東南アジア最後のフロンティア ミャンマーの魅力

第一回 事業展開の本番はこれからだ

日本の製造業の海外移転先は中国に始まり、タイやインドネシア、そしてベトナムへと変遷して来ました。これらの国の状況を概観して見ましょう。

 

中国の成長阻害要因

中国は2012~2013年に15~64歳の生産年齢人口がピークに達しました。これからは労働人口の減少と急速な老齢人口の増加が大きな課題となって来ます。

一方、今後は、教育費や住宅投資など経済成長の担い手の25~40歳の住宅主要取得層が急速に減少する事が見込まれており、日本が1980年代に住宅主要取得層の減少により余儀なくされた「停滞の20年」と同じ状況となりそうです。

世界の人口の22%を占める中国ですが、水資源は世界の7%しかなく、1人あたりの水資源の量は年間2700ミリリットルと世界平均の4分の1だけです。中国の660の都市の半分以上が水不足に苦しんでおり、都市の90%の地下水、河川、湖沼の水の75%が汚染されています。水質汚濁の広がりのため、毎日7億人が汚染された飲料水を飲んでいる事になり、産業用水、農業用水、生活用水の絶対的不足は経済の足を引っ張り続ける事となりそうです。

 

アセアン諸国の雇用情勢

タイの失業率は2014年11月に0・5%にまで下がりました。ケインズという英国の経済学者が第2次世界大戦前に提唱した「完全雇用」が5%前後の失業率を想定していた事に照らしても異常に低い失業率と言えます。年間300日間働いている労働者が2年間働いた後で転職する前に3日間お休みをとったなら、これが0・5%の失業率です。このような極端に低い失業率の下で賃金上昇圧力は高まり、日本から進出したサポーティングインダストリーや地元の中小企業は労働力の確保が極めて困難な状況を迎えています。

労働争議が頻発し過激化しつつあるインドネシア、国全体の失業率は3%弱ですが、ハノイやホーチミンでは失業率が1%台まで下がっているベトナムなどでは雇用問題はますます深刻化しています。労働者がより良い労働条件を求めて移動するために、離職率が月5~10%に達する場合もあります。カンボジアの最低賃金は2018年1月から170米ドルに達しており、工場運営に多大の支障を来している識字率の低さや高い電力料金などと相まって、労働集約型産業が国外に逃げ出し始めています。

 

ミャンマーの現状と課題

敬虔な上座部仏教徒の深い信仰と価値観、穏やかで対日感情がすこぶる良く、識字率がベトナムと並んで東南アジアで最も高い良質で豊富な労働力が最低賃金110米ドル(2018年4月以降)で得られるミャンマーは、まさに製造業の救世主と言えます。
ミャンマーの地政学的な優位性も見逃せません。2015年12月末にアセアン10か国による経済共同体(AEC)が発足しました。人口6億2000万人(EU18か国5億820万人)、GDP(国内総生産)2兆5000億ドルの大経済圏で、ミャンマー、カンボジア、ラオスの3か国も今年2018年には参入する運びです。先行加盟国の間では品目数にして96%の関税が撤廃されています。地域内の水平分業と域内貿易が飛躍的に増大するのは確実です。また、人口13億人の中国、人口12億人のインドともミャンマーは国境を接しています。
1人当たりのGDPの急速な伸長による国内消費市場としての魅力も挙げられます。公式な統計数字を遥かに上回る1人当たりGDPは国全体の平均で1500米ドル前後、人口の25%を占める都市部では3000米ドルくらいと推定されます。

広大で肥沃な国土、潤沢な水資源に裏打ちされた豊かな農産品、豊富な天然資源、スー・チー政権誕生による先進諸国からの経済援助拡大によるインフラ整備等々、まさに「最後のフロンティア」と言えます。

「ミャンマーは未だ早い」とおっしゃる方々が共通して指摘する課題は次の3点に集約されます。

•力やロジスティックなどのインフラが未整備
•法律や制度が未整備
•政治的安定度への不安

電力やロジスティックは海外からの投資により急速に改善されており、特にヤンゴン周辺では、2、3年の内にアセアンの先輩国並みに整備される見込みです。

法律や制度も、「投資法」、「会社法」などが整備されつつあり、国際標準に基づく企業活動の保証、税金や配当金送金が保証されつつあります。

政治的安定についても、ロヒンギャ問題や少数民族問題など解決すべき課題は山積しておりますが、外国企業が進出する大都市周辺では、軍の姿を見かける事もなく、日本や中国を始めとする各国からの多額のODA(政府開発援助)により、経済の基盤は着々と強化されており、政治的安定度は増しています。

次回からは、ミャンマーの様々な側面に焦点を当てて、お話をさせていただきます。

 

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山口 哲(やまぐち・てつ)

早稲田大学第一商学部卒。三井物産に入社し、米国ニューヨーク本店やインドネシア現地法人に勤務。銀行マンに転身し、ABN AMRO BANK、ANZ BANKなどの外資系銀行を経た後、ジェトロのヤンゴン・オフィスで海外投資アドバイザーを務める。現在はヤンゴンで「Office Teddy」を設立し、日本企業のミャンマー進出支援や不動産仲介業に携わっている。

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