リアル書店の逆襲が始まった中国①

もう電子書籍なんて怖くない

リアル書店の逆襲が始まった中国

中国の書店に未来はあるのか――。電子書籍の浸透やオンライン書店の価格攻勢を受けて、もはや空前の灯と言われたリアル書店市場がいま息を吹き返した。瀟洒なブックカフェや個性的な店舗がにわかに増加する一方、デジタル技術を活用したシェア図書サービスが普及を始めるなど、アナログ文化との融合を図るイノベーションに熱い視線が注がれている。

そして、存在感を示す「日本」関連書籍。東野圭吾や村上春樹、渡辺淳一に始まり、ライフスタイルの指南書やアート、旅行ガイドブックに至るまで、中国の読書人にとって「日本」が大きな関心テーマとなっている。読書マーケットにおける「消費の高度化≒コト消費」の実態を見ていく。

 

上海で大きな注目を集めた「重大文化事件」

 

昨年末、上海の商業施設「愛琴海購物公園」に、世界的な建築家である安藤忠雄氏が設計した「光の空間」新華書店がオープンした。吹き抜けの場所から見仰ぐ何層も積み上がった本棚の光景は圧巻だ。ただ、大雑把に「人文」というジャンルの括りがされていても、どこにどんな本が置かれてあるのか把握するのは難しい。その点、書店というよりは巨大な図書館という印象を強くした。

それはさておき、世界的巨匠が設計した大規模書店の誕生よりも、上海で大きな「文化事件」として注目を浴びた出来事がある。

ひとつはクリスマスの際に幕を下ろした漢源書店である。1996年に創業し、当時、上海初のブックカフェとして注目を浴びた同店は、紹興路という閑静な場所にあった。バス停もなく、一方通行の道路で車も少ない。そこに静かにたたずむ店舗は、香港俳優レスリー・チャン(故人)がロケの合間によく立ち寄ったことでも話題になった。

もうひとつ衝撃を与えたのは、上海書店文化のシンボルとも言える存在で、ピーク時には8店舗を構えた季風書園が、2018年1月末で閉店したことだった。開業は1997年。関連報道によると、北京の「万聖」、南京の「先鋒」と並んで中国全土にその名を轟かせた「独立書店」の走りだった。

季風書園のフラッグシップ店は当初、地下鉄1号線の陜西南路駅の構内にあった。東京で言えば銀座4丁目に相当するだろうか。同店で10年間、営業職に就いていた元社員は、ファウンダーの厳博非氏は社会科学院の出身で、商品の選択から棚の配置まですべて同氏のセンスで行なわれていたこと、経営パートナーがテレビ局関係者だったこともあって、多くの言論人から支持されていたことを教えてくれた。筆者も何度か同店を訪ねたことがあったが、たしかに無味乾燥な国営の新華書店と比べると違いは歴然だった。

そんな「独立書店」の旗手ともいえる同書店が、大家だった上海地下鉄公司と契約更新の交渉が折り合わず、2013年に地下鉄10号線の上海図書館駅構内に移転する。そして、次の大家となった上海図書館との交渉が折り合わず、さる1月末をもって閉店に至ったというのが事の経過である。

季風書園が考慮したのは単に経営面でのハードルに過ぎなかったかも知れないが、ネットではさまざまな憶測を呼び、物議も醸した。果たして真相は分からない。ただ、感傷的になったネットユーザーも多く、「大国の中国がどうして静かな書店の存在に寛容的でないのか」と批判的なコメントも目立った。

復興に向かうリアル書店市場

中国で独立書店の生存を危ぶむ見方は数年前からあった。不動産価格の高騰はもとより、再販制度によって販売価格が守られている日本とは異なり、安売り展開するネット書店の攻勢がリアル書店にとって大きな脅威だったからだ。

さらに、出版という行為一つをとっても、いまや紙の本は唯一の手段ではなくなっている。15世紀にグーテンベルグが発明した印刷技術に勝る大きな変革が近年におけるモバイルネットワークの普及と発展である。書籍をベースに、音声、動画など多元化された伝達手段によって、出版文化は新たな展開を見せようとしている。そのトレンドは「喜馬拉雅」「得到」「騰訊」「優酷」といった百花繚乱のスマホアプリやサービスを見るだけでも容易に想像ができるだろう。

しかし、昨年2017年5月、厳博非氏(前出)は店舗の閉店決定の発表に遺憾の表情を見せることもなく、リアル書店を取り巻く市場環境が雪解けに向かっていると指摘したと報じられている。

彼の予測はどうやら的中したようだ。アマゾン中国は2017年12月15日、出版機関や作家、各界の提携パートナーを招いた読書イベントで2017年のトピックスや市場トレンドを発表したが、そこで同社が指摘したのも「リアル書店に復活の兆し」があることだった。

2013年から昨年末まで続いたリアル書店に対する税制面での優遇政策などが功を奏したこともあるかも知れないが、書店側の経営努力もある。それは、純粋な書店という形態によってではなく、さまざまな文化的な要素を取り込んだ業容をとり、多元的で複合的な空間の運営によって蘇生を図っていくことを意味した。

ちなみに、読書ニーズはアナログからデジタルという単方向に向かうのではない。フランクフルトブックフェア「2017年図書ビジネスレポート」では、アメリカの電子書籍が2010年から2014年まで増加したものの、いまはマイナス成長にあることが指摘されているという。だからこそ「紙(の本)」は死なない――そんな視点に立った市場チャレンジャーの動きが注目に値するのだ。

台湾の後塵を拝していた中国本土の書店文化

正直なところ、中国本土の書店カルチャーは、これまで全般的にかなり物寂しいという印象があった。北京なら王府井、上海なら福州路という有名な書店ストリートはあるものの、大きな「商城」(ショッピングモール)で書店を見かけることは少ない。日本なら通常、紀伊国屋書店や三省堂書店といった店舗がひとつくらい入っていそうなものだが、目立つのはアパレルブランドばかりだ。

一方、中国の書籍は判型も統一性に乏しく、かつては装丁や製本技術にも問題があった。文庫本や新書本のような携帯性に優れたものも少なかったことから、地下鉄などで本を広げる乗客の姿を見かけることはまずない。個性ある「誠品書店」の存在や、地下街の書店ストリートが街の風景を形作っている台北などと比べると、中国本土の現状はあまりに落差が大きかったと言えそうだ。

しかし、わずかな期間で情勢は変わってきた。上海に住む台湾人の知己も、大陸の書店が相当の進化を遂げていると感慨深けだった。冒頭に紹介した安藤忠雄氏が設計を担った新華書店の例はもとより、店内内装に趣向を凝らした瀟洒なブックカフェや大型書店チェーンが全国で増えている。

 

 

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近藤修一(こんどう・しゅういち)

「Whenever Dalian」編集長

中国・大連市在住。静岡県出身。信州大学卒。1994年、上海に語学留学。1998年、現地パートナーとともに日本人向けパソコン・スクールを上海で開始し、教育、ハード・ソフト販売、サポート等の業務に携わる。2002年10月に中国全土でフリーペーパー事業を展開するメディア漫歩グループに入社、ビジネス誌「Whenever Biz CHINA」(現名称)の制作等に携わる。2010年2月に同社を退社。中国メディアの日本語電子媒体「インサイト・チャイナ」編集長、ヤンゴンのタウン誌「ミャンマー・ジャポン」編集長、フリーランサーとしての活動(翻訳・調査業務等)などを経て、2017年4月より現職。

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