製造強国を目指す中国

製造強国を目指す中国

一帯一路が世界を動かす

中国経済は失速していると報道されることも多くなったが、現状とは違う。中国にはまだまだ勢いがある。上海で開催された国際展示会の様子を知れば、認識を新たにするだろう。中国がいま何を目指しているか、実情を報告したい。

 

上海の国際展示場は世界最大規模

去る6月から7月にかけて中国の上海で開催された大型の国際産業展を3つ見学したが、そこには「中国製造2025」と「一帯一路」のスローガンがあちこちで目立っていた。

6月5日から9日まで中国最大の金型(かながた)展として開催されたDMC2018、そして7月4日から7日まで開催された中国国際ロボット展(CiROS2018 =China International Robot Show)の2つの展示会は、国家会展中心(NECC)上海(上海市青浦区崧沢大道 www.neccsh.com)で開催された。産業見本市会場会場として、NECCは世界最大の150万平方メートルの敷地に屋内40万平方メートル、屋外10万平方メートルの展示スペースがある他、無数の大中小の会議場なども併設されているNECC建設には160億人民元(約2600億円)が投入され、2015年に正式オープンしている。


その展示場面積は日本最大の展示場として最近拡張されている東京のビックサイトに比べて5倍以上の規模であり、やはり近年、大幅に拡張されたバンコクの国際貿易展示場(BITEC)も5万平方メートルに達しておらず、NECCの規模はやはりその10倍以上。NECC上海の建物は屋根がつながった1つのビルとしては世界最大規模とされ、ディズニーランドなどと並び、上海に近年できた新たな観光地としても認知されている。

上海の浦東国際空港から出ている地下鉄2号線で最終駅である徐涇東駅の4番、5番、6番出口とNECC上海は直結している。浦東に並ぶ上海のもう一つの国際空港である虹橋空港はこの地下鉄で隣の駅にあたる。

国家会展中心(NECC)上海有限責任公司が経営する国家会展中心(NECC)上海では2018年6月、アジア最大の携帯電話見本市であるモバイル・ワールド・コングレス(MWC)上海が開かれ、来る11月5日から10日まではこのNECC会場の全てを使う今年最大の展示会として国際輸入博覧会(China International Import EXPO)が開催される。

このEXPOのホームページによれば、家電、OA、自動車、AI(人口知能)、ME(医療機器)、食品、物流、文化教育なども含む極めて広い範囲の展示がなされる予定で、中国の日系企業にも案内が来ている。中国政府の商務部と上海市人民政府が主催するもので、トランプ大統領のもとで保護主義に走る米国に代わってグローバルな国際貿易の新たな騎手として登場しつつある中国が貿易摩擦を緩める輸入にも力を注ぐことをアピールする狙いがこの輸入博開催にあるようだ。

金型産業では今や世界一の中国

中国国務院では「中国製造2025」(中国製造2025重点領域技術路線図)を2015年9月29日に発表、中国の製造業の強化計画をスタートさせた。新中国が成立して100周年を迎える2049年には世界最強の製造強国になることを最終目標としている。

ISTMA(国際金型協会:本部ポルトガル)によると、中国の金型市場(売上高)は2017年に2433億中国元(約3兆9636億円)と世界全体の金型市場の3分の1を占め、中国は世界最大の金型業界を抱える国になった。その背景は中国が年3000万台の自動車を生産販売する「世界最大市場」「世界の工場」になったこと。中国では日々約8万台以上の自動車が生産され、毎日8万台以上の新車が国内販売されていることを支えている基幹産業が金型だ。

国際金型技術と設備展示会であるDMC2018が中国金型工業協会と上海市国際展覧有限会社の主催により毎年開催されており、今年は6月5日から9日まで、中国最大の金型展として、国家会展中心(NECC)上海の10万平方メートルの展示スペースを使い、世界20か国から1000社を超える企業が参加して開催された。今回のDMC2018併催として開催された多数のフォーラムに「中国製造2025」をテーマにしたものもあった。

DMC2018初日の6月5日午後には中国の習近平政権が力を注ぐ「一帯一路」政策にそった「一帯一路国際模具(金型)産業」と題するフォーラムも開催され、中国金型工業協会(CDMIA)の会長でアジア金型連盟(FADMA=ファドマ)会長も兼務する武兵書(ウー・ビンシュー)会長の講演を始め、インドネシア、ベトナム、フィリピン、欧州など各国の工業団地や経済貿易関係の最新現状についての講演、ISTMA会長であるロバート・ウイリアムソン氏(南アフリカ金型協会会長)、インド金型工業会のディネッシュ・クメール・シャルマ会長らの講演も行なわれた。

DMC2018の会場で中国の金型産業の現状について中国金型工業協会武兵書会長にインタビューできたが、同会長によると、「中国の金型業界も中国の第13次5か年計画(2016年~2020年)が掲げる目標の達成に向けて取り組んでおり、中国の金型生産は年9・1%という高い成長を達成している。ISTMA統計によると、中国の金型輸出は年に約55億米ドルと世界輸出の4分の1、同輸入は20億米ドル(同8分の1)です。中国の金型輸入の減少傾向が続いている一方で中国製の金型の輸出が拡大しているのが近年の特徴」と説明した。

武会長に日本では金型企業の廃業が増えた時代があったが、中国でも減少しているのではないですかと聞いてみたところ、「私が会長を務める中国唯一の金型工業協会のメンバーは約1500社。しかし小さいアウトサイダーが多く、一時は約3万件の金型工場が中国に存在するまでになっていましたが、競争力を失ったところを中心に縮小して、現在では約2万件の金型会社が中国で操業している」と説明した。

「しかし、経営不振で倒産に至ったケースはそれほど多くはなく、(1)合弁や提携して大手の下請けになる(2)金型を使った部品や製品製造に業種をシフト(3)技術があるところは航空機などの精密部品製造に転業、といった方向に経営内容を変えたところが多い」と説明してくれた。

中国政府は製造強国になることを目指して、「中国製造2025」を始めているが、製造の根幹とも言える金型分野をまとめる中国金型工業協会の活動と目指している点について、武会長は「中国の金型産業の規模拡大は続くが、これまでの中国での金型作りは『雑』だった。しかし今後は『中国製造2025』の方針にしたがって、われわれ金型業界は大きくなることより、強い製造業になりたいと考えている。具体的には金型の品質向上のためにAI(人口知能)も駆使したイノベーション、ビッグデータ収集によるデジタル情報の駆使など、ネットとの融合により金型技術を高め、ブランド力を高めていきたい。2025年という国家目標があるが、中国の金型が世界最強になれるのは現状から見て2045年頃」と武会長は説明した。

同会長は「確かに中国の金型産業は規模的に世界最大となったが、日本、米国、ドイツの技術力と中国の現状の技術力の間にはまだかなりの隔たりがある。現在の中国の金型業界はトヨタの生産方式などから学ぶべき点も山積している。金型をめぐる各種情報のネット化といった従来のインターネットにプラスする取り組みは自主的な模索の中で新たなアイデアを一歩ずつ構築していく以外に楽な道などありません」と語った。

国家会展中心(NECC)上海でのDMC開催は初のことで、2019年のDMCもこの場所で開催されることが決定済み。今後のDMCの運営方法について武会長は「従来のDMCは新製品など商品を見るだけが中心の展示会でしたが、今回の展示会からは金型業界の交流の場、プラットフォームを提供できる国際展示会という姿勢をはっきりお見せできたと思う」語った。

武会長によると、DMCはどうすれば訪問客の注目を高めることができるかということをいつも念頭に置いているという。

「主催者側としては欧米などの展示会に負けないように金型のプロが業界の変化をつかめ、そして得た知識を変革に使えるような内容を提供できる世界最大の金型展示会に脱皮したい。欧州で長く続いてきた金型見本市が行き詰って、今年の開催から廃止されたケースから学び、中国ではそのような事態に陥らないように努力してきました。この欧州でつまずいた金型見本市の失敗原因を分析したところ、その金型展は私企業が主催する展示会であり、展示会ビジネスとしてお金が稼げ、儲けることに集中し過ぎたことが失敗の原因だと分析しました」という。

武会長は中国金型工業協会の会長であるだけでなく、アジア金型協会(FADMA)の会長も兼務している。ISTMAメンバー国の幹部も今回のDMC2018に参加していたことについて武会長は「各国の金型業界による交流は不可欠。FADMAではこれまで年1度はメンバー国が集まって、3、4時間の会議を開いて各国の現状報告を聞くといった内部交流が中心の活動を続けてきましたが、活動が活発だったとは言えません。しかし、2014年からは、中国、タイで2回、韓国でもフォーラム中心の活動へと転換したなど、FADMAの活動を強化しています。今年の4月にはインドで開催しましたが、2019年にはフィリピンで開催する予定」と説明した。

製造大国から製造強国へ

中国政府の産業高度化の国策に加え、人件費が大幅に上昇している中国では、新たなロボットメーカーが次々誕生している。日本では日本ロボット工業会などが主催するロボット展が年1回開催されているだけだが、中国では上海に限っても別のロボット展も開催されているなど、多くの産業展が頻繁に開催されている。

2015年までに規模では世界一の製造大国になった中国だが、2025年までに製造強国になることを目指す「中国製造2025」に取り組んでいるのは、ドイツが始めた製造業の高度化戦略「インダストリー4・0」の中国版と言えるもので、ロボット産業(工作機械)を「中国製造2025」で目指す重点10分野の1つに位置付けている。

中国はすでに世界最大の産業用ロボット導入国になっており、これまでに世界の産業用ロボットの2割以上が中国で使用され、さらに年に数割増の勢いで導入が進んでいる。中国では2020年をメドに産業用ロボットの従業員1万人あたりの使用台数を101台以上とする目標も掲げている。産業高度化のためだけでなく、労働者不足や賃金高騰などの問題を解決させる目的からも中国はロボット導入を進めざる得ないと考えており、ロボットを使ったレストランもある。

このような中国で、政府の商務部、中国機械工業連合会(CMIF)、中国ロボット産業連盟(CRIA)などが主催する第7回中国国際ロボット展(CiROS2018)が去る7月4日から7日まで国家会展中心(NECC)上海内部の5万6000平方メートルの展示面積に海外からの参加も含めて約500社が出展して開催された。

このCiROS2018については前月(6月)に同会場で開催された中国最大の国際金型展の場で知り、中国最大の産業用ロボット消費地でもある上海で開催される国際ロボット展ということを聞いて興味がわき、さっそく上海を再訪した。

そして、中国のロボットメーカー各社が出展している広大な会場を歩き回ったところ、日本や欧州の有名ロボットメーカーの出展が皆無であることに気づいた。その理由を出展していたロボット以外の日系大手メーカーの日本人に会場で聞いたところ、このロボット展とまったく同期間である7月4日から7日まで上海国際自動車製造技術・装備・材料展(AMTS)という別の展示会が、上海市浦東にある上海新国際博覧センターで開催中で、そこには日本のロボットメ ーカー各社が参加しているはずだと教えてくれた。そこで翌日、AMTSを訪問したところ、日本の大手ロボット各社が出展していた。

AMTSのことは後述するとして、CiROS2018では国家会展中心(NECC)上海の5万6000平方メートルの展示面積を使い、約500社が出展して開催されていた。会場を歩き回って、「こんなにも多くの中国メーカーがロボット(機器人)開発・製造をしているのか」と驚いた。6軸のロボットも作る中国企業も多く、出展各社のブースでは中国人女性が熱心に技術的な質問している風景をあちこちで見かけたが、恐らくは購買の権限がある女性だと感じた。会期中に8万人の来場を見込んでいると聞いたが、来場者には若い中国人が目立ち、熱心にロボット情報を集めていた。

日本を追い上げる中国のロボットメーカー

中国最大のロボットメーカーとされるのが国営の新松(SIASUN)機器人自動化公司(曲道奎総裁)。同社は遼寧省瀋陽に主力工場を構えているが、今回のロボット展では、ロボット各種の展示の他、工場の自動化、搬送、パレタイジング(食品などをパレットの上に積み上げていくロボット)、ハンドリング(製品を正確に移動させるロボット)などを使った各種ソリューションを提案していた。

新松グループに並ぶ中国の大手ロボットメーカーとされるのが中国電気熊猫(パンダ)グループで今回のロボット展でも「大智・大器」をスローガンに掲げ、最大スペースと思われる出展規模だった。同社のブースで筆者の質問に対応してくれた社員は、同社が中国政府と関係が深い国防産業向け生産が多いという。ロボットの駆動部については顧客の要望を取り入れて決めるが、パナソニックと山洋電気のサーボモーターが使われるケースが多いと説明された。

日本の大手の産業用ロボットのメーカーでもロボット内部の駆動部などを他の専門メーカーから購入していることが多い。中国製ロボットも現状ではロボットの最終組立が中国企業で行われていても、ロボットの駆動部には日本製のサーボモーターなどが使われている。

6軸までの各種産業用ロボット生産で年2000機の製造能力がある安徽省配天機器人技術有限公司(安徽A&E、http://robot.peitian.com)もロボットの実機、多数を出展していた。北京、上海、安徽に研究開発(R&D)センターを構え、大学院卒を中心として220人以上いる研究スタッフにより、すでに500件以上の特許も取得しているという。安徽A&Eは精密電機部品、工具などで上場会社もある大富配天(TATFOOK A&E)グループの1社。R&Dセンターの一つとして2010年に設立された北京研究院では、ロボットやCNCシステム開発、サーボ・コントロール、EV(電気自動車)のコア技術開発などで政府から「国のハイテク企業」表彰を受賞している。

日本人のロボット専門家は筆者に「中国では今後さらに多くのロボットメーカーが出てくる。中国製ロボットのデモを展示会で見ていると、ロボットの動き方などから品質が毎年上がっていると感じる。今後3年から5年の間に中国は日本勢をさらに追い上げるだろう」と語っている。

中国市場を無視した発展は考えられない

ロボット展CiROS2018には、中国の大手ロボットメーカー各社を始め、韓国・台湾企業の出展も多く、日本からは中国各地に工場を構える住友重機械減速機(中国)有限公司、キーエンス、タキゲンなど6社が出展していた。オムロンのブースではIOT(モノのインターネット)時代の工場自動化に寄与する同社の活動、あらゆるソリューションに対応できることなどを売り込んでいた。オムロンのブースで行なわれていた囲碁でロボットと来訪者が対決できるショーには人だかりができ、夢中になる子供の後ろで親が熱心に応援する光景も見られた。

CiROS2018会場の入り口近くの目立つ場所に日本製ロボットと銘打って出展したことで、多くの中国人が訪問してくれたと喜んでいたのは、幼児教育から少年、成人、老人や医療向けなどに10万円以下もある各種小型ロボット開発のベンチャー企業であるドーナッツロボティックス(北九州市小倉北区)の小野泰助(おのたいすけ)社長。日本の本社社長である小野氏自らが来訪者の応対に当たっていたが、「中国には今回が初出展。今回の出展で今後の当社の発展は中国抜きには考えられないことを実感した。今回は2017年末に東京で開催された展示会でこのロボット展のことを知って申し込んだ。中国で840万人ものレストラン会員がいる組織の運営をしている日本人の訪問者から当社のロボットを入れないかというお話しもいただいた。中国は日本にいては考えられないほど巨大な市場。当社は日本で楽天コミュニケーションズとの提携が決まったばかりだが、中国でも良いパートナーを早く見つけたい」と張り切っていた。同社のロボットは、すでに英語と中国語に対応している。

 

日本より先に中国で事業を展開する

ロボット展CiROS2018とまったく同期間である7月4日から7日まで上海の浦東にある上海新国際博覧センターで開催されていた上海国際自動車製造技術・装備・材料展(AMTS)のほうがCiROS2018より規模が大きいと感じた。上海新国際博覧センターは数年前に国家会展中心(NECC)上海がオープンするまでは上海で最大の見本市会場で、ドイツと中国の合弁事業として建設されたそうだ。今回、AMTSを主催したのは上海国際自動車産業総合展組織委員会で、オーガナイザーの上海フォーレバー展覧社によれば、会場である上海新国際博覧センターの中の10万平方メートルの展示スペースに657の国内外企業が出展していた。AMTSは2004年から続いているそうで今年は第14回。

ロボット展CiROS2018には中国最大手などのロボットメーカーを中心に多くの中国企業が出展していた一方、AMTSでは、日本のロボット大手など日系企業も出展していたが、ドイツ企業の出展が目立っていた。ファナック(FANUC)や安川電機など日本のロボットメーカーも大きなブースで出展していた。シーメンスやKUKA(2016年夏に中国の美的集団が買収したドイツ企業)を始め、精密測定機メーカーのZIMMERグループのブースも中国人訪問者が取り囲んでいた。

地下鉄の花木路駅近くにある上海新国際博覧センターの入り口から最も近いW5館には住友重機械工業のブースがあったが、同社の上海事務所からではなく、日本本社から直接出展したという。同社のプロジェクト・リーダーと話せたが、「中国で伸びるEV(電気自動車)向けの鉄製バッテリーケースの自動化製造設備など、当社が日本でもまだ販売していない各種プラント設計製作を日本より先に市場が大きい中国で展開する準備のための出展」と説明された。

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松田健(まつだ・けん)

アジア・ビジネス・ライター。上智大学法学部卒。元日刊工業新聞記者。主な著作には、『タイで勝つ!! 直感力こそ成功のカギ』(重化学工業通信社)、『今こそフィリピンビジネス─アジア投資の穴場』(カナリア書房)、『魅惑のミャンマー投資』(カナリア書房)などがある。

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