東南アジア最後のフロンティア ミャンマーの魅力

第4回 製造立地としての利点

東南アジア最後のフロンティアとも呼ばれるミャンマーの魅力を語るこの連載も4回目となりました。今回は、ミャンマーが製造業の拠点として、立地がいかに優れているか、具体的な実例を挙げて説明しましょう。

 

中国からタイ、インドネシア、そして、ベトナムへ進出した日本の製造業にとってのミャンマーの魅力は、
(1)豊富で質の高い労働力の確保が容易
(2)AEC(ASEAN Economic Community)内水平分業の拠点
に集約されるのではないでしょうか?
東南アジアではベトナムと並ぶ90%以上の識字率を誇っていますし、敬虔な上座部仏教徒としての深い信仰と穏やかな国民性、それでいて、アセアン 10か国(インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス)の中で最も安い労働賃金です。
2018年7月に発表されたDICA(投資企業管理局)、JICA(国際協力機構)、MRS(Myanmar Survey Research) の調査結果では、月当たりの平均賃金は、ミャンマー112米ドル、ラオス 142米ドル、カンボジア150米ドル、ベトナム155米ドル、タイ322米ドルとなっています。
失業率がすでに0・5%のタイ、3%未満のベトナムなどは労働者の確保が難しく、高給を支払える大企業はともかくとして、日本の中小企業や地元企業は労働力の安定的確保が大きな問題となっています。

 

自動車の裾野産業が迫られている発想の転換

AEC内水平分業について、自動車産業を例に見てみましょう。 従来は「Just In Time」 とか「カンバン方式」で、場合によっては毎日数回、組立工場に部品を配送する事が求められていましたが、2011年を境に変化が始まりました。

2011年3月11日の東日本大震災と8~11月のタイのアユタヤからバンコクを襲った大洪水が契機となって、組立工場の操業を維持するためには一定の在庫を持たなければならない、とのパラダイム転換が起こり、わざわざ部品倉庫を新設増設する組立工場が増えました。

また、自動車産業の大きな変化として、AEC内では一部の例外を除き、2018年の関税ゼロを目指して、自動車と関連部品の域内税率が大幅に減額されつつあります。

かつては、「部品の70%以上を国内調達」といった国内税制上の規制があったために、部品産業は組立工場と同じ国に進出する事を求められて来ましたので、部品工場は自動車の大規模組立工場が集中するインドネシアとタイに進出する事を求められて来ましたが、これからは組立企業と同じ国に立地する必然性はなくなり、労働力を安定的に割安なコストで確保できる国に移動しやすくなりました。

ミャンマーで自動車部品を製造するとインドネシアやタイに船で運ぶ事になります。

海上輸送はトラック輸送の半分くらいの運賃ですが、10日間から2週間のリード・タイムを覚悟しなくてはなりませんが、毎日出荷すれば毎日到着するわけですから、海上輸送している荷物を「洋上在庫」と捉えれば、組立工場に2週間分の倉庫を作ったのと同じ効果となります。

となると、労働賃金が高く、労働者確保もままならない国で頑張るよりも、輸送費を含めて最も効率的に部品を納めることが可能な立地、例えばミャンマーへ工場を移設するほうが「合理的経営判断」と言えるのではないでしょうか?

 

ミャンマーの工業団地

ミャンマーの工業団地はヤンゴン周辺に集中していて、その数は29か所と言われております。ただし、多くの工業団地は日本企業の求める規格から大きく外れていたのが実情でした。
(1)コンテナーやトラックの重量に耐えられない道路(一部は未舗装)
(2)配電設備や給水、廃水処理設備の欠如

そうした中で、日本政府が後押しする「ティラワSEZ(経済特区)」(Thilawa Special Economic Zone)は秀逸な内容を誇り、外国企業を含む多くの国際企業を引き付けています。

 

ティラワSEZの概要

開発主体は2014年1月に設立された Myanmar Japan Thilawa Development Ltd.(⽇本側 総計49%)= MMS Thilawa Development(住友商事/丸紅/三菱商事 各32・2%、みずほ銀行/三井住友銀行/三菱UFJ銀行 各1・13%=合計39%、JICA 10%)、ミャンマー側 51% = Myanmar Thilawa SEZ Holding (上場企業) 41%、 Thilawa SEZ管理委員会 10%で、設立と同時に工事着工しました。所在地はヤンゴン市内 (ヤンゴン中⼼市街地から南東24~26キロ = ⾞で約1時間) で水深9メートルのティラワ港MITT(Myanmar International Terminal Thilawa)に隣接する海運にも至便な地区です。

総開発⾯積2400ヘクタール(山手線に囲まれた面積の約40%)の内、工業団地1200ヘクタール、Township(居住区)1200ヘクタールの構想で、工業団地のZONE(AⅠ期)&(AⅡ期)405ヘクタール は2015年9月開業、ZONE(BⅠ期)101ヘクタールは2018年8月開業、ZONE(BⅡ期) 66ヘクタールは2019年9月開業予定で多国籍の企業がすでに操業を開始しています。Township の開発も進み、ホテルや宿舎、商業施設、学校、住宅街などの建設が始まっています。

実現性の乏しいダウェーSEZ構想

ミャンマーには他にも中国が主体的に進めているチャオピューSEZ(Kyaukpyu SEZ)やタイが推進しているダウェーSEZ(Dawei SEZ)などの計画がありますが、現在の計画規模での実現性は極めて乏しいと言わざるを得ません。

日本でもよく新聞紙上に取り上げられるダウェーSEZは2008年にミャンマー・タイ両政府が開発に合意した2万2000ヘクタールの大規模開発案(ティラワSEZの9倍以上)で、2010年にタイの大手建設会社イタリアン・タイ・デベロップメントが開発権を取得し、工事に取り掛かりましたが、2013年に同社の資金難から、いったん挫折しました。

バンコクからミャンマーのほぼ南端のタニンダリー管区のダウェーはバンコクからわずか300キロに位置しており、タイ側の国境の町カンチャンナブリからは130キロの道路建設で、タイ経済圏となるはずでした。

タイとしては次のような期待感が強かったと思われます。
(1)深海港を建設して、インドシナ半島の東西回廊の出口として、インド、中東、欧州向けの輸出港とする
(2)タイでは環境問題で建設不可能な製鉄所や石炭火力発電所、製油所などを建設し、タイに運ぶ
(3)割安なミャンマーの労働力を活用する

ダウェーSEZ構想には、砂浜に港を建設する、カンチャンナブリから峻険な山越えが必要なのに多雨地帯(年間降水量5000~5500ミリメートル。ちなみに、東京は1600~1700ミリメートル、ヤンゴン2200~2300ミリメートル)、工業団地予定地が砂地で地盤が脆弱、など難しい点は多々ありますが、最大の問題点は人口問題です。

東南アジアの工業団地は平均すると1ヘクタール当たり75人の労働者を必要とすると言われています。ダウェーSEZの開発面積は当初の2万2000ヘクタールから2万ヘクタールに縮小されましたが、それでも150万人の労働者を必要とする計算です。

150万人の労働者を確保するには、少なくともその3倍、理想的には4倍の人口、すなわち、600万人の人口が必要となりますが、ダウェー市の人口は15万人にも満たないのです。

ダウェーSEZ構想を熱望する方々はミャンマーの本土には失業者多いので移住してくると淡い期待を持っておられるようですが、それは実現しそうにもありません。

バンコクの建設現場ではかなり高い割合をミャンマーからの出稼ぎ労働者が占めていますが、バンコクで325~350米ドルの賃金をもらえるのに、ミャンマー国内の賃金しかもらえないダウェーまで出稼ぎに出掛ける理由が見当たりません。

ティラワSEZの優れている点

ティラワSEZの企画が優れているのはこの問題も熟慮されている事です。

2400ヘクタールの総開発面積の内、半分の1200ヘクタールだけを工業団地として開発し、残りを居住地区や商業地区とするのか、それには大きな理由があります。

1200ヘクタールの工業団地が必要とする労働者の数は9万人と推定されますので、理想的には36万人の人口が必要です。ヤンゴンからティラワに向けて橋を渡った先のティラワSEZのある半島部分の人口は現在26~28万人ですので、将来的に8~10万人の人口増加が必要となります。この人口増加を支えるのが1200ヘクタールのTwonshipなのです。日本政府が発電所を援助し、良質で豊富な水を運ぶ太いパイプを設置しており、廃水処理設備も備えています。ヤンゴン市内からの橋や道路も建設が始まり、埠頭や倉庫群も着々と整備されています。

 

 

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山口 哲(やまぐち・てつ)

早稲田大学第一商学部卒。三井物産に入社し、米国ニューヨーク本店やインドネシア現地法人に勤務。銀行マンに転身し、ABN AMRO BANK、ANZ BANKなどの外資系銀行を経た後、ジェトロのヤンゴン・オフィスで海外投資アドバイザーを務める。現在はヤンゴンで「Office Teddy」を設立し、日本企業のミャンマー進出支援や不動産仲介業に携わっている。

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