どこまで行けるか?「日本スタイル」

 

どこまで行けるか?

「日本スタイル」

タイ人と仕事していて本当に良かった?

タイ 井芹二郎

 日本でも同じことだと思いますが、従業員に気持ち良く働いてもらうというのは大変です。ましてや、ここは異国のタイランド。なおさら難しいです。事前に何も言わずに、ある日突然、会社に来なくなることなど、珍しくも何ともありません。われわれ日本人には全く理解できない理由で、会社を辞めたい、と言われることもあります。そんな時はどう対応したらいいのか?本当に正解がない世界です。

ある日、私のオフィスで働いている女性事務員のジムさんが浮かない顔をして 言いました。

 

「ジローさん、相談があるんです」

 

いつもニコニコ溌剌としてお茶を出してくれたり、「会社の仕事が少ないので 暇です。もっと仕事を受注してきましょう」などと、前向きな感じで元気がいい のに、今日はしおらしい表情なのです。

 

「実は、来月には、実家のあるチェンマイに帰らなくてはいけなくなりました。ですので、会社を辞めさせてください」

 

実家で何かあったのか?と尋ねると、「お母さんが牛を飼いはじめまして ……」

 

「???」

 

何やら実家で牛を飼いはじめたので、忙しいバンコク生活には見切りをつけ て、田舎のチェンマイでノンビリ暮らし ましょうということらしい。あまりに唐 突、かつ予想を超える「関連性」でもあるので、少々驚いて、お母さんが実家に帰ってきなさいと言うにいたった経緯について、ゆっくりと尋ねました。そうすると、もうひとつの理由が見えてきました。

体面を非常に大事にするタイ人

バンコクの会社に就職したものの、決して余裕のある給料でもなく、物価高のバンコクでは生活も質実にせざるを得ません。バンコクでは何をするにしてもお金がかかり、住みにくい。1日の食費を200バーツ(約620円=2016年11月現在)と換算しても、月6000バーツくらい(約1万8600円)。家賃や諸経費を入れると、生活が苦しいということでした。なら、いっそのこと、チェンマイに戻って牛でも飼えば、ノンビリと暮らしていけるだろうという話でした。

地方出身のタイ人は、いずれは田舎に帰って農業でもやりたいという者も少なくない。が、その建前と本音はジックリと見極める必要がある。

地方からバンコクに出てきたタイ人従業員が、会社を辞めて田舎に帰りたいと言ってきた場合、その理由は何か、よく考えてみましょう。

で、「牛を飼ったから→田舎に帰る→会社を辞める」ではなくて、「給料が安い→バンコクは暮らしが大変→田舎へ帰る」ということのようでした。

 

タイ人の性質としては、相手(この場合は私です)の体面を大事にするために、直接的にはネガティブな理由を口実にしないことがよくあります。つまりは、「給料が安いので、会社を辞めます」とは決して言わないのです。

タイ人の建前と本音

しかし、相手の本音が分からないと、問題の解決がしにくいので、こちらは戸惑うことになります。この場合、「今の給料では生活が苦しい」ということでしたので、昇給することにいたしました。入社してちょうど1年が経とうとしているところだったので、都合も良かった。会社に献身的で、自分から進んで面倒見の良さを発揮してくれる人材でしたので、できる限りの昇給を行ない、それを前提に翻意を促しました。最初は「この給料の額面は、私には高すぎます」などと言っていましたが、最終的には納得してくれました。

 

次の日、出社すると、いつもの満面の笑みを浮かべた事務員のジムさんが「おはようございます!」とニコヤカに挨拶してくれました。パリッとしたOLスーツに身を包み、いつもよりテンションが高めです。私が出社すると、いつもはお水を出してくれていたのですが、その日は、お茶にお菓子まで付きました。どうやら前向きになってくれたようです。

 

別の理由で、その後、会社を離れましたが、未だに連絡してきて、「ボス」と呼んでくれます。部下や後輩はたくさんおりますが、「ボス」と呼んでくれるのはジムさんだけです。

 

そんなジムさんが先日、結婚いたしま した。タイ人と仕事していて本当に良か った! と思える瞬間でもありました。 末永く幸せでいてほしいものです。

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井芹二郎 (いせり じろう)

バンコクポルタ株式会社 代表取締役社長

熊本県出身。リクルートにて、求人情報誌の創刊プロジェクト、地域活性化事業、狭域エリア事業のシニアダイレクター、メディア・プランニングと媒体設計にたずさわる。2008年、タイのバンコクでPR企画会社バンコクポルタを設立。消費意欲が高まるタイのバンコクで、トラベル・インバウンド・サポート、ライフスタイル・マーケティング、日本企業のタイ進出支援、イベント企画などを行ない、日本国内では自治体や民間企業のアドバイザーを務めている。

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