アジアの本はこう読め!

第8回 日本のモノ作り企業はなぜ海外に進出するのか

安い人件費を求めて国から国を漂流する

洋服の縫製工場の管理責任者に、なぜ日本のモノ作りの会社は海外に出ていくのかについて話を聞いたことがある。答えは次のようなものだった。

「製品単価が一銭でも安くなることをメーカーに求められているんだよ。円単位じゃなくて銭単位。だから人件費が安い国、安い国へとジプシーのように渡って行かざるを得ない。中国は人件費が高くてもうダメ。ベトナムもそう。だからラオスとかミャンマーとか。次のねらい目はインドかな」

通訳として日本の企業と中国企業の橋渡しをしている中国人の友人も言う。

中国は人件費が高騰してモノ作りは難しいよ。工場を中国に作って安い製品をなんていうのはムカシの話だよね」

ファストファッションをはじめとした安価で高品質商品の流通の裏には、人件費の安い国々へ競うように拡散していかざるを得ないモノ作り会社の現状がある。消費者は「安価」を求め、メーカーもまた安価を追及するからだ。結果として製造業は人件費が高くつく日本にいては成り立たない。ならばと政府もまた海外進出を後押しする。

 

研修生という名の労働移民

しかし人件費を抑えることを目的としての海外進出ではあるが、奴隷労働ではあるまいし、年が経てば労賃も上がる。となるとさらに労賃が安い国々を求めて移転移転が繰り返されることになるのは当たり前のことだろう。かくして海外進出という名のモノ作り会社の漂流は終わらない。日本を市場の中心とした製品であれば、そこに製品輸送費が絡むから、まさかアフリカ奥地に工場建設ということにはなるまいとは思うが、いやはやご苦労なことである。

だが人件費削減のため海外漂流に賭ける体力のある会社ならまだいい。それが無理な会社、あるいは業界はどうすればいいのか。考えた末にたどりついたのが、出ていけないなら、安い労働力を移入すればいいじゃんという方法。労働移民というやつである。日本の最低賃金で働いてもらえる労働者の移入だ。研修生という名前を付けて政府も後押し。これぞ国際化だってさ。いやいや市場が求めりゃなんでもありってことで。「新自由主義」がもたらした市場原理主義ってもんで。

国家は企業の経済活動に口を出すな!

で、市場原理主義とは何ぞやという話になる。国家が経済を管理することなく市場に任せる。儲けたいやつはとことん儲けろ。カネが回れば貧乏人もいなくなる。てな考え。オーストリアの経済学者フリードリヒ・ハイエクが唱えた経済学体系。いっぽうで20世紀資本主義をリードしたのがイギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズが唱えた政府による財政支出の増加と管理が市場を刺激するっちゅうもの。政府からの自由か政府主導か。この資本主義の二大勢力のせめぎあいの歴史を描いたのが『ケインズかハイエクか』(ニコラス・ワプショット著/新潮文庫)というノンフィクション。この読み物としても抜群に面白い一冊を読むと、20世紀資本主義世界を形作ってきた「国が統制しなけりゃダメだよケインズ主義」が、21世紀に入って「国は黙ってろハイエク流勝手に儲けろ主義」に変わってしまったのがよく理解できるはず。さらにハイエク流自由主義が猛威を振るうアジア諸国で人々の心と行動はどのように変わったのかを検証した『《アジア》、例外としての新自由主義)(アイファ・オング著/作品社)を読まれたい。日本のモノ作り企業が海外に出ていく理由がはっきりとわかるはずだ。

 


黒田信一(くろだ・しんいち)

フリーライター

1955年北海道生まれ。札幌で映画会社に勤務していた時、同僚たちと映画館建設を決定。苦闘の末、1982年、札幌に48席のJABB 70 HALLをオープン。映画館経営の傍ら映画雑誌『BANZAI まがじん』を創刊し編集長に。1992年、映画館を閉館、雑誌も廃刊。ライターに転向してアジアを中心にうろつく。2004年、ラオスでカフェを開業。2007 年に閉店し帰国、ライター業に復帰する。スポーツから雑記まで幅広く執筆。本の雑誌別冊『文庫王国』のノンフィクション部門や北海道新聞の新刊書評なども担当。主な著作には、『カフェビエンチャン大作戦』(本の雑誌社)『アジア大バカ珍道中』(情報センター出版局)『ア ジアバカうまレシピ』(情報センター出版 局)『インド人、大東京をゆく!―なんと、アジアで最も熱い都市が日本のなかにあった』(青春出版社)『ルチャリブレがゆく』(講 談社文庫)『突撃!グフフ映画団』(講談社文庫)などがある。

 

 

 

 

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