JETROシンガポールが国際見本市に ジャパン・パビリオンを設置

日本食品・食材を東南アジアにキーワードは健康志向とハラル

JETROシンガポールが国際見本市にジャパン・パビリオンを設置

東南アジア最大級とされる食品関係の総合見本市「FOOD&HOTEL ASIA2018」が4月24日から27日までシンガポールで開催された。日本から全国各地の食品・食材を売り込むため、64社・団体が日本貿易振興機構(JETRO)シンガポールにより設置された「ジャパン・パビリオン」に出品し、シンガポールを中心とした東南アジア市場への売り込み、市場開拓に精力的なセールスを展開した。JETROが掲げた今回のテーマは「健康志向食品」と「ムスリム・フレンドリー食品」で、近年の健康に対する東南アジアの人々の関心の高まりに応えるととともに、インドネシア、マレーシアなどのイスラム教徒が飲食可能な「ハラル」にも配慮した。ジャパン・パビリオンの活気にあふれた現場を報告する。

 

農林水産省と協力して、日本食品・日本食材の売り込みを展開

総合見本市「Food&Hotel Asia 2018」はシンガポールとマレーシアで毎年交互に開催されている。東南アジア市場にすでに進出、あるいは今後の進出を目指す世界中の食品関連企業・団体、さらにホテル関係の企業・団体が一堂に集うもので、2016年のシンガポール開催時には3198社・団体が参加し、来場者は4万7630人という実績だった。

チャンギ国際空港に近いシンガポール・エキスポの6つのホールを使用した見本市には「ジャパン・パビリオン」のほかにも「韓国パビリオン」「UK(英国)パビリオン」なども設置され、世界76か国から3503社が参加、各国の自慢の食品や食材などをPR、シンポジウムや会議、調理教室、調理デモンストレーションなどが連日、各会場で繰り広げられた。

2020年の東京オリンピックを目指して、さらなる観光客誘致を進めている日本政府の方針もあり、JETROシンガポールでは農林水産省と協力して同見本市での日本食品・日本食材の売り込みを展開、「ジャパン・パビリオン」設置は今回で3年連続となる。

シンガポール人に定着する健康食品への志向

今年JETROシンガポールがジャパン・パビリオンで掲げたテーマの一つ「健康志向食品」は、世界的な健康への関心を受けたシンガポールにおける国民の健康意識の高まりが背景にある。

JETROシンガポール事務所の石井淳子所長によると、2017年8月9日のシンガポールのナショナルデー(独立記念日)にリー・シェンロン首相は恒例の国民向けメッセージの中で、「就学前の教育の充実」「スマート国家の建設」と並ぶ3重要課題として「糖尿病対策」を挙げたという。

リー首相は「60歳以上の3分の1が糖尿病で、医療による糖尿病の克服だけでなく、生活や食生活の改善で糖尿病の一掃を目指そう」と国民に呼びかけたのだ。

この首相演説に触れながら、石井所長は「シンガポール人は食べることが大好きで、美味しいものを食べる国民。共働き世帯も多く、外食の頻度も高い。しかし、だからといって高級な食材、高額な食品でも大丈夫かというと、必ずしもそうではない」というシンガポール人の特徴を説明する。

「要するに少しぐらい高いのであればいいのですが、一定限度を超えるともう買わない、食べないのです」として、以前日本から高級果物(ブドウ)をシンガポールに持ち込んだものの、実はあまり売れなかった例を挙げた。

「シンガポール人はある意味しっかりしているので、その点や限度などを見極める必要があると思います」とシンガポールでの飲食に関するビジネスの要諦を説明する。

もう一つのテーマである「ムスリム・フレンドリー食品(イスラム教徒向けの食品)」について、石井所長は「イスラム教徒が安心して食べられるハラル認証に関しては、イスラム教徒のために認証を得るのではなく、認証を取ればイスラム教徒を含めて誰もが食べることができるという逆転の発想が必要なのではないか」と持論を披露。JETROシンガポールでは日本の企業や団体に対してハラル認証に関する情報提供を積極的に行なっているという。

 

日本とシンガポールの経済・貿易関係は安定

東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10か国の中でも「経済の優等生」といわれるシンガポールだけに経済状況は安定し、各種経済活動も活況が続いている。

JETROシンガポールによると、2017年に日本からシンガポールへの農林水産・食品の輸出総額は約261億円で対前年比11・7%の増加となり、日本の輸出先国ではシンガポールは第8位となるなど、両国の経済・貿易関係は良好に推移しているという。

また、シンガポールの2016年の健康食品売上高は約100億円にのぼり、過去5年間で20・6%も増加するなど、健康食品への関心が年々高まっていることを裏付けている。

そんな中、日本からシンガポールへの輸出では水産物が輸出額全体の17・5%と約2割近くを占め、シンガポール人の日本産水産物への人気の高さがうかがえる数字となっている。こうした傾向を受けて、今回のジャパン・パビリオンには水産物・水産加工品関連社が最多の15社出品し、北海道の調味いくら、宮城県の冷凍ワタリガニ、広島県の冷凍牡蠣、沖縄県の海ブドウなどと全国の選りすぐりの海産物が並んだ。

 

JETROレセプションで提供された日本の味が大好評

見本市開催の前日4月23日夜、シンガポール随一の繁華街オーチャード通りに近い最高級ホテルの一つ「シャングリラホテル」でJETROシンガポールが「ネットワーキング・レセプション」を催した。

見本市に参加する日本の食品会社などの関係者とシンガポールのバイヤーが試食品を通して情報交換するのが目的で、会場は熱気に包まれ、提供された試食品はあっという間になくなる人気だった。

レセプションで提供された試食品は、見本市に出品している複数の会社がそれぞれの商品を提供して創作されたコラボ食品で、日本食の和の魅力を同時に提供していた。

たとえば、人気だった「そばほうれん草サラダ」は、福井県・武生製麺の「5割そば」に長崎県島原・田中農園の「ほうれん草」を加え、愛媛県・伯方塩業の「伯方の塩」で味付けし、ナッツや干しブドウ、リンゴのスライスなどで彩られた1品。さっぱりとしたのど越しは「日本そば」の美味しさを外国人に伝えるには十分だった。

また、ピューレの緑色が鮮やかで多くの参加者が手を伸ばしたのが「パン・フライド・ホタテとほうれん草のピューレ」。「伯方の塩」と田中農園の「ほうれん草」に北海道のよつ葉乳業の「ミルク」が同じ北海道・エビコー社提供の「ホタテ」と見事にマッチした1品だった。

このほかに「タコのサラダ」「日本風ラタトゥイユ(野菜煮込み)」「グラ・メラカ(ココナツ原料の黒糖)のミルク・プディング」などのオリジナル食品が参加者を魅了した。

 

シンガポール人を魅了したジャパン・パビリオン

シンガポール・エキスポ5号館の入り口を入るとまず日章旗をデザイン化して「JAPAN PAVILION」と書かれた大きな看板が目立つ「JETRO」ブースがある。そのすぐ横には今回のテーマである「Health Food(健康志向食品)」と「Halal Food(ムスリム・フレンドリー食品)」の展示コーナーがあり、各種の食品・食材が展示されている。

そこから左右に日本企業・団体のブースが続く。通常出品枠の52社・団体、ニューチャレンジャー枠の6社・団体、オープンスペース枠の6社の合計64社・団体が北海道から沖縄までそれぞれの「自慢の食品・食材」を出品・展示している。

一角には「料理デモステージ」が設けられ、シンガポールのフードコーディネーターが出品者の食材、食品を使用して「手軽で美味しい日本食、ローカル料理」を調理して提供したほか、レシピーカードの配布も行なった。出品者自身による料理デモもあり、力の入った自社製品の売り込みが続いた。

商談や打ち合わせのスペースや持ち込んだ食材で食品を作る簡単なキッチンスペースも用意されていた。

 

本わさび志向にビジネスチャンスあり

東京都中央区の「金印物産株式会社」は「金印本わさび」など、わさび関連商品をブースに並べた。シンガポール、マレーシア、カンボジア、インドネシアなどを担当する同物産海外営業部海外課の中西康之氏は「冷凍保存が可能な練り状のわさびペーストはマイナス18度以下で保存することで、すりたての本わさびの風味が味わえる商品」と強調する。

主力商品の「本わさび超低温すりおろし製法」「生おろしわさび」はシンガポールの日本食レストランではすでに使われているもののインドネシアやマレーシアはハラル認証という課題があり、今後のテーマという。

金印物産では練り状ペーストのわさび以外にも水に溶かして練るタイプの各種「粉わさび」や「きざみわさび」「花わさび」なども販売するなど幅広い品ぞろえで本格的なわさびを東南アジアの人々に届けようとしている。

背景には東南アジアの人々の健康的な日本食への需要の高まりとともに、わさびへの関心が高まっている現状がある。大手食品会社のチューブ入りのわさびはインドネシアでも普通にスーパーなどで販売されている。辛い味付けを好む東南アジアの人々にとって、継続する唐辛子などの辛さと異なり、わさびの「つーん」と来て、しばし後には消える刺激は新鮮だ。

寿司や刺身で日本食を味わい、また日本訪問で「本場」の味を知った中間層あるいは富裕層は、もはやチューブのわさびでなく、「本わさび」を求めているのだ。

長野県安曇野のわさび農園にはインドネシア人をはじめとする東南アジアからの観光客も多く訪れ、一方ではデパートの1本数千円する「本わさび」を何本も購入して持ち帰る人がいるのだ。それだけに、金印の「本わさび」「生おろしわさび」は今後の東南アジア市場で有力商品になる可能性を大いに秘めているといえる。

蟹みそをブランド化し海外展開へ

ジャパン・パビリオンに出品した日本企業の中に今回初めてという「ニューチャレンジャー枠」として6社がある。そのうちのひとつが兵庫県香美町の「香住ガニの蟹みそ」である。兵庫県の日本海側にある香美町の漁港「香住」で水揚げされる紅ズワイガニの香住ガニは、800~1500メートルの深海から「かご漁」で獲られる。その上質の香住ガニの「蟹みそ」の缶詰を携えてシンガポールに乗り込んだ香美町商工会の田畑善延事務局次長は「3年目を迎える香住ガニのブランド化の仕上げと海外展開を見据えて、今回出品しました」と話す。初日だけで約20の商社、バイヤーから接触があり「手ごたえを感じている」と今後の海外展開への期待を表した。

日本でも高級食材とされる紅ズワイガニだが、香住ガニは日帰り可能な近海で漁獲される上質のカニで、100グラムの缶詰「無添加蟹みそ香住ガニ」も1200円(+税)で販売するなど求めやすい価格で提供している。

日本の海産物は東南アジアでも年々その人気と需要が高まっている。その理由は海産物という健康食材であることと、イスラム教徒が食べる際の禁忌に触れるケースがほとんどないことが挙げられる。
この2点はまさにJETROシンガポールが今回掲げたテーマであり、香住ガニの「蟹みそ」はうってつけの食品と言えるだろう。ただ、同じ海産物でも加工するさいにアルコール成分を含んだみりんなどを使用している場合はハラル認証を得ることが難しい一面もある。

その点香美町の「蟹みそ」は「添加物を一切加えていない無添加」がうたい文句だけに、今後ハラル認証を得る場合にも問題は少ないと見られる。

認証団体によるハラルマークは絶対に必要

ジャパン・パビリオンにはすでにハラル認証を受けた熟成黒ニンニクや玄米・ほうじ茶のパウダー、ミルクチョコレートなどの商品が陳列されている。いずれも商品のパッケージには目立つようにシンガポールや日本の「ハラル認証団体」のハラルマークが印刷されている。

ただ、ハラルマークがあればそれでいいかというと、実態はやや複雑なのが現実で、インドネシアに輸出する食品には日本やシンガポールの認証団体ではなく、やはり地元インドネシアの認証団体のマークがあるほうが好都合なケースもあるという。つまりマレーシアへの食品であればマレーシアのマークというように、輸出相手の国の認証団体からマークを得ることで手続きはスムーズになるそうだ。

金印物産の中西氏が今後の東南アジア各国への展開を考える上で「ハラル認証団体の証明書は必要になるだろうが、どの国のどの団体から認証を受けるかも考慮しなければならない側面がある」とする指摘は、新規にハラルマークを得ようとする全ての日本食品・食材会社に共通の課題と言えるだろう。

地方自治体とタッグを組んで出品

ジャパン・パビリオンには、各企業・会社の出品に加えて、地方自治体が地元の会社をまとめて出品しているケースもあった。長崎県島原市は鶏卵やドライフルーツ、ほうれん草など4社をまとめた「島原市スペシャルクオリティ商品振興協会」として参加。和歌山県は梅酒、梅黒酢、実入り梅酒、炭そうめんの4社を率いて、「和歌山県農水産物・加工食品輸出促進協議会」として和歌山の特産品をアピールした。

そして、「札幌食と観光国際実行委員会」は調味いくら、松前漬手造りセット、米、魚醤油、ミルクソフトアイス、ロールケーキの6社をまとめて出品した。

会場でシンガポール人のバイヤーや業者が多く詰めかけ、試食に挑戦する姿が見られたのがこの北海道グループのブースが並ぶ一角だ。東京の百貨店で頻繁に開催される各種物産展でも最も主婦層に人気があるのが「イタリア物産展」と「北海道物産展」と言われているが、その「北海道人気」がシンガポールにも浸透しているかのような賑わいだった。

根強い北海道ブランドの人気

北海道グループ「札幌食と観光国際実行委員会」の取りまとめ役を務めた樋田裕貴氏(札幌市経済観光局国際経済戦略室 食・健康医療産業担当課)と、金谷泰代さん(さっぽろ産業振興財団産業企画推進部 販路拡大チームリーダー)が北海道の企業を紹介、説明してくれた。

「調味いくら」などを出品した「エビコー」社はすでにシンガポールやタイには進出して実績を上げており、シンガポールではホテルや寿司店に、イクラ、エビ、カニを提供している。ブースに並ぶ冷凍ボタンエビは実はロシア産だが、「獲れたてのボタンエビを船上ですぐ冷凍するロシア産のほうが新鮮」だという。

函館周辺でしか獲れない「ねばねば」が特徴のガゴメコンブを使った「松前漬手造りセット」の「中山薬品商会」もすでにシンガポールのレストランなどとは取引があり、ガゴメコンブは食物繊維、カリウムなど健康志向には最適という。また「A’zuram社」の「北海道濃厚ミルクソフトアイス」もシンガポールやタイ、マレーシアではすでに高い評価を得ている美味なスイーツだ。

「Wakka Japan」社は北海道米を出品、台湾や香港、シンガポールでの実績を踏まえてさらに東南アジアでの市場展開をにらんでいるという。北海道米は平均気温が低く、一日の寒暖の差が大きく、水に恵まれた北海道ならではの美味しい米という点を前面に出してアピール、シンガポールや東南アジアからのバイヤーに売り込んでいた。樋田氏によると、「シンガポールの場合は白米で輸入するより、玄米で輸入して現地で精米したほうが価格的条件はいいこともあり、玄米輸入が増えている」という。

こうした東南アジアでの「北海道人気」の背景には、やはり日本観光で実際に北海道を訪れた人々の影響がある。今年1月に東京・銀座のデパートで偶然会ったインドネシアの現職大臣は「いま北海道のスキーから戻ったところだ。いい雪質だった」と話していた。それほどインドネシアでも北海道は人気なのだ。

また、日本を訪れた東南アジアの観光客の間で一番人気のあるお土産が「東京ばな奈」(東京都の製菓会社)と並んで「白い恋人」(札幌市の製菓会社)であることも北海道人気の一つの象徴と言えるだろう。

独自のイベント開催と現場主義が大きな成果に結びつく

今回ジャパン・パビリオンを設置したJETROシンガポールでは2016年から日本食材を活用した世界の料理を提案する食のイベント「in:fuse」(インフューズ、融合)を開催している。エビや金目鯛、カキなどの海産物や和牛、うどん、わさび、梅酒などの日本食材をイタリアンや中華料理の有名シェフに自由に調理してもらい、シンガポール人ブロガーや日本食に関わっている人々に試食してもらい、その評価を発信してもらう、という独自企画だ。

2017年9月に開催された2回目の「in:fuse」では、イタリア料理のシェフが日本産の「金目鯛と黒豚のコンビネーションめかぶ添え」や「カニカマを使ったアリオリ(ニンニクベースのソース)」を披露し、高い評価を得たという。

2016年の初回には10社から食材が提供されたが、昨年2017年の2回目には29社から食材の提供があるなど、年々盛り上がりを見せている。JETRO シンガポールは「2018年もぜひ3回目を開催する方向で検討したい」としている。

シンガポールは世界の料理店が集まり、それぞれ一流のシェフが腕によりをかけた名物料理を提供する一方で、国内のあちらこちらに点在する「ホーカーセンター」(フードコート・屋台街)では、4シンガポールドル前後(約330円)と廉価で、しかも美味しい「海南鶏飯」「肉骨茶」「ラクサ」「ヨンタオフー(醸豆腐)」などの庶民の味が楽しめる。

そんなシンガポールでもイスラム教徒に配慮したハラルの動きが日本食屋にも広がっているようで、JETROシンガポールの石井所長は「豚骨風の濃い鶏ガラスープのラーメン屋があると聞きました。またノンアルコールビールとソフトドリンクだけの『ハラル居酒屋』ができたとの情報があり、早速偵察に行きます」。

こうした現場にこだわり、情報収集に積極的な姿勢がJETROシンガポールの特徴であり、「in:fuse」やジャパン・パビリオンの成果に結びついていると言えるだろう。

 


大塚智彦(おおつか・ともひこ)
ジャーナリスト

Pan Asia News所属。毎日新聞社ジャカルタ特派員、産経新聞社シンガポール特派員などを経て、2014年からPan Asia Newsの記者兼カメラマンとして東南アジアを中心に取材活動を続けている。現在、インドネシアの首都ジャカルタに在住。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、「ジャカルタ報道2000日──民主国家への道」(小学館)がある。

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