカーであるKUKAを2016年8月に買収したが、2016年11月のメタレックスやその後の他の展示会のクーカのブースにはまったく中国人の姿を見かけずに不思議だったが、今回の「METALEX」では中国人らしきグループ同士での商談も見かけた。

シート金属加工の展示場である「ホール106」では、ファナック、川崎重工、KUKAによる「メタレックス・スーパーロボット」と名付けたゾーンでの腕の長さが6メートルのロボットの実演が見学者を圧倒していた。

「METALEX」には世界50か国から出展しており、今年のドイツ・パビリオンには21社が出展、台湾パビリオンにも60社などが出展しているが、出展企業のほぼ半数が日本企業関係であり、さながら日本国内の展示会といった様相もある。タイで操業する日本の金属加工メーカー・機械商社では非営利の業界団体としてJAMTAT(Japan Machine ToolAssociation of Thailand)が1993年に結成されているが、2013年のメタレックスからはJAMTATの共同ブースとして「METAREX」の会場の最も中心部を占めて出展している。

毎回出展しているLIXILでも台湾製の積層式信号灯を展示していたが、現在タイの多くの日系工場で機械の稼働状況の「見える化」を進め、IOT(モノのインターネット)化を進めるIT機器の展示も目立った。

板金加工機械で著名なアマダでは従来よりも展示スペースを拡大して出展したが、「初日から成約が続き、当初予想した以上の大きな成果が得られた」とアセアンのアマダグループの地域統括本部(RHQ)としてバンコクに設立されたアマダ・アジア・パシフィック(AAP)の初代社長(MD&GM)を務める山本浩司社長は満足げだった。

「タイのまったくのローカルの企業からの引き合いが多かったことも今回の特徴」(同)と会場で説明してくれた。

日本の中小企業が目立つ

JETRO(日本貿易振興機構)がまとめたブースには独自技術を持つ45社が機械や工具を出展した。東京都中小企業振興公社もメッキなど東京の中小企業多数の出展を支援していた。長野県も同様にすでにタイに進出している中小企業の精密部品製造、板金などの7社を組織して出展した。

LMガイド、ボールねじなどの大手であるTHKは「顧客の特注の加工に細かく対応、即納体制の構築、小から大サイズまでタイでの在庫も豊富」などと説明するが、「直動ガイドの品薄から生産が滞って困っている」というタイの日系メーカーの声も聞いた。

「METALEX(メタレックス)」はアセアン最大の金属加工関係の国際見本市ではあるが、来場者数や出展企業の展示内容も日本工作機械見本市(JIMTOF)に比べるとまだまだ。タイ政府ではタイのローカル企業がオリジナルの機械などを出品してほしいと願っているが、まだそのケースはほとんど見あたらず、タイ企業の出展は日本など先進国企業の販売代理店としての出展にとどまっている。

タイは最先端機械の輸出管理を厳格に実施する「ホワイト国」だとは認められていないことから、日本のハイテク機械の多くのタイ輸出が厳しく規制されている。「METALEX」へも位置決め精度で6ミクロン以上といった日本製の高精度機械は経産省の許可がなければ持ち込むことができないが、そこにはタイ側の問題も感じる。「METALEX」などのタイで開催される産業見本市にハイテク機械を展示してほしいと主催社同様にタイ政府も期待をしている一方で、タイが「ホワイト国」を目指そうという動きや努力が見えない現状はタイ政府の対応が矛盾している。タイにすでに進出している日系企業や今後タイで高精度の機械を作りたいと希望する日本企業の計画も実行できない難しい現状にある。

日本の工作機械見本市に出品できても、「METALEX」などの展示会には出展できないのは、ワッセナー・アレンジメントなどの国際間の輸出管理として経済産業省への届け出、許可が義務付けられている(キャッチオール規制)によるものだ。しかし、日本からの機械が規制されているのと同等の欧州製のハイテク機械が欧州からならば簡単にタイに輸出できている現状がある。欧米企業も同じ規制がされているはずなのに不公平だと多くの日本企業が感じているが、役所に睨まれたくないからだろうが、不満の声が小さい。筆者はタイ企業の経営者や知日家の外国人ビジネスマンから「日本政府は日本のハイテク機械の販売をなぜ規制するのか?日本の役所は一体どちらを向いているのか」などと聞かれて返事に窮したこともあった。

 

日本のセミナーを熱心に聴講するタイ人

今回の「METALEX」会期中には、EV(電気自動車)、AI(人口知能)などをテーマとする多くのフォーラム、セミナーも実施され、日本の型技術協会(横浜市、会長青山英樹慶応大学教授)による「第6回タイ・日本金型技術シンポジウム」も開催された。
青山会長は「以前のタイに比べセミナーを聴講しているタイ人が、新しい技術を取り入れることに熱心になってきたと感じた。目の輝きも以前とは異なる熱気を今回の訪問中に強く感じることもできた。各日系工場でタイ人同士だけで購買などのビジネスを進めているのも大きな変化だと感じた」と今回のタイ訪問での印象を筆者に語った。

同セミナーでは最初の講師を務めた前川佳徳教授(タイ裾野産業連合会顧問)は「1962年のトヨタのタイ進出以来、他の自動車組立メーカーも続々とタイに進出、1997年の通貨危機以降はタイからの輸出にも力を入れてきた。タイの金型技術レベルは日本、韓国、台湾に続くまでに伸びてきたが、コスト面では最高の日本に台湾、韓国、インドネシアと続き、タイはその下で、ベトナムよりは高い」などとアジアの金型の現状を説明した後、「タイの周辺産業を今日まで育ててきたのはまぎれもなく日本企業であり、タイの人材育成に貢献してきた。今後『タイランド4・0』を進めて行く上でもタイは今後もまずは自動車産業の東南アジアのハブとしてより強力な国になるべきだ」と語った。

さらに、前川氏は「タイではいま話題の電気自動車でなく、当面はエコノミック・カーに力を入れるべき。タイの人材を日本の教育システムで育て、日本のモノづくりの標準化をよりタイに導入、次世代技術をタイ人エンジニアが開発できるようにすることで両国のウインウインを築いてほしい。タイの大学と連携して学生を育てることも有効」などと提言した。

 

松田健(まつだ・けん)

アジアジャーナリスト。元日刊工業新聞記者。主な著作には、『タイで勝つ!! 直感力こそ成功のカギ』(重化学工業通信社)、『今こそフィリピンビジネス─アジア投資の穴場』(カナリア書房)、『魅惑のミャンマー投資』(カナリア書房)などがある。

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