流行は元気なシニアがつくる

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世代で違う中国人の消費スタイル

流行は元気なシニアがつくる

1人で旅行し、1人で出前、1人でカラオケ──そんな、これまでには見られなかった消費スタイルを楽しむ「95後」(※)。一方、潤沢な懐事情を背景に退職予備軍となる「50後」(1950年代生まれ)「60後」(1960年代生まれ)のアクティブシニア層がいま中国の消費市場で重要なプレゼンスを示しはじめている。彼らの消費傾向や特徴を見ていこう。
※1995年以降生まれ。米国では「Z世代」と称される。

 

中国人を「類型」化する試み

私たちには対人関係において相手を「類型」(パターン)化して考えようとする傾向がある。それは心に押し寄せる不安を束の間ながら解消する処方箋でもある。

「パーソナリティーの類型」にまつわる学説としては、クレッチマーが体格と気質の相関関係について説いたものが草分け的なものとして有名だが、科学的な裏付けがあるかどうかは別として、占星術や四柱推命、血液型等といった占いによる性格診断も「類型化」の常套手段と見て良いだろう。

四半世紀前に出版された『中国人と中国系人』(孔健著/河出書房新社/19 93年12月)という本があるが、日本人に「県民性」があるならば、中国人にも「省民性」によって分類が可能だという視点も面白い。地域ごとに中国人の性格傾向を分類した内容はユニークだった。

そもそも面積にして、日本の26倍、人口は11倍、56もの民族を抱えるのが中国だ。中国人を十把一絡げに論じるのは無謀な難題への挑戦であり、せめて北方と南方、沿岸部と内陸部、あるいは各経済圏といった括りで「類型化」を試みる作業がビジネスのうえでも必要ではないだろうか。人口の集積度や年齢層の分布、あるいは富の蓄積レベルの違いを見極め、その特徴に沿った市場へのアプローチが求められてこよう。

一方、「空間軸」とは別に「時間軸」で中国人を「類型化」する試みも知られるようになってきた。年齢層、すなわち世代によってどのように価値観が異なり、消費傾向にいかなる特徴があるかを考察することは、いまや「エリアマーケティング」とともに重要な作業として位置づけられている。

「80後」から始まった中国の世代分類

中国における世代分類の方法は、日本のそれと比べると実にシンプルだ。日本の場合は「アプレゲール」「団塊の世代」「シラケ世代」「新人類世代」「バブル世代」……というように、その時々の社会や政治、経済的な環境によってきめ細かく区分がされてきた印象がある。あるいは「平成」時代が間もなく幕を閉じようとするが、元号ごとに大きな括りで「世代」を表す手法が日本では可能だ。

一方、中国の場合は、出生の時期によって10年ごとに分類し、「80後」(1980年代生まれ)という呼称を筆頭に、その後、前後の世代を示す「90後」「70後」の呼称が生まれ、さらには「80後」と「90後」を一括りにした「ミレニアル世代」(2000年代に成人あるいは社会人になる世代)という言葉もよく聞かれる。

ちなみに「80後」は改革開放と計画生育政策後に生まれた一人人っ子世代の最初のグループだ。幼い頃から「6つのポケット」(両親とそれぞれの父母)を味方にすくすく育ち、わがままな行動様式と旺盛な消費力を備える「小さな皇帝(小皇帝・小皇后)」として注目された世代だ。

では、「95後」(1995年以降生まれ)についてはどうだろうか。彼らは経済・産業環境が劇的な変化を遂げ、中国が国際プレゼンスを高めていくプロセスの真っ只中で育った。そのなかで最も重要なのは物心がついた頃からネット社会が到来していたことだといえよう。

「上網」(インターネット接続)という言葉が流行語になり、ITという用語が定着したのは1990年代後半のことだ。おそらく「95後」の若者にとっては、モデム回線のネット接続さえままならず、オフィスにポツンと置かれたスタンドアローンのWindows3.1マシン(Windows95ではない)で仕事をしていた時代があったとは、とうてい想像に及ばないのではないだろうか。

シェアリング経済、越境EC、EVなどは比較的新しいトレンドだとしても、摩天楼、高速鉄道、軌道交通、モータリゼーションといった、いまでは当たり前となった「風景」さえまだなじみがなかった。筆者の記憶をたどると、それまで大都市の上海でもなかなかありつくことができなかった生クリームのスイーツが、1995年くらいを機に急速に普及していったのが印象深い。コーヒーカルチャーの勃興はまだその先の話であり、タクシーの運転手が中国の緑茶を飲むためにインスタントコーヒーのビン容器を水筒替わりにしていたのを奇妙に思ったものだ。

「90後」と「95後」の微妙な違い

数か月ほど前、「95後」に相当する大連の大学院生数人と交流する機会があり、彼らのライフスタイルについていくつか質問をぶつけたことがある。彼らの受け答えを聞きながら面白いと思ったのは、一人旅行の経験があると語った人が何人もいたことだ。かつて「70後」「80後」の女性が学生時代だった頃、一人旅行をするケースはごく稀だったのではないだろうか。

京都に一人で観光をしてきたという「95後」の女性が傾倒するのはアニメ作品なら『千と千尋の神隠し』や『君の名は。』、好きな芸能人は石原さとみ、お酒は飲むものの中国の白酒はダメ──そんな回答だった。男女に関わらず、果実酒やカクテルを好み、ビールならコロナぐらいという答えが印象的で、筆者が知る「中華料理」を絶対視する上の世代とは明らかに食の嗜好が異なることを思い知らされた。

中央テレビ(CCTV)の「財経」チャンネルが18歳から25歳の学生を対象に実施した「中国経済生活大調査(2017―2018)」によると、幸福感が高い人の割合が最も多くを占めた世代は、大学生および社会人になったばかりの「95後」だったという。伝統的な価値観にとらわれず、「懐」には自信があり、されどフリマアプリの「転転」や「閑魚」を通して中古品でまかなうことも良しとする、そんな合理的な消費観念も伺える。

なお、アニメやコスプレを楽しみ、二次元の世界に傾倒しがちという点では「90後」も「95後」も大きな違いはないはずだが、一人旅行を楽しみ、一人で映画を見たりカラオケをしたり、一人で食事をすることに違和感を持たない比率はおそらく「95後」のほうが断然高いのではないだろうか。

 

一人暮らしのインスタント麺離れ

自炊や外食よりも出前アプリの「餓了麼(Elema)」「美団外売」でデリバリーを頼む「一人消費」が「95後」世代のライフスタイルとして浸透しているが、一方で彼らにはより健康にこだわりを持つ傾向がある。菜食を好むロハス志向の人がいる一方、ビールや即席麺を食生活から遠ざける若者も目立つ。

中国は世界最大のビール市場だが、2 013年をピークに縮小に転じ、クラフトビールの市場は有望視されているものの、全体で見ると2017年まで4年連続で前年割れが続いたことが報じられている。さすがに、今年の夏はサッカーのワールドカップ(W杯)の追い風を受けて「夜間消費」に弾みがつき、中国人が好むバーベキューやザリガニと相性が良いビールの出荷量が上昇を見たと言われており、中国国家統計局によれば、今年1~6月の国内生産量は前年同期比で1・2%増だったという。ただし、年ベースでの結果がどう出るかはまだ予断が許されない。昨年は一定規模を有する447社のビール企業のうち132社が赤字だったという報道もある。

一方、即席麺については、2013年に中国(中国香港を含む)市場で450億袋以上が販売されていたのが、これをピークに2016年には385億袋に販売量が減少、その下げ幅は約17ポイントに達したことが話題になった。寝台車で長距離移動していた時代に旅の伴として歓迎された即席麺も、高速鉄道や飛行機で移動する今の時代にはミスマッチな食品となっているという見方がある。ただ、それよりも大きな理由は、出前サービスが隆盛し、健康的なイメージを伴わない即席麺に若者がわざわざ頼らなくて済んでいることではないだろうか。

とはいえ、即席麺市場の不振を尻目にヒット商品となった即席食品がある。「海底」等のブランドが売り出す「即席火鍋」だ。容器が二重構造になっており、下の器に発熱剤を置き、水をかけると瞬時に熱湯になるという仕組みになっている。

さらには今年の夏、日本が誇る即席麺文化のお株を奪う報道が目を引いた。中国ブランドの即席麺「今麦朗」の日本進出である。麺を蒸した後で煮て乾燥させる「スチームボイル製法」と呼ばれる製法を使った「今麦郎 老范家速食面館面(めんかんめん)」が年末をめどに日本で販売を開始するという。中国飲食企業の「走出去」(海外進出)とイノベーションの事例として注目に値するのではないだろうか。

名門店が出前サービスで明暗

前述の即席火鍋を製造販売する「海底」は、リアル店舗を全国にチェーン展開し、順番待ちの顧客にマッサージやネイルサービスを提供したり、店内に児童用のルームを設置したりという「日本のおもてなし」に遜色のないサービスで人気を博している。

そしてSNSでの口コミや「抖音」での動画投稿などで消費が喚起され、出前サービスも好評のようだ。前菜やフルーツ等はもとより、食後のガムやテイッシュ、女性用のアメニティグッズが付録につくというサービスの徹底ぶりで、飲食業界に新風を吹き込んでいる。

なお、出前サービスの隆盛については弊誌の第9号でも触れさせていただいたが、すべての業者が恩恵を得ているわけではない。業績が振るわず、サービスを取りやめる飲食店もある。たとえば、「舌の上の中国」(CCTVによる中華料理をテーマとしたドキュメンタリー番組)でも代表的なグルメスポットとして取り上げられた北京の「全聚徳」がそうだ。創業が1864年(同治三年)という押しも押されもせぬ北京ダックの老舗店だが、同店の出前サービスでの実績はからっきしで、早々と市場から撤退をしたことがニュースになった。

そもそも全聚徳がメーンの顧客ターゲットとしてきたのは外国人観光客だ。地元客の眼には座席の予約を取るのも困難な「お高い」存在に映っていたようだ。出前の選択肢には到底ならない運命だったのかも知れない。

もうひとつ「負け組」に分類されかねないのが「很高興遇見你(あなたに会えて嬉しい)」だ。中国の若者の間で絶大な人気を誇る「80後」作家で、レーサーとしても名が知られる韓寒が展開する飲食チェーンとして話題になり、最盛期の店舗数は60に及んだとされる。

そんな有名チェーンがこのところ逆風に見舞われている。無許可経営(寧波、武漢)や従業員報酬の支払い遅延(蘇州、天津等)、品質をめぐるトラブル(武漢)等、リアル店舗の営業はもとより出前サービスでの評判も冴えない。結局、有名人効果で急激な事業拡大を成し遂げても、管理や人材トレーニング、品質向上などが追いつかなければ消費者からすぐにそっぽを向けられる事例の一つといえそうだ。若い世代は有名人に熱烈な想いを寄せるのが常だが、意外とドライで切り替えが早い。そして本物を見抜く眼力を備えているのが「95後」の消費者といえるのかも知れない。

 

「95後」の姿は日本人がたどった道?

ここ1年ほど、「佛系」という言葉がよく話題になった。出前サービスに頼りがちな消費行動は、むしろ「怠け者(懶系)」という呼称が適当だが、こだわりもなく、ギラギラした欲望が目立たない「類型」は新たな消費者像といえそうだ。

「佛系青年」のもともとの由来は日本で2014年に登場して話題になった新語「仏男子」だといわれる。ただし、バブル経済が崩壊し停滞を続ける日本の姿しか知らない「さとり世代」や「草食系」と比べると、中国の「佛系青年」はまだ生活と仕事のバランスがとれているという指摘もある。

「佛系」の若者のニーズにマッチした「放置系」ゲームの代表格として、今年上半期に話題になったのが「旅かえる」である。日本企業が開発したスマートフォン向けゲームアプリとしては空前のヒットとなった。中国版の運営ライセンスをアリババグループが買い取り、中国語版もリリース。どこかバブル経済崩壊後に日本で流行った「たまごっち」に似た雰囲気を感じさせられる。「ほのぼの」したゲームの性格は「癒し系」といった言葉で形容してもよいかも知れない。

ただ、ユートピアの世界に感情的な支えや癒やしを得たいという願望は世代にかかわらず誰もが持つものだとしても、過度に二次元の世界に依存するのは現実逃避を意味しかねない。若い世代を上の世代が批判するのは世の常だが、迫力に欠ける「95後」をなじる意見の本質はこんなところにあるのではないか。

神戸学院大学心理学部心理学科講師・博士で、異文化適応の促進における文化的社会的スキル・トレーニングを研究対象とする毛新華(Mao XinHua)博士は次のように指摘する。

「『70後』(1970年代生まれ)には、一生懸命に勉強して出世しようというギラギラとしたハングリー精神があった。(中略)それが、煩わしい人間関係に頼らなくてもお金さえあれば何でも解決できるという価値観が若い世代に浸透しはじめたところに、『佛系』や『ナマケモノ』消費の本質があるのではないだろうか」(毛博士)。

なお、こうした中国人の「心理傾向」が大都市以外でも一般的だと考えるのは早計で、「(「佛系」のライフスタイルは)経済的に恵まれていなければ、望もうにも手に入れられない代物」とする一方、「日本人がいつかたどってきた道」(毛博士)ではないかとの見解も示している。

 

 

ハングリー精神旺盛なシニア層

以上、「95後」のパーソナリティーに関する考察を飲食習慣などを切り口に試みたが、彼らの両親(または伯父・伯母)の世代となる「50後」(1950年代生まれ)と「60後」(1960年代生まれ)についても触れてみることにしよう。

俗に「人間は環境の子である」(イギリスの実業家ロバート・オーウェン)と言われる。あるいは「三つ子の魂百までも」という言葉があるように、幼少期に社会環境から受けた影響、中でも経済的な条件が人の心理に与える影響はとりわけ大きい。

「50後」は新中国の成立(1949年)直後に生まれ、多くが兄弟姉妹に囲まれて育った世代だ。幼少期に大躍進や人民公社運動、そして「三年大飢饉」を経験するなど貧困のなかで過ごした。消費マインドが総じて低く、価格こそが第一の購買行動の決定基準とされているのも、そんな幼少期の経済的状況が反映しているからだろう。ちなみに、食べることに最大の喜びを求めるのが「50後」の一般的な傾向とされるが、日本でいえば戦後直後に出生した団塊の世代とも共通項があるのかも知れない。

ただ、節約家で実質主義と言われながら、「50後」の多くがすでに退職し、子どもも独立し、経済的かつ時間的自由度が高くなってくると、自ずとレジャーや趣味に興じる機会も増えてくる。「広場ダンス(広場跳舞)」はその典型的なものだろ(1964年生まれ)や百度(バイドウ)創業者の李彦宏(1968年生まれ)に代表されるように、経済的に大きな成功を収めた世代として語られる。改革開放期以降のチャンスを逃さず事業で成功を収めたり、複数の不動産を所有していたりする。あるいは「海亀派」と言われる海外留学からの帰国組が大きなプレゼンスを実業界で示しているケースも珍しくない。

文化大革命で途絶えていた大学入学試験の「高考(全国普通高等学校招生入学考試、2008年から「全国大学統一入試」と改称)」が再開したのは1977年のことだ。したがって、「60後」は「50後」と比べて高い教育を受けていることが多く、その反面、物不足の時代を生きた経験もあることからハングリー精神に富むという特徴がある。消費のアップグレードが叫ばれるなか、優雅にクルーズや海外旅行を楽しんだり、趣味の世界に浸ったりと、時間とお金を備え、そして体力もまだ充実しているため消費に対するマインドが旺盛だ。

成長が大きく期待されるシニア市場

高齢化社会に突入した1999年から2017年までの18年間に、高齢者人口は1億1000万人増加したといわれる。そして2050年ごろまでに史上最多の4億8700万人に達し、総人口の34・9%を高齢者で占めるという予測がある。

こうしたなかで、現在、成長が見込まれているのは、養老不動産、養老金融、養老サービス、高齢者用品といった4つのセグメントに大別されるが、電子製品やリハビリ、介護、葬儀サービス等はもとより、日用品、医療機器等の市場も注目されている。

「シニア市場におけるニーズの実状のギャップがどこにあり、そのギャップをどう発展的なビジネスに変えていくかが課題」と語るのは、中国の小売グループ大手・大商集団の傘下にある百貨店、大連マイカルで経営の陣頭指揮をとる折口史明総経理だ。折口氏は、たとえば介護ビジネスなら施設の不足やサービス従事者のレベルアップ、待遇改善等のハードルをクリアしていくことが肝要だとしている。

ちなみに、折口氏は2012年の反日暴動の際はイオングループに在籍し、青島イオンの董事総経理だった。暴動によって破壊された店舗の復興には数年がかかると言われたが、現地政府の協力のもとで数か月後には再オープンにこぎつけた(ただ、このことを好意的に取り上げて伝えた日本のメディアはほぼ皆無だったようだ)。

その後はイオンを離職、山梨県南アルプス市でペンション運営に携わるなど異彩を放つ折口氏がいま取り組むのは、豊富なキャリアを礎に「シニア」(先輩)の視点から中国の小売業界に新風を吹き込んでいくことだ。

「世界で最も早く超高齢化社会に突入する日本の高齢者ビジネスモデルは世界から注目」(折口氏)されており、そんな「日本ならではの強みを活かし、中国の高齢者の人生の豊かさを実現する日もそう遠くない未来のこと」と折口氏は語る。

「急速に高齢化が進行していくなかで、中国政府が進める高齢化対策をより具体的な実行施策として、さまざまなアイデアを織り込みながら実践していくことが集団としても求められてくる」(折口氏)──。

 

 


近藤修一(こんどう・しゅういち)
KumeTech大連(BizAiA!グループ)副総経理
「HeyNanaco」総経理

中国・大連市在住。静岡県出身。信州大学卒。1994年、上海に語学留学。98年に現地パートナーらとともに日本人向けパソコン事業に携わる。2002年10月に中国全土でフリーペーパー事業を展開するメディア漫歩グループに入社、その後、「Whenever BizCHINA」(現名称)、「インサイトチャイナ」編集長、「ミャンマー・ジャポン」編集長、「Whenever大連」編集長などを経て、2018年11月より現職。