日系の殻を破り、グローバルの土俵で戦える企業へ

タイにおける航空貨物のシェアがトップクラスに

海外で事業を展開する経営者に、そのビジョンと展望を語っていただく当企画。タイの物流市場においてシェア・トップクラスを誇る近鉄エクスプレス社、谷社長にお話を伺いました。

企業沿革

――まずは御社の会社の成り立ち、その後のヒストリーについてお聞かせください。

はい。我々はもともと大阪に本社を置く近畿日本鉄道株式会社からスタートしています。グループ内において、バス、タクシー、旅行会社(近畿日本ツーリスト)など事業展開をしており、近鉄エクスプレス(KWE)はそのうちの物流事業を担う1社という位置づけになります。

1970年に近鉄航空貨物株式会社として独立。本社は東京品川にあります。海外自社ネットワークは46か国、337都市、846拠点。初の海外現地法人は1969年に香港、アメリカに設立、タイ法人は1989年に設立されました。現在、東南アジアでは11か国に拠点を置いており8法人、3駐在員事務所を運営しております(シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、インド、インドネシア、ベトナム、カンボジア。以下、駐在員事務所は、ラオス、バングラデッシュ、ミャンマー)を運営しております。

海外での事業展開

――タイを含めた海外でどのような事業をされているか、お聞かせください。

我々の事業は、以下4つの柱から成り立っております。
1.航空貨物事業
2.海上貨物事業
3.ロジスティックス事業
4.その他事業(梱包、トラックでの国際配送輸送、設備機械の搬入、搬出など)
となります。

ここタイ法人では、従業員の数がトータルで1500名余り。バンコク、チェンマイ、レムチャバンの3か所に事務所を構え、各工業団地10拠点に倉庫を構えております。

特筆すべき点として、2011年に現地物流会社、TKKロジスティクスを経営統合し、倉庫・陸送事業の拡大を図りました。また同年の大洪水を転機としてエレクトロニクス関連の顧客中心から、自動車メーカーの需要も取り込み、事業を拡大したこともあり、昨年、ついにタイにおける航空貨物の取引額がナンバーワンになりました。これも日頃ご愛顧いただいているお客様のおかげです。東南アジア全8法人の中でも、ここタイが最大となっております。

周辺諸国との関係においては、アセアン経済共同体の発足に伴うFTA(関税の撤廃などを目的とした自由貿易協定)を活かし、クロスボーダーで事業を展開しています。

KWEグループとしては2015年には、APLロジスティクス(以下APLL)を買収。APLLの買収により、航空貨物中心だった売り上げ構成も変化しました。それまで弊社においては航空貨物が売り上げの54%を占める一方、ロジスティクスは11%にとどまっていましたが、APLLが加わることにより、航空貨物が36%になった一方、ロジスティクスが30%まで上昇。バランスのとれた売り上げ構成となりました。

アセアン市場におけるタイの位置づけ

――2015年に発足したアセアン経済共同体(AEC)により、ますますボーダレス化していく東南アジア市場ですが、その中において、タイはどのような役割を果たしておりますでしょうか?

CLMV諸国(※)に比べて日系企業を中心に産業集積が進んでおります。一方でCLMV諸国と比較すると賃金等のコストが高いという側面もあります。ボーダーレス化に伴い、ASEANでの競争力のあるモノづくりの中心として周辺国と協力しながら発展していくことになると思います。例えば工業製品の製造において、周辺諸国に製造工程の一部を移管し、それをタイに戻して最終工程を行なうといった手法を多くの企業が採られています。物流面でもこのタイを中心としたサプライチェーンを支える物流網・サービスを提供することが必要となります。日系の産業集積が進んでいることはもちろんですが、外資系、最近では特に中国企業を中心とした企業の参入が盛んに行なわれている印象もあります。そのため総じて、国全体に活気があり、まだまだ成長過程にある一方でまだ制度が整っていない印象です。

 

タイが抱える問題点

――そんな魅力あふれるタイ市場ではありますが、いろいろな問題もあります。

そうですね。真っ先に思い浮かぶのは社会全体の高齢化の問題ですね。労働力の確保を含めた対策が行政レベルでどうであるのか。次に人材の問題。外資誘致に成功している一方で、自国での高度人材の育成がうまくなされていくのか? ただ、これら諸問題を抱えながらも、文化、人種など多様性と柔軟性を包括した国家であり、家族や年長者をを敬う文化が残るやはり魅力的な国、として私の目には映っています。

 

危機管理について

――では、外国で事業を推進するに際し、避けて通れない不測の事態について。どのように対策をとられているのか、お聞かせください。

はい。2011年に起こった大災害以来、国内においてもBCP(事業継続計画。脚注を参照)の必要性が説かれており、ここタイにおいても、たとえば空港が使えなくなった場合、陸路・マレーシアを経由して輸送する、など万全を期しています。一昨年には国王が崩御されましたが、その際も結果的に滞ることなく、業務を遂行することができました。常にこの点については情報を集め、ナショナルスタッフとも検討を重ね、対策を取っています。

※BCP=企業が自然災害、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行なうべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと。
※CLMV諸国=ASEAN(東南アジア諸国連合)の加盟国のうち、カンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナムの4カ国のこと。

 

社員教育について

――人材の確保、育成こそが海外で事業をする際の肝とも言われています。この点について御社が取り組んでおられることはありますでしょうか?

そうですね。現地物流会社を統合後、7年経過したこともあり、人材の開発と評価制度の見直しを行なっております。具体的には昇格制度の見直しを行ない、自社ビル内にトレーニングセンターを設置、研修教育プログラムの充実に力を入れており、人材育成の強化を図るとともに将来の幹部候補を内部で育成することを基本方針としています。教育、育成システムの中で全社員がスローガンを共有し、全社員が同じ方向を向いて歩んでいくことができる環境づくり、企業文化の構築を目指しているところです。

 

新規採用の基準について

――人材の採用、確保について何か指針はありますか?

まずは時代の変化に敏感であること。そして流行をキャッチしながら、むしろ潮流を作り出すくらいの気概のある人材。なかなか難しいことかとは思いますが、やはりこの部分を重視して採用しています。仕事柄、文化、言語の多様性も必須の条項であり、現状組織内はタイ人スタッフの他、日本人22名、スコットランド人1名、フィリピン人1名、中国人1名の陣容となっています。現スタッフの給与体系については、部署ごとに査定し、ボーナスに反映しています。

――私見として、企業はすべからく営利だけを目的とせず、社会や国家へ貢献するマインドを持つべきだ、と考えますが、この点についてはどう思われますか?

同感です。我々はCSR(企業の社会的責任)活動として、大規模伐採による海岸線浸食を防止するため、マングローブを植林する活動に参加しています。教育機関への寄付金も今後の課題として検討しています。KWEインドでは、女性の社会進出を支援すべく地元NGO(非政府組織)と提携し、女子教育推進プロジェクト”Girl’s Glory project”を行なっています。

 

今後のビジョンと方向性

――では、最後になりますが、御社の今後の展開、ビジョンについてお聞かせください。

まずKWEのグローバルでの大号令として、「日系の殻を破り欧米競合他社と伍して戦える企業」。
KWEグループ全体のターゲットとして、グローバルトップ10企業を目指しています。具体的には、物量70万トン(航空貨物)、70万TEU(海上貨物。コンテナ数を指す)を目標値にしています。

M&Aが盛んに行なわれる業界の中、独自性を保つことも大きな目標です。

タイ法人としては、イントラアジアでの優位を保ちつつ、北米・欧州でのビジネスを強化し、プレゼンスの向上をめざしています。具体案として、東南アジア各国の貨物をタイに一度集約し、大量一括で北米に輸送する「バンコクゲートウェイサービス」を2015年より展開しています。今年より欧州向けゲートウェイサービスも開始いたします。

さらには、東西経済回廊、南北経済回廊を有効に活用したクロスボーダービジネス。ここでは、アセアン8か国に事業所がある強みを活かせると思っています。

課題は山積みですが、顧客満足度ナンバーワンを常に念頭に入れ、日々邁進したいと考えております。
――ありがとうございました。御社のますますの発展を期待しております。

 

 


川越渉(かわごえ・わたる)
Kamin BCNT代表

日本で雑誌編集者として業務後、39歳のときに一念発起し、タイへ移住。1年間大学にてタイ語を勉強した後、通訳兼コーディネーターとして大手電機メーカーに勤務。日系新聞社での勤務を経て、4年前より起業し、ゲストハウス経営、展示会オーガナイザー、通訳などの人材派遣業を手掛ける。在タイ10年目。

 

 

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