日系企業で働くタイ人の本音座談会

日々奮闘する彼らが提起する日本式の問題点とは?

 

ヨーロッパやアメリカなど様々な地域で地殻変動が進む世界において、ますます、政治・経済・観光・文化など交流を深める日本とタイ──。多くの企業がタイへ進出し、事業展開を図る中、欠かせない役割を担うのが、通訳やコーディネーターの存在。外国語を極め、それを活かし活躍する彼らは間違いなくエリートと呼ばれて相応しい人材であるが、その分ニッポンという外国との軋轢に悩み、苦労を重ねながら日々成長を続けている。日本を愛し、日本語を学び、言語という障壁が取り払われている彼らを知ることは、すなわち、タイを知る羅針盤そのものであり、今回の企画がそんな彼らへの造詣を深める契機となれば幸いである。

 

【参加者プロフィール】

Aさん: 25歳、女性。鉄筋製造関係の日系会社にて、通訳兼営業として1年半勤務。日本で1年半の留学経験あり。

Bさん: 31歳、女性。日系企業に通訳として4年の勤務経験あり。現在は日系の電機メーカーにて営業兼通訳として勤務。

Cくん: 22歳、男性。大学卒業後、フリーランスの家庭教師、企業研修の通訳アシスタントとして業務。今年の9月より、日本の大手流通会社に社員として登用が決定。

Dさん: 25歳、女性。タイの航空会社にて地上職として勤務した後、1か月前より日系自動車メーカーのディーラーとして勤務。

 

オトコは優しく、オンナは怖い

司会:皆さん、こんにちは。本日は、日本語を学習し、それを活かし、ビジネスの場で活躍されている方に集まっていただき、外資系企業で働く難しさ、仕事の中で学んだこと、日本人ビジネスマンの作法などについて思う存分語っていただきたい、と思います。皆さんの名誉を守るため、社名、個人名はすべて匿名としてありますので、思う存分ぶちまけてください(笑)

 

一同:笑

 

司会:では、Aさんから簡単に自己紹介をお願いします。

 

A:はい。私は泰日工業大学で4年間、日本語を勉強しました。その間、山口県にある大学で交換留学生として1年半留学も経験しました。卒業後は日系企業に1年間勤務し、現在はサムットプラカーン(バンコク東部の県)の工業団地にある製造業の会社に勤務しています。職種は、通訳兼営業です。日本語検定はN2を取得しています。

 

B:私も同じく泰日工業大学出身です。日本語は高校から学んでいます。日本語検定は同じくN2です。アマタナコンの工場にて7年ほど勤務した後、アソークにある現在の会社で通訳兼営業として働いています。おかげさまで都心に戻って来れました(笑)

 

司会:では、唯一の男性Cさん、お願いします。タイでは日本語など外国語の学習者は女性が多く、よって通訳者も女性が多いと認識しておりますが、日本語はいつから勉強されておりますか?

 

C:初めまして。Cと申します。この度はこのような座談会に呼んでいただき、ありがとうございます。

 

司会:おっと、とても礼儀正しいですね(笑)。日本の新卒でもこれだけ丁寧な日本語を使える人はそう多くはいませんよ(笑)

 

C:ありがとうございます。私は、高校生のときから日本語を勉強し、泰日工業大学でさらに4年間勉強し、N2を取得しました。私は会社で働いたことがなく、フリーランスとして日本人の方に日本語を教えています。生徒さんは、10歳のお子さんから60歳の年配者まで老若男女、幅広くいらっしゃいます。また、不定期ではありますが、企業の研修に通訳として呼ばれ、時に講師としてタイ人の社員の人たちにビジネスマナーについて講義しています。今年の9月から日本の大手流通・小売会社に就職が決定し、4年間、日本で勤務した後、タイに戻ってくる予定です。

 

司会:おー。いわゆる幹部候補生ですね。それは将来有望だ。では、最後にDさんお願いします。

 

D:はい。私はみんなと同じく泰日工業大学で日本語を勉強しました。高校では学んでなく、大学での4年間が学習期間です。幼少期より英語を勉強していたので、どちらかと言うと英語の方が得意で、卒業後はフランス・レストランで働いた後、タイの航空会社で地上勤務として働きました。顔が綺麗じゃないので残念ながらエアーホステス(※タイではスチュワーデスのことをこう呼ぶ)ではないんですが(笑)。その後、縁あって、日本の自動車メーカーにディーラーとして採用され、法人営業担当として働いています。日本語検定はN3です。

 

司会:いえいえ、十分お美しいですよ(笑)。皆さん、同じ大学で勉強された先輩、後輩、ということなんですね。なるほど。皆さん、立派な経歴と日本語スキルをお持ちですが、仕事で使う日本語、というのは一言で言ってどうですか?

 

A:とっても大変です! 日本語検定(年に2回開催される日本語能力試験)の2級に合格し、漢字の文化圏でないタイ人としては優秀とされていますが、実はぜんぜん能力は足りないと思います。会社の皆さんにはご迷惑をお掛けしてばかりで……。

 

一同:ほんとにそうですね。苦労ばかりです……。

 

B:特に会議などで同時通訳をするのは本当に大変です。社内全体会議など、1500人を前に通訳をした経験がありますが、前日から緊張で眠れません。最初の頃はよく頭の中が真っ白になっていました……。

 

A:でも、日本人の社員の方たちは皆さん、とても優しいですよね。うまく通訳できなかったときでも、「ゆっくり訳してくれたらいいからね」といつも励ましてくれます。それと比べて先輩通訳の方がとっても厳しい! 「今回の失敗は査定に反映するからね」といつも脅されています。冗談だとは思いますが、笑えません……。

 

司会:それは大変だ……。私も日系企業でコーディネーターとして働いたことがありますが、管理職であるマネージャー以上はだいたい女性が占めていて、皆さん、とても優秀ですよね。業務にも熱心に取り組むし。その分、確かに融通が利きづらく性格がきつかったのが印象に残ってるなぁ(笑)

 

B:そうそう! 女性の上司がほんとうに厳しい!!男性の先輩は「いいよいいよ、マイペンライ(問題ない。大丈夫)」なんですけどね(笑)

 

一同:笑

日本とタイの大きな違いとは?

C:私はほぼ週に1回のペースで、日系部品メーカーさんの社員研修会での通訳を行なっているのですが、「カイゼン」など日本の企業のシステム、オーガナイゼーションの素晴らしさにいつも感動しています。タイの企業とはまったく異なると思います。

 

A:私も同感です。日本人の社員の人たちは自分が関わる産業や製品の専門知識が非常に深く、ひとりひとりがプロフェッショナル、職人のような印象です。

 

D:私が印象に残っているのは、取引先やサプライヤーへのケアーの部分ですね。いわゆる「接待」と呼ばれるものも含まれますが、この部分がタイ人との一番の違いだと思います。タイ人は勤務時間外に顧客や取引先のことを考える、という習慣はまずありませんから(笑)。会社の同僚と食事やお酒を飲みに出かける、ということもまずありません。

 

B:その通りですね。私も最初は、取引先と食事をしたり毎週末ゴルフに出掛けたりするのがとても不思議でしたが、今ではそれも大切な仕事のうち、というのはよく理解しています。

 

セクハラは止めてほしい!

司会:皆さん、日系企業、日本人ビジネスマンに対して一様に敬意を持ってくださっているようですね。同じ日本人として嬉しい限りですが、そろそろ「ネガティブ」な内容を伺ってもよろしいでしょうか?

 

一同:たくさんありますけど、よろしいですか(笑)

 

司会:おーっと。やっぱりそうですか。では、お手柔らかにお願いします(笑)

 

D:先ほどの取引先ケアーの話で出てきた「接待」ですが、ときにやり過ぎているように感じることがあります。初めて上司と一緒に接待の場に参加した際、言葉遣いの注意や座る席の指定など注意点がいくつもあって本当に戸惑いました。せっかく高価なお寿司をいただいたのですが、味をまったく覚えていません(笑)

 

C:私たちの大学(※)では、語学だけでなく、ビジネスマナー、生産管理技術なども学生に教えているので、事前に理解していることではありますが、やはり、実践の場はまったく違いますよね。何よりまず、「接待」が予定に入った場合すべての用事をさておき、こちらを優先させなくてはなりません。接待や上司のお誘いをお断りしたら出世や昇給に影響する、といのは我々の間でも常識です。

 

司会:え!?そんなことが常識としてまかり通っているんですか……。むしろ最近の日本では部下を誘ってもつれなくお断りされ、上司が寂しい思いをしている、と聞いておりますが(笑)

 

A:あと、けっこうな割合であるのが「セクハラ」。

 

女性陣:そうそう!

 

司会:え!?それは意外ですね。日本人にはあまりそういうイメージはないと思いますが……。

 

A:私の会社では、上司がよくボディー・タッチをしてきたり、セクシャルな内容の質問をしてきます。冗談だとは分かってはいますが、気持ちがいいものではありません。

 

D:私は接待の席で、カップ当てゲームをやられました(笑)

 

司会:なに、それ!?

 

D:ブラジャーのサイズが何カップか、当たるまで順番に言っていく、というものです。最終的に正解したら、「じゃ、確認させて」と言われましたが、それはさすがにお断りしました(笑)

 

司会:酒の場でのおふざけとはいえ、それは酷いですね……。

 

B:私の後輩は、上司に「今日、僕の誕生日会があるから参加しない?」と誘われ、行ってみた自分ひとりだったことがあるんだそうです。まだ新人だったんで断ることもできないし、とても怖い思いをした、と言っていました。

 

司会:それは悪質ですね。ガチのやつじゃないですか……。

 

A:そうは思いたくないのですが、夜の世界の女性と同じように見られているのではないのかな、と思うときがあります。私たち企業で働く女性は夜の女性とはまったく違います、というのは分かって欲しいです。

 

司会:確かに、タイでは夜の産業が盛んであり、その感覚が普通だと思っている人がいるのかもしれませんね。でも、それは明らかに違う、というのは、私個人もよく理解しているところです。同じ日本人があなたたちのようなまじめに仕事に取り組む人たちの気分を害してしまう行ないをしていることに深くお詫びしたいです。その他、戸惑うことは?

 

B:日本人はルールに細かすぎると思います。私が勤めていた会社では、机の中に入れていいものが制限されていて、ペンや消しゴムなど置く位置までマーキングされて決められていました。そこから少しでもずれていたらオーディット(検査)のさい点数が引かれ、ボーナスに反映される、という。ちょっとやり過ぎだと思いましたし、個が尊重されていないように感じました。

 

ローカルに権限委譲ができない日本企業

D:英語の能力も合格とは言えませんね。もちろん私たちタイ人も「タイングリッシュ」と言われ、発音が上手ではないかもしれませんが、日本人の中で英語がまったくダメ、という方がビジネスマンの中にも結構います。取引先にはシンガポールや香港など、他のアジア諸国の人も多くいますが、特にビジネスでこちらに来ている人はきちんとした英語を話します。我々の仲間うちでも、英語と北京語と広東語が話せるというスーパー通訳もそれほど珍しくはありません。英語と中国語ができたら世界中ほぼどこでも仕事ができますもんね。

 

B:日本人の友人から聞いたことがありますが、教育システムに問題があるのかもしれません。タイでは小学校から英語を選択することができ、外国人の先生から英語を学べる機会も少なくありません。もちろん、タイ人はみな英語が堪能ということではなく、日本と比べてまだまだ発展途上国でもありますので、一定以上の水準の人たちに限られますが。

 

A:私が感じるのは、「組織の硬直化」です。日本人スタッフとタイ人スタッフの間に明確な壁があり、タイ人はどんなに知識があり、英語がペラペラなど日本人スタッフ以上の能力があっても、出世できる役職に限界があります。これは会社の発展の妨げとなる残念なことだと思います。

 

司会:それは私も同感です。欧米の企業などは、MDや役員にローカルであるタイ人を据えている、というケースも決して珍しくありません。郷に入れば郷に従え、で、タイの市場やタイのサプライヤーに対する知識はタイ人スタッフの方が絶対的に詳しく、例えば同会社に10年や20年も勤務すれば「日本的ビジネス慣行」も完璧に理解しているだろうし、そういった能力もあり会社に対する忠誠心もある人が組織の運営をするべきだ、と思いますね。国籍に関係なく。

日本人の本音が分からない

C:私が一番気になっているのは、「日本人の本当のところが分からない」ということです。もちろん、タイ人と日本人ですから、100%分かり合うのは無理だと分かっておりますが、それにしても「本音」の部分が見えません。日本人が「建前」を大事にする、というのは有名ですが、日本の人たちは表面的にはいつも寛容で優しく、でも本当にそう思っているのか不安になるときがあります。それは私個人に対してだけでなく、タイという社会全体に対してです。

 

D:私たちタイ人同士は、たとえ上司と部下の関係であっても、親しくなったら友達のような関係になります。敬語なども使わなくなりますし、言いにくいことでも何でも話して、間違ったことをしたときはちゃんと叱られて。もちろん叱られたら気分は悪いですが、何事もストレートなので、それに対して、後で恨みに思ったりすることはありません。それと比べて、日本人の上司の人は、マナーやルールが先に立って、本当の気持ちがどこにあるのか分かりづらいと思いますね。

 

司会:なるほど。確かにタイの人たちは表現がストレートであり、ときにビジネスの場ではぶしつけな印象になることもあるとは思いますが、その分本当の意味での信頼関係が生まれる、という要素があるのかもしれませんね。私の意見としては、日本人同士、タイ人同士でのコミュニケーションはお互いのやり方でやれば良いと思いますが、外国人が相手の場合、お互いの良い部分を引き出し合いながら、それでいて遠慮や配慮も持ちながC:でも、フォローするわけではありませんが、駐在で来られている方の多くはタイという国に良い印象を持ってくださっている、と感じており、特に20代から30代の若い人たちはタイの様々なことに関心と興味をお持ちで、いろいろなことを知りたいという好奇心に溢れているという印象です。

 

A:私も同じ印象を持っています。若い人からはセクハラを受けたことがありませんし(笑)、仕事にもまじめに取り組んでいてジェントルマンですよね。

 

B:人による、と言ってしまってはそれまでなんですが、長くいればいるほどタイの魅力に気づいて、ますます好きになっていく人が多いのかな、と思います。短期での出張者の中には、「タイはいつも暑いし、食べ物も辛くておいしくない」と愚痴をこぼす人もそれなりにいますけど、それは仕方のないことですよね。でも、全体として今でもタイを東南アジアの拠点として考えてくださる企業が多く、とても感謝しています。最近ではベら行なう、というのが良いと思います。一同:なるほどー。勉強になります。トナムやミャンマーなど、工場の立地やマンパワー供給の側面などで注目されている周辺諸国が多くありますが、タイ人も負けないように頑張らないといけないと思います。

 

タイ人が働きたい企業の条件

司会:いろいろなご意見、耳の痛い部分もありましたがありがとうございました。最後に後学のために、企業に求めること、企業選びの条件について聞かせてください。

 

A:私にとっての第一条件は、とにかく家から近いこと! 私は実家が郊外にあるので、マイカーでの通勤となりますが、バンコクの都心部は渋滞が酷く、とてもじゃないですが毎日通いたいとは思いませんですので、自宅から近いところにある工業団地での勤務を第一優先で考えました。

 

B:私も会社の立地は重要な要素ですが、それと同じく「会社の規模」が重要です。日本の本社の業績や海外にいくつ拠点があるか、など。タイは農産物の輸出国であることは紛れもない事実ですが、そのぶん目は常に海外に向いており外国からの資本も多く入ってきている競争社会です。なので、会社の将来性は気になるところです。

 

D:あとは、どれだけ社員の育成に気を配ってくれているか、というのも大事だと思います。私の知人が勤める会社では、部署ごとに予算を枠があり、例えば語学学校やPCの学校など、やる気のある社員に対する奨学金制度のようなものがあります。よく「タイ人はせっかく育ててもすぐに他の会社に移ってしまう」と言う人がいますが、大事にされ居心地も良い会社を簡単に手放すような馬鹿なタイ人はいないと思いますよ。

 

C:当然、サラリーも会社を選択する際の要素であることに違いはありませんが、私の周りでもこれだけで会社を選択する人はいませんね。タイ社会では「サービス残業」という概念はありませんので、OT(残業代)をきちんと支払ってくれる会社、その他諸々の福利厚生も大事な要素です。ちなみに私の知人で、頭がとても良く見た目もとても美しい女性がいて、彼女は中東のある航空会社に就職が決まったのですが、理由はただひとつ「世界一福利厚生が充実している会社だから」と話していました(笑)

 

司会:それでは、皆さん、本日はお忙しい中お時間いただきありがとうございました。苦労と経験を重ねながら日々精進している皆さんが、将来会社の中枢を担い日系企業とタイ国の発展に寄与することを期待しています。

 

 

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川越渉(かわごえ・わたる)

日本で雑誌編集者として勤務後、39歳のときに一念発起しタイへ移住。1年間、大学にてタイ語を勉強した後、通訳兼コーディネーターとして電機メーカーに勤務。日系新聞社での勤務を経て、現在は、自営業としてゲストハウス経営、展示会オーガナイザー、通訳などの人材派遣業を手がける。

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