ミャンマーの地震状況を検証する(下)

ミャンマーの地震状況を検証する

都市部の大地震では甚大な被害が
地震災害への新建築基準を創案中

こうしたデータからから見れば、ミャンマーは蚊帳の外に置かれているようにも思えるが、しかし、ミャンマーの都市部をM5・5以上の大地震が襲った場合、建築構造や防災体制の脆弱さにより、甚大な被害が出ることは予想されている。そのため、建築物倒壊が相い次いだ3年前の2015年のネパール地震の直後に、ミャンマーでは改めて建物の災害耐性への疑問が提起された。ミャンマーエンジニア連協会(Myanmar Engineering Society:MES)は、建設、開発業者に対して建築基準(National Building Code)を遵守するように促している。

ミャンマーの新しい建築基準は未だ草案の状態であり、法制化にはまだかなりの時間が必要とされている。専門家は、法制化されるまでは、建設・開発業者の自主的なガイドラインに依存しなければならないのが現状だとしている。

MESの代表者で建築基準の起草に携わったU Kyi Lwinは、「いくつかの建設業者および開発業者は建築基準を遵守しているが、認知度はまだ広がっていない。地震の発生により、ミャンマーが早急に建築基準を改善及び対処していく必要性があることを喚起させる。国内で地震が起きた場合、建築基準は破壊を軽減するのに役立つものであることを再認識させたい。国内の建築基準が国際基準に比べて脆弱であることは、国内の建物の品質が不規則になることを招く。業者は異なる国際基準又は現地の慣習に沿っており、建物の製造品質は非常にバラつきがある。MESは現在、英文で起草された文書をミャンマー語に翻訳中で、完成次第、建設省に提出し、修正が加えられたうえで、議会の承認を待つ予定だ」と述べている。

その建築基準の草案は7つの章からなり、構造、健康及び安全並びに建設サービスまで含まれているという。第3章の構造部門は自然災害に耐える建物を造ることを記述している。また、すべての建物は一定のリスクに直面しているが、資格のないエンジニアが基準に従わずに建築されたものが最もリスクが高い、と警告している。

「私たちはライセンスを持たないいくつかの建設業者を知っている。彼らは大工(carpenters)たちのみで建てた。これらの建物は強い耐性を有していないため、地震が起きた際、建物は危険にさらされる」とU Kyaw Thuは述べた。

国連人間居住計画(UN-Habitat)は、ザガイン、バゴー管区とシャン州のタウンゴーシティーの範囲を調査し、危険地区を明らかにする地図をすでに作成している。調査結果はその後、ミャンマーの地方政府に報告された。地方政府は電力事業及び工業地帯の建設、町の拡張のときに、地震の発生場所の危険地域を示した地図を参照することができるという。

U Kyaw Thuは、次の段階はヤンゴンとピー管区を調査し、2つの報告書を完成させることを目指しているとも述べた。

 

 

軟弱な地盤には「べタ基礎工法」を
ミャンマーでも採用を奨励すべき

ミャンマーに比べて地震発生頻度の高い日本では、建物の耐震性への要求が高いため、大地震でも建物倒壊による犠牲者は比較的少ない。これは、2008年の中国四川省で起きた大地震で、大勢の市民が建物の下敷きになったこととは対照的だ。この違いは一体どこにあるのか。

中国メディアは、日本の建物が地震でも容易に崩壊しないのは、中国の建物に比べて「基礎」部分に大きな違いがあるためだ、と指摘している。

記事によれば、日本のように一戸建て住宅が多い中国の農村部では、地盤の質が劣悪であることが多いという。地盤のしっかりした、建物を建てるのに向いた土地にはすでに家が建っているため、新しく建てられる家の多くが池や泥沼といった軟弱な土地に建てるしかなく、1、2年もしないうちに壁にひびが入ったり、窓が変形していると嘆いた。

では、日本はどうしているのか。日本でも地盤の弱い土地に家を建てることはあるが、数年でひびが入るというのは、よほどの欠陥住宅でない限り、まずない。なぜなら、日本では「基礎工事」を重視しているからだ。デコボコの石を隙間だらけのまま並べて基礎工事としている中国とは対照的に、日本では「ベタ基礎」が広く採用されているからだ。

ベタ基礎とは、建物の底面全体をコンクリートで固めたもので、やや地盤の弱いところでも沈下しにくく、地震に強い特徴がある。また、家屋のねじれを避け、亀裂などの問題も避けられる。中国メディアの記事では、阪神淡路大震災のあとで見直されるようになったこの工法について、水田が多く、池、泥沼など軟弱な地盤が多い中国の南方でもこの工法は採用するに値すると指摘している。

しかもこの工法は施工もそれほど難しくない。大切なのは一つ一つの手順を手を抜かずに行なうことだという。記事は最後に、「このような基礎があれば、地盤沈下による家屋の変形を恐れる必要などなくなる」とし、日本の基礎工事の方法を称賛した。

建築において安全は何よりも重要だが、中国では2009年に上海市内で建築中だったマンションが突然仰向けに倒れるという事故も発生している。中国でいかにずさんな建設が行なわれているかを示す例だが、時おり大規模な地震が発生する中国でも、日本のようにしっかりと基礎工事を行なえば、万が一の地震でも多くの人命が助かるかもしれない。

この話は、ミャンマーの地震対策にも当てはまるのではないか。特に国内の地方の地盤の弱い場所にはこのべタ基礎工法を奨励すべきだろう。コンクリート素材の原料となる石灰岩ならミャンマーは豊富な埋蔵量を誇っているので、国内調達が可能だからだ。

ミャンマー人は高層階に住むのを嫌うという。反対に日本人は眺望の良さを好む。しかし、新しく建てられた高層建築住宅やオフィスならともかく、古い建築基準で建てられた建物は、こうした地震災害には脆弱であるという認識の上で入居すべきだろう。そして、緊急時の避難法なども常に頭に入れておくべきである。

 

〈参考文献〉
・米国地震調査研究所資料
・内閣府「平成26年度版災害白書」
・名古屋大学環境学研究科附属地震火山・防災研究センター資料
・日本応用地質学会 平成17年度研究発表会資料
・デトロイトトーマツ企業リスク研究所資料

 


栗原富雄(くりはら・とみお)

月刊『Yangon Press』編集長兼CEO。元日本旅行作家協会会員。
1949年、東京生まれ。高校を休学して2年間、ヨーロッパ、アジア、アメリアを放浪。1975年から1988年まで、「ブルータス」「週刊宝石」の取材記者。1992年~ 2001年、月刊「SEVEN SEAS」、月刊「VACATION」編集長、月刊『MOKU』編集局長を歴任。その後、フリーランスを経て、2011年にミャンマーのヤンゴンへ。2013年4月、日本語フリーペーパーの「Yangon Press」を創刊。2014年9月、ミャンマー語版を創刊。VIP取材には、ダライ・ラマ14世、ゴルバチョフ元ソ連大統領、デビッド・ロックフェラー、アウンサン・スーチー他。著書に『あの助っ人外人たちは今』(実業之日本社)、『不動産広告の裏を読め』(実業之日本社)、『Yangon Press で読み取る現実と真実』(人間の科学新社)などがある。

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