アジアの本はこう読め!

第10回 日本の労働社会は世界の非常識

基本給だけでは暮らせないニッポンは貧しい「低国」である

 

貧乏人は死ぬまで働け⁉

政府による働き方改革なるものが進行中だ。1億総活躍社会を実現するための改革らしいが、はっきり言って活躍なんかしたくない。のんびり暮らしたいだけだ。ブラック企業や過労死が問題になっている昨今、長時間労働でくたくたになって人生オサラバなんてのはまっぴらごめんではないか。岡林信康の歌ではないが、「俺らいち抜けた」なのである。

もっとも働かなければ食ってはいけぬのが資本主義社会のオキテであって、有り余る資産で夢のリタイア生活なんてのは現実問題としてごくごく一部の人間たちにしかできないことだろう。貧乏人は死ぬまで労働せねば生きてはいけぬのである。

 

残業しないと生活できない日本人

常見陽平という労働社会学者が書いた『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)を興味深く読んだ。日本の働く現場で残業がなくならないのは、はたして外国人が指摘するように日本人の働き方の非効率性から来るものなのか。それとも企業による長時間労働の押し付けが問題なのか。う~ん、どっちもだよなあ、と頭を抱えていたところに、常見陽平は一つの回答を出してくる。

それは日本社会のシステムの問題だと。つまり、日本の労働社会は残業がないと成り立っていかないというのだ。企業は基本給を安く抑え、残業せざるを得ないよう労働者に強いることで目標を達成する。労働者は労働者で基本給だけでは暮らせないからと、積極的、あるいはイヤイヤでも残業を求めるといった仕組みが、社会全体として出来あがっているというのである。つまり、残業は持ちつ持たれつ。企業も労働者も必要としているのだ。だから日本から残業はなくならない。サービス残業だって、喜んでいただきま~す! の社会である。

 

日本が目指すべきはデンマークである

対極にある国がデンマークだ。残業のない国である。それどころか世界一労働時間が短くて、教育費医療費が完全無償化されている国。ゴミ回収の仕事をしている労働者も金融関係のパワーエリートも賃金格差はほとんどなし。世界一国民が幸福だと自他ともに認める国である。

そんな国の内部事情を教えてくれるのが『幸せってなんだっけ?』(CCCメディアハウス)という一冊。書いたのは、夫の転職でロンドンからデンマークの片田舎に引っ越したイギリス人女性ジャーナリスト、ヘレン・ラッセル33歳。毎日の残業3時間というロンドン暮らしから、午後4時にはほとんどの会社が終業してしまうというデンマークに引っ越した彼女の戸惑いぶりが笑える面白本だ。

たとえばフリーランスのライターとして家で仕事を始めたのに、午後4時を過ぎた頃になると、夫が仕事を終えて帰ってきてしまうのである。あげくに酒を飲んで犬と大騒ぎ。仕事にも何もなりはしない。だからと夫に合わせて自分も仕事時間を短縮するが、今度はヒマ過ぎて何もすることがない。ひょっとしてデンマーク人も暇を持て余しているのかと探ってみると、大学のサークル活動みたいな余暇サークルで大忙しだそうだ。

さらに暇が有り余っているからか、既婚者の浮気率は相当に高くて、夫も妻も他人さまとオサカンに楽しくベッド・イン。結果として離婚率も高く、だからと言って嘆くでもなく、現役女性大臣自ら「結婚が1度なんでつまらないじゃない」とおっしゃる。これはもともとからの国民性なのか。それとも世界一の社会福祉制度が生み出した異常生態なのか。はっきり言って同じく幸福で名高いブータン国民にはない生態だ。

まあどっちだっていいが、うらやましい。貧しくてものんびりしたい。ヒマ過ぎて他人妻とどうにかなりたい。

安倍晋三君よ、これ以上日本国民を働かせるな! 目指すは日本デンマーク化だぜ‼

 


黒田信一(くろだ・しんいち)

フリーライター

1955年北海道生まれ。札幌で映画会社に勤務していた時、同僚たちと映画館建設を決定。苦闘の末、1982年、札幌に48席のJABB 70 HALLをオープン。映画館経営の傍ら映画雑誌『BANZAI まがじん』を創刊し編集長に。1992年、映画館を閉館、雑誌も廃刊。ライターに転向してアジアを中心にうろつく。2004年、ラオスでカフェを開業。2007 年に閉店し帰国、ライター業に復帰する。スポーツから雑記まで幅広く執筆。本の雑誌別冊『文庫王国』のノンフィクション部門や北海道新聞の新刊書評なども担当。主な著作には、『カフェビエンチャン大作戦』(本の雑誌社)『アジア大バカ珍道中』(情報センター出版局)『ア ジアバカうまレシピ』(情報センター出版 局)『インド人、大東京をゆく!―なんと、アジアで最も熱い都市が日本のなかにあった』(青春出版社)『ルチャリブレがゆく』(講 談社文庫)『突撃!グフフ映画団』(講談社文庫)などがある。

 

 

 

 

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