ASEANビジネス投資サミットがシンガポールで開催

ASEANビジネス投資サミットがシンガポールで開催

JETROがジャパン・パビリオンを開設

 

日本の最先端技術を応用した各種の新ビジネスを東南アジアで今後いかに展開していくかが問われる中、2018年11月にシンガポールで「東南アジア諸国連合(ASEAN)ビジネス投資サミット(ABIS)2018」が開催された。

日本企業と現地企業の懸け橋役を務めるJETRO(ジェトロ=日本貿易振興機構)シンガポール事務所はABIS2018に「ジャパン・パビリオン」を開設し、日本企業がブースでその潜在力をアピールした。ブースを設けたのはJETROによる「日本ASEAN新産業創出実証事業」に公募して選ばれた18社のうちの11社だった。このうち6社はパネル展示のみだが、5社は自社スタッフを派遣して、技術に関心を抱くASEAN各国のビジネスマンに説明やプレゼンを積極的に行なっていた。明日の日本とASEANを結びつける可能性が高いこの実証事業とABIS2018を報告する。

現地企業と共同事業を進める日本企業に資金を支援

シンガポールの「サンズ・エキスポ&コンベンションセンター」で2018年11月12日、13日の両日、東南アジア諸国連合(ASEAN)の「ビジネス投資サミット2018」(ABIS2018)が開催された。JETROシンガポール事務所(石井淳子所長)はABIS2018 に日本企業11社(6社はパネル参加のみ)が参加する「ジャパン・パビリオン」を設置して、日本企業とその先進的取り組み、技術を紹介した。

参加した日本企業はいずれもJETROが実施している「日本ASEAN新産業創出実証事業」に応募・審査を経て選ばれたベンチャー企業などで、その意欲的な企業マインドと洗練された最先端技術・システムを東南アジアに売り込み、今後の展開につなげるという目的での参加となった。

このJETROの「日本ASEAN新産業創出実証事業」というのは「デジタル、ヘルスケア、IOT(モノのインターネット)、サービスなどの新産業分野で、日本の企業とASEANの企業との協働による製品・サービスの開発や実証・評価などの取り組みの実現可能性、さらに規制改革や制度整備などの事業展開に関する課題点を探ること」を目的としている。

2017年から3回に分けて参加する日本企業を公募、選ばれた18社の日本企業に対し、資金を支援するというものだ。実証事業に選ばれた日本の企業はASEAN各国で現地企業とタイアップして実証事業を進め、2019年の1月ごろをめどに成果を報告し、今後2~3年の将来ビジネスを展望することになっている。

今回の「ABIS 2018」の「ジャパン・パビリオン」に参加した日本企業のうち、先進技術・システムで今後、東南アジアでのビジネス展開が特に有望と見られている3社を取り上げる。

 

インターネットの先駆 IIJがタイで養殖事業

「インターネット・イニシアティブ・ジャパン(IIJ)」は1992年12月に設立された東京都千代田区富士見の企業で、「全ての人のためにインターネットを真の社会的インフラに」を掲げている。
日本の企業として最初にインターネットサービスをプロバイダーとして開始した先駆的会社でもあるIIJは、その得意分野であるIOT技術を活用して、タイでエビ養殖池の水質環境を監視する実証事業を行なっている。

養殖エビの生産量は2016年には中国が38%とトップを占め、インドネシア、ベトナムと続き、タイは6位となっているが、2013年当時は日本が輸入するエビはタイ産がトップだった。これはこの間に養殖エビが稚エビの状態の時に死亡する「急性死亡症候群(EMS)」への感染がタイで拡大、生産量が50%減少した影響と言われている。こうした感染症の流行から、養殖池の水質管理はタイで大きな課題となっていたという背景がある。

こうした中、IIJはタイ大手の水産加工業者がタイ南部に所有するバナメイエビの養殖池で、水温、酸素、水素イオン濃度、アンモニウムイオン、亜硝酸イオンなどの水質データを監視する実証事業に乗り出した。

同時に養殖池で働く従業員の作業内容と水質環境の相関関係をデータ化して、その相関関係を探ることも実施している。

その結果として、適切な水質環境を保つことで従業員の作業効率が上がり、ひいては生産量の増加につながることになるという。

「ジャパン・パビリオン」のIIJブースでは、日本から参加のグローバル事業本部グルーバル事業開発室担当部長の大谷壮史氏と同室シニアプロジェクト・マネージャーの文園純一郎氏がASEAN各国からのビジネス関係者の応対にあたり、IIJのタイでの実証事業をパンフレットや画像を使って丁寧に説明していた。

大谷氏は「IT企業であるIIJがなぜエビの養殖、と疑問を抱く方も多いと思います。しかし、クラウドを生かすことでそれなりの市場規模が見込めるのが水産業、タイではそれがエビであり、養殖を通じて、IIJ社のサービスを提供でき、その結果として安定的な経営を実現する可能性があるのです」と話す。

海産物の養殖事業に関しては「日本での市場は今後そう大きくは伸びないと思われているが、ASEANは重要な市場で参入のハードルも低い。今後タイ以外での事業も視野に入れていきたい」とASEAN各国での水産物の養殖事業に強い関心を示した。

IIJのブースに設置されたプレゼン用のテレビモニターには、タイでのエビ養殖事業を分かりやすく、そして一目で理解してもらおうと、エビのイラストで描いた社名「IIJ」のロゴが大きく映し出されて、同社ブースの前を通り過ぎるASEAN関係者も思わず足を止めるなど効果抜群で、奇抜なアイデアが光っていた。

インドネシアで物流革命を起こすオープンロジ

オープンロジ社は「物流の未来を、動かす」「物流をもっと簡単:シンプルに」をコンセプトとする倉庫会社をネットワーク化して、倉庫管理をカスタマイズする専門企業(豊島区東池袋)で、創立は2013年12月。

倉庫会社のネットワーク化とは、倉庫が非稼働である時間、さらに遊休スペースなどを有効に活用することを目指して、「低価格な物流のアウトソーシングを提供」するというものだ。

オープンロジ社は、このアウトソーシングを事業として、インドネシアの大手ECモールなどと提携して、倉庫管理や運用の効率化を促進するという実証事業を行なっている。

同社の執行役員アウトソーシング事業統括の相澤景介氏は、インドネシアの市場としての魅力について、「何といっても、人口が2億5000万人で今後Eコマースの重要は間違いなく伸びてくるというポテンシャルがある」と指摘し、それが実証事業でインドネシアを対象に選んだ理由にもほかならないという。

インドネシアでは、在庫を抱える荷主が「出荷の管理が面倒である」「企業規模が小さくて外部に依頼しにくい」などの課題に直面していた。こうしたインドネシアの会社を対象に倉庫管理のカスタマイズとネットワーク化を進めてきた。対象となった会社は、アパレル、靴、ヒジャブ(イスラム教徒の女性が頭部を覆う布)などで、いずれも在庫管理の適正化で物量を増やしたいとの希望を持っていたという。

つまり日本とインドネシアの需要と供給のニーズが見事にマッチした結果として、オープンロジによるインドネシアでの実証事業となったわけで、好例としてJETROも今後に期待を寄せている。

画期的な車両遠隔制御システムに注目が集まる

「グルーバル・モビリティー・サービス(GMS)」社=東京都港区芝大門=は車両に独自に開発したデバイスを装着することで、その車両を遠隔制御する技術で新たなビジネス市場を開拓している。
この装置はどのような車両にも装着可能な「MCCS」と呼ばれる遠隔制御システムで、同社はすでに、日本、フィリピン、カンボジア、インドネシアで事業を展開している。

特にフィリピンでは、3輪タクシー(トライシクル)の仕事に携わるフィリピン人で、資金不足から自分で車両を購入できない、金融機関とローンを組むことも難しいという人を対象にMCCSを装着した車両を供与し、月々の売り上げから一定額の車両費を返済してもらう方式をとっている。

たとえば、ある月の支払い、銀行振り込みが確認できない場合、MCCSによる遠隔制御でその車両はエンジンがかからなくなり、仕事ができなくなる、というシステムである。

遠隔装置を取り外そうとしたり、装置の配線を切断したり、車両を遠隔地に移動したりすれば、エンジンが始動しないばかりか、取り外そうとしているとの信号が送られ、位置情報もGPS機能で把握できることから、機械的、あるいは物理的な「不正」をする余地は全くないという。

滞った支払いが遅れてでも、支払いが新たに確認できれば「最短で1秒でエンジンが再始動することが可能になる」という。

GMSでは、この遠隔制御システムをJETROの実証事業でフィリピンの金融グループや大手インフラ企業と組んで4輪車のタクシーに拡大した。

GMSのCEO室、川嵜慎太郎氏は「フィリピンではボロボロの車を使わざるをえない状況があるなかで、新たに仕事をしようという人には新車を提供している。既存の金融機関が購入資金を貸せないような人も家庭訪問などをして審査するが、審査はあまり厳しくしないようにしている」と話す。

GMSのブースを佐藤百合JETRO理事の案内で視察に訪れた世耕弘成・経済産業相は川崎氏のMCCSシステムに関する説明に大きくうなずきながら聞き入り、「素晴らしいアイデアですね。日本でも自動車ローンの返済対象車にこの装置を取り付けて、ローン返済が滞ったら、エンジンがかからずに車庫から出られないようにする、などということに応用できますね」と笑顔で応じるなど関心を示した。
世耕通産相は短時間のジャパン・パビリオン視察だったが、日本の先端技術の一端に触れることで、東南アジアにおいて今後、日本企業が新たなビジネス展開をする潜在力を感じたようで、「海外との交渉事で困ったことがあれば、遠慮なく私に連絡してください」と終始和やかでご機嫌な様子だった。

 

東南アジア各国の首脳らも講演

ABIS2018ではその後に続いて開催されるASEAN首脳会議に出席するためにシンガポール入りしていたASEAN加盟国の首脳が相次いで登壇して講演、自国の経済状況を説明して、各国からの投資・企業進出などの促進を図るトップセールスを行なった。

開催国のシンガポールからはリー・シェンロン首相が参加企業や各国首脳に対する歓迎の意とASEANの市場としての魅力を説明。

これを受ける形で、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相、タイのプラユット首相、マレーシアのマハティール首相が、それぞれ基調講演を行なったほか、日本の世耕弘成・経済産業相が特別講演者としてステージに上がった。

スー・チー顧問は「国内にミャンマー投資委員会(MIC)ができており、この一つの窓口だけで手続きが済むように、よりスムーズな投資受け入れに努めている」と、政府を挙げて海外からの投資誘致に積極的に取り組んでいる姿勢を強調した。さらに「人材より優れた資源はない」として、ミャンマーの特に人材育成のための投資を広く呼びかけることも忘れなかった。

マハティール首相はマレーシアが各国からの投資に相応しい経済状況にあることを強調しながらも、深刻化していた米中の貿易摩擦に触れて、「保護主義はASEAN地域にもドミノ現象のように影響を与えかねない」と懸念を表明した。その上で「保護主義の台頭や自国優先主義の復活、内向きな政策はじわじわとASEANにも影響を与え始めている。しかし今は扉を閉ざす時ではなく、むしろ積極的に解決の道筋を探る時である。そのためにもASEANは対話をさらに密にして、ASEANの経済統合を促進しなければならない」と述べ、改めてASEANの結束を呼びかけた。

タイのプラユット首相は「ASEANの経済発展は加盟各国の政治・経済・文化など、あらゆる面を強化することになる。タイは事業に関する煩雑で数多い手続きや許認可に関してその簡素化を進めている。2020年までに10%削減を目標にして、ビジネスコストの削減を実現し、世界レベルの貿易国を目指している」とタイの魅力を売り込んだ。

ABIS2018にはASEAN各国も力を入れており、それぞれブースを設けて投資促進に力を入れていた。フィリピンのブースにはラモン・ロペス貿易相が直接訪れて、フィリピン人スタッフたちと意見交換をしながら、投資先、企業進出先としてのフィリピンの魅力を説明していた。

ベトナムはダナン市が単独でブースを設置、ダナン市投資促進支援委員会からプロジェクト開発部ジャパンデスクの日本語が堪能な職員を派遣して、日本人ビジネスマンへのPRに努めるなど精力的な活動をしていたのが目立った。ジャパンデスクのフィン・ティ・マイ・ラムさんは民族衣装のアオザイ姿で「若く有能な労働人口、ビジネス環境に即したインフラ、投資やビジネスに関する手続きの迅速化・簡素化の実現、ベトナムで有数なレベルの生活環境と好条件が整っている」と、ダナンが活発で魅力あふれる投資先であることを日本語で一生懸命売り込んでいた。

ラオスのブースでは、国際市場ではまだ珍しいとされるラオス産のコーヒーなどの商品を展示、即売するなどASEAN各国もそれぞれの特徴を活かしたPRとセールスを展開していた。

 

ジェトロが描く東南アジアでの日本企業展開

ABIS2018 では、各国首脳による基調講演のほかに各種のパネルディスカッションも行なわれた。このうち「スマートシティーと持続可能な都市開発」をテーマにした討議には、日本からは富士通の公共・地域営業グループ、グローバルビジネス統括部、ソリューション推進部の藤本太郎氏(工学博士)が参加した。

「各都市におけるインフラの成熟度に関する基準を国際基準として、そのレベルと分野を5段階で評価することが必要だ」と、ASEANの各都市でのインフラの評価基準を同一基準とすることで、同じ尺度で比較検討することができると強調。そうした基準の国際化がASEANでのこれからのビジネスチャンスを拡大することになると持論を展開した。

また、「幅広く多様な機会に満ちたASEAN地域にいかに関与し、協働するべきか」をテーマにしたシンポジウムには、英国、米国、ニュージーランド、ロシアなどASEAN以外からの多彩な顔ぶれに交じって、日本からは佐藤百合JETRO理事が和服姿で参加。

「将来の日本ASEANを見据えた革新的な協力が必要になる」としたうえで、一例として「災害マネージメント」を挙げた。JETROではクラウドを通じたプロジェクトで河川などの水量モニターを「防災対策」の一環として実施していることなどを示しながら、日本、JETROが果すべき役割を強調して熱い議論を展開し、会場から大きな拍手を浴びていた。

今回の「新産業創出実証事業」では、日本企業とASEANの企業が提携するためにJETROでは企業同士の「マッチング」「ミートアップ」や理解を深める「シンポジウム」、さらにスタートアップ企業などが主に資金調達を目指して投資家らに自社のサービス・製品を短時間でプレゼンする「ピッチイベント」など各種イベントを企画して企業同士の情報交換や交流の機会を提供している。
2017年にはタイで「バンコク・エンバシー・ピッチ(7月)」、インドネシアで「ナビゲート・ジャカルタ」(9月)、フィリピン・マニラで「ASEAN日本フェア」(11月)、マレーシアで「ナビゲーション・クアラルンプール」(12月)を開催。

2018年はベトナムで「ナビゲート・ハノイ」(1月)、インドネシアで「インドネシア日本イノベーション・ミートアップ」(5月)、いずれも東京で「スタートアップからみるASEANの今」(9月)、「メコン日本ビジネス・ミートアップ」(10月)、そして11月のABIS2018でのジャパン・パビリオン設置と国境を越えたビジネス連携の促進、日本企業の市場獲得を積極的に支援している。

日本からABIS2018 のためにシンガポールを訪れたJETROビジネス展開支援部途上国ビジネス開発課アジア支援班の佐藤公美子課長代理によると、ジャパン・パビリオンは2017年のABIS(マニラ)に続いて今回が2回目となるという。実証事業に参加する日本企業に関しては「新たな産業分野で、ASEANと協力し貢献できる企業で、近い将来ASEANの企業と事業を始めることができる可能性がある企業を選んだ」と説明する。

ASEANは人口6億3000万人を擁する巨大市場であり、世界第6位の経済圏である。2030年には、米国、中国、EU(欧州連合)に次ぐ第4位に成長する見込みといわれるほど成長は著しい。2011年から2016年のASEAN全体のGDP(国内総生産)成長率は5・1%で、ASEANへの直接投資額は2017年には1400億米ドルの規模となっている。

さらに、ASEAN全体でのインターネット利用者の数は3億3000万人で、モバイルインターネットを使用する時間は1日平均で1人3・6時間となるなど、急速にネット社会化が進んでいるのもASEANだ。こうした数字からもASEANが今後の日本にとっても国際社会全体にとっても重要で魅力ある市場であることは歴然としている。日本企業がASEANでこれまでのビジネスをより効率化・深化させると同時に新規のビジネスを展開することが、日本企業だけでなく、日本経済にとっても鍵となると言えるだろう。そのための支援をJETROは惜しまない。

 

大塚智彦(おおつか・ともひこ)
ジャーナリスト

Pan Asia News所属。毎日新聞社ジャカルタ特派員、産経新聞社シンガポール特派員などを経て、2014年からPan Asia Newsの記者兼カメラマンとして東南アジアを中心に取材活動を続けている。現在、インドネシアの首都ジャカルタに在住。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、「ジャカルタ報道2000日──民主国家への道」(小学館)がある。

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