カフェから見るアジア Vol.7

第7回  インド人のソウル・ドリンク

窓が開かない日本の新幹線からどうやって茶碗を投げ捨てるのか?

インド人はどんな状況でもミルクティーを飲む

もうかなり前の話ですが、2015年12月の安倍首相のインド訪問以来、日印間の蜜月関係はますます深まっております。ムンバイ‐アーメダバード間のインド初の高速鉄道路線も、日本の新幹線方式が採用されることになりました。

これで老朽化して問題だらけなインドの鉄道も、改善が進んでゆくだろうと思います。

そうそう、インドの鉄道といえば、初めて乗った時には、かなりカルチャー・ショックを受けたものです。

乗車率200パーセントを超えてそうなスシ詰め長距離列車。狭い。臭い。暑い。と、地獄の三重苦な2等列車の車内で、余裕かまして茶飲んでるんですね、インド人たちは。お茶は英国式のミルクティー。素焼きの茶碗に入れて、車内で売ってました。

しかし、茶を売って金を受けとると、売り子は車内の人混みの中を慣れた身のこなしで、スィスィと歩いて消えてしまう。

「茶碗はどうするのかな? あとで回収するのかな?」

などと思っていると……周囲のインド人たちはみんな、飲み終わった茶碗を窓の外に投げ捨ててるのですよ。

「地獄」で出合うミルクティーは「仏様」である

まあ、原料は土、タダみたいなものです。人件費もタダみたいものなのかもしれません。回収する手間やコストを考えれば、捨てたほうが安上がりなのでしょう。駅のホームや線路上には、捨てられ、割れた陶器の茶碗をあちこちで目にしたものです。

いま、インドの路上で露店のチャイ屋に腰掛けながら茶を飲んでいると、いつもそのことを思い出すのですね。

インドの鉄道も、もう長らく乗っていませんが、あの時、素焼きの茶碗で飲んだミルクティーの濃厚な甘味は、いまでも舌が鮮明に記憶しています。美味しかっですよ、はい。

とっても辛い2等列車の旅、楽しみはそれしかなかったからなのかもしれません。さすがに仏教発祥の国。「地獄に仏」というやつでしょうか。

そんな唯一の仏様のようなミルクティーがマズイなんて、罰当たりなことは言えませんよ。マズイなんて思ったら、もう残されてるのは地獄の苦役だけ。耐えられません。死んでました。ありがたや、ありがたや。ミルクティーに救われた命だったのですね、私。

旅するインド人にミルクティーは欠かせない

さて、今後20年以内に開業するであろうインド初の高速鉄道でも、乗客は熱いミルクティーを飲んでいると思います。いくら速く、快適になろうが、旅するインド人にミルクティーは必需品。しかし、飲み終わって茶碗を外へ投げ捨てようとした時、

「おぃ、何ってこった!!」

そう、新幹線の窓は開かないのですね。

空になった茶碗を持ったまま途方にくれるインド人たちの顔が目に浮かびます。
インドの国情を考えて、高速鉄道の窓やドアは開放できるよう工夫したほうが良いかもしれません。300キロオーバーの車内から投げ捨てられる茶碗は、かなり危険な殺傷兵器ではありますが……。

 


青山 誠(あおやま・まこと)

フリーライター

島根県出身。大阪芸術大学卒業。旅と歴史を主なテーマに『旅の手帖』『散歩の達人』『別冊宝島』など数多くの雑誌や書籍を活動の場としている。著作には『港町に行こう!~歴史と人情とうまい魚を求めて~』(技術評論社)『江戸300藩城下町をゆく』(双葉新書)『インターネットビジネスの手順&儲け方』(すばる舎)『ツアーコンダクター一度はやってみたい!こんな仕事』(すばる舎)『バンコク恋愛事情愛タイ!』(双葉社)『戦術の日本史』(宝島sugoi文庫)『坂野惇子―子ども服にこめた「愛」と「希望」』(中経文庫)などがある。

 

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