世界屈指の映画大国インド

海外での人気が急上昇日印合作でリメークも

世界屈指の映画大国インド

世界屈指の映画大国、インド。ハリウッドをもじった「ボリウッド」の愛称で親しまれてきた。毎年約2000本が製作される。国民の最大の娯楽だ。『ダンガルきっと、強くなる』や『バーフバリ 王の凱旋』など、近年では日本を含む海外でもインド映画が受け入れられつつあり、海外で撮影される映画も増えている。

大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)とインド商工会議所(FICCI)の共同報告書によると、インド国内の映画産業は2017年に1555億ルピー(約2500億円=レートは2018年7月現在。以下同)と前年から27%伸びた。2020年には1917億ルピー(約3077億円)に達する見通しだ。このうち海外での興行収入が2017年は前年比2倍の250億ルピー(約401億円)と急拡大し、海外での人気が急上昇していることが分かる。2020年には280億ルピー(約449億円)と予測されている。

ボリウッドの起源は100年前

ボリウッドの起源は約100年前にさかのぼる。1913年、ダダサヘブ・パルケ氏が監督し、製作した『ラジャ・ハリシュチャンドラ(Raja Harishchandra)』がインドで作られた初めての映画とされる。まだ白黒映像の時代で、サイレント映画だった。パルケ氏はその後、約5年間で23本の映画を製作した。

1920年代、複数の映画製作会社が立ち上がった。ハリウッドから輸入されたアクション映画が人気を集めたが、この時代は神話や歴史をもとにした映画が多く作られていたという。

初めて音声入りの映画がインドで製作されたのは1931年。アルデシール・イラニ氏が監督した『アラム・アラ(Alam Ara)』だ。王子様とジプシーの女性が恋に落ちるラブストーリーだ。この映画を機に製作会社が一気に増え、製作本数は1927年の108本から1931年には328本に増えた。その後、カラー映像の製作も始まった。

第2次世界大戦でインドの映画産業は多少の陰りを見せた。製作本数は減り、上映時間も規制された。しかし英国から独立した1947年、本格的に映画産業が勃興し始める。それまで神話や歴史をテーマに据えた作品が多かったが、改革運動など社会派の映画が増えた。たとえば、女性が結婚する際に納める高額は持参金、売春、一夫多妻制などといった社会的な問題に疑問を呈する映画が作られた。1950年代にはビマル・ロイ氏やサトヤジット・レイ氏などの監督によって、これまで軽視され、差別されてきた下層民に焦点を当てた作品を製作された。

1960年代にはインドの映画産業に新潮流が来る。現在もボリウッドの典型とされる歌と踊りが特徴のスタイルができあがった。レイ氏やムリナル・セン氏、リトウィク・ガータク氏などの監督が先駆けといわれる。

1970年代に活躍し、「インド映画の父」とも称されるマンモハン・デサイ監督は、 「人々に惨めさを忘れてほしい。人々を貧困と物乞いがいない夢の世界に導きたい。運命は親切で、神は信者の世話に忙しい世界に」と、映画を作る意義を説く言葉を残した。

最近では『スラムドッグ・ミリオネア』や『3イディオッツ』『ダンガルきっと、つよくなる』など海外でも広く上映されるようになり、世界的な人気も高まっている。

「ボリウッド」の愛称は1970年代に生まれたとされる。諸説あるようだが、雑誌のゴシップ記者がハリウッドをもじり、当時のムンバイ(西部マハラシュトラ州)の呼び名「ボンベイ」の「ボ」をつけ、ボリウッドと名付けたのが始まりという。ムンバイは今でも映画産業の中心地となっている。

インド各地の言語による映画も大好評

ボリウッドはヒンディー語で作られた映画を示す。インドの公用語だが、29州7連邦直轄地に分かれるインドで地域ごとに話される言語が異なる。実際に州公用語と呼ばれる言語が18つあり、インドの映画産業は約30の言語からなる。

とはいえ、全体の興行収入の40%をボリウッドが占めるとされる。本数でみると、2014年に製作された1969本のうち252本がヒンディー語。製作本数は全体の1~2割だが、インド映画産業の稼ぎ頭であることが分かる。

このほか「トリウッド」や「ポリウッド」「モリウッド」「オリウッド」などの名称で呼ばれる映画産業が各地にある。トリウッドは東部・西ベンガル州や、テルグ語が主要言語の南部テランガナ州と南部アンドラプラデシュ州の映画を差し、ハリウッドをもじった愛称はボリウッドより先に生まれたという。

このほか、ポリウッドは北部パンジャブ州、モリウッドは南部ケララ州、オリウッドは東部オディシャ州の映画の愛称として親しまれている。

EYとFICCIの報告書によると、2017年はヒンディー語と英語以外の地域言語で撮影された映画の人気が格段に上昇したという。中でもトリウッドは『バーフバリ 王の凱旋(Baahubali 2: The Conclusion)』が話題を集めた。全2部構成の叙事詩的な映画の第2部で、ヒンディー語にも吹き替えられた。興行収入はインド映画で歴代1位になった。現在は「ダンガルきっと、つよくなる」が歴代1位に立つが、トリウッド映画を世界に強く印象づけた功績は大きい。

バーフバリが大きく貢献し、2017年のトリウッドの興行収入はヒンディー語への吹き替えも含め、前年から47%増え、153億3000万ルピー(約246億円)に拡大した。映画館への来場者数は37%増の2億4000人に増え、このうちバーフバリが4300万人を占めた。

チケット予約サイトのブック・マイ・ショーによると、トリウッドを始めとした地域言語の映画を放映する映画館の席は、2017年は45~46%が埋まっていたという。前年は39~40%だった。

社会派映画が注目を浴びる

現在でも歌とダンスが入り交じったスタイルは踏襲されているが、近年ではストーリーや人物などにも重きが置かれるようになってきた。それもあってか、社会問題や宗教に関連する映画が注目を浴びる機会が増えているようだ。

昨年は社会派映画『ブルカの中の口紅(Lipstick Under My Burkha)』が話題を集めた。この映画の舞台は中部マディヤプラデシュ州ボパールで、ヒンズー教徒とイスラム教徒の4人の女性が登場する。女性が社会や家族の圧迫や偏見から逃れようする姿が描写されている。監督は女性のアランクリタ・シュリバスタバ氏。2016年にムンバイ映画祭と東京国際映画祭で上映された。複数の国際映画祭でノミネートされ、9つの賞を獲得している。ムンバイ映画祭では、男女平等に関するベスト映画賞を取っている。

一方で、2017年1月の全国ロードショーの予定は半年ほどずれ込むことになってしまった。性的描写など過激なフェミニズムを理由にインドの中央映画検定委員会(CBFC)が検閲を拒否したためだ。映画制作者側は映画認定控訴裁判所(FCAT)に訴えた。複数のシーンをカットした作品をCBFCが検閲し、2017年7月に全国上映が実現した。

女性が自身の権利を主張するなど、男尊女卑が色濃く残るインドでは刺激の強い映画だ。しかし、映画の公開が実質的に一時禁止に追い込まれたことが方々で議論を呼び、結果として大ヒット映画となった。

ヒンズー教徒対イスラム教徒が問題となり、今年は映画が発端で暴動が起きる事件もあった。問題となったのは2018年1月に公開されたサンジャイ・バンサリ氏が監督した『パドマアヴァト』だ。歴史を基にした映画で、14世紀に西部ラジャスタン州を拠点としていたヒンズー教のメーワール王朝と、インド北部一帯を支配していたイスラム教のデリースルタン朝の争いを描いている。メーワール王朝のパドミニ王妃に、デリースルタン朝のキルジ首長が一目ぼれし、略奪する話だ。最終的にメーワール王朝は滅び、王妃も死亡する。

イスラム教徒にヒンズー教徒が滅ぼされるなどのストーリーがヒンズー過激派の反感を買った。公開日前には北部ハリヤナ州ではヒンズー過激派が暴徒化し、スクールバスが放火された。公開日当日には映画館周辺に警察が待機するなど厳戒態勢が敷かれた。北部ウッタルプラデシュ州や西部ラジャスタン州、西部グジャラート州、中部マディヤプラデシュ州などでは公開が見送られた。

映画館の数は減少傾向に

議論を呼んでいるのは映画の内容だけではない。インドの映画館では、上映前に国家の演奏が義務付けられている。2016年12月に最高裁判所が、愛国心の向上を目的に命令を出した。国家の演奏中は入り口を閉鎖し、スクリーンには国旗を映す必要がある。観客は起立しなければならず、表現の自由などをめぐり、波紋が広がった。演奏中に起立しなかった観客に対して、他の観客が暴行を振るうなどした事件も報道された。

そんな映画館ではあるが、インドでは数分歩けば映画館があるほど、たくさんの映画館がある。どんなに小さいショッピングモールにも映画館が必ずと言って良いほど入っている。

シネコンの最大手はPVRだ。全国19州1連邦直轄地に進出しており、52都市で135の施設を運営。スクリーン数は630面に上る。2018~2019年度中には35億ルピーを投じ、大都市を中心に100スクリーンを追加する予定。2022年までに1000スクリーンに増やす方針を掲げる。年間来場者数は約7600万人だが、向こう1~2年程度で1億人に達すると見込んでいる。

業界2位はアイノックス。61都市で124の施設を持ち、スクリーン数は496面。今後、150億ルピーを投じて事業を拡大する計画を打ち出しており、大都市や中都市を中心に700スクリーンを設置する。

次いでカーニバルが20州115都市で155施設を運営し、スクリーン数410面を有して続く。同社は中小都市での展開に重点を置く。東部ジャルカンド州と東部オディシャ州の両政府と覚書を締結しており、2州に計75施設、スクリーン150面を設置する計画だ。シンガポールにも進出しており、2020年までに世界で1000スクリーンを運営する目標を掲げている。

外資系で唯一広く展開しているのがメキシコのシネポリス。339スクリーンを持ち、業界4位につけている。シネコン以外にも1スクリーンしか持たない個人経営のような独立系の小さな映画館がたくさんあり、全国に計9530スクリーンが稼働している。

しかし、スクリーン数は2015年の9500スクリーンから微増してはいるものの、2009年の1万635スクリーンからは減っており、減少傾向にある。各地で都市化が進み、小さい映画館がシネコンに取って代わるようになったことが1つの要因と考えられる。

EYは、スクリーン数が米国や中国に比べてまだ5分の1であると指摘。100万人当たりのスクリーン数はインドが8スクリーンなのに対し、中国は16スクリーン、米国は125スクリーンで、まだまだ拡大の余地があるという。インドでは中小都市や村など地方にシネコンがまだ入り込んでいないことが背景にあるようだ。

オンラインでのチケット販売も浸透してきた。ブック・マイ・ショーやペイティーエム、ジャストダイヤルといったチケット販売サイトでの購入のほか、シネコン大手各社は自社サイトでチケットを販売している。大手4社だけでみると、2017年はチケット販売の45~50%がオンラインだった。

チケットは200ルピー(約321円)以下から購入できる。リクライニング席など少し高級になると1000ルピー(約1605円)以上するチケットも販売されている。

他方で、デジタルメディアの存在も映画館の脅威となってきている。地場映画製作会社のエロス・インターナショナルは、収入源の多様化を図るため、映画配信サイトのエロス・ナウを数年前から運営している。利用料金を支払ってコンテンツを閲覧している登録者数は、2015~2016年度のわずか40万人から、2017~2018年度には最大800万人に急拡大。2018~2019年度には1200万~1600万人へと、さらに増える見通しだ。

国内ではエロスのほか、米アマゾン・コムがアマゾン・プライムをインドでも展開しているほか、米ネットフリックスが進出している。

デジタル配信の権益収入は2017年の85億ルピー(約136億円)から2020年には145億ルピー(約232億円)に膨らむと予測されており、映画制作会社やシネコンなど関連産業にとっては無視できない存在になりつつある。人気映画では、総収入の最大3割をデジタル配信の権益収入が占める場合もある。

映画館での公開後1~2か月程度でネット配信される映画もあることから、今後、映画館へ出向く人口が減少することも予想されている。一方で違法ダウンロードや海賊版DVDの流通で、映画産業は年間28億米ドル(約3110億円)の損失を被っていると試算されており、対策が求められている。

ボリウッドに登場する日本に大きな衝撃

実は日本もボリウッド映画に登場している。1967年公開の『アマン(Aman)』、2014年公開の『若者の国(Youngistaan)』、2015年公開の『タマーシャ(Tamasha)』などに日本が登場する。

中でも日本と関わりが深いのは1966年に公開された『ラブ・イン・トーキョー(Love in Tokyo)』だ。高度経済成長期にあった日本が舞台となっており、インドで大ヒットした。当時はアジアで初めて五輪を開催し、先進国の仲間入りを果たした日本を描き、「アジアにこんな国があるのか」と話題を呼んだという。

東京に住む甥っ子を連れ戻しに来たアショカ(男性)と、インド人の舞踏家アシャ(女性)が恋に落ちるというラブコメディー。監督はプラモッド・チャクラボーティ氏だ。

この映画が今、リメーク版として復活使用としている。タマーシャを監督し、ラブストーリーの名手といわれる人気映画監督、イムティアズ・アリ氏がプロデューサーを務める。日本の松竹がリメーク権を取得しており、2020年の東京五輪に向けたプロジェクトだ。

アリ氏によると、リメーク版はインド人の男性と日本人の女性が、言葉が通じないながらも恋に落ちるストーリーになるという。お互いを理解するためにはボディーランゲージやスケッチなど言葉以外の手段が必要で、細かい演出が見どころになりそうだ。

広島や京都、地方の田園風景まで多用や場所が舞台に使用され、主人公の2人が日本中を旅する物語を想定し、最後には2人がインドへと旅立つ物語を想定しているという。

日本政府はこのラブ・イン・トーキョーのリメーク版を、インド人観光客の呼び水にしたいと考えている。今年2月にはインドからテレビ関係者を招待し、3月にインドでロケ地を回る特番を組んだ。日本の露出度を増やし、まずは知名度を高める考えだ。公開日は未定だが、初の日印合作映画が完成すれば、日本でのボリウッド人気もさらに拍車がかかるだろう。

最近ではインドへの新幹線輸出が決まり、産業面から日印間の協力が進んでいる。インド人が愛し、最大で最高の娯楽でもあるボリウッドを始めとする映画は、文化面からインドと日本の距離をぐっと縮める可能性を秘めている。

 


山内 優(やまうち・ゆう)

ジャーナリスト。滞印歴は3年。東京都内の私立大学文学部を卒業後、ベンチャー企業などを経て、インドへ渡る。日系メディアの記者として、主にインド経済情報を毎日発信している。インドに進出している日系企業にとどまらず、インド大手企業のトップへのインタビューを実現させるなど、精力的な取材を続ける。

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