香港でビジネスチャンスを探そう Vol.7

第7回 香港の社会保険制度

近年、日本でも議論が交わされている医療・年金制度。
香港はどうなっているのでしょうか──。
「自己責任」が基本の香港の現状をご紹介します。

 

医療保険は自己責任で加入する

まず医療制度についてですが、実は香港には日本のような国民皆保険制度が存在しません。医療報酬も自由設定可能なため、同じ症状でも、どこで診てもらうかにより、費用が全く異なってきます。

政府経営の公立病院を受診すれば格安(普通科外来。45香港ドル=約627円/2018年4月現在)ですが、常に混んでいるなど評判は散々。私立病院に行けば、待ち時間も短く、通訳サービス付きのところもありますが、費用は公立の数倍、軽い風邪で1000香港ドル(約1万4000円)を超えることもあり、日本の感覚でいると、思わぬ出費に驚くことになります。

では、一般サラリーマンはどうしているのでしょうか?

会社によっては福利厚生の一環として民間の団体医療保険に加入しています。しかし、適用範囲が限られており、補償額も低いため、別途自身で選んだ保険に加入するパターンが多いようです。

金融都市として知られる香港ですので、保険の競争も激しく、各社の特徴を生かした商品を売り出しています。ほとんどの保険は外国人も購入可能で、多くの日本人も加入しています。

雇用契約を締結すると、年金は強制加入

次に年金制度です。香港では過去にORSO(任意退職積立金制度)という制度がありましたが、加入については雇用主の裁量次第でした。

2000年にやっと強制加入の年金制度が施行され、Mandatory Provident Fund(強制退職積立金制度、通称「MPF」)という名称で運営されています。

これは従業員と雇用主がそれぞれ給与額の5%ずつ(一部例外あり)、計10%を65歳まで積み立て、老後の生活資金とするものです。

雇用主が契約した信託会社を通して積み立てを行ない、転職した場合も新しい職場の契約先へ移管することができます。

香港で雇用契約を締結している対象年齢者であれば、全員が加入者となり、外国人で母国の公的年金制度に加入している場合は任意加入ですが、香港永住権保持者は強制加入となります。

外国人が積み立てた資金は、帰国の際、一度に限って引き出すことが可能です(再び香港に戻り、加入した場合は、65歳まで引き出すことができません)。

積み立てた資金は自分で選択したファンドに振り分け、自己運用しますので、確定拠出年金の一種と言えます。定期預金的な設定にすることも可能ですが、ハイリスク・ハイリターンの運用をする人も少なくありません。

自己管理能力に優れた香港人

医療・年金共に日本の制度に慣れている私たちからすると、若干、放任感が否めませんが、このようになった経緯としては、ざっくり言えば、植民地時代からの自由放任主義であり、イギリス本国の社会制度が持ち込まれなかった結果であります。

しかし、物は考えようで、例えば医療保険について、日頃から健康に留意し、全く医者に掛からないのに強制的に保険料を徴収されている人からすれば、リスクに応じ、自己設計できる香港のほうが合理的と言えるでしょう。

年金にしても、日本の「消えた年金」云々の騒動に対して、自己管理可能なMPFを評価する声もあります。

 

政府に頼らず、自己責任で生活する

昨年、厚生労働省があるデータを発表しました。2016年の日本人男性の平均寿命は80・89歳で世界第2位ですが、1位は香港の81・24歳。女性も香港が87・34歳で1位、次いで日本が87・14歳で2位でした。香港は世界有数の長寿地域ということになります。

空気は良いとは言えず、人口密度も高いこの地でなぜ? と思われるかも知れませんね。

私はその理由の一つとして「自分の身は自分で守る」という「自助」の概念が挙げられると思います。香港人は体に良い物・良い事について常にアンテナを張り巡らせています。

香港人とお付き合いしたことのある方なら、健康に関する蘊蓄のひとつやふたつ聞かされた経験があるのではないでしょうか。

香港人の生活スタイルを見ていると、あらゆる面でこの自助精神が発揮されているように感じます。

「政府に頼らず、自分たちで出来ることをする」、自由放任主義の結果として養われた自助精神は香港市民の強みとなりました。結果、対極の医療保険制度を持つ日本と平均寿命で張り合っている点は興味深いところです。

近年、日本でも社会保険の行き詰まりに伴い、「国に頼らず自分で何とかしよう」と考える人が増えていると聞きます。今後の状況によっては、国の側からもそう仕向ける可能性がゼロとは言い切れません。

両国の制度は今後どのような道を辿っていくのでしょう。皆様はどうお考えになりますか?

 


川島響子(かわしま・きょうこ)

日系コンサルティング会社マネージャー

北京に留学し、日本でのOL経験を経た後、再び中華圏へ。日系工場・貿易会社等に勤務し、現場通訳から、人事・労務、資材調達、コーディネーター、駐在員のお世話まで、あらゆる業務を経験する。現在はコンサルティング業に従事。中国・香港在住通算13年超。香港永住権保持者。

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