東南アジア最後のフロンティア ミャンマーの魅力

第5回 米中貿易摩擦で漁夫の利を得る

米中貿易摩擦は今年2月末まで「休戦」状態の中での交渉継続となりました。
米中貿易摩擦に伴い、中国本土にある多くの工場が、米国の制裁関税を回避するために第三国への移転を検討せざるを得なくなりつつあるので、東南アジア、その中でも、良質で安価な労働力が豊富なミャンマーへの移転投資が急拡大することが期待されています。
日本が1980年代に米国から叩かれた時と、現在の中国との間には面白い共通点があります。米国は友好国といえども、国のGDP(国内総生産) 金額が米国の70%に近づくと警戒心を高め、敵愾心を強めるということです(2017年の中国のGDPは米国の63.2%に達していました)。
これが米国の習性だとすれば、将来はインド叩きが始まるでしょう。

 

ミャンマーへの投資意欲が強まる

国連が指定する後発開発途上国(LDC=Least Developed Countries)47か国に対する外国投資額(FDI=Foreign Direct Investment)は国連貿易開発会議(UNCTAD=United Nations Conference on Trade & Development)の発表では、2017年度は1兆4300億米ドルで、2018年度の1兆8600億米ドルから23%減少し、過去のピークだった2015年の1兆9200億米ドルからは26%も低い水準となり、2013年度並みに留まりました。

LDC全体に対する投資のうち、アジア太平洋地区では落ち込みが少なく、ロヒンギャ問題などから減少しているミャンマーへの外国投資ですが、2017年度は43億米ドルで、2016年度にトップだったエチオピアを抜いてトップに躍り出ました。

アジアでは、カンボジアの28億米ドル、バングラデシュの21億5000万米ドルが続いています。

47か国の内訳はアジア7か国、アフリカ33か国、オセアニア4か国、北アメリカ1か国で、アジア7か国は次の通りです。

・アフガニスタン
・イエメン
・カンボジア
・ネパール
・バングラデシュ
・東ティモール
・ブータン
・ミャンマー
・ラオス

後発開発途上国の指定要件である下記の3指標のうち2指標以上を連続2年間クリアすれば、後発開発途上国指定が解除されることになっています。

後発開発途上国指定の3指標
・1人当たりの国民総所得=GNI (Gross National Income)が1230米ドル以上
・人材投資指標=HAI(Human Assets Index)が66ポイント以上
・カロリー摂取量
・健康に関する指標(平均余命等)
・識字率
・経済脆弱性指標=EVI(Economic Vulnerability Index)が32ポイント未満
・農産物の生産量の安定度
・商品とサービスの輸出の安定度
・GDPにしめる製造業、サービス業の比率
・人口の対数によって算出される街頭国の国内市場の規模および天災によって影響を受ける人口の割合

ミャンマーは①のGNIが1255米ドル、②のHAIが68・5、③のEVIが31・7で、いずれの指標も基準に達しているので、2020年か2021年には最貧国の指定を解除される見込みです。

建築・土木分野への投資が活性化

ロヒンギャ問題の影響などで一時的に足踏み状態に陥った、ミャンマーへの海外からの投資が再び拡大する気配を見せ始めています。

今回は、建築・土木工事の分野への投資の状況に焦点を当てて見たいと思います。

 

本格的に動き始めた日本のODA案件

日本から供与された8000億米ドルのODA(政府開発援助)も、病院、橋梁、鉄道、港湾、送電線、上下水道など、具体的に動き出しました。

〈病院案件〉
10億円規模のマグウエイの病院はすでに日本の建設会社受注した他、近々、ヤンゴン市内の10億円規模の口蹄疫研究所、50億円規模の中央病院などの入札が行なわれ、日本の建設会社の受注競争が始まっています。

〈橋梁〉
ヤンゴン市内とティラワ工業団地を結ぶタケタ橋はすでに日本の建設会社により完成したのに続き、バゴー橋も日本の建設会社が受注しました。
さらに、コーカレー橋、ザタピン橋、アトラン橋などの大型橋梁案件の日本の建設会社の受注が確実視されています。

〈鉄道〉
英国植民地時代に建設された、ミャンマー最大都市のヤンゴンと第2の都市マンダレーを結ぶ既存鉄道(総延長620キロメートル)の改修事業が2024年の完成を目指して始まりました。

軌道工事、土木工事、橋梁工事、構内工事、信号工事一式、通信工事一式など一連の鉄道工事を行ないます。

第1期のヤンゴン─タウングーの270キロのうち、バゴー─ニャウンレピンの80キロ、ニャウンーピン─タウングーの116キロの2区間を日本の建設会社2社が分割受注して工事が始まりました。

第2期のタウングー─マンダレーの350キロは2019年早々に入札が行なわれる予定です。

ヤンゴン―マンダレー線は老朽化が激しく、現在使用しているディーゼル車両 の走行速度低下に加え、遅延、脱線事故などが多発していましたが、改修後は、所要時間が現在の約15時間が約半分に短縮 され、旅客・貨物の輸送量も飛躍的に伸びる見通しです。

国際協力機構(JICA)によると、沿線には ミャンマー全人口 の40%の約2000万人が居住しています。

アジア開発銀行(ADB)の需要予測では、今後、旅客は現在の5倍、貨物量は17倍に増えると見込みです。

〈港湾〉
国際協力機構(JICA)は2018年10月3日、ミャンマー第2の都市であるマンダレーで、運輸・通信省が進めるマンダレー港開発計画を対象に、60億3300万円を限度とする 無償資金協力の贈与契約を締結しました。

マンダレー港は、ミャンマーを南北に貫くエーヤワディ(イラワジ)川に面した河川港で、最大都市ヤンゴン との間を多数の旅客船、貨物船が行き来し、コメや木材、建設資材などを運搬しています。

全長180メートルの桟橋、連絡橋 (2本)などの接岸施設を整備する他、クレーンやフ ォークリフトなどの荷役機材、コンテナヤードなどを備 えたターミナルの建設などの整備を2021年までに完了させることにより、現在は人で積み降ろしされている年間で約80万トンのうち20万トンの荷役が機械化されることになります。

〈送電線〉
電力・エネルギー省は2018年12月6日、ミャンマーで初めてとなる50万ボルト超高圧送電線の納入と敷設工事に関し、日本企業100%または日本企業が50%を超える合弁会社を対象に入札を行なうと発表しました。

対象となるのはヤンゴン市郊外のラインターヤからバゴーまでの96キロの区間で50億円規模と言われています。

ミャンマーの電力の70%は水力発電で、発電地帯の北部から最大需要地のヤンゴン地区に送電されていますが、現在の23万ボルトの送電線の能力ではのヤンゴン地区の需要を満たすだけの電力を送ることができなくなっているために50万ボルトの送電線を敷設することが急務となった次第です。

〈上水道〉
無償資金協力により、ヤンゴン管区南部で水供給計画を実施する計画に関する、総額41億7600万円を限度とする無償資金協力の交換公文の調印式典が日本国大使館の丸山市郎大使、計画・財務省のセッ・アウン副大臣などが出席し、2018年10月3日に行なわれました。

計画の対象となる地域はヤンゴン管区南部のダラ、セィッチーカナウントー、トゥンテー、コムー、クンジャンゴン地域で、取水・浄水 設備の整備や管理を実施する計画で、現在4万5000人にしか水供給されていない状況が改善され、2022年には約36万人に安全で清潔な水が供給されるようになります。

〈下水道整備〉
2018年10月9日、安倍晋三首相とミャンマーのアウン・ サン・スー・チー国家顧問兼外相との首脳会談で、最大都市ヤンゴンの下水道整備計画、都市開発計画の2件について、限度額を699億8500万円とする円借款供与が提示され、近々、両国間で交換公文 が締結される予定です。

ヤンゴンの下水道整備計画では供与限度額459億円で、中心商業地区での下水処理場の改築と増設、下水管の更新・新規敷設を実施するための資金を融資します。

事業完成から2年後の2029年に、下水処理能力を最大約7倍とする他、対象地域の汚水処理量を約120倍に増やす 計画です。

都市開発計画では240億8500万円を供与限度額に、 ヤンゴンの渋滞緩和と洪水被害の軽減などを目指し、主要排水路の3分の1を改修・整備します。

供与条件は年利0・01%で、償還期間は40年と大変に良い条件となっています。

 

民間主導の開発案件も多数

〈ヤンゴン新都市開発(ヤンゴン川西部チミダイン地区開発)〉
従来は海抜の低さや軟弱な地盤の強化に莫大な費用が掛かるとして、開発が見送られてきたヤンゴン市内のヤンゴン川西部チミダイン地区を、ヤンゴンの人口急増を見据えて、大規模な住宅開発、経済特区(SEZ=Special Economic Zone)、新空港などを建設する新都市計画も始動しています。

ヤンゴン管区政府の全額出資会社ニュー・ヤンゴン・デベロップメント・カンパニー(NYDC)は2018年 11月、開発計画策定で提携する中国交通建設集団(CCCC)が 作成した事前計画書類(PPD=Pre Project Document)を、ヤンゴン各区政府の臨時閣議で審議した上で公表する予定と発表しました。

この開発計画には、下記の建設が含まれている由で、200万人の雇用創出効果が見込まれています。

・ライン川での6車線橋梁、パンライン川の2車線橋梁
・新都市の主要地点を結ぶ26キロの幹線道路
・新たに開発する居住地域5か所の基本インフラ
・工業団地10平方キロメートル(第1期)のインフラ
・取水施設、浄水場、廃水処理施設
・送配電設備

先にヤンゴンを訪問した香港貿易発展局(HKTDC)の代表団も、2018年11月にヤンゴン管区のピョー・ミン・テインと会談した中国国家発展改革委員会の寧吉哲副主任も同事業への強い関心と支援を表明しました。

〈ヤンゴン駅周辺再開発〉
ミャンマー国鉄(MR)は、最大都市のヤンゴン中央 駅周辺の63・5エーカー(約25・7ヘクタール)の再開発事業について、現地で地質調査を開始したと、2018年10月に発表しました。
開発期間は8年、総事業費は25億米ドル(約2800億円)、新規雇用創出10万人を見込んでいます。
1954年に建設されたヤンゴン中央駅を歴史遺産として保存しつつ、オフィス棟やコンドミニアム、 ホテル、緑地公園、鉄道博物館などを新たに建設する計画です。
開発権は今年2月、ミャンマーの不動産開発モッタマ・ホールディングス子会社の建設会社ミン・ダマ、シ ンガポールの高級不動産開発オクスレー・ホールディングス、中国の建設業者、神州長城(北京市)の企業連合 「セントラル・トランスポート・デベロップメント・コ ンソーシアム」(CTDC)が落札しました。

〈ヤンゴン高架環状道路〉
ミャンマー建設省は2018年9月に、開始官民連携方式(PPP=Public Private Partnership) で進める、最大都市ヤンゴンの高架環状高速道路の第1期(全長47・5キロメートルのうちの27キロメートル)の設計やエンジニアリング、資金提供、建設、運営、保守管理などの関連サービスに関して、国内外の企業を対象とした入札を開始し、2018年11月13日に入札を締め切りました。
高架環状高速道路は、ヤンゴン中心部、ヤンゴン国際空港、ヤンゴン港などをつなぎ、ヤンゴンと第2の都市マンダレーを結ぶ高速道路にも接続する計画で、建設省は同事業に関して、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)と財務顧問契約を締結しています。
日本の企業が参画する コンソーシアム(企業連合)2組織を含む中国、韓国、フィリピンなどの12社・連合が応札し、 建設省は今年6月に落札企業を公表する予定です。

ミャンマーのこうしたインフラが着々と整備されることで、ミャンマーへの様々な産業分野の投資が拡大することが期待されています。

 

 

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山口 哲(やまぐち・てつ)

早稲田大学第一商学部卒。三井物産に入社し、米国ニューヨーク本店やインドネシア現地法人に勤務。銀行マンに転身し、ABN AMRO BANK、ANZ BANKなどの外資系銀行を経た後、ジェトロのヤンゴン・オフィスで海外投資アドバイザーを務める。現在はヤンゴンで「Office Teddy」を設立し、日本企業のミャンマー進出支援や不動産仲介業に携わっている。

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