アジアの本はこう読め!

第3回 海賊版は悪なのか?

 

海賊版を取り締まれば締まるほど、コピーは広がり、世界はフラット化していく。

日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか

アジア海賊版文化

 

 

アジアで広がる海賊版文化

アジアの町をぶらつくと、海賊版の音楽CDやら映画DVDが正々堂々(?)と売られていて、知的財産権なんぞおかまいなしなんてのは周知の事実だ。これは何も今に始まったことではなくて、個人旅行者が集まるバンコクのカオサン・ロードでは1980年代から海賊版の音楽カセットテープがジャカジャカ売られていたし、同じく1980代の香港でも同様の光景が目撃されていた。

 

1990年代に入っても、勢いは衰えなかった。マレーシアのクアラルンプールの中華街やミャンマーのヤンゴン、ベトナムのホーチミンにある安宿街ファングラーオなどは海賊版の音楽カセット解放区になっていたし、CDやDVD時代に移行した2000年代も変わらずで、北京西単街のCDショップでは海賊版JポップCDが店先に堂々並んでいたものだ。

 

田舎国ラオスの首都ビエンチャンにも中国やタイ製の海賊版CDやDVDの専門店があって、JICA(国際協力機構)職員様を含めた地元在住外国人がいつもたむろしていた。黒澤明や小津安二郎などの名作ばかりか、半年前に封切られた日本映画の新作が1枚3米ドルで売られているのだから、娯楽がほとんどないビエンチャン在住者は買わずにいられようかというものだ。

 

もっともCDやDVD媒体を使っての海賊版音楽・映画の違法販売は、今ではネットの違法ダウンロードの世界に席を譲ってしまって、廃れてきた感じがしないでもないが、それでも商売として成り立っているのは、ネット環境が十分ではない国や地域があるためと、商品が音楽や映画だけでなく海賊版PCソフトにまで広がったせいもあるからだろう。

 

さらに世界で人気の日本の漫画も、地元言語に書き換えられて堂々とコピー印刷され、書店で売られ続けている。まさしくアジア諸国にとって海賊版の著作権侵害商品は、廃れることのない人気商品として定着していると言っても過言ではあるまい。

 

海賊版は世界とつながるためのツール

『アジア海賊版文化』(光文社新書)という面白い新書が出ている。アジア各地にはびこる海賊版音楽CDやDVDの販売が、アジア辺境地域恩文化をグローバル化しているという調査報告書だ。著者は土屋昌樹という文化人類学者。中国、ミャンマー、韓国でフィールドワークを重ねて、海賊版ハリウッド映画の売買が、見た人たちへの民主主義の浸透を促し、軍事独裁などで統制化された社会を解放する起爆剤になっているという現実を明らかにしていく。

 

海賊版は悪なので取り締まれというありがちな経済学的視点を外し、現地の経済状態に合わせた低価格で売買されていることが結果としてアメリカ=民主主義の賛美拡散につながり、発展途上国に住む人々と先進国に住む人々との意識の隔たりをなくしているというのだ。まさしく海賊版CDやDVDは、パソコンやスマホを買えない人々が世界とつながるための重要なネットワークツールだったのだ。

 

規制が強化されるほど違法コピーが広まる

しかし、アジア各国に広がった海賊版文化は、日本では決して広まることはなく、法規制が強化される一方だ。

 

情報学・文化交流史を専門とする山田奨治が書いた『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』(人文書院)を読むと、オタク文化の世界人気を踏まえて、日本の著作権法は今ではアメリカのそれよりも厳しくなっているのだそうだ。著作者の利益を守るといえば聞こえはいいが、その厳しい著作権法をむやみに国外に広げると、文化の伝播を阻害すると山田は警鐘を鳴らす。名を捨てて実を取る。利の先を見よ。日本流江戸の商法である。

 

とはいえ、規制は厳しくなるほど違法は広まり、世界はフラットになってゆく。海賊たちの暗躍は続きそうである。

 

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黒田信一(くろだ・しんいち)

フリーライター

1955年北海道生まれ。札幌で映画会社に勤務していた時、同僚たちと映画館建設を決定。苦闘の末、1982年、札幌に48席のJABB 70 HALLをオープン。映画館経営の傍ら映画雑誌『BANZAI まがじん』を創刊し編集長に。1992年、映画館を閉館、雑誌も廃刊。ライターに転向してアジアを中心にうろつく。2004年、ラオスでカフェを開業。2007 年に閉店し帰国、ライター業に復帰する。スポーツから雑記まで幅広く執筆。本の雑誌別冊『文庫王国』のノンフィクション部門や北海道新聞の新刊書評なども担当。主な著作には、『カフェビエンチャン大作戦』(本の雑誌社)『アジア大バカ珍道中』(情報センター出版局)『ア ジアバカうまレシピ』(情報センター出版 局)『インド人、大東京をゆく!―なんと、アジアで最も熱い都市が日本のなかにあった』(青春出版社)『ルチャリブレがゆく』(講 談社文庫)『突撃!グフフ映画団』(講談社文庫)などがある。

 

 

 

 

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