経済統合が進むインド(上)

独立後最大の税制改革、物品・サービス税が導入

インドで2017年7月1日、物品・サービス税(GST)が導入された。前政権が立案して以来、10年越しの実現だ。これまで州ごとに異なり煩雑だった間接税制が一本化されたことで経済統合が進み、事業環境の大幅な改善が期待されている。一方で、2017〜2018年度第1四半期の経済成長率は3年半ぶりの低水準に鈍化し、第2四半期も回復基調には入ったものの、個人消費は伸び悩んだ。独立以降最大と称された税制改革は、2017年にイギリスから独立70年を迎えたインドをどこへ導くのか。長期的には恩恵が大きいとの見方が優勢だが、いまだ効果は未知数だ。

 

政権間の対立を乗り越えた歴史的改革

 

インド政府はこれまでバラバラで煩雑だった税制度を統一し、各州の足並みをそろえることで経済統合された「1つの国家」を樹立するのが狙いだ。モディ首相は2017年7月1日の導入にあたり、「グッド・アンド・シンプル・タックス(Good and Simple Tax)」と自画自賛した。

インドは29州6連邦直轄地とデリー首都圏で構成されるが、間接税率や徴税の仕組みの決定は州政府の権限が大きかった。そのため、これまでは州ごとに市場が細分化されてお-り、物品の価格が土地ごとに異なることも少なくなかった。例えば自動車メーカーは、車両価格を州ごとに設定する必要があり、ある州では他州に比べて割高になるということが常だった。GST導入により、価格が全国で統一されることになった。

そもそもインドでGSTの導入が初めて提唱されたのは16年前。その後、会議派のマンモハン・シン前首相が主導し、2006〜2007年度の予算案に盛り込まれた。2010年4月からの導入を目指し、中央政府と各州の財務相で構成される専門委員会が立ち上げられた。

GSTの導入には憲法の改正が必要になるため、2010年3月に改憲案が下院に提出された。しかし、野党からの賛成を得られず、2013年8月の下院解散と共に改憲案も棚上げとなった。

2014年12月、再び改憲案が下院に提出され、翌2015年5月に通過。上院での議論が始まった。2016年8月上旬、6時間以上におよぶ討論の末に上院で可決した。政権与党のインド人民党(BJP)は下院では優勢だが、上院では少数派で、税率などを巡って野党と衝突していた。このため、改憲案の上院通過が事実上の「GST法」成立と見られていた。

製造業の誘致を図る政策「メーク・イン・インディア」を旗振り役に革新的な経済改革を進めるモディ政権にとって、前政権から議論が続いていたGST法を成立させたことは歴史的快挙だ。2019年には総選挙が控え、政権基盤の足固めを順調に進めているとも言えそう。

17種類の間接税が一本化される

新たに導入されたGSTは、仕向地原則を採用している。生産拠点のある州や土地で課税するのではなく、モノやサービスの最終消費地で課税する仕組みだ。

GSTは中央政府と州政府がそれぞれ徴収する2本立てとなる。中央GST(CGST)と州GST(SGST)に加え、州間で統合GST(IGST)を徴収する。CGSTとIGSTは中央政府、SGSTが州政府の歳入になる。

基本税率は5%、12%、18%、28%の4区分に設定された。大部分の日用品は最低の5%が課され、多くは減税となった。ぜいたく品には最も高い28%が課される。

今までの税率が3〜9%だったモノ・サービスが5%に、9〜15%が12%に、15〜21%が18%に、21%以上が28%に設定された。例えば砂糖や紅茶、食用油などが5%に設定された。12%はバターやアーモンドなど。18%はヘアオイル、歯磨き粉、石けんなど。28%は自動車や家電など。このほか、牛乳や野菜などは0%となる。

さらに、自動車やタバコなどには、基本税率に租税が上乗せされる形が採用された。租税は、GSTへの移行に伴う州政府の損失を穴埋めするため、導入から5年にわたり徴収される。租税率は物品ごとに設定された。

中央政府が課していた中央物品税やサービス税などの8項目と、州政府が課していた中央売上税やぜいたく税、入境税などの9項目、さらに、租税22種類がGSTに統合された。

消費用の酒類はGSTから除外された。原油・ガソリン・軽油・航空用燃料・天然ガスの資源5品目は、将来的に統合されることが決まっているが、時期は未定だ。タバコに関しては、GSTに統合されたものの、中央物品税が引き続き上乗せされることになった。

一方で曲折は続く。税率や関連法案について協議する、財務相率いるGST評議会は、導入からすでに複数回の税率改定を実施している。2017年11月には200品目以上の税率が改定された。対象品目は全て減税で、石けんやシャンプーなど多くの日用品が含まれていた。これに歩調を合わせるように、日用品メーカー各社は値下げを発表し、消費者へ恩恵が及んだ。

しかし、政府の歳入減少を懸念する声も上がっている。200品目以上の減税措置で生じる歳入の減少分は2000億ルピー(約3538億円)、国内総生産(GDP)の0・12%と試算されている。野村証券はこれにより、中央政府の財政赤字が、予算のGDPの3・5%と、予算案で提示されていた3・2%から0・3ポイント拡大すると試算している。

実際、現在のところ、税収も思うように伸びていないと見られる。2017年10月のGST税収は8334億6000万ルピー(約1兆4745億円)と、7月の9406億3000万ルピー(約1兆6641億円)から減少している。一方で、2017年11月末時点のGST登録事業者数は961万社で、2017年7月末時点の545万社から順調に増加。納税者の基盤拡大に反比例するように、税収は落ち込んでいる。

各州政府の歳入に限れば、現在までに合計3911億1000万ルピー(約6917億円)の歳入減との試算もある。2017〜2018年度通年では合計9000億ルピー(約1兆5918億円)の歳入不足に陥る可能性も指摘されている。中央政府は2017年7月の導入から10月までの4か月間で、1兆7200億ルピー(約3兆421億円)の補塡を州政府に約束していたが、7割超に当たり、1兆3300億ルピー(約2兆3523億円)の支給にとどまっており、4000億ルピー(約7074億円)近くが不足しているという。

 

 

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山内優(やまうち・ゆう)

ジャーナリスト。滞印歴は3年。東京都内の私立大学文学部を卒業後、ベンチャー企業などを経て、インドへ渡る。日系メディアの記者として、主にインド経済情報を毎日発信している。インドに進出している日系企業にとどまらず、インド大手企業のトップへのインタビューを実現させるなど、精力的な取材を続ける。

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