僕のインターネット仕事術

海外で接続して原稿を送る

僕はインターネットを頼りに生きている。1か月に20本を超える締め切りがある。本などの長い原稿は手書きという古風な人間だが、さすがに短い原稿はパソコンで打ち、インターネットで送信する。そして月に平均すると2回は海外に出る。向かう国はさまざまだ。その国から原稿を送る。それぞれの国のインターネットに支えられて僕は仕事をこなしていることになる。

ところが僕は、インターネットについて詳しくはない。ホテルに入り、ネットがつながらない状況に陥るともうお手上げだ。

この記事を読んでいる方が、どんなふうにインターネットに接続しているのだろうかと思う。目的はさまざまだろうが、おそらく僕よりはうまく使いこなしている気がする。そのなかで、僕のインターネット接続の悪戦苦闘ストーリーは、どれほどの参考になるのだろうか。不安はぬぐえないが……。

 

つなげるのに苦労したのも今は昔

いまや世界の多くのホテルにWi-Fi は備わっていると思っていい。国によっては、宿泊施設を営む条件にWi-Fi を加えているところもある。そしてそのほとんどが無料で使うことができる。しかしこの状態になるまでの道のりは、谷あり山ありだった。

インターネットが普及しはじめた頃、すべてが有料だった。設備に費用がかかっているから、それは当然だった。料金を払うと、パスコードをくれる。それを打ち込むとつながるシステムが多かった。しかしほとんどが時間に制限があった。だからいまのようにつなぎっぱなしすることはなかった。僕の場合は、原稿を書くときは切り、送信時だけつなぐという方法をよくとっていた。

当時はセキュリティーも甘く、パスワードがなくてもつながることが多かった。インターネット代を節約するために、オフィスから漏れる電波を拾ったものだった。俗に野良電波と呼ばれるものだ。
タイから原稿を送ることが多かった。その頃の僕は、バンコク市内の野良電波ポイントをいくつか覚えていた。サパンクワイの交差点近くのビルの前、スクンビット通りのカフェ横の路地……。夜、そんな場所に座り込んでパソコンを開く。どう考えても不審な存在だった。

その後、セキュリティーも義務化され、野良電波は一掃されていった。インターネットの接続料金がどんどん安くなっていったのもその頃だった。やがて無料時代に突入していく。カフェなどは、「Wi-FiFree」を集客手段に使うようになっていった。

この流れは欧米や日本といった先進国より、東南アジアや中東のほうが早かった。先進国は通信会社が利益を守るための制約が多かった。とくに日本はひどかった。出張で地方に行くと、Wi-Fi 砂漠によく遭遇した。インターネットにつながるというカフェに入ったところ、地元のNTTのオフィスで登録しないと使うことができないといわれたこともあった。
しかしその格差もしだいに平準化されていく。ホテルやカフェでは、ほぼ無料でWi-Fi を使うことができる時代になった。

 

インターネットの状況には未だに格差がある

しかし問題はそのつながり具合である。部屋によっては電波が弱かったり、皆が一斉に使うとつながらなくなってしまうことが珍しくない。そのあたりの体験的状況はこんな感じになる。

 

インターネット先進エリア

香港・シンガポール・韓国高級ホテルはもちろんだが、安宿のレベルでもしっかりとWi-Fi がつながる。これらのエリアには年に2~3回は訪ねているが、うまくつながらないという記憶がない。通信速度もかなり速い。ホテルのインターネットに関しては、心配しなくていい。

中国もこのグループに入れていい気がするが、そこには中国独自のインターネット事情が横たわっている。中国のネット事情はかなり進んでいると思っていいが、それは中国人というか、中国のネット社会に入った人に限られている。

中国では日本人を含めた外国人の宿泊を断るホテルがかなりある。中国政府はすべてのホテルを外国人にも開放する通達を出しているというが、ホテル側が断ってしまうのだ。

事情は簡単で、外国人を断っても、中国人で部屋が埋まるからだ。ホテル側にしたら、外国人を受け入れるのは面倒なのだ。パスポートのコピーを公安に提出しなければならない。言葉も通じない。そんな事情で断ってしまう。

2年ほど前、山西省の省都である太原を訪ねた。駅前には10階を超える立派なホテルが何軒も建っていたが、軒並み断られてしまった。上海でも何回か断られている。大都市でこんな事情だから、地方に出ると、泊まることができるホテルはさらに限定される。

なんとかホテルを探して泊まることができても、その先に中国のネット事情が待ち構えている。Wi-Fi は問題なくつながるのだが、グーグルにはつながらない。ヤフーもあまりつながらないと思っていい。ラインやフェイスブック、ツイッターも接続を切られている。ユーチューブも見ることができない。

中国独自のネット社会に入りなさいというわけだが、通信相手が中国の外側の世界にいるからなんの意味もない。

中国政府のブロックをかいくぐる方法はVPNというプライベートネットワークを利用するしかない。VPN対応のルーターのレンタルもあるが、そこそこの費用がかかる。超高級ホテルはVPN対応している。

僕も中国では苦労している。グーグルやヤフー以外のブロックされないサイトを使っているが、慣れていないので、使い勝手が悪い。相手に対しても、「中国にいるのでこのアドレスで」といちいち伝えなくてはならない。なんとかしのいでいるといってもいい。

インターネット中進エリア

このレベルの国がいちばん多い。一応、ホテルに無料のWi-Fiは備わっているが、つながらないことがたまにある。

台湾はネット事情がいいといわれる。台北市は街なかでもネットがつながる努力をしている。たしかに駅などでもつながるが、ホテルとなると、やや寂しいことになる。どういう事情かわからないが、1日のうちで一定時間、つながらなくなることが多い。利用者が少ない時間帯にWi-Fi の電源を切っているのかもしれない。

タイ、カンボジア、ベトナム、ラオス、マレーシアあたりはほほ同じ状況だろうか。ホテルはほぼWi-Fi が備わっているが、安定感に欠けるところがある。部屋によって電波に強弱があったり、時間帯によってつながらないことがある。こういうときは迷わずフロントに向かうことにしている。フロント近くは電波が安定していることが多い。

それでもうまくいかないときは、ホテル内で努力しても無駄……という気がする。ホテルのスタッフに訊いても、満足な答えは返ってこない。近くにWi-Fi がつながるカフェがあれば、そこへ行ったほうがいい。

この状況は、欧米、中東、ロシア、インドあたりも大差がない。欧米では1泊5万円もするようなホテルが別だが、2万円レベルでも、Wi-Fi がなかなかつながらないときがある。むしろ東欧のホテルのほうがしっかりしている気がする。ロシアとインドは予想外にしっかりしている。インドなどはホテルにインターネットに詳しい人がいて助かるときもある。

インターネットがつながるカフェは昔からよく利用している。ホテルに比べれば規模が小さいから、電波をよくキャッチする。ホテルに比べて明るいことも、僕のように原稿を書く身にはありがたい。
ホテルのWi-Fi が問題なくつながるときも、カフェに向かうことも多い。ホテルによっては独自のホームページからWi-Fi につなげるシステムをとっているところもある。こういうシステムは、つなぎっぱなしにはならず、しばらく使わないと切れてしまうことが多い。その都度、つなぎなさないといけないのだ。それが面倒でカフェに向かってしまう。

インターネット後進エリア

アジアでは、インドネシア、ミャンマー、バングラデシュ、中央アジアあたりのインターネット事情は良くない。インドネシアが意外に思うかもしれない。ジャカルタ、スラバヤ、バリなどは問題ないが、それ以外のエリアになるとなかなか通じない。一応、Wi-Fi はあるのだが……。今年、スマトラを歩いたが、満足につながるホテルは少なかった。

この状況は中央アジアも似ている。一応Wi-Fi があるのだが、というレベルなのだ。こういうエリアでは、インターネットがつながるカフェも混み合う。カフェも利用者が多くなるとつながりにくくなる。
ミャンマーは、ヤンゴン、マンダレーなどのホテルは、中級クラスになるとかなり危うくなってくる。地方に行くとその状況はさらに悪くなる。

「Wi-Fiはありません」とはっきりいわれることも珍しくない。

しかしいま、ミャンマーは急速に通信事情が整備されつつある。3年前、電話のシムカードが200米ドルもし、使うことができるエリアも限定的だった。ところがそれから3か月後に行くと、シムカードは2米ドルほどになり、全国で使うことができるようになっていた。あまりの変化に戸惑ったものだが、それがいまのミャンマーでもある。ホテルのWi-Fi も急速に整備されていくような気がする。

ホテルでは悪化している場合もある

最近、ホテルのWi-Fi 事情が変わってきた気がする。とくにインターネット中進国にその傾向が強い。このエリアのホテルのWi-Fi は、ときにつながらないなどのトラブルがあった。その状況が変わったわけではない。むしろ悪くなってきている気がする。

タイのバンコクのあるホテルで話をしたのは3年ほど前だった。そのホテルのオーナーとは知り合いである。

「インターネットの修理、もうやめたよ昔のまま。だってね、お客さんからまったく苦情がこない。以前はWi-Fi が通じないって苦情が多くて、業者に頼んでよく直していました。ただ本格的に直すには、かなりの費用が必要で、どうしようかって悩んでいたんです。そのうちにぴったり苦情がなくなってしまった」

このホテルは70%がタイ人。残りが海外からの観光客だ。

「皆、インターネット・シムカードを入れるようになったんですよ。観光客も空港で入れてくる。だからホテルのWi-Fiが必要なくなったようなんです」

僕もそうだった。何年か前から、タイの空港で通信会社のカウンターに出向き、タイのシムカードをスマホに挿れてもらうようになった。1週間使い放題で1000円もしない。

インターネット・シムカードは、携帯電話の電波を変換してインターネットができるシステム。次回はその話を中心に世界のインターネット事情を。

 

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下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

作家。元新聞記者。主な著作に、『本社はわかってくれない─ 東南アジア駐在員はつらいよ』(講談社現代新書)、『12 万円で世界を歩く』(朝日文庫)、『バンコク探険』(双葉文庫)、『海外路上観察学 ぼくの地球歩きノート』(徳間書店)、『ホテルバンコクにようこそ』(双葉文庫)、『バンコクに惑う』(双葉文庫)、『アジアの誘惑』(講談社文庫)、『アジアの弟子』(幻冬舎文庫)、『バンコク子連れ留学』(徳間文庫)、『アジアの居場所』(主婦の友社)、『新・バンコク探検』(双葉文庫)、『タイ語でタイ化』(双葉文庫)、『タイ語の本音』(双葉文庫)、『アジアの友人』 (講談社文庫)、『バンコク迷走』(双葉文庫)、『「生きづらい日本人」を捨てる』(光文社新書)、『週末アジアでちょっと幸せ』(朝日文庫)、『週末バンコクでちょっと脱力』(朝日文庫)等がある。

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