アジアの本はこう読め!

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第11回 絶望の国の不幸な中年たち

今や経済大国からビンボー国となってしまったニッポン低国。
海外に行けるのは金持ちだけになる日も近い。

日本とアジアの関係は完全に逆転した

昨今、アジア圏から来ている観光客の姿がやたらと目に付く。これまでも数多く来日していた中国人や韓国人だけではない。タイ、マレーシア、シンガポールなど東南アジアからの観光客も劇的に増えているのだ。

観光ビザの発給緩和を含めた宣伝努力の結果だと政府は胸を張る。確かにそれもあるだろう。加えてLCC(格安航空会社)の日本乗り入れによって航空運賃が安くなったこともあるに違いない。

だが、それだけなのか?

もっとも大きいのは日本の物価が他国と比べ、総じて安くなっているからではないのか。

いや。安くなっているというよりも、他国の人々が日本国内の物価を安く感じるようになったことが大きな要因ではないのか。

なぜか。簡単だ。外国、とくにアジア圏の人々が日本人よりも金持ちになったからだ。

そう。いまや日本人は貧乏人でも海外に出ると金持ちに思われるというのはムカシムカシのお話なのだ。日本人は総じてホンモノの貧乏人になったのである。とくに「中流」などと自称他称していた人々の経済的没落ぶりは激しくて、中国人たちに「そんな安い給料・時給でよくやってるよね」と口にされるほど。

ワシらはみんな貧乏人! 自覚してないけど。

 

企業はますます太り労働者はどんどん痩せていく

小林美紀が書いた『ルポ 中年フリーター』(NHK出版新書)には、貧乏人となった現代日本人の喘ぎと溜息がたっぷりと報告されている。3つのアルバイトで妻と子供を養う43歳の男性。妻は幼い子供の世話で手いっぱい。子どもを保育所に預けて働きに出たこともあったが、働いた給料はまるまる保育代に消えてしまい、何のために働いているのか分からなくなってしまって、子育て専念に切り替えたのだという。

妊娠したことで勤務シフトに入れないと解雇された41歳の女性もいる。手取り17万円で地方医療を支える37歳の臨時公務員もいる。皆、ボーナスもなく、昇給はごくわずかか、なし。退職金は出ない。突然の解雇は当たり前。見えてくるのは非正規雇用という罠にはまった結果、貧困から抜け出せなくなった人々の悲惨な現状だ。

現在働き盛りといわれる35歳~54歳の中年族は、非正規雇用が最も多い年代層なのだという。フレキシブルな働き方を求めての結果などではない。バブル崩壊とリーマン・ショックの影響による就職難をまともに受けて、大学卒業時に新卒採用されないまま非正規雇用の泥沼に入り込んだ人々だ。さらに簡単に解雇ができる非正規雇用の甘い味を企業は覚えた。正規雇用の差し控え。結果として、日本の中年労働者の多くは非正規雇用の貧乏人になってしまったのだと著者の小林美紀は断じる。非正規雇用者の可処分所得は極端に低い。働き盛りが収入の盛りにつながらず、消費に回す金などないのが現実だ。

これは日本だけのことなのかと目を転じると、どうやらイギリスでも同様のことが起こっているらしい。イギリス人の夫を持ち、イギリスの小さな保育園で働いているプレイディみかこが書いた『労働者階級の反乱』(光文社新書)を読むと、非正規雇用が蔓延した末の労働者階級の生活困窮が労働現場で競合する外国人労働者排斥へとつながり、EU離脱を招いたのだという。EU離脱は単なる右傾化うんぬんではなく、生活の困窮だったのだ。そのことは現在のパリでの労働者デモにもつながっている。

ではこのまま日本の貧民中年層が老後に突入したらどうなるのか。林美保子著『ルポ 難民化する老人たち』(イースト新書)を読んでほしい。新年早々暗い気持ちになるかもしれないが、老後に待っているのは生活苦の無間地獄。これもまた現在の日本の現実なのだ。

 


黒田信一(くろだ・しんいち)

フリーライター

1955年北海道生まれ。札幌で映画会社に勤務していた時、同僚たちと映画館建設を決定。苦闘の末、1982年、札幌に48席のJABB 70 HALLをオープン。映画館経営の傍ら映画雑誌『BANZAI まがじん』を創刊し編集長に。1992年、映画館を閉館、雑誌も廃刊。ライターに転向してアジアを中心にうろつく。2004年、ラオスでカフェを開業。2007 年に閉店し帰国、ライター業に復帰する。スポーツから雑記まで幅広く執筆。本の雑誌別冊『文庫王国』のノンフィクション部門や北海道新聞の新刊書評なども担当。主な著作には、『カフェビエンチャン大作戦』(本の雑誌社)『アジア大バカ珍道中』(情報センター出版局)『ア ジアバカうまレシピ』(情報センター出版 局)『インド人、大東京をゆく!―なんと、アジアで最も熱い都市が日本のなかにあった』(青春出版社)『ルチャリブレがゆく』(講 談社文庫)『突撃!グフフ映画団』(講談社文庫)などがある。