技能実習生制度で外国人による介護がついに解禁へ(上)

期待が高まるミャンマー人は社会福祉の救世主となるか

外国人が働きながら技術を学ぶ技能実習生制度の「介護」の受け入れが、2017年11月1日から可能になった。
2016年11月に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が国会で可決・成立し、1年後の施行となった。
そこで注目を浴びてきているのが、心優しきミャンマー人である。
果たして、彼らが日本の深刻な人手不足の将来の担い手になるのか。
多くの問題をはらむこの制度と介護事業の実情を踏まえて検証してみた。

「介護」就労の外国人に3つの門戸が

雨季の真っ只中の2017年6月、私は事務所近くで足を滑らせて転倒し、腰と腕を強打した。翌日から4、5日は、横になると、血液循環が鈍り、起き上がるのにも腰に激痛が走るようになった。そして、痛みの峠を越すのに半月間くらい要したが、最初の4、5日は本当に辛かった。

団塊の世代の私は、自分では40〜50代のつもりでいたが、床に伏せてしまうと、やはり年齢を意識せずにいられず、心細くなった。しかし、幸いなことに心優しきミャンマー人スタッフが毎日のようにやってきて、あれこれと面倒を見てくれた。掃除、洗濯、果ては食料の買い出しまで、階段を下りるのにも苦痛だった私のケアをしてくれたおかげで、現在では痛みもほとんど消え、また再び元気に日常生活を送れるようになっている。

しかしながら、一度こうした体験をすると、この先自分が、本当に介護が必要になった時にはどうするか、真剣に考えるようになってきた。何しろ日本は慢性的な介護福祉人材の不足に直面しているからだ。そんな折に、外国人技能実習制度の「介護」人材の受け入れが解禁されたのだ。これは日本人の高齢者にとって朗報なのか。

現在、「外国人技能実習制度」の受け入れ職種は74種あり、新たに「介護」の項目が加わったわけだが、外国人としてこの制度の適用を受けられるのは、中国・ベトナム・インドネシアなどアジア15か国に限定される。

「介護職」に関していえば、これまで2008年に開始された経済連携協定(EPA)による受け入れシステムがすでに存在している。この制度では、これまで累計3000人以上の外国人介護福祉士や看護師の候補生が日本で就労しており、さらに、2017年年9月からは、外国人在留資格で「介護」が新たに制度として資格に組み込まれることになった。

つまり、現在、外国人が日本の「介護職」に就労する場合、この3つの門戸が開放されたことになる。むろん、条件面ではそれぞれ違いがあり、たとえば、就労期間を比較すると、技術実習生が3年(場合によっては5年)なのに対して、EPAは4年(介護福祉士の国家資格を取得すれば永続滞在できる)であり、在留資格者の場合は最長5年(更新もできる)とまちまちだ。

また、明確に異なってくるのは、日本語能力である。EPAと在留資格者が求められている条件は「日本語能力試験でおおよそN2以上の認定者」と高いレベルなのに、技術実習生の方は「入国時にN4を所持し、1年後にN3を取得する義務がある」と、かなり条件が緩和されている。

ハードルを高くして思うような成果が上げられなかったEPA制度を鑑みて、外国人の介護就労者をできるだけ多く受け入れたいとする日本の現状を考慮しての策かもしれないが、実はここに外国人介護士の受け入れ方に異論を唱える要素の1つがあるという見解も出てきている。

約38万人の介護福祉人材が不足に

高齢者の増加と少子化によって、介護現場の人手不足は年々深刻になってきた。2015年度の公益財団法人・介護労働安定センターによる「介護労働実態調査」によれば、事業所が従業員の人手不足を感じている割合は61・3%と全体の6割を超えており、離職率は訪問介護員15・8%、介護職員14・9%を数えているという。また、厚生労働省の2015年の推計でも、2025年には介護職員の需要見込みは253万人に対して、供給が予想される職員数が215万人程度と試算した。つまり、差し引き約38万人の人手不足になる計算である。しかも現在、介護現場で就労する職員自身が抱く不満も浮き彫りになっている。

内閣府発表の「高齢社会白書」(2016年版)の中で、「介護従事者が現時点で抱える悩み、不安、不満」についてのアンケート調査(対象は介護福祉士5372人。複数回答)があるが、これによると、最大意見が「仕事内容のわりに賃金が低い」で全体の51・6%にも上った。次いで、「人手が足りない」が50・3%、以下、「有給休暇が取りにくい」43・9%、「身体的負担が大きい」39・3%、「業務に対する社会的評価が低い」35・6%、「精神的にきつい」31・8%、「休憩が取りにくい」30・4%、などの順になったが、こうした不満は以前から噴出していた介護業界の問題点でもあった。

こうした深刻な問題に直面していた行政が打ち出した救援策がEPAからの人材確保だった。EPAとは自由貿易協定(FTA)のなかの連携項目で、協定締結国同士の経済取引を円滑化すること、経済活動における連携を強化することを目的に生まれた条約である。

日本も多くの国とこのEPAに合意しているが、介護においては、2006年にフィリピンと、翌2007年にインドネシア、ベトナムと合意に達している。しかし、やや見切り発車的にスタートしたこの介護人材の受け入れ制度は、合意当初は2年間で2000人の介護士・看護師の受け入れ予定だったが、開始から10年が経過した現在でも、その目標は達成できずにいる。

介護士として就労する目的で来日した外国人は、介護施設で3年間働いたのち、介護福祉士の試験を受験し、それから介護の正職員になる流れだが、2013年の合格率は36%で、日本人の65%には遥かに及ばなかった。

 

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栗原富雄(くりはら・とみお)

月刊『Yangon Press』編集長兼CEO。元日本旅行作家協会会員。
1949年、東京生まれ。高校を休学して2年間、ヨーロッパ、アジア、アメリアを放浪。1975年から1988年まで、「ブルータス」「週刊宝石」の取材記者。1992年~ 2001年、月刊「SEVEN SEAS」、月刊「VACATION」編集長、月刊『MOKU』編集局長を歴任。その後、フリーランスを経て、2011年にミャンマーのヤンゴンへ。2013年4月、日本語フリーペーパーの「Yangon Press」を創刊。2014年9月、ミャンマー語版を創刊。VIP取材には、ダライ・ラマ14世、ゴルバチョフ元ソ連大統領、デビッド・ロックフェラー、アウンサン・スーチー他。著書に『あの助っ人外人たちは今』(実業之日本社)、『不動産広告の裏を読め』(実業之日本社)、『Yangon Press で読み取る現実と真実』(人間の科学新社)などがある。

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