香港でビジネスチャンスを探そうVol.1

ハイテク金融都市のアナログビジネス

 

今や1人当たりの名目GDP(国内総生産)ランキング(2015年)では、42,294米ドルで世界第19位の香港(アジアではシンガポールに次いで第2位。ちなみに、日本は32,478米ドルで世界第26位)。物価も家賃も日本より遥かに高くなってしまった香港ですが、たとえビジネスチャンスがあっても、先立つものがないと厳しいと思われるのが普通だと思います。確かにそれは否定できません。でも、まだまだ経済成長が続いている香港だからこそ、アイデア次第で大きく稼げる可能性があるのも、また事実なのです。

 

香港の大衆食堂にビジネスチャンスあり?

「香港にはファミレスがないんですねぇ」香港を訪れた日本人の口からよく聞く言葉です。言われてみると、確かに、です。すでに日系数社が進出していますが、業界全体として、日本での普及度には至っていないし、ラーメン店や牛丼店、居酒 屋はメジャーになっているとはいえ、フ ァミレスの定義からは外れるでしょう。

 

「じゃあ、香港の人たちの手頃な外食ってどんな感じですかね?」

 

答えるならば、「茶餐庁(チャァチャンテン)」と呼ばれる大衆食堂です。意識して見れば、街中そこかしこにあるので、観光客でもリピーターならお世話になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

逆に在住者にとっては「どこにでもありすぎて、かえって行ったことがない」盲点スポットかもしれません。ですが、この「茶餐庁」、研究してみると、なかなか面白いビジネスモデルなのです。

 

誰でも馴染める居場所

まずメニュー数。飲み物からご飯物、麺類に単品料理、カテゴリーも中華料理から洋食まで何でもござれ。お手製でびっしり書かれたお品書きは茶餐庁のトレードマークでしょう。

 

注文~料理が出てくるまでが非常に早く、お会計はサービス・チャージなしで現金払いのみ。伝票(なぜか値段しか書かれていない)も手書きで、「食の薄利多売」を地で行っているようです。

 

そして、客層、これもまた来る者拒まず。朝は出社前に新聞片手のサラリーマン、お昼は同僚とランチを楽しむOLさん、午後は年配の方々がご近所同士でお茶タイム。ちなみに、英国領の名残か、香港には未だに「下午茶=午後のお茶、アフタヌーンティー」という軽食メニューがあり、茶餐庁でも健在です。

 

日が傾けば、晩ご飯の時間。共働きが多い香港では、家族が連れ立って、茶餐庁で夕食を摂るのも珍しくないのですが、自宅の台所さながらに一家団欒している姿は何だか微笑ましいものです。かと思えば、その隣では契約書片手に真剣に商談を繰り広げるビジネスマンも。

 

とにかく、メニューもお客も、その用途まで何でもありなのが茶餐庁ワールドと言ったところでしょうか。

何を隠そう、私も来港時からお世話になっています。明朗会計で女性1人でも気軽に入れ、あっと言う間に熱々を出してくれるのだから、ありがたい存在です。同じメニューでもお店によって微妙に味付けが違ったりしますが、それもご愛嬌。ドアを開け、いつものおじさん店員の顔を見ると、せわしない店内でも和んでしまうから不思議なものです。

 

思うに、それなりに日本文化に親和性のある香港でファミレスが普及しなかった理由は、ここにあるのではないでしょうか。同じ名前のメニューでも、店の数だけ味があり、それぞれ顔なじみの店員さんがいて、いつも自分の居場所がある……。冷凍食品と接客マニュアルで画一化を図る日本のファミレスとは対照的な、手作りだからこそできる客商売がまだ生きているのです。

 

アナログなビジネスモデルでも可能性はある

ハイテク金融都市のイメージがある香港で、こんなアナログなビジネスモデルが繁盛している様は実に興味深いと言えないでしょうか。東西混交のメニューに老若男女の客層、時には私たち外国人までが「同じ釜の飯」ならぬ同じ「茶餐庁の飯」を食べている様は、気取らず、国際都市香港を実感できる場所に違いありません。日本では近頃、いわゆる「ごはんものドラマ」が人気を集めていますが、茶餐庁を取材しても面白い一本が撮れそうですね。

 

数字から茶餐庁を見てみましょう。席数30・客単価(軽食セット等含めた平均)、45香港ドル(約627円=2016年11月現在)・回転率1・5人/時間、稼働時間を16時間とすれば……30席×45香港ドル×1・5人×16時間=3万2400香港ドル(約45万円)/日。年商に換算すれば、1182万6000香港ドル。約1億6400万円……結構な額ですね。

 

目下、私の唯一の懸念はコストアップです。上記の計算で軽食含め平均単価45香港ドルと設定しましたが、実は10年前は30香港ドルもあれば晩ご飯でもお腹いっぱい食べられたものです。香港は今どこも不動産価格が高騰しています。壁のメニューに油性ペンで上書きされる数字に店主の申し訳なさも見え隠れしたりして……。

 

庶民の胃袋と心を満たす茶餐庁、10年後にはどうなっているのでしょうか。

 

 

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川島響子 (かわしま きょうこ)

日系コンサルティング会社マネージャー

北京に留学し、日本でのOL 経験を経た後、 再び中華圏へ。日系工場・貿易会社等に勤 務し、現場通訳から、人事・労務、資材調 達、コーディネーター、駐在員のお世話まで、 あらゆる業務を経験する。現在はコンサル ティング業に従事。中国・香港在住通算10 年超。香港永住権保持者。

 

 

 

 

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