中国ブランドは市場を変えるか

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中国ブランドは市場を変えるか

即席ラーメンから見えるトレンド

消費ニーズが減少傾向にあった中国の即席ラーメン市場にいま大きな変革の波が押し寄せようとしている。仕掛けるのは本土ブランドの「今麦郎」。「即席麺2.0」を標榜する新製品を日本市場にも投入する。「即席ラーメン誕生60周年」にあやかり、放映を開始したNHKの連続テレビ小説「まんぷく」が佳境を迎えるなか、中国の市場トレンドの概況と販売展開について紹介しておきたい。

 

チキンラーメン誕生から60周年

2018年はインスタントラーメン誕生から60周年という節目の年だった。同年後期から放映が始まったNHKの「連続テレビ小説」99作目「まんぷく」で主人公のモデルとされたのが、チキンラーメンとカップラーメンの生みの親である日清食品の創業者・安藤百福氏で、同氏にスポットを当てた報道は中国のネットでも目を引いた。

さて、世界ラーメン協会 (WINA) の統計データによれば、即席ラーメンは55の国・地域で推計約1000億食(2017年)が消費されているという。その中で日本の消費量は約56億9000 万食で、ざっと全体の5・7%を占める計算になるが、3年連続で消費量に伸張が見られるなど、まだ業界は成長の過程にある。

ついでに言えば、2018年はチキンラーメン誕生60周年以外にも、サンヨー食品「サッポロ一番」の発売開始(19 68年)から50周年、大型カップ麺のエースコック「スーパーカップ」の登場(1998年)から30周年というように、日本の即席ラーメン史において大変意義深い年だったと言えよう。

なお、高級タイプの増加や、カップラーメンの大サイズ化、袋麺(約30%)の漸減、生麺(約2%)市場の伸び悩みというのが今日の市場トレンドだとされている。

1人あたりの消費量がトップの韓国

即席ラーメンの消費量が1人あたりで最も多いのが韓国だ。2017年には年間73・7食のラーメンが摂取されたとされ、1人あたり年間45食の日本を大きく上回る。たしかに韓国のコンビニに入ってみると、心なしか、日本や中国より即席ラーメンのスペースを広くとった陳列棚が印象的である。済州島のあるセブンイレブンに入ってみると、軒並み大型サイズのカップ麺が目立っていたほか、袋麺については韓国ブランド数種のファミリーパックが売られていた。

一方、中国のコンビニでは即席ラーメンはそれほど大きな存在感がない。即席ラーメンは中国語で一般的に「方便面」と言うが、それ以外にも「快餐面」「泡面」「杯面」「快熟面」「速食面」「即食面」等の呼び方がある。名称は異なれ、ショッピングモールや卸売市場、スーパーの売り場では、中国本土、日本、韓国、タイ等、多国籍に渡るバラエティーに富んだ商品が多く配架されており、その光景を見る限りは市場が活況にないというのは嘘のようだ。

しかし、現実は前号でも触れたように、市場規模は縮小が続いており、ピークだった2010年に約500億食という規模があったことを考えると、2017年の375億6000万食という需要量は何とも物寂しい。

中国人の即席ラーメンに対する認識は、せいぜい空腹を満たす「代用食」という位置づけが一般的だ。即席ラーメンを調理して提供してくれる専門店が巷に現れ、一時的に静かなブームも呼んでいたようだが、残念ながら即席ラーメンが博物館のテーマにまでなる日本のように「食文化」として認識されるレベルには至らなかったようだ。

高速鉄道の普及も市場の逆風に?

では、近年において中国の即席ラーメン市場の発展が阻まれている原因は何だろうか。

この点については、日本でもさまざまな考察が行なわれている。労働人口や流動人口の減少、あるいは電子商取引の発達が理由として挙げられることも多い。デリバリー市場が活況を示す一方で、食品の安全に対する意識が高まっているのが昨今である。そのなかで即席ラーメンに注がれる視線は厳しく、ともすれば「ジャンクフード」と同様な扱いも受けがちだ。したがって、本来なら即席ラーメンを消費するコアの層となるはずの独身若年層から支持を得ることは少ない。

さらに言えば、前号で紹介した人気沸騰中の火鍋ブランド「海底」がリリースした即席火鍋や、あるいはライスヌードルといった、即席ラーメン以外の選択肢が増えているのも大きな要因だといえよう。

そのほか、全般的に人びとの収入水準が上がる一方で、移動手段として高速鉄道が普及していることも関係しているかも知れない。かつて旅の伴として愛食されていた即席ラーメンを高速鉄道の列車内で食べる光景はまず見られない。「スメル・ハラストメント」に手厳しい日本ならずとも、両者は似つかわしくない組み合わせだ。

 

台湾資本の二大巨頭が市場を牽引

雄大な大地をゆっくりとした速度で走る列車、そして車窓の景色を眺めながらの食堂車での食事──高速鉄道がまだない1990年代の中国は、こんなところに鉄道の旅の醍醐味を見い出せた気がする。しかし、当然のことながら、当時は食堂車での食事は庶民にとって高嶺の花だった。そんななかで脚光を浴びたのが「康師傅紅焼牛肉麺」だった。1994年当時の価格は4元弱(60円弱)ほどで、当時の物価水準からすれば割高な商品ではあったが、それでも割に合う手軽なグルメという認識が乗客にはあったようだ。

その「紅焼牛肉麺」のヒットによって、中国本土の即席ラーメン業界におけるリーディングカンパニーの地位を築いた康師傅の親会社が頂新ホールディングスだ。サンヨー食品から資本注入を受けたり、あるいはカゴメとは野菜ジュース事業で、亀田製菓やカルビーとはスナック・菓子事業でそれぞれ提携を行なったりするなど、常に話題を集めてきた台湾企業である。

康師傅(カンシーフ)が中国本土で旗揚げをしたのは1992年のことだ。もともとは台湾エリアで食用油を製造する零細企業に過ぎなかった同社が、工場を大陸に立ち上げるやたちまち全土に販売網を広げることに成功した。現在でも40%程度という驚異

 

的な市場シェアを誇っているが、1990年代半ばに遡ると、おそらく市場に流通するカップ麺はほぼ「康師傅紅焼牛肉麺」で席巻されていたように思う。

 

ちなみに、康師傅に次ぐナンバー2の座にある「統一」は、康師傅とほぼ同じ時期に即席ラーメン事業を中国本土でスタートしているものの当初は存在感がなかった。台湾エリアでの華々しい実績を掲げて堂々の進出を果たしたものの、出鼻をくじかれたためである。じつは当時、「統一」が売り込もうとしたのが海鮮麺だったとされている。いまでこそ海鮮味を親しむ中国人消費者は多いが、歓迎される味覚として中国全土に浸透するにはまだ時期が早かったと言えそうだ。

一方で「業界ルーキー」の立場だった「康師傅」が「紅焼牛肉」のテイストをフラッグシップ商品に仕立てて成功を収めたのは面白い。もちろん、台湾エリアで業界大手として君臨した「統一」も味付けフライ麺の「小浣熊」(日本の「ベビースターラーメン」に相当)や「老壇酸菜麺」といった商品を市場に投入して人気ブランドの座を射止めることになるが、それでも市場の黎明期における明暗を分けた2社のマーケティング事例は注目に値することではないだろうか。

中国本土ブランドの勃興と角逐

康師傅、統一で中国の即席ラーメン市場全体の3分の2近くを占めるなかで、純・中国本土ブランドのプレゼンスはいかほどのものだろうか。

中国本土で最も有名な袋麺の商品に「三鮮伊麺」というものがある。華豊という企業が製造しており、多くの中国人にとって最も馴染み深いブランドだ。具も何もつかず、さっぱりしたソルティーな味付けがされたもので、価格も日本円で単価20円程度と安い。同社はそのほか、味付けフライ麺の「魔法士」も製造販売しており、統一の「小浣熊」ほどの人気はないものの、一定の存在感を示していると言える。

一方、オリジナルな製法を切り札として、中国で初めて「栄養促進貢献賞」を獲得した即席ラーメンのメーカーが白象グループである。インスタント食品の開発生産を主要事業とする製造・貿易が一体化された国営企業で、規模のメリットを活用しながらの大胆な事業展開が持ち味となっている。

ノンフライ麺で一時期、一世を風靡した「五谷道場」についても触れておこう。「油で揚げる」という調理法が健康の目の敵にされがちな風潮のもとで、同社ブランドのシリーズは割高な価格ながら市場から一定の歓迎を受けた。

しかし、業界のダークホースとして称えられた期間は短かく、いまでは同ブランド商品を扱う店舗は多くない。生鮮食品スーパーの「地球港」のごとく資金ショートを起こして姿を消した事例までには行かないまでも、中国における人気ブランドの浮き沈みの動きは極めて速い

改革開放40周年の代表ブランド

2018年は日中平和友好条約締結40周年であるとともに、「改革開放」40周年の年だった。その実績を誇らしく語るデモンストレーションと言うべきか、「40周年40ブランド」をテーマにした記念式典が2018年10月末に行なわれた。いまや「世界500強」にランク入りする企業の数は120を数えるというが、そのなかから40社を選出して表彰しようというのがイベントのコンセプトだったようだ。

その40社の一つに選出された企業に今麦郎面品有限公司がある。前身は河北華竜面業という。「今麦郎」シリーズ、「大今野」シリーズ、「一桶半」シリーズ、老爸厨房「一菜一面」シリーズなど、バラエティーに富んだ即席ラーメンのブランドを打ち出してきており、業績も好調と見られる。

もともと同社は日清との間で業務提携関係を築いていた。提携は2004年にスタートし、やがて日清が5億439 0万元を投入するなどして製造・販売会社3社を香港に設立したことで、日清の持ち株比率が一時期33・4%(2012年)にまで上昇し、これを受けて社名を「今麦郎日清食品有限公司」に変更したこともあるという。

しかし、日清はすでに保有していた全株式を「今麦郎」に売却し、資本提携関係がすでに解消されていることが報道でも明らかにされている。「今麦郎」はいまや独立独歩の道を歩み始めているというわけだ。

そんな同社がこのほど新たに市場投入したのが「老範家速食 面館面」(前号参照)である。独自製法である「スチームボイルド製法」が売りで、関連報道によると同社関係者は「研究開発に10年の歳月をかけ、31の技術的課題をクリアして開発した新製法」だと誇示している。日本市場への投入も間近だとされており(2018年12月現在)、トップセールスを行なう総裁(範現国董事長兼総裁)の様子を報道で取り上げた日本のネットメディアもいくつかあった。


そもそも、油で揚げることで麺をほぼ乾燥状態に長期保存を可能にした「瞬間油熱乾燥法」こそが、これまでの即席ラーメンの核心技術だと言われる。それを「独自技術」によって塗り替えようと野心をのぞかせるのが「今麦郎」である。ただ、あたかも日本の即席ラーメン市場に挑戦状をたたきつけるかのような野心と意気込みを込めたその商品宣伝には違和感も覚える。

すでに触れたように同社には日清との提携関係が長年あった。そして日清の創始者である安藤百福氏は台湾生まれである。中国本土の「独自技術」というよりも、むしろ日本、中国本土・台湾エリア、それぞれのDNAを継承した合作のかたちにこそ「即席ラーメン2・0」時代の幕開けがある──そんな見方をするほうが公平なのではないだろうか。

 

大衆の味覚から「分衆」の味覚へ

中国の即席ラーメン市場も、日本で見るようにカップの大型化や高級化といったトレンドが顕著だ。もともと中国のカップ麺は往々にして「桶」のような形状のものが主流で、日清のカップヌードルがスタンダードとしている丈が高い細長いコップタイプの容器は農心の「辛」ラーメンを除くとあまり見ることはない。中国ではこれまで麺の量に一定のボリュームを求めるニーズが根強く、サイズを極小化したいミニカップや、分量を減らしたカップスープといったジャンルはおそらく歓迎されないのではないかと思えてくる。

しかし、即席ラーメンのコンセプト自体がいま変わろうとしている。空腹を満たすことを第一の目的とするのではなく、よりクォリティーの高い食べ方を求める「若年層」「女性層」「健康オタク」を重要な消費グループとして想定した商品開発がこれからは有効になってくるのではないだろうか。即席ラーメンを調理して食べられることを売りにした専門店は人気が下火だと言われるが、一方で即席ラーメンのオリジナル調理法と銘打った短編動画が「TikTok」に盛んにアップされている。お湯で煮上げたインスタントラーメンを野菜と混ぜ合わせて焼きそばにするなどユニークなTIPSネタも多く、インスタントラーメンを「ジャンクフード」として遠ざける風習に風穴が開けられようとしている

デリバリーサービスの愛用者には「手軽さ」「安さ」を選ぶ層があれば、「意識高い系」と呼ばれる「健康オタク」や「グルメオタク」、あるいは「手作り志向派」といった層も存在する。「即席火鍋」のヒットは、手軽さとともに調理する「楽しさ」をコンセプトとしたところに理由があったのではないだろうか。「即席ラーメンの最大のライバルはデリバリー」という認識から解き放たれた業界関係者が手がけるイノベーティブな商品がお目見えできることを期待したい。

 

近藤修一(こんどう・しゅういち)
KumeTech大連(BizAiA!グループ)副総経理
「HeyNanaco」編集委員

中国・大連市在住。静岡県出身。信州大学卒。1994年、上海に語学留学。98年に現地パートナーらとともに日本人向けパソコン事業に携わる。2002年10月に中国全土でフリーペーパー事業を展開するメディア漫歩グループに入社、その後、「Whenever BizCHINA」(現名称)、「インサイトチャイナ」編集長、「ミャンマー・ジャポン」編集長、「Whenever大連」編集長などを経て、2018年11月より現職。