ミャンマーで成功した日系IT企業

ヤンゴン発 新しいビジネスモデルが誕生

 

ミャンマーは、長年にわたる軍事政権が終了して民政化が実現して以来、経済発展が進んでいる。 進出する日系企業の数も増加し、ビジネスチャンスも広がってきた。 ミャンマーで成功している日系IT企業を紹介したい。

 

急速なスマホ普及を背景に伸びるミャンマーの日系IT企業

インフラ不足や日々何度も停電が起きるミャンマーだが、スマホ(スマートフォン)の急速な普及を背景としてインターネットを使ったショッピングやバンキングなど、数年前までは考えられなかったIT(情報技術)を利用する新たなビジネスモデルが相次ぎ生まれている。

 

(ミャンマーの日系IT 企業アクロクエスト・ミャンマー・テクノロジー社の職場風景)

 

軍事政権下のミャンマーでは携帯電話のSIMカードが軍に近い有力者の利権絡みもあり、2004年では5000米ドル(当時のレートで約55万円)もしたが、2011年までに約5 万円、2012年に約2万円と下がり、2014年夏に1500チャット(当時のレートで約150円)でSIMカードが発売されると携帯電話事情は一気に他の東南アジアレベルになった。

 

ミャンマー国営の郵便・電気通信会社で携帯電話事業を独占してきた最大キャリアであるMPTにKDDIと住友商事が2014年7月に提携、同年にはカタールのOREDOO(オレドー)社とノルウェーのTELENOR(テレノール)社も参入、現在では4Gの開始といった激しい競争を展開している。通信端末もほとんどがスマホ(スマートフォン)で「ガラ携」(スマホでない携帯)はもうほとんど見かけない。この2年間でヤンゴンは他の東南アジアの都市と変わらない、どこもスマホにかじりつく人ばかりといった風景が激増した。

 

端末では当初は韓国のサムスン電子が先行していたが、年1億を超えるスマホ(スマートフォン)を製造するようになった中国のファーウェイ(華為技術)が伸びていることはヤンゴンの繁華街で数十メートルごとに「ファーウェイ」を売る店が並んでいるのを見てもわかる。中国の「OPPO」「VIVO」といったブランドも健闘している。

 

(ヤンゴンで夜もにぎわう中国のファーウェイの店)

 

ミャンマーで人づくりに全力集中するアクロクエスト・ミャンマー・テクノロジー社

システム開発会社であるアクロクエスト・テクノロジー(ACROQUEST TECHNOLOGY、横浜市港北区新横浜、新免流社長)では初の海外法人としてミャンマー法人を設立する検討を2012年年初から開始、100%日本側出資法人アクロクエスト・ミャンマー・テクノロジー社(社長同、ACROQUEST MYANMAR TECHNOLOGY社)を従業員5人で同年5月にスタート、4年半が過ぎた。「現在の仕事は、日本からの仕事(オフショア)が7割、ミャンマーで請けた仕事が3割。今後、全体のパイを増やしながら仕事内容の比率を5分5分にしたい」と2012年の創業以来、アクロクエスト・ミャンマー・テクノロジー社で常勤として唯一の日本人である寺田大典(てらだ・だいすけ)ブランチ・マネージャー(1974年10月生まれ)が説明する。

 

(ミャンマーの日系IT 企業アクロクエスト・ミャンマー・テクノロジー社唯一の常勤日本人である寺田大典氏)

 

ヤンゴンの繁華街にある事務所で寺田氏は「ミャンマーのローカルのIT(情報技術)業界はスキルが低いところがまだほとんど。スキルが高く、納期が確実、ホウレンソウ(報告、連絡、相談)もしっかりできる企業がない現状の内に当社は市場を広げたい」と張り切っている。ヤンゴンのIT企業はローカル企業では大小合わせ数百社が存在するようだが、外資では「進出している企業は数十社でミャンマー国内向けのソフトウェア開発を行なっている企業は10社に満たない」と寺田氏は見ている。

 

日本の親会社であるアクロクエスト・テクノロジーは、資本金4100万円で1991年3月の設立。日本での従業員数は約90人で年商は約10億円。ソフト開発における成熟度を現す国際規格であるCMMIで2005年4月にレベル3を達成しており、システム受託開発、パッケージ開発・販売している。そのミャンマー法人であるアクロクエスト・ミャンマー・テクノロジーでは、マーケティング・サービスを経営の一柱にしたい方針。例えば各社向けのWEBシステムをミャンマーで受注しているが、「レストランからのホームページ作りを受注すれば予約システムなどを含めることなど付加価値をつける提案をしている」と寺田氏。デパートや小売業などでのPOS(販売時点情報管理)関係のシステムや予約注文を受けるWEBサービスシステムやホームページ構築などでは日系、外資系、ミャンマー企業を顧客にしている。

 

ミャンマーの日系企業からアンケート調査なども相次ぎ受注し、その結果を納入しているが、オンライン・リサーチで「FACEBOOK」やオリジナルのスマホアプリを利用するなど、やはりミャンマーでスマホが普及したことを背景にしている。また、2016年10月より日本のグループウエア大手であるサイボウズの「アジア・パートナーシップ・プログラム」を締結し、アクロクエスト・ミャンマー・テクノロジーがクラウド型データベースの「KINTONE(キントーン)」をミャンマーで拡販することも決まった。

 

終身雇用実現を目指す

アクロクエスト・ミャンマー・テクノロジーのミャンマー人従業員は26人で、初任給はスキルに応じて150から200米ドル。日本では一般にソフト開発企業では男性従業員が中心を占めているが、ミャンマーでは従業員の7割が女性従業員。当面は従業員を50人体制にして広くミャンマーの需要に対処していきたい方針。「従業員数は現状の倍で、現状の3倍の売上高にしたい」ことが寺田氏の当面の目標。

 

インターネット系の雑誌といった専門誌を使って当初の人材募集をしたアクロクエスト・ミャンマー・テクノロジーだが、2014年から「FACEBOOK」を使った募集も始めた。ミャンマーではコンピュータを学ぶ大学の学部でさえコンピュータが決定的に足りない現状にあり、座学でコンピュータ言語などを学んでいる。そのため、卒業しても満足にプログラムを組めないレベルの人が多い。そこでアクロクエスト・ミャンマー・テクノロジーでは大学の新卒者を白紙の状態から教育することを基本方針にしており、「中途採用は行なわずに人を育て、技術力を高め、終身雇用を目指したい」と寺田氏は考えている。

 

毎週開催している社員向け教育では、日本本社の教育コンテンツも利用して社員のスキルアップと従業員満足度の向上を図っている。勤務中には、従業員に日々の業務管理として自社製のオリジナルノートの「ACRONOTE」を全員に持たせ、毎日15分ごとの予定と結果を記入させている。ハッキングにつながるUSBメモリや個人のノートなどの社内への持ち込みは禁止といった防犯対策もしている。

 

日本への研修も増やす

日本の本社の方針でもある「テクノロジスト・チーム」としてビジネスの革新的価値創出に挑戦する姿勢をミャンマーでも貫きたい方針。各種インフラが未整備のミャンマーでは公共インフラの整備も進む。これに目をつけたアクロクエスト・ミャンマー・テクノロジーでは、寺田氏を中心とした日本人グループによる受注活動を展開している。「ミャンマー人従業員でマネージャー候補はいるが、まだそのレベルに達していない」(同)

 

現在では、リーダーの養成に力を注いでいる。年に6人ほどが日本での研修に行き、帰国後にリーダーに昇格すれば日本に行く前に比べ給与が倍増する。2015年からHIDA(海外産業人材育成協会)の助成金による研修も実施している。

 

最大の問題は、せっかく教え育てた人が辞めること。同社のように一歩上の技術を売りたい会社としては総体としてスキルを高めるため、転職は防ぎたい。このため従業員にとって魅力ある会社になうと様々な取り組みをしている。例えば昼休みは45分間だが、3時から15分間のコーヒーブレイクを全員でとることも喜ばれている。年1回の社員旅行はバス泊込みの2泊3日で、すでにチャウンター・ビーチ、ゴールデンロック(チャイティヨー)や2013年末には首都ネピドーで開催されたシーゲーム(東南アジア競技大会)観戦にも出かけた。月1回は夕食パーティーも開催している。

 

新政権にインフラ向上を期待

アウン・サン・スー・チー氏(以下スーチー氏)を事実上の国家元首とする国民民主連盟(NLD)政権が2016年3月にスタートしたが、寺田氏は新政権について、「広い意味では当社にとっても顧客増につながる」と考えているが、「新政権は各種規制を減らし(顧客増につながる)外資のミャンマーへ誘致を進めて欲しい」と期待している。

 

ミャンマーでは昨年は4月の水かけ祭り以降も停電が減らずに冷房が効かない日も多く暑かった。

 

寺田氏は「新政権ではインフラ整備にもっと力を入れてもらってビジネス環境を向上させて欲しい。光通信などでネットワークは当初考えていたよりは早いスピードで改善されてきているが、仕事上で使っているネットのスピードがまだまだ遅い」ことなど、不満は多い。MPTと提携しているミャンマーに進出しているKDDIを通じ日本では不要の毎秒8メガの専用線を敷設したが、「敷設準備だけで数十万円もかかった」(同)という。

 

横浜の本社では米国の検索システムの大手であるELASTIC社と提携するなど米国企業との関係もあるが、2016年9月のスーチー氏の訪米に合わせ経済制裁の解除が決まったことから米国企業のミャンマー進出は増えそうだ。だが、米国からのITの投資も増えるでしょうかとの筆者の質問に寺田氏は「米国の大手もミャンマーに進出してくるとは思いますが、ほとんどの企業では直接進出ではなくオフショア先としてミャンマー企業に開発発注する形になるのではないでしょうか。米国の給与は日本以上に高いので、ミャンマーに進出してその給与が捻出できるのは大手でしょう」と寺田氏は見ている。

 

筆者も取材しているが、ヤンゴンで日本の中小企業の法務サービスに特化している国際法律事務所を経営する堤雄史(つつみ・ゆうじ)弁護士から2015年末に話があり、2016年4月には、ミャンマーの主要な法律を英訳して検索できるようにして、顧問先企業などがWEB上で確認できるシステムを納入した。ミャンマーでは投資法、商法などつぎつぎと新しい法律が施行されているがそれにも対応させている。堤弁護士は2012年からミャンマーに居住しており、自身の法律事務所名の「SAGA」は「迅速(SPEEDY)、柔軟(ADAPTABLE)、国際的(GLOBAL)観点の野心的(AMBITIOUS)サービスの頭文字から名付けている。

 

タクシー配車のスマートフォン用アプリなど開発

「ミャンマー市民の生活向上に寄与できるソフト開発を各分野で手掛けたい」と考えるアクロクエスト・ミャンマー・テクノロジーではタクシー配車のスマートフイヤーサービスを行っている日系企業のグロウス・ミャンマー社(ヤンゴン)の「芳賀啓介代表の心意気に共感し、システム面での協力をさせていただきました」と寺田氏。

 

グロウス・ミャンマー社と提携し、ヤンゴン市民向けのタクシー配車スマートフォン・アプリである「FLYCAB(フライキャブ)」を共同開発したもので、タクシーのサービスが欠如している現状を変えようとしている。ミャンマーでは現在もメーターで走るタクシーは皆無であり、タクシーに乗るにはまず運転手と交渉しなくてはならないが、英語はほとんど通じないしサービスも悪いのが現状。ヤンゴンの交通渋滞は深刻化しており、タクシーの利便性が失われている。そこでグロウス・ミャンマー社では新アプリによる配車サービスを2015年10月21日に開始した。

 

料金システムでは初乗り運賃が手数料込みで1500チャット(約130円=2016年12月現在)からで、料金は走行距離と時間に対応して計算され、グロウス・ミャンマー社は顧客の利用頻度に応じた料金プランも設定している。当面タクシー3000台の登録を目指しており、サービス内容を充実させる。キチンとした領収書を発行するので、法人だけでなく個人の顧客にも歓迎されている。

 

オンライン・リサーチでミャンマー人が好きな国1位は米国と判明

アクロクエスト・ミャンマー・テクノロジーでは大卒者が1万数千人も登録しているミャンマー最大の人材派遣会社でコンサルティング・ビジネスも展開しているJ-SAT CONSULTING(西垣充社長)からの依頼で、ミャンマーで初めてオンライン・リサーチを実施した。そのアンケートでミャンマー人に「どの外国が一番好きかそのベスト5位」を聞いたところ、アンケート結果の1位が米国で27%、2位は日本で22%、3位のシンガポールが21%、4位と5位が韓国と英国でそれぞれ15%という当初予想とは異なる意外な結果が出たため、J-SAT CONSULTING ではこの結果の発表会を開催している。

 

また同アンケートでは、ミャンマーでは仕事を選ぶ基準について「仕事内容」と答えた人が全体の79%を占め、給与が仕事を選ぶ際の基準と答えた人は21%という意外な結果だったことも明らかにされた。このアンケートに協力してくれた人に中国製「スマホ」や韓国製のタブレット、ビーチへのペアでの旅行招待などの景品を配った。

 

ミャンマーでCGのパイオニアとして先行する「スタジオ51」

ヤンゴンで2014年8月に立ち上がり、CG(コンピュータ・グラフィックス)を利用したゲームやアニメなどを制作しているMYANMAR51STUDIOは100%独資の日系企業としてミャンマー政府から認可されている。関係会社は東京都中野区弥生町の東京コンテンツインキュベーションセンター内でゲームやアニメを制作しているSTUDIO51(株)。STUDIO51の保田紀之(ぼうだ・のりゆき)社長は同社設立する前には家庭用ゲームソフト制作会社である(有)パンチラインを東京・吉祥寺で経営していた。

 

2016年11月現在、MYANMAR 51 STUDIOには日本人3名の他にミャンマー人22人がアーティスト、コーディネーターなどとして働いているが、さらなる受注増に対応できる体制構築を進めている。MYANMAR 51 STUDIOの工藤毅(くどう・たけし)CEO(最高経営責任者)はミャンマー進出の経緯について、「中国市場の先はどこかと検討し始めた段階で、ベトナムにはすでに競争会社が出ているが、ミャンマーなら当社がパイオニアになれるのではないかと考えた」という。

 

工藤CEOは中国の直轄市である天津にあるCG制作会社(従業員数約150人)にいたが、2015年から現在のミャンマー法人のCEOとして赴任した。天津の提携企業では「ドラゴンクエスト」や「モンス ターハンター」など有名ゲームのCGやムービー制作協力を行なっており、工藤CEOはこの天津の企業で営業とプロジェクト管理担当だ生時代から将来は何もない海外で働くのが夢だった」ことから現在のミャンマー生活を満喫している。2016年2月に一時的にヘルプで日本から来ていた徳田哲也氏も「ミャンマーの水があう」と志願、同年5月からは正式派遣になって人材育成を担当している。

 

工藤CEOら日本人スタッフは、「ミャンマー人は合理的に仕事を進め、頭の切り替え、覚えるスピードも速いなど頭脳明晰。美術を理解する力も高いので日本の顧客からも満足されている」と口をそろえる。まだ技術が高くない男子従業員の中には納期に間に合わないと感じると土日に自主的に出勤してきたり、徹夜で張ってくれる」など、仕事に向き合う責任感は日本人に負けないものがあると工藤CEOらはそろって評価している。「3年後をメドにミャンマー語での作品も開発したい」のが工藤CEOの方針。開発を終えたデータは同社のFTPサーバーから顧客がダウンロードする。勤務時間は朝8時から夕方5時までで、昼休みは1時間。従業員と月1回の食事会なども開いている。

 

(Myanmar 51 Studio が2016 年に職場で開いたハロウィーン・パーティー)

 

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【松田健 まつだ・けん】

アジアジャーナリスト。元日刊工業新聞記者。主な著作には、『タイで勝つ!! 直感力こそ成功のカギ』(重化学工業通信社)、『今こそフィリピンビジネス━アジア投資の穴場』(カナリア書房)、『魅惑のミャンマー投資』(カナリア書房)などがある。

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