アジアの本はこう読め!

第2回 日本人も捨てたもんじゃない

 

華僑の故国・中国で徒手空拳・独立独歩で稼いでいる「倭僑」たち。日本人の逆襲が始まった──。

生きる場所は「世界」である

日本人が海外で働き、暮らす場合、男なら圧倒的に会社を背負ってというのが多いだろう。しかも意志に関係なく、会社の意向で赴任させられたという立場だ。女なら結婚か。旦那の故国についていく。

 

しかしこれが外国人、とくに中国人ともなると、不法就労も含めて個人として徒手空拳・独立独歩で稼ぎに出るというのが一般的ではないかと思うのは、ラーメン屋やコンビニの店員を見ればわかることで、わたしの友人の上海人も居酒屋の店員からはじめて日本の大学院に入り、大手企業に就職してから東京で独立起業したクチだ。

 

華僑である。金を稼ぐことができる場所なら国は関係なし。しかも会社という組織に使われるのではなく、最終的にその国で会社を興し、トップとして人を使い儲けるというのが基本。故国に帰ろうなんて意識はさらさらない。生きる場所は「世界」である。華僑おそるべし。

 

しかし、だ。日本人にも少ないながら徒手空拳・独立独歩で海外に出て働き、暮らす人間がいる。場所は中国。人はそんな彼らのことを「倭僑」と呼んでいるらしい。中国広東省に留学経験のあるノン フィクション作家の安田峰敏が書いた『和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人』(角川書店)を読むと、新宿歌舞伎町にたむろする中国人も顔負けの怪しくてぶっ飛んだ「倭僑」が出てきて、そのバイタリティーに、こりゃあ日 本人も捨てたもんじゃないと思わされてしまうはずだ。どんな日本人か。

 

中国は日本よりも自由?

まずは雲南省昆明の奥地にある少数民族村で暮らしている30代の青年。高校卒業後の中国旅行中に少数民族のイ族女性と知り合い結婚。そのまま女性の実家で農民として暮らしているのだという。

 

「自由で暮らしやすいですよ」

 

などと、彼は自由なきはずの共産主義独裁国家で暮らす人間とは思えない言葉を発するのだが、読んでいくと言葉の裏にある日本社会のいびつさが浮き彫りになって、なるほどと納得する。それはまた中国だけではなく海外で働き暮らしたことのある、または暮らしている人間の実感ではないのか。わたしもド田舎共産主義国家ラオスで飲食店を立ち上げ暮らしたことがあるが、日本よりユルくて自由で楽しかったもんな、と実感。

 

しかし中国の奥地で農民をやるという、この青年の選択はさすがにマネできないが(ラオスのビエンチャン郊外にも村の女性と結婚して農民やってる日本人のオジサンがいたけど、彼も結構楽しそうだったなあと、いま思えばの話)。

 

日本では生きられない怪しい日本人たち

上海でヤクザ組織を作った老人もいる。もともとは日本の暴力団幹部。それが嫁さんの出身地上海に移り住み、知り合った日系企業や個人商店オーナーに借金取り立てや安全保障をしてほしいと頼まれてのヤクザ稼業。義弟が地元公安の幹部だから、殺し以外は何をやってもいいとのお墨付きまであるらしい。すごい!

 

さらにマカオで日本を行き来しながら風俗嬢をやってた女性やら、そのマカオでカジノを買い取ろうと画策している謎の日本人富豪やらが登場。おいおい、日本人もやるじゃないか、と小心者は拍手喝采だ。

 

この本には、中国で大きな組織を背負いながら働いている正しい日本人ビジネスマンが出会わないだろう怪しい日本人たちが続々と登場する。一方で上海の日本人村に引きこもる駐在員たちの姿を描きだしたりもする。浮き彫りになるのは、異文化にさらされた日本人の裸の精神と一筋縄ではいかない中国社会の混沌だ。日本人とは何か、中国とは何かを描いた一級のノンフィクションとして。あるいは中国で働く日本人たちが知らない中国を知るための裏ビジネス書としても読める面白本である。

 

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黒田信一(くろだ・しんいち)

フリーライター

1955年北海道生まれ。札幌で映画会社に勤務していた時、同僚たちと映画館建設を決定。苦闘の末、1982年、札幌に48席のJABB 70 HALLをオープン。映画館経営の傍ら映画雑誌『BANZAI まがじん』を創刊し編集長に。1992年、映画館を閉館、雑誌も廃刊。ライターに転向してアジアを中心にうろつく。2004年、ラオスでカフェを開業。2007 年に閉店し帰国、ライター業に復帰する。スポーツから雑記まで幅広く執筆。本の雑誌別冊『文庫王国』のノンフィクション部門や北海道新聞の新刊書評なども担当。主な著作には、『カフェビエンチャン大作戦』(本の雑誌社)『アジア大バカ珍道中』(情報センター出版局)『ア ジアバカうまレシピ』(情報センター出版 局)『インド人、大東京をゆく!―なんと、アジアで最も熱い都市が日本のなかにあった』(青春出版社)『ルチャリブレがゆく』(講 談社文庫)『突撃!グフフ映画団』(講談社文庫)などがある。

 

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