技能実習生制度で外国人による介護がついに解禁へ(下)

期待が高まるミャンマー人は社会福祉の救世主となるか

 

技能実習生制度で外国人による介護がついに解禁へ(上) 

 

緩和された介護実習生の受け入れ条件

そこで浮上してきたのが、受け入れ条件が緩和された「外国人介護技能実習生制度」である。これまでの技能実習生には「日本語能力試験3級」(N3)の合格者を前提としてきたが、前記したように「介護」では、1段階引き下げるN4を条件とする方向になった。N3は「日常会話がある程度は理解できるレベル」で、5段階のうちの上から3番目。N4になると、日本語の理解力でいえば、N3の
半分以下とも言われる。「介護」技能実習生の場合は自国でN4レベルの日本語と、介護に関する基礎的な技能教育を習得してから来日することが基本条件。慢性的な人手不足に悩む介護現場にとっては一見ありがたい制度に思えるが、介護現場ではデメリットのほうが大きいのでは?

と指摘する声もある。中でも強く懸念されるのは、この日本語能力の問題で、「言葉も文化も習慣も価値観も違う現場で、N4レベルで十分なコミュニケーションが取れるのか」という疑念が湧いているという。確かに、ハードルを下げれば、結果的に就労希望者は増え、人手不足の解消へと向かう可能性はある。

しかし一方で、サービスの質という点で大きな不安が立ちはだかるのも事実だ。介護現場では、看護や医療も含めた専門用語が飛び交い、それをN4程度の日本語能力で対応できるのか?要介護高齢者と上手くコミュニケーションを取っていけるのか?

という不安が先に出てくる。たとえば、日本語といえども標準語地域ばかりではない。東北弁や九州弁を早口で喋るお年寄りの日本語に、標準語N4レベルではまず理解不能だ。また、介護者の微妙な体調の変化や顔色、仕草の異常を、的確な日本語で伝えられるのか。

介護人材不足は日本だけの問題ではない

もう一つ世界的な規模で見れば、介護人材の不足は日本だけの問題ではなくなってきていることだ。特に高齢化が進む欧米でも深刻な問題になってきている。

西欧諸国では今から20年くらい前から、東欧諸国から外国人の介護職員を受け入れはじめた。英国では介護職員5人に1人が外国人だと言われている。ドイツではついに日本と同じように東南アジアに採用の幅を広げているという。

同じ仏教徒で人間性がいいとの評判から、介護実習生として最も期待されているミャンマーにしても、介護の問題は浮上している。

ヤンゴンにある「Hninzigon Home for TheAged」という施設は、ミャンマー国内のすべての老人を受け入れる介護ホームだ。

この施設の歴史は古く、20世紀初頭にDaw Oo Zun(1868‐1944)という女性によって創設された。ミンドン王が健在だったころ彼女は裕福なマンダレーのシルク商人の家に生まれた。そして47歳の時から、貧しく無力な人々のために、以後22年間に全国に5つの老人ホームを作る努力をした。

生涯独身を通した敬虔な彼女は、世俗的な生活を放棄して62歳で尼僧になったが、1993年1月1日、65歳の時に、高齢者向けの施設として「HninzigonHome」を設立した。

当時のイギリス植民地政府は、彼女の人道精神に敬意を表し、「Taing kyo Pyikyo Saung – TPS」という称号を与えたほどだった。

管理・運営は、公共慈善団体に依存しており、運営資金は寄付、銀行預金の利息や貯蓄で賄われている。新しい4階建ての建物は、ケアを希望する高齢者を収容するために特別に改装された。基本的には有料ホームだが、彼ら自身または子供たちによって支払われる費用は適正で、専門の介護職員のケアが受けられるという。ミャンマーでは珍しい昇降用のリフトも常備されている。ちなみに、高齢者ケアの施設のため、長年自主的に寄付を行ない、80歳に達した後、高齢者管理委員会の名誉会員およびその家族には、優先的な入所資格が与えられるそうだ。

ホームには現在240人の入所者がおり、男性100人、女性140人が暮らしている。家具付きの宿泊施設、衣類、毎日の食事、医療が提供されている。一般的なダイニング・ルームとレクリエーション・ホールや男女別々の寮がある。

毎日の食事は、朝食は午前5時30分から、ランチは午前10時30分から、ディナーは午後4時半からで、著名な外科医、医師、専門家(退職した実績のあるプロフェッショナル)で構成された健康監督委員会が、病院の機能を駆使して健康管理に当たっている。そのため、24時間の在宅医と看護師が待機し、患者のケアに当たっている。病気になった患者は、必要に応じて、一般および専門治療のためにヤンゴン総合病院に送られるそうだ。

2008年からは基本的な看護と高齢者のための特別なケアに関する6か月間のコースが設けられており、老人介護専門の看護サポートや老人医療の重要性について、一般の意識を高める活動も行なっているという。

こうした施設はまだ少ないが、今後ミャンマーでも介護福祉がクローズアップされてくることは間違いなく、そうなれば、介護人材の不足は日本だけの問題ではなくなってくる。

問題解決には介護職の待遇改善以外にない

こうした世界の現象を見ると、日本の介護現場を魅力的なものにしていかないと、たとえ一時的に介護就労希望の外国人が増えたとしても、国際的な人材確保競争に負けてしまう。

そもそも技能実習制度では、これまでにも外国人実習生に対する賃金の未払いや待遇の悪さなどの問題も出てきており、「外国人の労働力を安く買い叩く制度」といった風評も上がり、蒸発、逃亡する実習生も絶えないという。

2017年10月の末に、「外国人介護技能実習生制度」の施行直前に、日弁連は東京都内でシンポジウムを開き、制度に詳しい弁護士らからは「人権問題を指摘される構造的な問題を残したまま、介護に拡大してはいけない」などと改善を求める意見が相次いだ。

シンポジウムでは、実習生からの相談を受ける高井信也弁護士が「賃金水準が最低賃金並みにとどまり、不満があっても自由に転職できないなどの構造は変わっていない」と指摘があった。介護労働者の団体代表は、入国の条件となる日本語能力について、「働く上での最低レベルにすぎず、介護の質を保証するには不安が残る」と強調した。

こうした受け入れ制度にも問題は残るが、もうひとつ危惧されるのは、実習生の増加により、日本人介護職員の賃金も下がるのは、という懸念である。確かに、海外から安価な労働力が流入れば、その比較(一概に比較できないが)から日本人介護職員にまで余波が及ぶ可能性がゼロだとは否定できない。また、安い労働力で人手不足を補おうとする消極的で臨時的な施策では、労働環境の改善にはつながらないという意見も多い。

現在、外国人技能実習生のうち、毎年全体の約3%にあたる約5000人が失綜、ないしは行方不明になっているというデータがある。実習生の中には斡旋業者への借金を抱えている人も少なくなく、借金返済が滞り、より収入の多い仕事を求めて失踪してしまうケースが多いのは周知の事実だ。

行政としても、斡旋業者に対しての細かい監督を行なうのは現実的に厳しく、いまだに失綜者が後を絶たないというのが実態だ。しかし、介護現場でこれをやられると、現場は本当に混乱する。「介護」は高齢者の命を預かる仕事だけに、技能実習生が失綜する事態は何としても阻止しなければならない。

技能実習生制度による外国人介護士の受け入れについては、将来的に数万人規模にまで増やす計画設計がなされている。もちろん一方では日本人介護職員の人手不足を解消していかなければならないが、仮に数万人の外国人が介護現場で定着したとしても、約40万人近い人手不足を補完するにはいたらない。だから、介護の担い手の中心はあくまで日本人であることをいま一度自覚すべきなのだ。そこを曖昧にしたまま外国人に依存していくというのは大変危険なことである。

いずれにしても、日本でこの介護職に人が集まらないという原因は、介護の現場で働く職員の労働環境の整備、特に重労働の割には賃金体系が脆弱だということに尽きるのではないか。こうした特殊な仕事に対しては、政府予算のなかから福祉予算をさらに計上し、介護スタッフの待遇を改善していかなければ、日本人・外国人を問わず、この人材不足は永久に解決していかない。

 

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栗原富雄(くりはら・とみお)

月刊『Yangon Press』編集長兼CEO。元日本旅行作家協会会員。
1949年、東京生まれ。高校を休学して2年間、ヨーロッパ、アジア、アメリアを放浪。1975年から1988年まで、「ブルータス」「週刊宝石」の取材記者。1992年~ 2001年、月刊「SEVEN SEAS」、月刊「VACATION」編集長、月刊『MOKU』編集局長を歴任。その後、フリーランスを経て、2011年にミャンマーのヤンゴンへ。2013年4月、日本語フリーペーパーの「Yangon Press」を創刊。2014年9月、ミャンマー語版を創刊。VIP取材には、ダライ・ラマ14世、ゴルバチョフ元ソ連大統領、デビッド・ロックフェラー、アウンサン・スーチー他。著書に『あの助っ人外人たちは今』(実業之日本社)、『不動産広告の裏を読め』(実業之日本社)、『Yangon Press で読み取る現実と真実』(人間の科学新社)などがある。

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