インドネシアの首都ジャカルタでイオンが新たな挑戦 (上)

「遊び」と「食」で市民を魅了できるか

日本の総合スーパー大手の「イオン」が9月30日、インドネシアの首都ジャカルタの郊外に大型商業施設「イオンモール・ジャカルタ・ガーデンシティー」をオープンした。
敷地面積約8万5000平方メートル、延べ床面積約16万5000平方メートルの巨大なショッピング・モールである。
屋上にあるインドネシア最大級のゴンドラ数を誇る大観覧車と70店舗近いカフェ、レストランに象徴されるように、子供・家族連れを対象に、ショッピングとともに飲食を楽しんでもらおうというのが同モールのコンセプトだ。
スーパー「イオン」の食材コーナーには日本の食料品があふれ、レストランも和食が目立つ。
イオンの新たな挑戦を報告したい。

 

 

原野に出現した巨大ショッピング・モール

中東の果てしなくどこまでも続く砂漠、緑も水もない不毛の象徴でもある砂漠、その中に忽然と出現する近代的なビルの一群。そこには上下水道、電気、ガス、舗装道路、電話・WIFI、光ファイバーなど最新のインフラも整えられ、近代都市と同じレベルの生活、労働環境が保たれている。そんな場面を映画かCMで見たことがある。

インドネシアの首都ジャカルタ東部郊外に商業施設の開発・運営事業を行なう「イオンモール」と総合スーパー「イオン」が9月30日にグランドオープンさせた「イオンモール・ジャカルタ・ガーデン・
モールの建物以外に周辺にはほとんど何もないといっても過言でなく、その忽然と出現する感じ、周囲が全く閑散としている、ということが、「砂漠の都市」を連想させたのだ。

大観覧車、食、子供などが目玉

グランドオープンに合わせて発表された資料によると、屋上に設置された高さ70メートルの大観覧車、体験型キッズ・アミューズメント「ファンカッペ」、シェフがその場で調理して食材を味わえるオ
ープンキッチンコーナーなどのグルメコーナー、インドネシア最大級のアイススケートリンクなどが目玉というので順次そうした「セールスポイント」を訪れてみた。

土曜日の昼間ということで、子供や家族連れが多いモールの中、まずはアイススケート場を目指した。モール館内にはオープン間もないためか、至るところに制服を着た警備要員、案内要員がいたが、
誰一人として「アイススケートリンク」の場所を知らない。それもそのはず、ようやく探し当てた1階の一角は「未完成」で工事中。すぐ近くの店の店員に聞くと、「確かにここにはスケートリンクができ
る予定だが、完成がいつになるのか誰も知らない」という返事。「目玉」のひとつは未だにオープンしていない、閉じたままの「目」だった。

次に向かったのが、屋上の大観覧車。インドネシア人は珍しいモノが大好きで、観覧車などそもそもあまり存在しないインドネシアだけに、行列ができるほどの混雑ぶりだった。特に若いカップルと子供を連れた家族連れが列に並んでいた。聞けばゴンドラの中はちゃんと冷房が効き、快適な空の旅を楽しめるということで、大観覧車は「目玉」の役割を果たしていた。

体験型キッズ・アミューズメント「ファンカッペ」。北欧フィンランドの文化や教育の要素を取り入れた娯楽施設。土曜日の昼ということで、こちらも子供であふれていた。ただ、10月31日までの10%
引きのオープニング割引価格とはいえ、子供1人の入場料(週末)が20万7000ルピア(約1600円)は割高だろう。「遊びたい」と我が子にねだられる親の気持ちやいかに……。

 

日本食材と和食レストランは充実

イオンモールJGC最大の売りであり、特徴でもある「食」に関する目玉は、確かに宣伝文句にあるとおり「充実」して、選択肢の多さは目を見張る。

ジャカルタ市内各所にある「吉野家」を見慣れた日本人には「すき屋」は嬉しいし、「リンガーハット」の長崎ちゃんぽんも久しぶりに味わいたいと思う。鶏白湯スープラーメンの「清六屋」、イタリアンの「POPOLAMAMA」、台湾まぜそばの「KOKORO MAZESOBA」、SUSHI KING」など、インドネシア初、あるいは地域初の出店が並ぶ。 さらに、お好み焼きの「徳川」、創作和食の「ZENBU」、たこ焼きの「YAMATOBA」、そして日本でもおなじみの「牛角」(焼肉)、「吉野家」(牛丼)、「温野菜」(じゃぶしゃぶ)などの日本食レストランがある。

もっともこうした店が嬉しく、懐かしいのは日本人だけで、インドネシア人には馴染みがなく、価格もやや高めで、ランチタイム時も満員御礼、長蛇の行列とはなっていなかった。

このほかにも、韓国料理、中華料理も充実しているが、何といっても、数で一番多いのは3階の「フードコート」(約1300席)の大半を占めるインドネシア料理の数々だ。「バーガーキング」(ハンバーガー)や「KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)」、「バミ・ガジャマダ」(インドネシア風汁麺)などはランチタイム前から長蛇の列で、結局新しくできた珍しい大規模モールに来てはみたものの、やはりいつも食べている味も値段も分かっている料理を選択するというインドネシア人らしい光景が展開していた。

こうした「新しモノ好き」は見る・聞く・乗るなどは喜んで挑戦するものの、食べる・飲むなどとなると、お馴染みの安心できるものに落ち着く、というのがインドネシア人といえる。

そういうこともあり、(筆者が訪れた)まだオープンから約2週間の週末だけに、ランチタイム前後は、食のコーナーは日本料理レストランを除くとどこもかしこも人で一杯、注文に行列、食べるために座る場所も行列、という状態だった。

 

スシの盛り合わせが大人気

目玉のひとつ、オープンキッチンは「総合案内」で聞いても要領を得ず、それらしきところはイオンの食材売り場の「シーフード」の一角にあったが、本当にここがその目玉なのかは最後まで不明だった。確かにサーモンやカニなどの海鮮食材を選び、料理方法を伝えると、目の前でインドネシア人シェフが調理してくれ、その場で賞味できるのは間違いない。もっともカウンター席に座って実際に食べる人は多くなく、ランチタイム直前ではあったが、インドネシア人女性が1人、美味しそうに焼けたサーモンを味わっていた。「イオン」の食材コーナーのスシ(寿司)は盛り合わせが特価5万9000ルピア(約480円)で飛ぶように売れ、長蛇の列が途切れることなく続いていた。嫌いな寿司ネタがある人のために、ネタが一つ一つ包まれたコーナーも行列ができ、トッピングで好きな「スシ」を選ぶ人が後をたたなかった。そこで購入したスシを隣接のイートインコーナーで早速味わうのだが、座る場所を探すのも大変な満席状態だった。

周囲に何もないモールに車やバイクで週末来て、子供は遊び、家族は食事を楽しむ、という娯楽施設・食事施設としては立派に機能していると感じた。しかし、他の日用品、衣料品売り場、装飾品、化
粧品売り場などは、決して集客に成功しているとは言えず、冷房がよく効いた館内はそぞろ歩きするには絶好で、インドネシアの他のモール同様に、今後、時間の経過とともに単に「買い物するより散
歩する」場と化す可能性は否定できない。

イオンはすでにインドネシアのジャカルタ西部郊外に2015年5月に「イオンモールBSDシティー」をオープンさせている。こちらは敷地面積10万平方メートル、延べ床面積17万7000平方メートルと巨大メガモールである。ジャカルタ中心部からは西へ向かう渋滞で知られる高速道路を約1時間走ったタンゲラン県にある。周囲はそれこそ何もない「砂漠」状態だったが、開発が進み、現在では商業施設や住宅の整い、隣接地には日本人駐在員らを当て込んだ高級コンドミニウムも完成間近だ。

もっともこのBSDシティー店は「食」
の充実をうたいながらも、健康・スポーツのニーズの他に衣食住が全て揃う「ForYour Smart Living」をコンセプトとして掲げ、総合的なモールを目指した。しかし、開店から2年が経過した現状はというと、日常生活に不可欠の食の需要は相変わらず高いものの、その他の衣や健康、スポーツといったものへのニーズは開店当初の勢いが失速しているように見受けられる。そのことが今回オープンした「イオンモールJSG」に活かされ、「食」のさらなる充実が図られたのではないかと思われる。
インドネシア人の傾向として、「新しモノ好き」はすでに触れたが、もうひとつ「熱しやすく冷めやすい」というのもある。ジャカルタ中心部からはるばる週末、あるいは週日のアフターファイブに渋滞覚悟でタンゲランにわざわざ行く市民は減少しつつあり、周辺の住宅街、地域に住む人の生活圏内のスーパー、レストラン街としての賑わいに留まっているという感じを個人的には受けたが、どうだろうか。

 

インドネシアの首都ジャカルタでイオンが新たな挑戦 (上)

 

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大塚智彦(ジャーナリスト)

Pan Asia News 所属。毎日新聞社ジャカルタ特派員、産経新聞社シンガポール特派員などを経て、2014 年からPan Asia News の記者兼カメラマンとして東南アジアを中心に取材活動を続けている。現在、インドネシアの首都ジャカルタに在住。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、「ジャカルタ報道2000 日──民主国家への道」(小学館)がある。

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