EV立国を目指すインド (下)

EV立国を目指すインド (上)

 

EVの年間販売は2万台超 今後の課題はインフラ整備

 

最新のデータによると、EVの2015~2016年販売は前年比37・5%増の2万2000台だった。このうち2万台が二輪車で、四輪車は2000台にとどまった。政府は公道を走るEVの数を20

20年までに500万~600万台に増やす計画だが、遠い道のりと言えるだろう。
ただ、政府の意向を受け、メーカー各社は先行者利益を得ようと積極的だ。韓国の現代自動車は2019年下半期までに完全ノックダウン(CKD)方式でEVの生産を始める方針を表明している。スポーツタイプ多目的車(SUV)「コナ」かセダン「エラントラ」のEVとなる見通しだ。

ボルボは、世界的に2019年以降に発売するモデルを全てEVにすると発表しており、インドでもEVで存在感を強化していく考えだ。日産自動車もEV「リーフ」の試験走行をインドで実施すると表明。米テスラは2018年にも「モデル3」を投入すると目されている。

ただ、課題は山積している。国内には充電施設の配備が進んでおらず、EV関連のインフラ整備に1兆8000億ルピー(約3兆1650億円)規模の投資が必要との試算もある。

充電設備の設置では、官民がすでに動き出しているが、電力供給に関する認可制度など全国で統一された制度が乏しく、普及の足かせになっている。現時点で充電施設は500か所あるとされるが、デリーだけでも30万か所が必要との意見も出ており、インフラ整備がEV普及のボトルネックとなっている。
その中でも、インド政府は7月末にバンガロールを実験都市に選定し、EV先進都市に育てる方針を発表。25か所に充電設備を設置する計画だ。インド火力発電公社(NTPC)も首都ニューデリーと北部ウッタルプラデシュ州ノイダの自社ビルに充電設備を導入し、今後は他都市へ広げる計画を打ち出している。インド電力網公社(パワーグリッド)も充電インフラの整備に関心を示しているとされる。

民間企業もEV市場を商機と見て、インフラ整備に乗り出している。タタ・パワーは今年8月、西部マハラシュトラ州ムンバイでEV向け充電施設を設置した。

外資では、フィンランドの電力大手フォータムが10月、インド建設公社(NBCC)と充電設備の設置で覚書を交わしたと発表。第1弾として、デリーのNBCCの建物に設備を導入した。今後12~18か月で150か所以上に拡大する計画だ。

 

 

規制強化で売り上げが悪化する燃料車

 

インド政府がEVの販売を後押しする背景には、環境汚染への対策がある。インドの大気汚染レベルは世界最悪レベルと言われ、特にデリーでは年末年始にかけて悪化する傾向にある。微小粒子状物質「PM2・5」に長期間さらされたことが原因で死亡した人は2015年に109万人に上ったとされ、2016年11月にはPM2・5を含む大気質指数(AQI)が「999」を示し、計測不能なほど悪化した。

インド政府はその一因をディーゼル車の排気ガスとし、軽油を燃料とする車両の規制を強化してきた。最高裁判所は2015年12月、デリー首都圏(NCR)で、排気量2000ccのディーゼル車の新車登録を禁止した。翌年8月に小売価格の1%を環境税として課すことを条件に禁止を取り下げたものの、メーカー各社は今後もこのような規制強化が突然発表されることに懸念を抱く。SIAMは8か月にわたるディーゼル車禁止で、400億ルピー相当(約703億円)の販売機会が失われたと試算している。

インド政府は、独自の排ガス規制の強化も進めている。インドでは、欧州の「ユーロ」に相当する「バーラト・ステージ(BS)」が基準とされている。
インドでは1991年にガソリン車を対象に排ガス規制が導入されたことが始まりだ。翌年にディーゼル車の規制も導入された。2000年には乗用車と商用車に「ユーロ1」に相当する規制が採用され、翌年に「BS2(ユーロ2)」が大都市で適用された。2005年4月、四輪車に13都市限定で「BS3」に規制が強化。2010年4月に同13都市で「BS4」となり、2017年4月から全国規模でBS4への対応が義務付けられた。

政府は当初、「BS5」を2020~2021年度、「BS6」を2024年と、段階的に引き上げていく予定だった。しかし、2016年1月に突如方針を変更し、BS5を飛ばして2020年4月に全車種へBS6への準拠を義務付けた。メーカー各社は新しい技術の開発を前倒しする必要が出てきた。BS6への準拠モデルは、現行モデルより乗用車で1台当たり2万~10万ルピー(約3万5000円~ 17 万5000円)、二輪車で5000~6000(約8800円~1万円)ルピー価格が上がるとされ、一時的な需要後退も懸念される。

 

インドの乗用車市場は2020年に世界第3位に

2016~2017年度の乗用車販売台数は前年度比9・23%増の304万6727台と、初めて300万台を超えた。2017年4~9月期も前年同期比9・16%増の163万945台と順調に伸びている。現在のところ、世界第5位の規模だが、自動車業界の専門家らは2020年には年間販売台数が500万台に達し、現在第4位のドイツと第3位の日本を抜いて、インドが世界第3位に浮上すると予測している。

インド市場の有望性を見込んで、各自動車メーカーは新規参入や追加投資を発表している。代表的なのが、インドで販売トップを走るマルチ・スズキを傘下に持つスズキのグジャラート州工場の稼働だ。
同工場は2017年2月に稼働した。年産能力は25万台。スズキの100%子会社スズキ・モーター・グジャラート(SMG)が操業している。現在は第2工場の建設工事を進めているほか、第3工場の設置も予定している。3工場合わせて生産能力は75万台に上る見通し。スズキは現在、北部ハリヤナ州でグルガオン工場とマネサール工場を操業しているが、フル生産が続いている。2020年までにインド全体で200万台の生産体制を築く方針だ。

スズキの動きに追随する形で、自動車部品の各メーカーは相次ぎ、新工場の設置や増産を発表している。マフラーの製造・販売を手掛けるフタバ産業(愛知県岡崎市)がグジャラート州で生産子会社を設立したほか、エアバッグの東レが約20億円で新工場を設立。豊田合成(愛知県清須市)も約7億ルピー(約12億3000万円)でエアバッグの新工場を設置する。旭硝子のインド関連会社、旭インディア硝子は、グジャラート州の工場を50億ルピー(約88億円)で増強する。

さらに、光生アルミニューム工業(愛知県豊田市)は、国内3か所目の工場をグジャラート州に建設する。地場自動車部品大手との合弁会社を通じて運営する。住友商事子会社のブレーキ部品メーカー、キリウ(栃木県足利市)も、国内2工場目を同州で稼働。車載電装品や情報通信機器などを手掛けるASTI(浜松市)も国内2工場目の計画を進めている。

スズキだけではない。中国の自動車大手、上海汽車集団(SAIC)傘下の英系MGモーター・インディアが2019年からグジャラート州での生産開始を予定している。
同社は、2017年5月にインド市場からの撤退を表明した米ゼネラル・モーターズ(GM)が同州ハロルで操業していた工場を取得。200億ルピー(約352億円)を投じて設備を刷新する考えで、当初の年産能力は8万台となる見通しだ。

インドの乗用車市場で2位のシェアを誇る韓国・現代自動車傘下の起亜自動車も2017年4月にインド参入を発表した。11億米ドルを投じ、南部アンドラプラデシュ州アナンタプールに工場を設置する。年産台数は30万台を見込み、2019年下期に生産を開始する予定だ。小型セダンと小型SUVを販売すると見られている。

インドの自動車産業は2020年までに世界第3位に浮上するとされ、政府は2030年に国内で販売される車両を全てEVに切り替えると宣言している。従来の燃料車の市場も拡大基調が続き、平行してEV市場の拡大も必須だ。排ガス規制の強化や、EV関連のインフラ整備が懸念事項として指摘されているものの、自動車メーカーの進出や追加投資に伴い部品メーカーの投資も相次いでいる。今後も自動車産業がインドの経済成長の中核である続けることは必須と言えるだろう。

 


山内 優(やまうち・ゆう)

ジャーナリスト。滞印歴は3年。東京都内の私立大学文学部を卒業後、ベンチャー企業などを経て、インドへ渡る。日系メディアの記者として、主にインド経済情報を毎日発信している。インドに進出している日系企業にとどまらず、インド大手企業のトップへのインタビューを実現させるなど、精力的な取材を続ける。

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