日本式ものづくりに学ぶインド(下)

日本式ものづくりに学ぶインド

日本式ものづくりで10万人育成へ

インドは、外国政府との協力も重視している。日本の経済産業省とインドの技能開発・起業促進省は2016年11月、「ものづくり技能移転推進プログラム」に署名した。インド製造業の発展に向けた人材育成で協力することを約束し、10年間で3万人の育成を目標に掲げる。同プログラムに基づき、これまでにスズキとトヨタ自動車、ヤマハ発動機、ダイキン工業、日立建機の4社を2017年6月に「日本式ものづくり学校(JIM)」に認定した。

スズキは西部グジャラート州メーサナ地区に職業訓練校を設立。2018年以降に約300人の卒業生を輩出する方針だ。7コースを用意し、1~2年間の訓練を実施する。組立工や電気工、エンジンや自動車の整備士の育成が柱だ。運営はインド子会社のマルチ・スズキが担う。

トヨタ自動車は既存の技術学校を活用する。現地法人トヨタ・キルロスカ・モーター(TKM)の本拠地、南部カルナタカ州バンガロール(ベンガルール)の敷地内にある「トヨタ鉱業技術学校」だ。経済的な理由で進学できない男子に専門技術を学ぶ機会を提供し、溶接や塗装などのほか、英語など一般科目も教える。学費は無料で、卒業後はTKMや関連会社への就職が可能だ。

ヤマハ発動機は、現地法人インディア・ヤマハ・モーター(IYM)が運営する南部タミルナド州チェンナイの工場で40人を受け入れる。二輪車の生産に関する座学や、工場内での作業を通じて技能を習得させる。

ダイキン工業は西部ラジャスタン州ニムラナで30人の育成を担当する。日立建機は、インド子会社のタタ日立コンストラクションマシナリーが運営する人材育成機関が日本式ものづくり学校として認定された。3年コースを開講し、1学年30人を受け入れる。生産現場でOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)や、教育研修期間と連携して座学や英語教育を展開する。

このほか、重電大手の明電舎も同プログラムに参画し、南部アンドラプラデシュ州の私立技術系単科大学NBKRインスティチュート・オブ・サイエンス&テクノロジーで寄付口座を開設。期間は2017年9月から1年間で、学生約100人を対象に、発電や変電、配電など計50時間の講義を担当する。インド子会社のプライム明電(PML)が運営するフォ宇州の工場では、インターンシップも受け入れる。

技能実習生の日本派遣を開始

近く、インド人技能実習生の日本への派遣も始まる見通しだ。日本の厚生労働省とインドの技能開発・起業促進省は2017年10月、派遣に向けた協力覚書に著名した。派遣期間は3~5年となると見られ、日本が技能実習に関する覚書を結んだのはベトナムとカンボジアに次ぐ3か国目だ。実習生はインドに帰国後、日系企業の工場や、インドで敷設が決定している新幹線方式の高速鉄道関連事業などで活躍が期待される。

インド側では、インド工業連盟(CII)とインド商工会議所協議会(ASSOCHAM)、全国技能開発公社(NSDC)、人材サービスのチーム・リース(TEAMLEASE)、大学1校が送り出し機関として認定されている。

日本での実習期間中は日本の法律に基づく最低賃金が保証される。インドでの月給の約4倍で、住宅も確保されるため、インド人にとっては好条件という。

技能実習生制度に関しては、悪質な送り出し機関が、派遣者に対して保証金と称して金銭を徴収するなどの事例が発生していた。覚書により、送り出し機関や受け入れに関する取り決めを定めることで、違法業者の締め出す狙いもあると見られる。

 

国際機関や外国政府と連携も

日本だけでなく、外国政府や国際機関もインド国民の職能開発の支援を進めている。

ドイツ政府は2015年にインド政府と覚書を締結。溶接、機械工学、電子工学、自動車整備の分野で、中期的な協力関係を築いている。溶接と機械工学の教員各10人が、インドで2週間、ドイツで6週間の研修を終えている。このほか、エネルギー効率の良い建設技術に関する育成施設の設置でも協力する。工場などで実践的な現場研修も実施した。

インド政府は、イギリスやフランス、スイス、カナダ、オーストラリア、中国などとも覚書を結んでいる。

世界銀行は2017年6月、人材育成に関してインド政府に2億5000万米ドルを融資すると発表した。事業期間は2023年までの6年間。880万人の若年層の育成を目指す。

3~12か月の短期の育成コースの強化に主眼を置く。失業状態にあり、学歴が小学校以下である15~59歳と、教育機関を卒業したての15~29歳の若年層を支援する。女性の育成にも力を入れる。

民間企業の同事業への参画を促すため、CSR(企業の社会的貢献)基金も設立。民間企業が人材育成に資金を投じやすくし、共同プログラムの遂行や育成センターの設置などを支援する。

世銀グループの国際復興開発銀行(IBRD)を通じて融資する。猶予期間は5年で、償還期間は19年となる。

アジア開発銀行(ADB)は国家技能資格枠組み(NSQF)に支援をしている。NSQFは、育成機関を1~10段階で評価する仕組み。公的・民間の全ての育成プログラムは、2018年12月までにNSQFに準拠することが義務付けられている。ADBは西部ラジャスタン州や東部オディシャ州、南部タミルナド州など計8州と、農業省や商工省など4省で、NSQFへの準拠を支援している。

以上のようなインド政府の取り組みが寄与しているかの因果関係は知る余地がないが、2016年に8~9%台で推移していたインドの失業率は、2018年1月は5%まで下がり、統計上の雇用状況は改善している。一方で、経済が成長するにつれて労働者に求められる能力も高度化し、スキルギャップが生まれているのも事実だ。実際、インド政府によると国内で適切な職業訓練を受けたことがあるのは労働人口のうち5%以下。韓国(96%)や日本(80%)、イギリス(68%)、アメリカ(52%)などと比べても極端に低い。

インド政府は国民の人材開発を最重要事項の一つに掲げ、国力の底固めを急ぐが、インドは「世界の人材ハブ」になれるのか。人口が世界最大に達するまで残り数年。結果が求められる時期が近づいている。

 

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山内優(やまうち・ゆう)

ジャーナリスト。滞印歴は3年。東京都内の私立大学文学部を卒業後、ベンチャー企業などを経て、インドへ渡る。日系メディアの記者として、主にインド経済情報を毎日発信している。インドに進出している日系企業にとどまらず、インド大手企業のトップへのインタビューを実現させるなど、精力的な取材を続ける。

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