俺たちに明日はあるのか ──現在の「負け組」から未来の「負け組」へのメッセージ

129

第9回 JRパスを使い倒す

リーマンショック後の痛手からまだ立ち直れない男は、タイを拠点に再起を図っていた。
相変わらず日本とタイを行き来しつつ、小さなシノギにしがみついて、食いつないでいる。
待っていれば、いつかまた大きなチャンスが廻ってくる、と信じているのだ。
再び浮き上がる日が来るのか。アジアからの逆襲はまだまだ続く──。

 

日本に行ったら陸マイルを稼ぐ

仕事やその他の所用で日本には年6回は「行って」ましたが、だいたい大阪と東京には用事があり、それに福岡や仙台が加わる事も多かったですね。若いうちは深夜バスなんかにも乗れましたが、さすがに40代になるとキツイ事も多く、ほとんど乗らなくなりました。

近年は東京―大阪間2000円とか信じられない値段の夜行バスがありますが、100円ショップに原価100円以上の商品が並んでいるのと同じ宣伝プライスなんじゃないですかね。

日本に行った時は「陸マイル」稼ぎもしてました。定番は、知る人ぞ知る、鉄道回数券の買い取り率が日本一高い愛知県です。

「マイル稼ぎしたい者、来たれ! 指定区間買い取り率99%」とかネットに大きく載っていましたね。金券屋は「いや~、JRには目の敵にされてましてね~」とか言ってましたが、みどりの窓口のお姉ちゃんからは「マイル、たくさん稼げていいですね、次はどこに(飛行機で)行くんですか~?」とか言われ、いい時代でしたね。

しかし、次々にクレジットカード会社が転売を目的とした金券の購入を制限してきまして、「陸マイル稼ぎ」は難しくなってきたのです。JALカードからは「購入をお控えください」の文書が送られてくるし、JCBカードは回数券を2冊目発券しようとするとカードが止まったりしました。名古屋―博多の長距離回数券1冊の購入は問題なかったです。

そういえば、金券屋が「品切れの区間が出た場合は、仕方がないから、みどりの窓口で自分で購入する事もある」と言ってたな。名古屋駅や博多駅から少し離れた駅前の金券屋や、新山口や徳山や新花巻や盛岡なんかの店は「東京までの高額回数券」が思ったように入らない事もあるのではないか、と考えました。

今は新函館北斗から鹿児島中央までですね~。そんなところに買い取り話を持っていけば、交通費だけで全然割が合わなくなるでしょ! と当然の意見が返ってくるでしょう。そこは海外長期居住者の必殺アイテム、JRが新幹線を含めて1週間2万8300円で乗り放題のJR(ジャパン・レール)パスの登場となるのです。2週間4万5100円、3週間5万7700円と割安になり、2018年は訪日観光客が初の4000万人を突破しそうな勢いですが、外国人はJRパスを使って、新函館北斗から鹿児島中央まで新幹線で半日かけての列車の旅も(1日あたりと考えたら)2800円~4000円で行けてしまうわけです。

厳格には海外に居住している日本人がJRパスを購入するためには、その国の年単位ビザを持ち、外国人と結婚している事がひとつの条件だったのです。つまり、ビザ&結婚だったのです。実際には、旅行代理店も面倒くさがって、販売手数料を稼ぎたかったので、ビザだけ、あるいは結婚だけ、の扱いにしちゃったのです。JRからクレームが付けば、決まり通りになったのでしょうが、JRは売り上げが上がるし、販売するな、なんてクレームは全くしなかったんでしょうね。

決まりはつくったが、現場では「そんなめんどくさい(チェック)事やってられるか!」という典型例。日本ではよくある事ですな。日本以外ではもっとかな?

ですから、タイ人と婚姻した戸籍謄本で、それも1年で離婚しているから(戸籍謄本には離婚と明記)、20年以上前の婚姻時の戸籍謄本を使って、15年間はJRパスの引き換えクーポンを購入してました。平成初期の戸籍謄本はだんだん黄ばんできましたけど、オーケーでした。

規制の強化と緩和がせめぎ合うニッポン

ところが、成田空港にあるJRの委託を受けている「びゅうプラザ」では、各国のファイルを取り出すと、「タイの場合は1年ビザがないと駄目です。クーポンをパスに換えられません」とうるさいのです。

仕方ないから、午後8時以降、引き換え業務がJRの窓口に移されるまで待ちました。そこは「ああ、結婚されてるのですね」程度でオーケーでした。東京駅の早朝夜間のみどりの窓口なんか、戸籍謄本すらチェックしようと(見ようとも)しませんでしたね。パスポートとクーポンだけでオーケーでした。何十回もね~。午前9時~午後8時までは業務が前記のような業者に委託されているので融通が利きません。

しかし、このJRパスは2017年3月に日本人は一切買えなくなりました。利用資格を証明する手段が(国により)まちまちで、JRが厳格に対処しきれなかったというのが理由、だそうですが、もともとそんな対処を海外の旅行代理店がしてなかったのですから、それは表面上の理由で、私は「こんなに安く乗っている日本人がいるのは不公平だ!」と騒ぐ日本人がいたせいだと思います。

とにかく、島国根性の日本人は「他人が得をする」のは許せない民族なのです。外国人を攻撃できないから、せめて得をしている日本人をなくして不満をまぎらわしたいのです。

が、海外に進出している一流企業が「本社は高い法人税を払っているし、社員も税金をたくさん払っている」と自民党に言ったのでしょうか、2017年6月には「海外居住10年以上の日本人は購入オーケー」に緩和されました。その国に10年居住してる公的書類なんかどこの国の在外公館も用意してるはずもなく、たぶん東京駅では引き続きノーチェックでしょうな。

外国人は北海道から九州まで3000円とかで新幹線、日本人は連休も超過勤務、労働法違反の深夜バス旅行とかの選択肢で、交通事故して人生終了になったりしてるわけです。

「2度とこんな悲しい事故が起こらないように……」とか口先ばっかし。こういう現実を知ってるんでしょうか。


南島三郎(みなじま・さぶろう)

大阪出身の50代。日本ではマスコミの周りをウロウロしていた。リーマン・ショック後、クレジットカード破産。日本、タイ、カンボジア、フィリピンをグルグル回っている。現在、カンボジアのシェムリアップに家を借り、タイの カンチャナブリ県に農場を所有している。妻はタイ人で娘が1人いる。