日本式ものづくりに学ぶインド(上)

2020年までに4億人の人材を育成する

日本式ものづくりに学ぶインド

人口の65%が35歳以下の世代に属するとされるインドでは、2040年まで人口ボーナスが続くと期待されている。労働人口が全人口の増加率を上回っていることで経済成長は加速し、2017~2018年の実質国内総生産(GDP)は前年度比6・7%増と予測され、今後数年は高成長を維持する見通し。失業率も過去2年間で大きく改善し、増え続ける労働人口以上に経済は急速に成長しているかのように見える。しかし、持続可能な発展には雇用の創出と労働者の質向上が急務だ。インド政府は2020年までに4億人の人材育成を目標に掲げ、日本を始めとする先進国と提携し、各国の知見をインドに持ち込もうと動き出している。

人口世界一が目前のインド

国連は、インドの人口は2022年に中国を抜き、2030年には15億人に達すると試算。2020年には、世界の労働者の25%がインドに集中すると予測する。同年にはアメリカや中国、日本で労働者不足が懸念される中、インドでは5000万人弱の余剰が生まれる見通しだ。

UNDP(国連開発計画)によると、就業機会は2013年の4億6100万人から、2022年には5億8200万人に増える。一方で、2025年までに現在と比べて3億人の若者が生産年齢人口に仲間入りするとされる。建設や物流などの分野の就業機会が増えるとされるが、社会に出て行く若者は、社会に必要とされる技術を身に付ける必要がある。

インド政府は、国民に適切な人材育成を施すため、2014年に技能開発・起業促進省を誕生させた。2018~2019年度は340億ルピー(約551億円=2018年3月現在。以下同)の予算を割り当て、前年度の235億6220万ルピー(約381億円)から4割以上に増やした。

同省によれば、2022年までに育成が必要な人口は主要34業種を合わせて1億2687万人。このうち建設が3200万人と最も多く、以下、小売りが1070万人、美容・ウェルネスが820万人、道路が622万人などと続く。

さらにインドでは、組織化されていない分野で働く人が全労働者の9割強を占める。このうち、適切なトレーニングを受けたことがあるのはわずか2・5%。習得した技術に対する認証制度も皆無に等しい。こうした部門で働く人が持つ技術を正しく評価する枠組みを作ることも、労働者の所得向上につながる。

 

スキル・インディア」政策が描く職能開発

技能開発・起業促進省を発足させた翌年の2015年、インド政府は若者の職能開発を目的とした政策「スキル・インディア」を発動させた。「国家能力開発ミッション(NSDM)」を立ち上げ、同省傘下の訓練局(DGT)と国家能力開発庁(NSDA)、国家能力開発公社(NSDC)が事業主体として動く。

スキル・インディアの柱となるのはNSDCが旗振り役を務める「首相の能力開発計画(プラダン・マントリ・カウシャル・ビカス・ヨジャナ=PMKVY)」だ。同政策は2~6か月の短期プログラムに重きを置き、2016~2020年の間に1000万人の職能開発を目標としている。

国内490地区の2500か所にある育成センターで、600万人の育成を目指す。これまでに220万人以上がトレーニングを受けた。修了者には証明書を付与し、就職も支援している。残り400万人は零細商店など組織化されていない部門(アンオーガナイズ・セクター)で働く人を対象とする。同部門の労働者には、すでに習得した技術に対して証明書を発行する仕組みを構築。2020年までに査定を完了させ、労働者の底上げを図る。

DGTは産業訓練校(ITI)を運営している。全国1万 3350校(2016年12月時点)あり、このうち16%が公立校、84%が私立校。14歳以上であれば誰でも応募可能で、学生の受け入れ可能人数は計285 万人に上る。

ITIの数は200 0年の4274校から3倍以上に増えている一方で、教育の質が問題視されてきた。ITIの教師は全国で計9万人必要とされるが、このうち教員向けの育成コースを修了しているのはわずか15%とされる。現在、教員向けコースを開講している教育機関の受け入れ可能人数は官民合わせて年間約8650人。DGTはこの数を2万7000人まで引き上げる方針を打ち出している。このほか、カリキュラムの見直しや、設備の改修などを進めている。

技能開発・起業促進省は、他省庁との連携も進めている。2015年以降、防衛省や鉄道省など16省と覚書を結んでいる。

防衛省との取り組みでは、退役軍人のセカンドキャリアを支援しているほか、軍人の妻などの職能開発も進めている。鉄道省も施設を立ち上げ、数百人を育成している。

官民一体の協力体制が進む

国家能力開発公社(NSDC)の下では官民の連携も進む。同社は技能開発・起業促進省が49%、残りを民間企業が出資し、2009年に設立された。民間から投資を呼び込むことを目的とし、主要34部門で348の職務に関するカリキュラムを作成している。これまでに火力発電公社や鉄鋼公社など国営企業のほか、英建設機械大手JCBや米配車サービス大手のウーバー、電気機器大手の仏シュナイダーなど民間企業もCSRの一環としてNSDCに参画している。

企業向け教育サービスなどを提供する地場センタム・ラーニングは、NSDCと提携してセンタム・ワークスキルズ・インディア(CWSI)を立ち上げた。2022年までに国内11州の383地区で、1200万人の育成を目指している。

同様に、インフラ開発・金融大手インフラストラクチャー・リーシング&フィナンシャル・サービシズ(IL&FS)もNSDCと提携。◇製造業◇農業◇サービス◇エンジニアリング◇建設――の6部門で2020年までに400万人を育てる方針だ。これまでに160万人を輩出している。

訓練局(DGT)も民間企業との連携を強化している。即戦力となる人材の育成を目的とし、企業や業界団体が独自のカリキュラムを開発できる枠組みを設けている。オンライン通販サイトを運営する地場フリップカートや地場大手財閥タタ・グループのほか、スズキ自動車のインド法人マルチ・スズキやヤマハ発動機のインド法人インディア・ヤマハ・モーター(IYM)の日系2社を含め、計18の覚書がこれまでに締結された。企業は、職工訓練制度(CTS)に基づいてITIで実施されるカリキュラムを、自社の必要性に応じて構築できるほか、指導員の養成などを支援する。

他省でも官民連携の動きがある。人材開発省が進める養成訓練制度は、学生が企業で実践的な現場訓練を受けながら技術を習得できる枠組みだ。訓練期間は1年で、訓練中は給付金を得ることができる。学生の選定は企業が行なう。企業にとっては、政府の補助金を得ながら将来の技術者を育成できるメリットがある。

独自で技能開発プログラムを進める民間企業も出てきている。建設・インフラ大手GMRグループはCSRの一環として、GMRバララクシュミ基金を立ち上げた。主に貧困層向けに職能開発プログラムを展開しており、年間2000人を育成している。プログラム修了後も、2年間は支援する仕組みだ。

製薬大手ドクター・ラボラトリーズも基金を設置。主にサービス部門と農業部門で短期の育成コースを提供している。

このほか、人材育成の分野では複数の社会的企業も活躍する。レイバーネットは、零細商店など非組織化部門で働く労働者の技能を査定し、証明書を付与することで貧困層の生活向上を進めている。エンパワー・プラガティは、主に女性の育成に力を入れており、サービス産業で生かせる能力の習得を支援している。ユース4ジョブスは、体に障害を持つ若者の社会進出を後押ししている。

 

山内優(やまうち・ゆう)

ジャーナリスト。滞印歴は3年。東京都内の私立大学文学部を卒業後、ベンチャー企業などを経て、インドへ渡る。日系メディアの記者として、主にインド経済情報を毎日発信している。インドに進出している日系企業にとどまらず、インド大手企業のトップへのインタビューを実現させるなど、精力的な取材を続ける。

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