食は今やインドネシアにあり(上)

アプリが支える多種多様な料理が空前の大ブーム

インドネシアはいま空前のグルメブーム、料理ブームである。ショッピング・モールには地元インドネシアの各料理店に加え、中国・韓国・タイ・インド・イタリア料理の店が雨後の筍のように開店して、インドネシア人を惹きつけている。もちろん、日本食レストランも負けておらず、ファストフード店やラーメン店など手軽に楽しめるレストランも増えている。
そんなグルメブームを反映するように「ジャカルタ料理フェスティバル」が大人気を呼び、個人で惣菜のネット販売、ケータリングといったビジネスに参入する女性も登場している。こうしたブームを支えているのがネットのアプリである。インドネシアの食を巡る新たな動きの実情に迫ってみた。

 

フード関係のイベントが大人気

2017年11月16日(木曜日)から19日(日曜日)までの4日間、インドネシアの首都ジャカルタ中心部の大規模ショッピング・モール「スナヤン・シティー」の屋外広場に設けられた特設テントは数多くのインドネシア人で連日大賑わいとなった。若者、中高年のジャカルタ市民のお目当ては「ジャカルタ料理フェスティバル」で、2か所の広い会場は「デザート」「コーヒー」「料理教室」「市場」「バー」「レストラン」などに区切られたコーナーやエリアに分けられ、例えば「レストラン・エリア」にはジャカルタなどで人気のあるレストランが数多く出店。名の知られたシェフが代表的なメニューを狭いキッチンで手早く調理、手頃な価格で来場者に販売、味を楽しんでもらうというイベントで盛り上がっていた。

インドネシアではこうした料理や食べ物をテーマにしたフェスティバル、物産展、そして、料理に関する道具、設備といったハード面の展示会、商談会さらにインドネシア料理のレシピを紹介するインターネットのサイト、ホームページなどが大変な人気を呼んでいる。

さらに、料理や惣菜をプロではない家庭の主婦や料理好きの女性や若者たちが自ら作り、インターネットを通じて販売する個人業者も参戦して、インドネシア全体に一大グルメブームの波が押し寄せている。

より美味しい料理への飽くなき欲望

食欲は人間の生存に関わる基本的欲望の1つである。そうである以上、より美味しいものを、いつも、どこでも、そして、安価で味わいたいと思うのは人間として当然のことであり、そこに、料理、グルメ、食文化という世界が成り立つよすがが存在する。

「ジャカルタ料理フェスティバル」の会場はそうした食への熱い思いに駆られたジャカルタっ子らが押し寄せ、人気料理の店は料理が出来上がるまで長蛇の列が続くほどだった。ネット上で名前の知られた人気シェフにはセルフィーで一緒に写真を撮影しようとする女性が押し寄せた。

フェスティバルでは各種店舗の自慢の一品がふるまわれたほかに、「カクテル・クラス」「コーヒー・ワークショップ」「子供向け料理教室」「菓子教室」「トークショー」「料理写真教室」なども開かれ、料理を楽しむだけでなく、あらゆることを学ぶこともできる魅力的なフェスティバルとなった。

会場の一角にはフェスティバル組織委員会や関係各種団体による、今後の情報提供や起業希望者の問い合わせ、相談にのるためのネット登録も行なわれており、フェスティバルが料理業界の裾野拡大にも一役買っていることが分かる。

日本料理の存在感はまだまだ低い

ただ残念なことにシンガポール料理店、インド料理店、韓国料理店、オーストラリア料理店はあったものの、日本料理のレストランの出店を1つも見つけられなかった。

デザート・ガーデンの一角で味見を勧められた実にまろやかで質感のある瓶詰のチーズが、聞けば、北海道小樽産のものだったぐらいしか「日本」を感じること、味わうことはできなかった。

確かに日本食は比較的値段も高く、生魚の刺身やお寿司というメニュー、そばやうどんなどもまだまだインドネシアで市民権を得ているとは言えない。乱立気味に増えているラーメン店も豚骨ベースで、駐在日本人をメインターゲットにした本格店からインドネシア人による「ラーメンもどき」まで玉石混交で、フェスティバルに声がかかるほどではなかったのかとも思う。

その一方でジャカルタ郊外に新規オープンする大規模ショッピング・モールには日本食レストランが数多く出店し、多くの既存のモールにも「吉野家」や「大戸屋」「丸亀製麺」などがあり、小さな屋台風の出店で「たこ焼き」「鶏から揚げ」などを目にすることも多く、それなりの存在感を示していることは実感としてある。ただそうした店が常にインドネシア人で満員御礼状態にあるか、というと、確かにそうでもない。

インドネシア人であふれている日本食レストランというと、シャブシャブや焼き肉の「食べ放題店」か「チキンセット」が人気の弁当系チェーン店ぐらいで、こうした実情が本格的な日本食ブームの到来にはまだ時間がかかる一因になっているのかも知れない。

たぶんこの点は比較的経済的余裕があり、宗教的制限も少ないシンガポールでの日本食人気とは違うのだろうと感じている。後述するが、シンガポール人の外食好きもあり、シンガポールの日本食レストランは概して人気があり、競争もそれだけ激しく、生き残っている店は納得させるだけのサービス、味を提供している、と個人的には感じている。

今回の「フェスティバル」のようなグルメ系、料理系のイベントはジャカルタだけでも規模の大小、期間の長短はあれ、かなりの頻度で開催され、人気を博している。

2018年は日本とインドネシアの国交樹立60周年で、外務省や商工会議所みたいなところなどがあれやこれやとイベントを考案しているとのことだが、ぜひ日本とインドネシアの食・グルメ・料理に関する企画も考えてほしいと思う。誰もが興味を持ち、楽しめ、味わうことができるそんな企画をと思っている。しかし、霞が関の住人と狭いインドネシアの「日本人租界」の中でしか暮らせない企業人には難しい発想かもしれない。

ジャカルタに進出している日本企業には「バスに乗るな。列車に乗るな。バジャイ(三輪自動車)やオジェック(バイクタクシー)などの利用はもってのほか、非衛生的に見える露店や屋台での食事など厳禁」というところが多いのが実状で、インドネシア料理の真髄や真骨頂など興味も関心もないだろうから、無理な注文といえばその通りだ。

 

 

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大塚智彦
(おおつか・ともひこ)ジャーナリスト

Pan Asia News 所属。毎日新聞社ジャカルタ特派員、産経新聞社シンガポール特派員などを経て、2014 年からPan Asia News の記者兼カメラマンとして東南アジアを中心に取材活動を続けている。現在、インドネシアの首都ジャカルタに在住。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、「ジャカルタ報道2000 日──民主国家への道」(小学館)がある。

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