変わるシンガポール 奇跡の都から普通の国へ

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変わるシンガポール

奇跡の都から普通の国へ

第2回 欲しいのは労働者ではなくて労働力

前号でも述べましたが、2018年の6月末時点での統計では、シンガポールの総人口約564万人の内、シンガポール国籍を持たないPR(永住権保持者)と外国人労働者を合わせると、その比率は38%となります。これだけの高い外国人比率を維持しているアジアの国はシンガポール以外ないでしょう。

「外国人」のことといえば、日本でも、外国人単純労働者の受け入れを拡大する「出入国管理法改正案」が国会で成立いたしました。2019年4月1日より施行が決定されており、今後細部を詰めて行き、人手不足解消の「切り札」として単純労働力を確保していきます。

在留資格は、特定技能1号と2号をつくり、特定技能1号は「一定の技能」を持った外国人で在留期間は通算5年で家族帯同は不可ですが、2号になれば「熟練した技能」と「昇格」し、在留期間も延長更新可能で家族も帯同できることから実質「移民」とも言われています。

まだ、どの職種に適用するかの決定はされていませんが、1号で想定されている14業種は、まず「介護」「清掃」「建設」など、いわゆる日本人が嫌がる3K職業です。これに「農業」や「漁業」や「飲食料品製造業」「外食」など、口に入れるものを扱う職業も含まれる予定です。

 

労働許可の規制強化と緩和が並行

シンガポールの外国人労働者の数は全人口の約3割の160万人が在住しています。そのうち仕事をしない帯同家族を除いた労働力人口は約137万人となっています。シンガポールの場合はあくまでも「Work Force」、つまり労働「力」として捉えており、労働「者」としては統計数字を取っていません。

就労ビザの書類は複数存在しており、一般の労働者、いわゆるホワイトカラー層と、単純労働者、いわゆるブルーカラー層とに分けています(表参照)。

EPはシンガポールで働く駐在員や現地採用社員が取得すべき労働許可証です。このEPの数は2016年の約19万人がピークで、その後は減少の傾向にあります。最低条件は月収で3600シンガポールドル(約29万円=2019年1月現在。以下同)ですが、実際はこの金額の2倍から3倍以上ないと許可が下りにくい実情があります。それだけ新規EPの規制を強化し抑制をしています。

弊社は各種ビザの申請代行を行なっておりますが、新規で立ち上げた会社のCEOのEP取得を試みましたが、会社の資本金が1シンガポールドル(約80円)であったため却下されました。

政府の見解としては、「会社登記は1ドルでできるが、1シンガポールドルでシンガポール人を2名以上雇えるのか? 会社の単位を1とすると、3分の2はシンガポール人にすべきという『ノーリターン』政策に合致していないと、有名大学卒のCEOだろうと容赦なく却下する」というメッセージです。

一方、EPの代替ビザとして増加傾向にあるのがSパスです。Sパスとは「中技能向けの熟練労働者を対象とした労働許可証」で、学歴が大卒ではなく、給料の水準がEPの規準に達していない場合の二次的労働許可証の位置づけです。業種にもよりますが、一般企業であれば、シンガポール人の雇用が6、7人必要ですが、この部分をクリアーすれば、給料の金額が2500シンガポールドル(20万円)でも認可されます。規制を強化すれば規制が緩いところに流れるのは自然なことです。

 

生産性を上げろというものの……

シンガポールにおける単純労働力は外国人全労働力の約70%を占めており、主にFDWと言われているメイドと建設現場で働くワーカーです。シンガポールも少子高齢化が進んでおり、介護要員の需要が上昇しています。

一方、大規模建設需要の減少に伴い、建設現場要員は減少の傾向にあります。政府は彼らに対して「生産性を上げよ」と大号令を出していますが、そもそも頭数を揃えて複数で働く南アジアから来られた労働者に生産性を上げることに無理があります。実際ショッピングモール等の建設は遅れており、2018年12月オープンが2019年6月オープンのケースも出てきています。

外国人の「受け入れ」ではなく「獲得」へ

それでも、シンガポールとしては、外国人労働力は「必要」としているものの、「選別」の時がきています。「シンガポール人の雇用中心」と言っておりますが、メイドや建設現場はあくまでも外国人労働力で、他の職種を「コア」としているのかもしれません。

国にとって必要な労働力を確保するのは競争になっており、「受け入れ」など悠長な構えでは、上質な「Work Force」を「獲得」できなくなるでしょう。

 

斉藤秀樹(さいとう・ひでき)
プログレス・アジア シンガポール 代表取締役社長

1966年東京生まれ。タイ国立マヒドン経営大学院卒。1993年~ 1997年、ヤオハン香港本社で人事畑を歩む。1998年~2001年、大手出版社で年間100人の採用実績。2001年~2006年、日系人材紹介会社パソナ・タイ社長。2006 年、グッドジョブ・クリエーションズ・シンガポール設立。2014年5月、経営権売却後、プログレス・アジア シンガポールを設立。プロによる「皆様の総務・人事部」として東南アジア進出企業をサポートしている。