在タイ日本人コンサルタントの本音 Vol.11

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第11回 タイに資産を持つ日本人が亡くなった場合の相続手続き

この連載も、もう11回目となりました。今回は、「あなたに急な不幸が訪れた時、あなたのタイにある財産はどうなるのか?」というテーマでお話ししたいと思います。

外国人の遺産相続手続きは難しい

私自身は法律事務所の代表という肩書きですが、同時にタイ国家警察のボランティア警察員も務めさせていただいております。ですので、日本人の方が事件や事故に巻き込まれた場合、または不幸にしてお亡くなりになってしまった場面に立ち会うことも少なくないのですが、そういったおりに遺族の方からのご質問に、タイに所有していた財産の処分についてご相談される場合があります。

近年、リタイアメントビザの普及などによって、法人に所属されていない在タイ邦人の方が増加しているように見受けられますが、高齢の方も多く、不幸にしてタイでお亡くなりになられる方も増加しているように思われます。

また、タイでお亡くなりになられない場合でも、タイに預金やコンドミニアムなどの不動産を所有されている日本人の方も多いのではないでしょうか。亡くなられてから、実はどこどこにコンドミニアムを所有されていた、もしくは分散して銀行口座を多く持たれていたと判明する場合もあります。
日本であれば、遺言書を残されていた場合、死亡証明と共に遺族や弁護士の方が銀行口座を含む遺産を処分することができますが、外国で外国人が死亡した場合、少々手続きが煩雑になります。

外国人の弁護士はタイで手続きはできない

タイの場合、タイ国内に財産を所有していた外国人が死亡した時には、各国大使館で死亡証明を取り、それをもって遺族か弁護士がタイの裁判所で相続の決定(許可)を取ることになります。遺族がタイ人の場合はそれほど難しくないかも知れませんが、遺族が日本人の場合は当然、タイの弁護士に委託しなければなりません。

日本で日本人の弁護士に委託していたとしても、タイでは当然、タイ人の弁護士が手続きを行なうことになります。もし遺産が少額であれば、カードを使って預金の引き出しなどを行なってしまうかも知れませんが、もちろん、これは合法ではありません。また、コンドミニアムなどの不動産の手続きは、必ず裁判所の相続許可がない限り、土地局での手続きは不可能となります。

これらの手続きを遺族が行なわなかった場合、タイでの所有財産は様々な手続きを経て、基本的には国庫へ返却という形がとられます。銀行口座もある一定年数が経過する(連絡が取れなくなってから2〜10年)と消滅することとなります。

資産は家族と情報共有し事前に遺言書を作成する

上記の事案では、遺言書があって、なおかつ相続人がタイの裁判所に出廷できることが前提となりますが、昨年、弊社に依頼された事案に、ご子息がタイでお亡くなりになり、日本におられるご両親が高齢のため、タイの裁判所に出廷できないという事案がありました。

日本では裁判所から法定後見人が選定され、日本人の弁護士が代理人となっていましたが、タイの裁判所ではこれまで法廷後見人の代理出廷で相続を認めた判例はありませんでした。そこで弁護士協会なども注目する中、「代理人の手続きでは、これまで過去に事例がなく、基本的に故人が所有していた不動産は国庫に返納する」と主張する裁判所と、「外国人のコンドミニアム購入が急増している昨今において、今後このようなケースは増加する。リタイアメントビザなどでロングステイを推奨するタイ政府の方針もあり、ここで国際水準にあった柔軟な対応ができなければ、今後タイへの投資は冷え込む」と主張する弊社で、約1年間議論がかわされました。

その結果、「法定後見人(代理人)による相続申請を認める」というタイにおいて初めての判決を勝ち取ることができました。おかげで故人が所有されていた不動産を売却し、銀行口座にあった現金も含め、日本の相続人遺族の方へお返しすることができました。手前味噌ではありますが、外国人が安心してタイに投資できるという環境を作るという上で、一助になったのではないかと思います。

もちろん、健康に気をつけて楽しく海外での生活を営むことが一番大事ではありますが、自分が海外に所有する財産について、普段からご家族と情報共有する、そして事前に遺言書を作成して1年に1度くらいは弁護士にアップデートを頼むというのも、「もしも」に備えて、いいのではないでしょうか。

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内田知春(うちだ・ともはる)

アドバンスト・マネージメント・ジャパン株式会社代表取締役

1974年生まれ。立命館大学大学院国際関係科終了。インターンシップで初来タイし、終了後にタイの大学に就職。その後、貿易会社を起業する。企業間の裁判を何度か経験した事から、そのノウハウを活かすためにコンサルティング会社を設立。タイの政財界とのつながりを軸にプロジェクトの立ち上げや法律・財務のコンサルタントとして活躍中。タイの優秀企業賞を2回受賞。アジア経営者連合会タイ支局の副支局長も務める。「パワー・コンサルティング」を信条に総合格闘技の修練に励む。