3つの世界から視るベトナムでのマーケティング事例 Vol.1

第1回 公共政策(日本人通りの信号機設置)での失敗事例

絵画の世界では、古典派や印象派などの技法に創意工夫がなされてきたが、それらはすべて、対象を一つの方向から描くということは変わらなかった。この常識を破壊したのは、ピカソである。ピカソは、複合的な視点で視た世界を平面上に共存させた。これが、「キュビズム」の本質である。
この連載は、キュビズムの思想を注入し、ベトナムでのマーケティング事例を多元的な世界観で論じるものである。

その世界観は、下記の3つである。
・ハード視点
・ソフト視点
・ 一般理論・法則

一般的なビジネスパーソンは、ビジネス書などで「一般理論・法則」を学び、「ハード視点」により実践。ただし、ビジネスでの成否は、「ソフト視点」(いわゆる心理的世界)を理解し、もう一つブレイクダウンした視点ができるかどうかにかかっていると言っても過言ではない。その「ソフト視点」を可視化しているのが、私の仕事である。実際の事例をもとに、紹介していきたい。

※一般理論・法則──ヒューリティック
心理学におけるヒューリティックとは、人が複雑な問題解決などのために何らかの意思決定を行なうときに、暗黙のうちに用いている簡便な解法や法則のことを指す。

 

本日は、第1回でもあるので、誰にでもわかりやすい「公共政策(日本人通りの信号機設置)での失敗事例」を紹介したい。

ベトナムのホーチミンには、日本人街(レタントン通り)がある。その通りには、多くの日本人向けレストランが多く、日本人駐在員の憩いの場がある。しかし、ベトナムでの日本人が多い場所においての課題がある。それは、日本人歩行者の自動車・バイク事故が多いことである。

価値観の違いが分からないと大失敗する

そこで、信号機がないという事象から「信号機」(ハード視点)を設置するという解決策で、日本人の交通事故を防ごうと考えた。「信号機の色」をヒューリスティック*(一般理論・法則)として識別するので、日本人としては妥当な判断であった。 しかし、結果として事故が増えてしまったのである。つまり、期待とは逆効果となる結果となってしまった。

なぜならば、日本人の信号に対する価値観(ソフト視点)とベトナム人の信号に対する価値観(ソフト視点)に大きく齟齬があったのである。日本人は歩行者側の信号が青色であれば、車道を確認しなくても、車やバイクは止まってくれるという認識であるし、生真面目に信号機の色に合わせて行動をする人が多い。また、点滅型信号機に慣れている日本人が多いが、こちらの信号機は同じ型ではないし、信号機の設置場所も課題が多い。日本人が考えている一般的な「信号機」への価値観とは全く違うのである。

つまり、ソフト視点の部分である「価値観」の違いを把握して、ハード視点の実践内容を決めないと失敗してしまうのである。今回のケースでは、解決が急務であったのであれば、日本人側に対しての日本語の告知看板(「ここは日本ではありません。自動車・バイクを確認しながら歩きましょう!」)を置いたほうが良かったのかもしれません。

ハード視点ファーストでは、解決案としては間違っていなくても、「時と場合」によって間違った方向へ進んでしまうのである。ただし、将来的にはこの「信号機の設置」は無駄にはならないことは言及しておきたい。

 


根岸正実(ねぎし・まさみ) INTAGE Vietnam LLC Managing Director
経験:日系調査会社にて20年近く海外リサーチャーを経験。主に、自動車・電機メーカーのグローバル調査を支援。リーマンショック後は、アジア新興国での生活者調査・インド支社設立に従事し、15年より現職。国内外100都市以上に訪問経験がある。

自己紹介:「アートのサイエンス化」の追求がミッション。
様々な出来事を理論化・図表化するリサーチャー兼アナリスト兼コンサルタント。

好きな分野:スポーツ・アート・教育・生物そしてビジネス
主に利用する学問:法学・経済学・心理学・人類学そして経営学

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