資源大国インドネシアの現状と課題

日本企業が熱い視線を送る

資源大国インドネシアの現状と課題

インドネシアの首都ジャカルタの中心部にあるジャカルタ・コンベンション・センター(JCC)で5月2日から4日までの日程で、石油や天然ガス、電力などエネルギーに関する世界的な見本市である「第42回インドネシア石油協会(IPA)展示会」が開催された。

展示会には、エクソンモービル(米)、シェブロン(米)、ペトロチャイナ(中国)、ムバダラ・ペトロリウム(アラブ首長国連邦)、ペトロナス(マレーシア)、デュポン(米)、日本企業など世界のエネルギー関連企業に、インドネシアのプルタミナ、プロウェル・エナジーなど118 企業・団体などが出展。インドネシアを中心とする東南アジアでの企業活動や最新技術を紹介、PRした。

 

経済停滞の危機感から投資環境を整備

IPA初日の5月2日に行なわれた開会式にはジョコ・ウィドド大統領が海事担当のルフット・パンジャイタン調整大臣やエネルギー鉱物資源担当のイグナシウス・ヨナン大臣などの関係閣僚とともに出席し、「自分が大統領としての任期が終わる2019年までにインドネシアの石油、ガスの輝かしい時代を取り戻そう」と述べて、ここ数年続く天然資源の産出・生産量の低迷と海外からの投資停滞の再活性化に向けた期待を表明した。

インドネシアの石油・ガス部門への投資総額は2014年に207億2000万米ドルだったが、2015年には173億8000万米ドル、2016年には127億4000万米ドル、2017年には79億8000万米ドルと減少の一途をたどっている。

一方で、ジョコ・ウィドド大統領はエネルギー鉱物資源省がこれまでに海外からの投資手続きのオンライン化による簡素化など、投資許認可や投資抑制に関する14の規制撤廃を含む186の規制緩和を実現し、手続きの簡素化を果たしたことを指摘、海外から投資しやすい環境の整備に努力していることも指摘した。

その上で「しかしながら、まだまだ各種規制は煩雑で、さらなる簡素化が求められている」として、海外からの一層の投資促進にはインドネシア自身の投資環境の改善が不可欠であるとの認識を改めて示した。

エクソンは地域重視をアピール

石油メジャーの最大手でもあるエクソンモービルは大きく目立つブースで主にインドネシアにおけるエクソンモービル・インドネシアの活動を紹介していた。

エクソンモービルは1898年に最初のマーケティング事務所を開設して以来、今年2018年でインドネシアでのビジネス120周年を迎える最古参のエネルギー会社である。

1968年に北スマトラ・アチェでの洋上プラットフォームでの生産に参画するとともに、2005年には東ジャワのセプ鉱区でインドネシアの国営エネルギー会社プルタミナなどとともに操業に参加するなど、インドネシアでは探査・開発・生産・マーケティング、そして供給とあらゆるエネルギー分野で中心的な役割を果たしている。

今年の展示ブースで特に力を入れていたのが石油エネルギーの開発や生産というハードの面と並んで力を入れている教育・保健・経済開発・ボランティア計画といった「地域コミュニティーとの関係強化」だった。

教育分野では東ジャワのボジョネゴロの中学校でジャワ語を教える女性教師が「教師学習センター」に参加して新たな教育方法の研修、習得を通じて指導スキルのアップを実現したことが紹介されていた。同センターは地元の教育機関や財団とともにエクソンモービル・インドネシアが協力している教育プログラムの一つである。

また経済開発プログラムの分野では同じ東ジャワ州トゥバンにあるゲシックハルジョ村でインドネシアの代表的染め物「バティック(更紗=ろうけつ染め)」を学んでいた女性がエクソンモービルの関連会社とNGO(非政府組織)が創設した「天然染めバティック・トレーニング教室」で、新技術、環境に優しい染色を習得して独り立ちする姿が伝えられていた。

国際的に企業が利益追求だけでなく、地域や市民に「還元し、共生する」ことが近年求められる傾向にあるが、エクソンモービル・インドネシアもエネルギー大手としてその責務を果たしていることをブースでは特にアピールしていた。

高性能ガスタービンの川崎重工業

川崎重工業の産業用ガスタービンの販売・サービスを担うマレーシアの子会社「カワサキ・ガスタービン・アジア(KGA)」はインドネシアでの代理業務を務めるSAAとともに展示会場の一角にブースを設け、高性能のガスタービンをPRしていた。KGAは2018年4月1日に電力需要が高まりを見せているインドネシアでのさらなる市場開拓、新規導入をにらみ、ジャカルタに新たに駐在員事務所(日本人駐在員2人、インドネシア人スタッフ6人)を開設したばかりだ(開設式のセレモニーは5月19日に行なわれた)。

KGAの高橋滋セールスディレクターは「インドネシアは石炭による火力発電が中心ではあるが、今後に向けたさらなるガスタービンの需要の潜在力はある」と話す。川崎重工業は欧州やパキスタンなどでガスタービンの実績があり、さらに東南アジアではマレーシアに次いでタイとインドネシアを主要ターゲットにしてビジネスを展開している。

タイは日本企業が多数進出しており、大型工場を持つ日本企業、タイのローカル企業、さらに新たにタイに進出する日本企業を対象に積極的な提案を続けているという。

マレーシアでは1999年の出先事務所開設以降、2011年にクアラルンプール近郊のシャーアラムにガスタービンM7A全機種を対象としたオーバーホール工場を設置。2015年にはガス・マレーシア・エネルギー・アドバンス社のペナン州の工場に20メガワット(MW)級のカスタービン発電設備2台を納入するなど着々と実績をあげている。

また、インドネシアには1994年に3000キロワット(KW)級のガスタービン発電設備を納入して以来、これまでに合計30台のガスタービン設備を納入している。

2011年9月に発電出力7200KWクラスのガスタービン発電設備「M7A-03」をインドネシアのエンジニアリング会社ユーロアジアテック社に納入したほか、2016年10月には国営石油ガス会社「プルタミナ」の開発生産子会社でオイルガス会社の「PHE ONW」社がジャワ島北部で運営する洋上プラットフォーム施設に発電出力1・5MW(メガワット)級のガスタービン発電設備(MIA-13搭載の設備)2台を納入している。このほかにも、ジャカルタ、ブカシ、スラバヤ、セプ、リアウなどで同社ガスタービンが稼働している。

さらに、同社のガスタービンでは排出される蒸気を回収して生産設備に再供給することでエネルギーの効率化、排出CO2(二酸化炭素)の削減が可能なコンバインド・システムもインドネシアですでに稼働している。


2006年にブリヂストンの子会社ブリヂストンタイヤ・インドネシアの西ジャワ州ブカシにある工場に天然ガス焚きガスタービン発電設備と同時に排熱回収ボイラーも納入。この設備を利用することで6570キロワット(KW)の電力と毎時27・5トンの蒸気を活用でき、工場の排出CO2(二酸化炭素)は約30%削減されたという。

2007年には味の素のインドネシアでの基幹工場(東ジャワ州モジョケルト)に天然ガス焚きガスタービン発電設備、排熱回収ボイラー、蒸気タービン発電設備で構成する設備を納入した。これにより1万2000KWの電力と毎時55トンの蒸気が工場内の生産設備に全量供給され、総合効率90%以上での運転が可能になり、排出CO2(二酸化炭素)も約20%削減が可能になったという。
こうした過去の大きな実績があるだけに「これまで駐在員がおらず、マレーシアや東京からの出張ベースでやってきたことが不思議」と言われ、ようやくジャカルタ中心部に駐在員事務所を開設することになった。

KGA関係者によると「カスタービンやガスエンジンといったガスを燃料とする設備を販売しているが、価格面では欧米系メーカーと比べて特に差があるわけではない。しかし、効率性では一歩リードしており、それをアピールしてさらに売り込みを図りたい」としている。

マスコミ報道などによるとKGAのガス設備は投下したガス燃料に対する発電効率が約50%と世界最高レベルで、これを「売り」にしてインドネシア市場でさらなる受注を目指すとしている。

また、インドネシアでは電力事情が不安定で停電や漏電がいまだに多く発生しており、主要なビルや工場、会社などでは自家発電機が必要不可欠であるという事情にはあまり変化がない。

こうした電力事情を抱えるインドネシアでは都市部や工業地帯を中心に天然ガスパイプラインの敷設が整備されつつある。さらに、天然ガスを燃料とする自家発電設備の導入も進んでおり、工業地帯などでのガスタービンの需要は今後ますます期待できる状況にあると言われている。

海底資源探査の最新技術を持つ地球科学総合研究所

IPAには8年間連続で毎年参加しているとJGIいう同じく日本の「地球科学総合研究所(JGI)」は最新技術である「超高分解能力3次元探査」の技術を今年はメインにして「PR」を行なった。日本では熊本地震でずれた日奈久断層が実際はどのくらい動いたのか、を八代海の断層帯海域でこの最新の3次元調査によって明らかにした実績がある。

この最新技術は,もとはといえば,海底の石油、天然ガスなどの資源探査が主目的だが、その高い探知能力から海底の地震による影響や断層調査にも活用されているという。

JGIの菊地秀邦氏は「この技術は日本ではJGIが唯一であり、今後海底の資源探査の分野で東南アジアに進出することも視野に入れている」と話す。

たとえば、海底資源を調べる井戸を掘る(リグを打つ)前にその地点の海底地層が固いのか柔らかいのか、「シャローガスと言われる浅層ガスがどうなっているのか」などの海底状況を事前に調べるいわゆる「サイトサーベイ」が必要になるという。

その調査にJGIの「超高分解能力」の技術によるデータ採取、分析が役立てるというのだ。
同技術は陸上でも可能だが、ノイズが多いことから「海底での調査のほうが良質のデータが取れる」(菊地秀邦氏)という。

同社は熊本地震関連海底調査の他に新潟県沖の水深1000メートルの海底でメタンハイドレートの調査データをまとめたほか、日本海溝の水深8000メートルでの探査に携わるなどの実績を残している。

単純な2次元より3次元の調査・解析は複雑な海底の状況を相当はっきりとデータ化することが可能な技術で、原理は弾性波と言わる「跳ね返る音波」をブーマー震源というスピーカーのようなものから海底に向けて発信する。それを海上の船舶が曳航する長さ約80メートルの「独立型ストリーマーケーブル(ACS)」と呼ばれるケーブルで跳ね返ってきた音波をとらえ、そのデータから海底の状況を3次元で表すというものだ。

JGIでは現在このACSを8本所有しており、状況に応じて複数本を10メートル間隔で船舶に曳航させることで複雑な海底の状況をよりビビッドに3次元データ化できるという。

1998年に創立されたJGIは「地球と共に、社会と共に人類の未来に向かって」を企業のキャッチフレーズに掲げ、1984年には中国の北京に事務所を開設した。2011年8月からはインドネシアの石油技術サービス関係の代理店である「ECI」社とエージェント契約を結び、本格的な活動を開始。地震探査データ処理を主とした物探サービスの市場開拓に乗り出した。

その後毎年、IPAに独自のブースを出展するとともに、2016年9月にはスマトラ島ランプンで開催されたインドネシア物理探査学会に企業展示を出した。同年10月にはジャカルタで開かれた

「Transition Zone Survey」でワークショップを開催するなど、積極的な活動を繰り広げており、インドネシアでの知名度は次第に浸透しつつある。

インドネシアでは太平洋戦争で戦死した日本兵の地中や洞窟などの残る「遺骨」は一定期間を経過したものとして「インドネシアの文化財」と規定され、勝手に国外に持ち出すことは法律で禁止されている。同様にインドネシアで収集した各種の科学データも「国家財産」と見なされ、データを海外に持ち出すには厳しい条件のクリアが必要となる。

このため、JGIのような「調査データを収集して分析すること」が活動の主要部分となる企業は、インドネシア国内でデータ処理を行なうことが求められるなど関門は存在する。

しかし、JGIでは当面の会社方針として「石油、天然ガス調査分野、特にインドネシアにおいて中規模の調査の獲得を目指す」ことを掲げており、インドネシア特有の関門のクリアも念頭に懸命のセールス活動を続けている。

JGIの菊池秀邦氏は「提案があれば日本から技術者と機材も持ち込み、インドネシア人技術者とともに海底資源の探査のお手伝いをしたい」と話しており、広大なインドネシア周辺海域に眠る天然ガスや石油の探査に日本企業の最新技術が役立てる日も遠くないのではないかと思わせた。

新鉱区探査・開発が当面の課題

インドネシアでは、石油・ガスの消費需要は年々増加しており、供給が追い付かなくなる可能性も指摘されている。

ジョコ・ウィドド大統領はIPA開会式で国営エネルギー会社「プルタミナ」が何年もの間新たな大規模鉱区を探査、開発していないことについて、「私が得ている情報によれば、プルタミナは1970年代以降、大規模鉱区を探査していないというではないか。一体どういうことなのだ」と苦言を呈した。
IPAのロナルド・グナワン会長も「インドネシアは今後20~30年は石油・ガスがエネルギー消費全体の約半分を占めることになるだろう。それだけに新鉱区の探査・開発は重要だ」と述べて、大統領と同じ認識を示した。

こうしたことから、インドネシアのエネルギー開発が当面は海底資源の新鉱区探査・開発に向けられることは確実な状況で、最先端技術による海底資源探査を専門とする日本のJGI、さらに発電施設にKGAの高性能ガスタービンなどと日本企業が貢献できる可能性も高くなってくるものとみられている。

 

インドネシア政府のエネルギー政策

インドネシア政府は次世代のエネルギーを原子力に頼るのか、時代の流れに沿った再生可能エネルギーへの比重を高めるのか、あるいは天然ガスによる火力発電をさらに充実させるのか、その方針は明確には定まっていないのが実情だ。

主力の石炭燃料による火力発電に関して、2017年10月にエネルギー鉱物資源相がジャワ島で今後、石炭火力発電の建設は認可しない、との方針を明らかにし、石炭に代わり、天然ガスでの火力発電が今後の電力政策の柱になるとの見方を示した。さらにインドネシア全体の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合の12%を2015年までに23%にする構想を掲げ、当面の3年間で18%を目指すとしている。

現在インドネシアは電源の57%を石炭火力発電に頼っているが、これをガス発電、再生可能エネルギーに順次重点を移行していく政府の方針を改めて示したのだった。

それにしたがい、政府は石炭からガスの火力発電へのシフトを徐々に進めており、天然ガスの増産を図っている。2017年10月31日にはカリマンタン島東部に今年5月から稼働しているジャングリック沖の液化天然ガス処理設備が新たに始動。開所式にはジャカルタからエネルギー鉱物資源省のジョナン大臣が参じるなど、政府の期待が表れていた。

原子力発電は一進一退で決定打がない

2015年12月、エネルギー鉱物資源相が「2050年までインドネシアは原子力発電所の建設には着手しない」と明確に原発を新たなエネルギー源としては当面不採用とする方針を示した。そして、不足する電源確保の方策として、今後「太陽エネルギーなどの再生可能エネルギー」を重点的に開発することを明示した。これは原子力発電導入の凍結方針と理解された。

原発導入凍結の背景には、原発建設予定地周辺の住民の反対運動が根強く、また、周辺環境への影響を懸念する声が強いことなどを挙げ、地震による日本の福島第一原発事故の影響もあるとしている。
ところが、融通無碍の東南アジアである。2017年5月にインドネシアが原発を導入する可能性が急浮上したのである。

国営電力公社(PLN)が改定した電力供給総合計画の中で今後の電源確保に一義的には現在の火力・ガスによる発電に再生可能エネルギーの割合を増やしていくことで需要に応える方針を示している。しかし、「再生可能のエネルギーによる発電目標が当初の計画に達しない場合」との条件付きながら「原発導入もありうる」として、今後の推移次第では原発に依存する可能性を示したのだ。
PLNの電力供給総合計画は2017年~2026年の事業方針を示しているもので、当然のことながら、政府、エネルギー鉱物資源省の承認を得て策定・改定されている。このため、原発導入の可能性については政府も了承していることになり、「凍結された原発が再び動き出す可能性」があるということになる。

PLNは電力総合計画の改定にあたり、2025年までに電源全体に占める再生可能エネルギーの占める割合を現在の11%から22・5%に高めることを目標に掲げている。この目標が技術的、財政的諸問題が原因で達成することが難しくなった場合に「原発」にシフトする可能性を残しているのだ。
ジョコ・ウィドド政権は、インドネシア全土で35ギガワットの発電所を建設整備することを目標に掲げ、PLNに対してコストの抑制と効率性の向上を指示している。

ジョコ・ウィドド大統領は2019年の大統領選で再選を目指して出馬する可能性が極めて高くなっている。そのため、エネルギー政策でも、長期的視野に立ちながら今後の主要な電源確保を何に頼るのか、そして、どうそれを整備していくのか、石炭、ガス、再生可能エネルギー、原子力と、さまざま選択肢を前に、手探りで最善の道を模索しているところと言えるだろう。

 


大塚智彦(おおつか・ともひこ)
ジャーナリスト

Pan Asia News所属。毎日新聞社ジャカルタ特派員、産経新聞社シンガポール特派員などを経て、2014年からPan Asia Newsの記者兼カメラマンとして東南アジアを中心に取材活動を続けている。現在、インドネシアの首都ジャカルタに在住。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、「ジャカルタ報道2000日──民主国家への道」(小学館)がある。

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