EV立国を目指すインド (上)

世界のエコカー市場を牽引する

世界各国が電気自動車(EV)への移行を宣言する中、インド政府は2030年までに発売するすべての自動車をEVにする目標をいち早く打ち出した。公用車のEV入札1万台が9月に実施され、EV立国へのスタートを切った。各メーカーの間では様子見が続いているようだが、先行者利益を得ようと、さっそく投資を表明する企業も出てきている。一方で、政府のEV推しの波にもまれて、燃料車は規制強化の圧迫に苦しむ。それでも、2030年には世界第3位の自動車大国に成長することが予測され、外資メーカーの進出や追加投資も目立つ。

 

2030年にはEV100%を達成

インド政府は他国に先立ち、「EV立国」を宣言した。2030年までに国内で販売される自動車を全てEVにするという、野心的な目標を掲げる。国内では懐疑的な見方も多いものの、政府が公用車の調達入札を実施し、EV普及へ拍車を掛けようと動き始めている。

エネルギー関連事業を手掛けるインド公営エナジー・エフィシエンシー・サービシズ(EESL)は9月下旬、1万台のEV供給入札を実施した。公用車として使用することで、政府はEVの普及を加速させたい考えだ。

1万台は2期に分けて供給されることになっているが、1期目の受注を獲得したのは地場タタ・モーターズとマヒンドラ&マヒンドラ(M&M)。日産自動車も入札に参加したが、受注には至らなかった。
タタ・モーターズが最低価格で応札したため、当初は1期分の500台を全て同社が受注した。だが、M&Mが応札価格を引き下げたため、150台を受注。タタ・モーターズの受注分は250台となった。2社は1台当たり101万6000ルピー(約179万円)で落札。今年11月末までに納入する予定だ。残り9600台は、1期分の納入後に受注メーカーを決める。

現在、インド国内でEVを展開するのはM&Mのみだ。「e2o」と「ベリト」を南部カルナタカ州バンガロール(ベンガルール)で生産している。今後の需要拡大を見込み、生産能力の増強や研究開発機能の強化に向けて、今後3~5年で350億~400億ルピー(約615億円~703億円)の投資を計画している。生産増強に関しては、カルナタカ州政府と追加投資に向けて協議したとされている。

一方、タタ・モーターズは、EVをラインアップに持たない。世界最安車として有名になった小型車「ナノ」と小型ハッチバック「ティアゴ」のEVモデルを開発しているとの報道もあるが、真相は明らかになっていない。同社は西部グジャラート州サナンドに工場を操業しており、そこで小型セダン「ティゴール」のEVを生産する計画もあるようだ。

モディ首相の出身地で、同氏が州首相を務めていたことでも知られるグジャラート州では、州政府が「EVハブ」の造成を構想している。タタ・モーターズが工場を置くサナンドにEV関連の産業を誘致しようと動いている。

確かに、州内ではEV関連の事業が勃興しつつあるようだ。スズキと東芝、デンソーの3社は今年4月、自動車用リチウムイオン電池パックの製造に向けて合弁会社を設立すると発表した。スズキがグジャラート州ハンサルプールで操業している工場に隣接する形で設置される見通しだ。投資額は約200億円を予定している、2020年をめどに稼働させる計画という。合弁会社の資本金は約30億円で、スズキが50%、東芝が40%、デンソーが10%を出資する。

インドの複合企業(コングロマリット)JSWグループの電力部門、JSWエナジーも、グジャラート州でEV工場の設置を計画している。投資額は約400億ルピー(約703億円)を見込む。EVのほか、EV用の電池や充電設備なども生産する。

JSWグループはEV市場参入に向けて、中国の自動車大手、吉利汽車を傘下に置く浙江吉利控股集団(ジーリー・ホールディングス・グループ)と提携すると発表している。折半出資で合弁会社を立ち上げる方針だ。

 

二輪車は新興メーカーも参入

二輪車市場では、2011年にホンダとの提携を解消した最大手ヒーロー・モトコープが電気二輪車部門ヒーロー・エレクトリックでEV事業を展開している。年間販売台数は2万5000台だが、2022~2023年度には22万台に達する見通しという。北部パンジャブ州ルディアナの工場で生産しているが、年産能力は最大6万台。今後、工場の新設も見込まれる。

ヒーローは自社開発だけでなく、電気二輪車の開発を手掛ける新興企業にも資金を投じている。2016年10月、アッタール(Ather)・エナジーに最大20億5000万ルピー(約70億3000万円)を出資し、株式26~30%を取得すると発表。アッタールは電気スクーターの開発を手掛け、2017年12月にも生産を開始し、来年に発売する計画だ。同社は南部カルナタカ州バンガロール(ベンガルール)で工場を建設中だ。年産能力は最大で4万台。当初はバンガロールと南部タミルナド州チェンナイ、西部マハラシュトラ州プネの3都市のみで販売する。ショッピングモールや飲食店などと、充電設備の設置で協議を進めているという。

業界2位のホンダは現在のところ電気二輪車は販売していない。だが、市場は現在の約3万8000台から、5年後に50万台に拡大するとの予測もあり、各メーカーが電気二輪車の発売を発表する日も遠くないだろう。

実際に、地場バジャジ・オートは2020年までにEVのモーターバイクを高級セグメントで発売すると明らかにしている。地場TVSモーターも、電気スクーターを開発しているとされ、2018~2019年度中に発売すると見られている。

このほか、西部マハラシュトラ州を拠点とする新興企業トルク(Tork)・モーターサイクルズが2018年始めにもEVのモーターバイクを発売する予定だ。

 

 

インド政府は補助金制度の導入でEVを後押し

インド政府は補助金制度でEVの普及を後押ししている。エコカー補助金制度「EV生産・普及促進(FAME)インディア」を2015年4月に導入。第1期は2017年3月までの2年間だったが、2018年3月まで1年間延長した。

これまでにFAMEに基づいて金を受けたエコカーは16万台以上。2015~2016年度は7億5000万ルピー(約13億円)、2017~2018年度は12億2900万ルピー(約21億6000万円)が予算として割り当てられた。

乗用車は「ストロング・ハイブリッド(HV)」「プラグインHV」「EV」が対象となる。
当初は「マイルドHV」も含まれていたが、4月から対象から外された。2015~2016年度にFAMEの対象となったエコカーは、6割がエンジンを主要動力源とするマイルドHVだった。燃料への依存度が高いマイルドHVに、補助金が最も多く支給されていることが問題視されていたことの表れと見られる。

補助金はストロングHVとプラグインHVが7万ルピー、EVが12万4000~13万8000ルピー(約21万8000~24万2000円)。電気二輪車は1800~2万9000ルピー(約3170~5万1000円)となる。

一方、7月に導入された全国統一税制、物品・サービス税(GST)では、HVとEVで明暗が分かれた。2030年までに「EV100%」を目指す政府は、EVも資金を投じている。2016年10月、アッタール(Ather)・エナジーに最大20億5000万ルピー(約70億3000万円)を出資し、株式26~30%を取得すると発表。アッタールは電気スクーターの開発を手掛け、2017年12月にも生産を開始し、来年に発売する計画だ。同社は南部カルナタカ州バンガロール(ベンガルール)で工場を建設中だ。年産能力は最大で4万台。当初はバンガロールと南部タミルナド州チェンナイ、西部マハラシュトラ州プネの3都市のみで販売する。ショッピングモールや飲食店などと、充電設備の設置で協議を進めているという。

業界2位のホンダは現在のところ電気二輪車は販売していない。だが、市場は現在の約3万8000台から、5年後に50万台に拡大するとの予測もあり、各メーカーが電気二輪車の発売を発表する日の実効税率を12%に設定した。これに対し、HVは43%。HVは従来、実効税率が約30%だったが、GSTでは基本税率が28%、それに上乗せされる租税率(Cess)が15%に設定された。政府はメーカー各社にEV投入を促し、加速度をつけて普及を後押しする立場を明確にした。

インドでは、乗用車最大手マルチ・スズキが中型セダン「シアズ」と多目的車(MPV)「エルティガ」のマイルドHVを展開。トヨタ自動車が中型セダン「カムリ」、ホンダが中型セダン「アコード」のストロングHVを販売している。インド政府はエコカー政策に関して、HV技術よりEVに力点を置いていることから、各社はHV戦略を見直す必要が出てくる可能性もある。現に、韓国の現代自動車はインドへのHV投入を断念する検討を進めているとされる。

 

EV立国を目指すインド (下)

 


山内 優(やまうち・ゆう)

ジャーナリスト。滞印歴は3年。東京都内の私立大学文学部を卒業後、ベンチャー企業などを経て、インドへ渡る。日系メディアの記者として、主にインド経済情報を毎日発信している。インドに進出している日系企業にとどまらず、インド大手企業のトップへのインタビューを実現させるなど、精力的な取材を続ける。

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