一帯一路構想へのリンクを模索する日本

大きく変貌する中国の内陸部

一帯一路構想へのリンクを模索する日本

いま中国では内陸部の都市が熱い。
重慶、成都、そして、かつて長安といわれた西安――どれも中国が掲げる「一帯一路」(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)構想のコア都市である。
観光で人気を博すほか、産業面でのイノベーションへの取り組みも熱心なことで注目を浴びている。
一方、東北部では「日本版シルクロード」とうたわれた「北前船」の寄港地連携に大連を取り込んだ
「第23回北前船寄港地フォーラム」が5月27日に行なわれた。
「一帯一路」と海外の結節点である中国の「西南」と「東北」の動向を見ていく。

中国内陸都市のダイナミズム

ここ数年で中国社会は大きな変貌を遂げた。スマホを用いたキャッシュレス決済が当たり前になり、自転車や携帯バッテリー、あるいは書籍といったシェアリング・エコノミーがまたたく間に普及する一方、消費水準がアップグレードし、中国人の海外旅行スタイルも「爆買い」から「コト消費」へとシフトした。

日本の対中意識も変化が見られる。「日本はすごい」との自画自賛を繰り返してきた日本のメディアも、このところ中国のイノベーションに学べとばかりに旗振り役を買っている。

2012年の大規模な反日デモ以来、まるで触らぬ神に祟りなしとばかりに中国を忌避し、「中国からの撤退」ムードが蔓延していた数年前と比べると、日中平和友好条約締結40周年を迎えて盛り上がる今年の日中交流ムードには隔世の感さえある。

ただ、日本の中国に対する一般的な関心は、現状より周回遅れしているというのが肌感覚である。日本では中国の報道でスポットが当てられるのは在留邦人が多い上海、あるいは最近ではようやく「イノベーションの街」である深圳が中心ではないだろうか。内陸部の都市の動向についてはほとんど触れられていないという印象がある。

空前のブームが到来して盛り上がる重慶

実はいま中国国内で最も「人気」と「元気」を兼ね揃え、ダイナミズムにあふれた街と言われるのが、成都、重慶、西安などの内陸都市である。経済誌「第一財経周刊」が4月に発表した「2018年最新都市商業魅力ランキング」(上海、北京、深圳、広州は別格とし、そのほか15都市を新一線都市として選出)でも高いプレゼンスを示している。

その背景にはむろん、「一帯一路」(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)構想の恩恵を受けているところもあるだろう。共同購入型クーポンサイトを展開する「美団(MeiTuan)」の傘下にある「美団旅行」の調査では、1995年以降生まれの若者が最も好きな「民泊先」として成都、重慶、西安の3都市が挙げられている。

中国では6月16~18日が「端午節」(旧暦の5月5日)の3連休となり、5月初めの労働節(メーデー)連休に続き、ちょっとした国内旅行ラッシュに湧いた。重慶について見ると、3日間で重慶を訪れた旅行客が延べ944万5700人に達したとの重慶市旅発委(旅遊発展委員会)の発表が報じられている。

重慶は「山城」と呼ばれ刺激的な風景を売りとする街だ。映画通なら『ションヤンの酒家』(原題『生活秀』、陶紅主演)で馴染みがあるという人もいるかも知れない。そして、昨今で最も人気がある観光スポットとなっているのが「洪崖洞」である。山の崖に建てられた高床式の家屋であり、その独特な外観はアニメ『千と千尋の神隠し』に出てくる湯屋を彷彿させる。音声(音楽)付きショート動画アプリ「抖音(Dou Yin)」(海外版名称は「Tik Tok=ティックトック」」)で盛んに取り上げられたことから、一挙にブームに火がついたかたちだ。

「抖音(Dou Yin)」は中国でいま社会現象ともなっているスマホアプリで、中国国内のアクティブユーザーは6月15日現在で1日あたり1億5000万人に達しているという。アップルストアでの「Tik Tok」のダウンロード回数も多く、今年第1四半期で延べ4580万(米調査会社センサータワー)を記録し、FacebookやInstagram、Youtubeを上回ったと報じられている。

スマホの画面をスクロールさせながら、次々に表示される動画作品を再生・視聴していくそのユーザーインターフェースは「Vine」に相似しているが、動画の再生時間はVineの6秒に対して抖音は15秒と長めだ。Vineが2016年10月にサービス停止を発表して以来、抖音が「Viner(バイナー)」(Vineのユーザー)の受け皿になっている面も多分にあるだろう。

その抖音にはネイティブ広告(Native advertising)と言っても良い手法がとられている。ネイティブ広告とは、出し抜けな宣伝ではなくユーザーが自らの体験に合わせてコンテンツを提供し注目を得ようとする手法とされ、ネットインフルエンサー=「網紅(ワンホン)」=(インターネット=「網絡」=と人気者を意味する「紅人」を組み合わせた造語)がそのパフォーマーとして活躍する。

「網紅」でシンボルチックな存在となっている女性タレントが馮提莫である。彼女が洪崖洞を背景に歌い歩く動画が「抖音」で公開されるや、次から次へと重慶を訪れる旅行者が同地の関連動画を投稿するといった循環が生まれた。これまで夏の暑さで、武漢、南京と並ぶ「カマド」と揶揄され、代表的グルメとしては「火鍋」ぐらいしか想起されなかった重慶は、文字通り「ホットスポット」と化している。

 

産学共同でイノベーションが進展

重慶の産業動向についても触れておこう。

同市に集積するのは伝統的な製造業がメインというイメージが強いが、このところ製造業のアップグレードに向けた動きが目立っている。市・区レベルのリーダーたちが柔軟かつ積極的にさまざまな支援策を講じているのだ。

震旦(オーロラ)集団3D事業部の前総経理で、重慶における外商投資の事情やスマート製造の動向に詳しい益得展諮詢(上海)有限公司の羅益光総経理は、「産学研」(産業、学校、研究の統一)が一体となってイノベーションに取り組む重慶市の例を挙げながら、次のようにコメントしている。

「重慶には規模が大きな3Dプリンティングセンターが4か所ある。これらはすべて地方政府が設立を推進したものだ。これまで3Dプリンティングセンターの開設プロジェクトについて、上海、瀋陽、長春、武漢、天津、西安などの地方政府と話し合ってきた経緯があるが、最も積極的に対応してくれたのは重慶の地方政府だった。しかも、わずか半年で合弁案件がまとまるなど異例なスピーディーで進展があった」(羅氏)。


3Dプリンティングはスマート製造を実現する上で重要な要素のひとつだ。羅氏によれば「通常であれば理論レベルの話に終始し、市場化されるケースが少ない」(羅氏)のが一般的に見られる「産学研」プロジェクトの実態であるだけに、設立したプラットフォームを活用し、「政府や教育機関、企業、専門家が協力して産業問題を分析し、製造ソリューションを実施していく動きは大きなイノベーション」(同)だという。

ちなみに、重慶は2020年までに国家の「双創(※)モデル基地」と西南地域の「核心展示基地」になることを青写真として描いている。
3Dプリンティングのプラットフォームが突破口となり、今後さまざまなビジネス機会が生み出され、それが引いては産業のアップグレードや新興産業の育成につながり、政府も生産増大や税収の伸張といった恩恵が得られる――地元政府にはそんな公算があるのだろう。

そして、重慶が高い成長を続けることで、その恩恵は中国西南部を通して東南アジアへと輻射し、

「中国製造2025」(「インダストリアル4・0」の中国版)および「一帯一路」構想が一段と前進を見ていく。

広域連携に取り組む日本の自治体

「先に富める者から富め」――は鄧小平氏が説いた「白猫黒猫論」(「白いネコでも黒いネコでもネズミを取ってくるのがいいネコだ」とする経済発展理論)だ。2017年における域内総生産の成長率が9・3%と高水準を記録し、中国西南部のハブとして存在感を増す重慶も、そんなリソースの一点集中投下からもたらされた面が大きい。

中国で「豊かな」地域が周辺の二線級、三線級都市に波及していくことで、日本の地方自治体によるインバウンド(観光誘致)やアウトバウンド(地産品の販売)の政策にもこのところ変化が見られている。エリアマーケティングが沿岸部だけでなく内陸部でも可能になってくるからだ。

とはいえ、日中間には人口規模で大きな差がある。中国の各地方政府に対して、一対一(都市対都市)の形態でウィン・ウィンの連携を働きかけるのは次第に難度が高くなっているのが現状だ。日本側には合従連衡、すなわち「広域連携」のアプローチが求められるゆえんだ。

日本における「広域連携」には、これまで各自治体が独自に行なっていた観光地や美食、特産などのアピールを統合したブランドで対外に打ち出した「昇龍道プロジェクト」が有名だが、昨今でも北九州市とその周辺域にある5市11町で構成される中枢都市圏「北九州都市圏域」や舞鶴市(京都府)が中心となった「北京都」、あるいは広島や愛媛が打ち出す「せとうち観光」などがある。

さらに規模が大きな連携によってブランド化を図っているのが「北前船」だろう。かつての寄港地同士が協力しあい、中国市場に働きかけていくという構図だ。北前船交流拡大機構が主催する「北前船寄港地フォーラム」はその構想の具現化を模索する象徴的な活動のひとつとして理解され、第23回のフォーラムは5月27日、大連で開催している。

日本版シルクロードという物語

北前船とは、江戸・明治期に日本海や瀬戸内海を往来し北海道と本州の交易を支えた帆船で、その寄港ルートは「日本版・海のシルクロード」とも言われる。これを日中両国の交流促進や観光振興に向けたツールに仕立てようという動きがいま活発化しているのだ。

前記フォーラムは「2018中日観光ハイレベルフォーラム」という恒例イベントの開催に合わせて企画され、日本から渡航した地方自治体首長ほか自治体関係者や旅行業者など1000人近くが参加した。

基調講演を行なったせとうち観光推進機構の佐々木隆之会長(JR西日本相談役)は、2017年の訪日外国人のうち全体の約4分の1に当たる736万人を中国人が占めているとし、東京五輪の追い風を得ながら、「体験、学習、交流」という3つのキーワードを切り口とした取り組みを強化していく意義を訴えた。フォーラムの日程には両国の自治体トップによる円卓会議が設定されたほか、クルーズ観光をテーマとしたカンファレンスも実施されるなど、日中間でさまざまな意見交換が行なわれた。

ただし、大連と北前船は何らゆかりもない間柄だ。結局、中国の都市を日本遺産でもある「北前船」というコンセプトに取り込むことで、より魅力ある「物語」が訴求できるという日本側のしたたかな計算が背景にあるのだろう。「日本版・海のシルクロード」を中国の「一帯一路」構想を融合させるうえで、大連は地理的にアドバンテージが大きいという意見も少なくない。

日本人にもビジネスチャンスあり

逆さ地図というものがある。南北を逆転させ、アジア大陸から日本を見た地図のことで、富山県や新潟県、舞鶴市(京都府)等が「環日本海経済圏」を内外に示す際に格好のツールとして利用している。

逆さ地図を眺めると、さまざまな発見がある。総合的拠点港である新潟港、伏木富山港、下関港、北九州港、博多港、国際海上コンテナ港である舞鶴港が大陸との交流において地理的に重要なポジションにあることも一目瞭然だ。中国本土に近く、本州と九州の結節点にある北九州港が日本側の玄関口とするならば、伏見富山や新潟、舞鶴は環日本海経済圏の重心に当たる。

その逆さ地図を眺めていると、やがてそこに大きな経済交流の空白地があることにも気づくことだろう。

それは他でもなく北朝鮮エリアだ。重慶が「一帯一路」(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)を中国西南エリア、ひいては東南アジアに波及させていく重要なポジションを示すなら、大連もまた東北地方や半島との結節点にある。中国国内メディアは、大連市とは指呼の間にあり、北朝鮮との国境に面する丹東市(遼寧省)で不動産価格が上昇を続け、5月度の住宅価格の上昇率が5・3%を記録したことを報じている。

中国では北朝鮮自体に関わる報道はまだ控えめだ。ただ、その少ない報道を拾ってみると、中国が歩んだ「改革開放」の経験が必然的に北朝鮮にとって経済飛躍の模範となるという見方が主流だ。ただし、その手法は「蚊帳式開放」になると言われ、予断は許されないだろう(5月19日、星島日報)。

「空気(外国資本、技術)は取り入れるが、蚊(外国の政治経済体制、思想、価値観、ライフスタイルなど)の侵入は許さない」というわけだ。

かりに今後、半島情勢が大きな変貌を遂げたとき、日本企業や一般の日本人には新たな商機が訪れるのだろうか。かつて上海では台北との直行便が飛んでいない頃から台湾人は活発な対大陸ビジネスを行なってきた。そんなたくましさを日本人が発揮できるかどうかは、少なくとも今の時点で予測するのは困難だ。

 


近藤修一(こんどう・しゅういち)
「Whenever Dalian」編集長

中国・大連市在住。静岡県出身。信州大学卒。1994年、上海に語学留学。1998年、現地パートナーとともに日本人向けパソコン・スクールを上海で開始し、教育、ハード・ソフト販売、サポート等の業務に携わる。2002年10月に中国全土でフリーペーパー事業を展開するメディア漫歩グループに入社、ビジネス誌「Whenever Biz CHINA」(現名称)の制作等に携わる。2010年2月に同社を退社。中国メディアの日本語電子媒体「インサイト・チャイナ」編集長、ヤンゴンのタウン誌「ミャンマー・ジャポン」編集長、フリーランサーとしての活動(翻訳・調査業務等)などを経て、2017年4月より現職。

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