ミャンマー語と他言語との考察と研究 (下)

日本人が習得するのは難しい

 

ミャンマー語と他言語との考察と研究 (上)

ビルマ語の音節は約2万通りもある

ビルマ語を他の言語と比較した場合の文字数はどうなっているのか。ビルマ語は子音33個、母音7個×声調3種、介子音4種の合計58個。声調というのは中国語で見られるような声の高さと出し方の調子のことである。日本語はひらがな46個、カタカナ46個、濁音1、半濁音1、拗音3個×2の合計100個。英語のアルファベットは27個だから、ビルマ語は日本語より文字数が少なく、英語より多い。

次に日本語と類似していると言われている文法は、たしかにビルマ語は日本と同じ主語+目的語+述語の順だ。英語は、主語+述語+目的語というのはよく知られている。

さらに、文字の配列、組み合わせによって発音が変わる音節の点ではどうか。
音節は、母音と子音の組み合わせを表し、日本語で言えば、「あ」などの単音のものや「ぴ」などの

「ひ」に小さい「ゃ」や「゜」をつけた字も一音節になる。

この音節はビルマ語では約2万通りもある。日本語は濁音、半濁音などを入れて262通りだ。英語は1000通りから1万通り通りと言われているから、音節だけ見れば、日本語の発音がシンプルで、ビルマ語の音節は英語以上に複雑であることが分かる。

また、ビルマ語や英語は表音文字であることに対し、日本語は表音文字と表意文字の組み合わせとなっている。表意文字である漢字があり、常用漢字で2136個、漢字検定1級レベルになると、6000個あり、読み方は音読み訓読みあわせると2倍以上にも上るという。

やはりミャンマー語は難しい言語である。だが、仔細に見ると、ビルマ語で実際に使用されているのはごく一部だそうだ。漢字は6000個もあるが、実用的なのは小学常用漢字1006個である。
これと状況はよく似ている。

ビルマ語の子音は33個あるが、実用されているのは26個と全体の80%だ。似たような音の子音が複数あり、普段使わない文字もあるので実際はもっと少ない。
だから、複雑そうに見えるビルマ語も、文字数から見れば日本語の半分ということになるのだ。

こう考えると、ビルマ語をマスターするコツは、まずこの基本文字を覚えることから始まるのではないか。「あいうえお」を暗記したように、ミャンマーの基本文字を覚えるのが早道だ。最初は、よく使う子音26個でいい。それから、母音、声調、介子音、最後に文字の組み合わせによるルールを覚えるようにしていけば、後は楽だ。

しかしながら、発音をマスターするのは大きなハードルである。中国語・タイ語・ベトナム語・チベット語などのアジア諸国の言語と同様に、声調があるからだ。ピッチの違いで単語の意味を区別する現象の一種だが、無声鼻音や有気音と無気音の区別があること、舌を歯の間にはさんで発音する閉鎖音(破裂音)があることなどが我々日本人には壁の一つとなっている。

 

習得難易度で最も難しいと認定された言語とは

参考ながら、興味深いデータを見つけた。アメリカ国務省傘下の「外務職員局」(FSI: Foreign Service Institute)は外交官などの専門職養成機関だが、ここが、英語を母語とする者が、日常的・専門的コミュニケーションが取れるレベルまでの外国語を習得するためには、一体どのくらいの時間を要するのか、各言語の習得難易度をまとめている。

FSIでこのデータ検証に参加した英語ネイティブ人間の平均年齢は40歳で、言語教育全般に対する適性も高く、また大半がいくつかの外国語に関する知識を持っているという条件下で行なわれた。

彼らは6人以下の小グループに分かれ、1週間に25 時間ずつ勉強し、1日に3時間から4時間ほどの自習を続けた。つまり、自習を含めれば1日8~9時間、休日でも3時間~4時間ほどの自習を行なったそうだ。この結果、世界の言語の中で最も習得時間が短かった言葉、また反対に難解過ぎて時間を要した言葉などの調査データが発表された。これは元来、語学に素養のある人たちで、職業的にも外国語の必要性がある環境に居るだけに、一般人とは比較できないが、言葉の難易度の指針にはなる。

(1)カテゴリーA  (英語と関係が深い言語) 約半年(23~24週間)で習得可能
デンマーク語、オランダ語、フランス語、イタリア語、ノルウェー語、ポルトガル語、ルーマニア語、スペイン語、スウェーデン語

(2)カテゴリーB 30~36週間で習得可能
ドイツ語(約30週間)、インドネシア語(約36週間) マレー語(約36週間) スワヒリ語(約36週間)

(3)カテゴリーC (英語と大きな言語的文化的相違のある言語) 約1年(44週間)で習得可
ビルマ語、タイ語、ベトナム語、ラオス語、アルバニア語、アルメニア語、アゼルバイジャン語、ベンガル語、ブルガリア語、クロアチア語、チェコ語、エストニア語、フィンランド語、グルジア語、ギリシャ語、ヘブライ語、ヒンディー語、ハンガリー語、アイスランド語、クメール語、モンゴル語、ネパール語、ペルシャ語、ポーランド語、ロシア語、スロベニア語、タガログ語、トルコ語

(4)カテゴリーD (英語母語者が極めて習得困難な言語) 約2年(88週間)で習得可能
広東語、北京語(いわゆる中国語)、日本語、韓国語

以上が調査データだが、この中では日本語が最も難しいという見解が出されている。ビルマ語よりも上だった。つまり、日本語は英語から最も遠い距離にある言語だということが分かる。
日本人が、英語が苦手という根拠もうなずける。やはり日本語の表記体系である、ひらがな・カタカナ・漢字の組み合わせは複雑怪奇に思えるのだろう。それに比べれば、ビルマ語は日本語より習得度合いが容易のようだ。
世界では現在、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国などの国で、ビルマ語研究が行なわれているという。日本でも大阪外国語大学ビルマ語学科と東京外国語大学インドシナ語学科の2校で、ビルマ語の教育・研究が行なわれている。
最後に、ミャンマー人とすぐにコミュニケーションを取る方法はないかと考えている向きには、携帯アプリの「VoiceTra」 をお勧めする。スマホ端末に向かって日本語で話すと、スマホが通訳してミャンマー語をしゃべってくれる。これまで自動翻訳アプリはかなりあったが、ビルマ語はほとんどなかった。それだけに勉強嫌いの方にはいいアプリだ。開発元は情報通信研究機構(NICT)という国の研究機関だ。「VoiceTra」は無料で、iPhone用とAndroid用がある。

 

 

栗原富雄(くりはら・とみお)

月刊『Yangon Press』編集長兼CEO。元日本旅行作家協会会員。
1949年、東京生まれ。高校を休学して2年間、ヨーロッパ、アジア、アメリアを放浪。1975年から1988年まで、「ブルータス」「週刊宝石」の取材記者。1992年~ 2001年、月刊「SEVEN SEAS」、月刊「VACATION」編集長、月刊『MOKU』編集局長を歴任。その後、フリーランスを経て、2011年にミャンマーのヤンゴンへ。2013年4月、日本語フリーペーパーの「Yangon Press」を創刊。2014年9月、ミャンマー語版を創刊。VIP取材には、ダライ・ラマ14世、ゴルバチョフ元ソ連大統領、デビッド・ロックフェラー、アウンサン・スーチー他。著書に『あの助っ人外人たちは今』(実業之日本社)、『不動産広告の裏を読め』(実業之日本社)、『Yangon Press で読み取る現実と真実』(人間の科学新社)などがある。

<参考資料>
2015. DAICHI shuppan(2017アジアビジネスなう)
藪司郎「ビルマ語」『言語学大辞典』(三省堂、1992年)
大野徹『現代ビルマ語入門』(泰流社、1983年)
LINE Corporation(NAVERまとめ)

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