リアル書店の逆襲が始まった中国②

もう電子書籍なんて怖くない

リアル書店の逆襲が始まった中国②

 

「コト消費」のトレンドが読書にも

そして、中国の消費者が読書に対して持つ意識や価値観もまた変化の途上にある。

ドイツに本拠を置くマーケティングリサーチ会社GFK(ゲーエフカー)が17か国、2万2000人のネットユーザーを対象に行なった調査によると、「日常的に読書する」と回答した中国人は36%でトップにランクされ、イギリスとスペインの32%を上回ったという。一方、オランダと韓国は「全く読書しない」の回答が16%を占め、最も低い数値だったと新華社などが報じている。

中国本土の人はあまり本を読まなければお金も投じない――そんな先入観はどうやら覆されそうだ。書店関係者によると、「以前は店内でアート類の本をスマホで撮影して、そのまま買わず立ち去る客が少なくなかった。しかし、それもだいぶ減ってきた」(大連の某独立書店オーナー)というコメントも聞かれる。

そこには消費の高度化、「コト消費」のトレンドが透けて見えてくる。広告などに煩わされずにゆっくりと「紙の本」を楽しみたいというアナログ願望が、世代を問わず共通して増えてきているのではないか。あるいはデジタル社会の疲れを癒やすデトックスとしての読書がいま中国でトレンドとなっているという見方もできよう。

「日本本」の魅力と値打ち

目を引いた個性的な書店を何軒か巡るとさまざまな発見がある。

大連市内にある代表的な商業施設「柏威年購物中心」(通称パビリオン)には「中信書店」と「簡匯空間」という2つの書店が入居しているが、「知」「文化」の探究や読書の快楽を純粋に求める中国の読書人たちにとって、リアル書店が重要な心のオアシスとなっていることを実感させられる。簡匯空間の馬駿董事長によれば、「書店利用者の7割から8割は女性。本の中身に対しては頓着しないまま、装丁の魅力だけで購入する若い世代もいる」という。コレクションの対象として紙の本をとらえる読者が増えているようだ。

一方、日本人にとって衝撃的な光景もある。「日本」関連の本が極めて多いのだ。大連という日本語学習者が多い土地柄も関係しているのかも知れないが、電化製品などのジャンルで日本ブランドの失墜が叫ばれるのとは裏腹に、書店では日本のプレゼンスが極めて高いことに奇妙な感動さえ覚えてしまう。

しかも、そこにはデマゴークやエロ・グロ・ナンセンスの類はいっさい見られない。日本の書店にある「中国もの」が「嫌中」意識を煽るものとは違い、純粋に日本への関心を示した本ばかりなのだ。推理小説や純文学、華道や茶道、そのほか旅行ガイドブックや日本家屋のインテリアに関する本なども目を引いた。

中国では、「抗日神劇」をはじめとして、日本に対するマイナスイメージを植え付ける情報がネットや映画、テレビ番組などで目立つが、書店はこれらとは一線を画した独特なメディアとして機能しているといって良い。

「村上春樹や渡辺淳一はミドル世代、東野圭吾等の推理作家は若い世代に人気」というのは書店主や店長の多くが明かす読書トレンドだが、実際、「当当網」や「豆瓣」といったオンライン書店で目立つのも、いまをときめく流行作家の作品が多い。ある中国人の東野圭吾ファンは、作者の巧みな筆の運びがとても心地良く、容易に引き込まれていくという感想を語っていた。

奇妙な現象もある。オンライン書店「当当網」が発表した「2017年のベストセラー」1位にランクしたのが太宰治の『人間失格』だったのだ。映画化されたことで注目を浴びやすいという事情も想像に難くないが、「この結果は意外。信憑性については分からない」(大型書店チェーンの支店マネージャー)という見解もある。

なお、「抗日神劇」のようなテーマの本があったら、売れ行きはどうなるだろうか。ある独立書店の店主は、これらの話題はネットやテレビでさらりと「見流す」程度のものであり、お金を出して買う

「値打ち」はないと言い切った。

日本語書籍を買い求める中国人読者

「品質の高い」生活を求める中国人は、本の「値打ち」を見定める眼を確実に磨きつつあるようだ。たとえば、同じ著者、タイトルの本であっても、「翻訳精度」の高さから繁体字の輸入本(港台本)を求める読者も少なくないという(某書店オーナー)。

さらに、日本語の原書を求める中国人客も多いと明かしてくれたのが、日本語書籍を専門的に扱う大連永東書店のオーナー、宋東氏だ。彼いわく、8年前の開業時は顧客の大部分が日本人だったが、在留邦人数の減少に伴い、いまではネットで発注してくる中国人客がほとんどだという。

ただし、再販制度がある日本国内とは異なり、日本から仕入れる本は東販や日販からの買い切りであり、新しい書籍の仕入れ値はざっと80%。運送費や手間を考えると売れても薄利にすぎず、関税リスクや検閲などのリスクもある。在庫として抱えている間は一切、利益を生まない書店ビジネスは「独立書店」にとっては厳しいものと言えそうだ。

簡匯空間オーナーの馬氏(前出)も、開業して3年、いまだ店舗は投資段階にあることを明かした。しかし、たとえビジネスのうまみが大きくなくても書店投資・経営を続けるのは、そこに文化発展を牽引するかけがえのない役割と魅力があるからだと語る。

首都一極集中ではない書店文化

『猫的天空之城』という宮﨑駿の作品(ちなみに「トロロ」は中国語で「龍猫」)を意識したようなネーミングの書店チェーンがある。本部は上海と程近い蘇州にあり、全国に店舗展開をしている。ちなみに大連には2店舗あり、店内では絵はがきが販売され、配達日を指定して全国に郵送してもらえるサービスもある。蘇州の特産品である茶菓子や文具類などのグッズもおしゃれで魅力的だ。

一方、「西西弗書店」は、以前は貧困エリアとされていたものの近年発展が著しい貴州が発祥地のチェーンである。すでに全国で100店舗を展開している。洋風カルチャーを彷彿させる建物外観や、温かみを感じさせる店内の内装、豊富な雑貨類が売りだ。

大連で存在感を示す「自由が丘&後山書店」は、極上のコーヒーや個性的なスイーツなどグルメを伴に、悠々自適に読書が楽しめる贅沢なブックカフェだ。バラエティーに富んだ小物や絵画、骨董品類も目を引く。小型会議室のレンタルサービスも行なっている。

そのほか、成都を本拠地とする「今日閲読」、「中国で美しすぎる書店」の誉れ高い杭州の「鍾書閣書店」、TSUTAYAがデザインに当たったという南京の「G·TAKAYA」、24時間営業でバックパッカーたちが「止まり木」できるスペースを提供して注目された広州の「1200 bookshop」等、さまざまな特色あるリアル書店が話題を呼んでいる。「1200 bookshop」についてはNHK WORLDでも紹介されたことがある。

なお、出版社といい書店といい、中国における「本」のカルチャーの発信源が日本とは異なり、首都一極に偏っていないことは注目に値することではないか。大陸の書店文化の振興において、台北の誠品書店、あるいは日本のTSUTAYAが重要な啓蒙役を担ったのは確かだ。しかし、「出藍の誉れ」の展開になるのは、もはや時間の問題かも知れない。

「貸し本スタンド」やスマホアプリもリリースされ、シェアリング図書サービス市場もいま熱くなっている。まもなく世界図書デー(4月23日)を迎える。そのとき中国の書店市場はどんな展開を見せようとしているのか注目したい。

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近藤修一(こんどう・しゅういち)

「Whenever Dalian」編集長

中国・大連市在住。静岡県出身。信州大学卒。1994年、上海に語学留学。1998年、現地パートナーとともに日本人向けパソコン・スクールを上海で開始し、教育、ハード・ソフト販売、サポート等の業務に携わる。2002年10月に中国全土でフリーペーパー事業を展開するメディア漫歩グループに入社、ビジネス誌「Whenever Biz CHINA」(現名称)の制作等に携わる。2010年2月に同社を退社。中国メディアの日本語電子媒体「インサイト・チャイナ」編集長、ヤンゴンのタウン誌「ミャンマー・ジャポン」編集長、フリーランサーとしての活動(翻訳・調査業務等)などを経て、2017年4月より現職。

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