カフェから見るアジア Vol.11

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第11回  カフェを通して見ると上海の激しい変化がよく分かる

1990年代初頭の上海はコーヒーを飲むのにも苦労したが、
2019年の上海では手に入らないものは何もない。

 

街中で喫茶店を探すのには苦労した

1990年代初頭──。天安門事件の記憶もまだ生々しい感じの中国・上海のお話です。浦東の高層建築群は存在せず、外灘から眺める黄浦江の対岸はまだ野っ原でしたねぇ。薄汚れた煉瓦造りの建物が並ぶ通りには、石炭を燃やす焦げ臭い匂いが充満していました。

街を歩く人々の服装は貧乏臭く、中高年には人民服やゴム靴といった姿も珍しくありません。路上にはクルマも自転車が多かったです。ミニスカの娘たちが、無防備に股広げて、サドルを漕ぐ姿……。

いゃあ、古き良き時代でした。いまでは「ヨウスコウカワイルカ」と同様に、そういった眺めも絶滅状態です。

しかし、絶滅するものあれば、新たに生まれたものもあります。

たとえば、喫茶店。1990年代当時に上海でコーヒーを飲むのは苦労しました。高級ホテルの喫茶室でも、平然とインスタントコーヒーを出していた時代でしたから。街中で喫茶店を探すのは苦労します。

闇カジノのような怪しい雰囲気

コーヒーは依存症が強い嗜好品なようで、タバコと同様、飲めない状況になると、禁断症状が強まります。街中探して、やっと見つけた「珈琲」の看板……店は薄暗い階段を登った2階。ドアを開けようと思うけど、鍵がかかっています。

「カシャッ」

内側から鍵を外す音。半開きになったドアから、胡散臭そうなオバサンが顔を出して、こちらを値踏みするように見回します。

「珈琲?」とメモ帳に書いたものを見せて筆談。

オバサン、了解したようで、「入ってこい」、ってな感じで手招きします。

何だか、怪しすぎます。喫茶店というより、闇カジノみたいな感じです。が、禁断症状には勝てません。インスタントでもいい、とにかくコーヒーが飲みたい。

 

恋人たちが喫茶店に来る理由は?

オバサンの後ろについて、店内に入ります。店内はかなり暗く、背の高い対面式の席が並んでいます。何やら、日本のピンサロみたいな感じの内装です。

先客が2組ほど。みんなカップルですね。ピッタリと身を寄せあってイチャついています。そうか……わかった。ここはカップル喫茶なのですね。

昔も今も、中国の都市部の住宅事情は酷いものです。当時は2~3家族がひとつアパートに同居なんてのもあったようで。若い恋人たちがイチャつこうと思えば、屋外の公園くらいでしょうか。

お金出してもいいから、もう少しハードで濃厚なことがやりたい。そういった需要に応えるのが、このカップル喫茶だったのでしょう。

コーヒー1杯が80元。屋台の食事が1~2元、安宿の宿泊料が20~30元の当時からすれば、かなりお高い料金です。

しかし、それだけの金払っても、さすがに本番までは無理。隣席のカップルを覗き見したところ、せいぜいキスして胸を弄る程度でしようか。何だか生殺しで、なおさら悶々としてきそうではありましたが……。

 

コーヒーはいつでもどこでも飲める

いま上海を歩いてみても、あのカップル喫茶は見当たりませんねぇ。逆にスタバとか、普通の喫茶店は、やたら増えています。もうコーヒーで苦労することはありません。

上海の恋人たちも、愛を育む場所に苦労しなくなったのでしょうか? 中流クラス以下の住宅事情は、あまり改善されていないという話も聞きますが。

まあ、今は上海にも漫画喫茶やネットカフェなどありますから。そういった目的のカップルは、こちらのほうを利用しているのかもしれません。一応の個室空間が確保されているから、カップル喫茶とは違って、思いを達することも可能でしょう。

 


青山 誠(あおやま・まこと)

フリーライター

島根県出身。大阪芸術大学卒業。旅と歴史を主なテーマに『旅の手帖』『散歩の達人』『別冊宝島』など数多くの雑誌や書籍を活動の場としている。著作には『港町に行こう!~歴史と人情とうまい魚を求めて~』(技術評論社)『江戸300藩城下町をゆく』(双葉新書)『インターネットビジネスの手順&儲け方』(すばる舎)『ツアーコンダクター一度はやってみたい!こんな仕事』(すばる舎)『バンコク恋愛事情愛タイ!』(双葉社)『戦術の日本史』(宝島sugoi文庫)『坂野惇子―子ども服にこめた「愛」と「希望」』(中経文庫)などがある。