在タイ日本人コンサルタントの本音 Vol.7

第7回 労使紛争と組合への対処法 その2

前回の第6回は、タイで日本人が被害に遭った具体的なトラブルの実例をご紹介いたしました。
今回の第7回では、実際に発生した事案をどのように解決したか、をお話しいたします。

 

労働争議が発生しない状況を作る

第6回では、タイにおける労働組合の成り立ちと事例、実際に発生した労働争議についてご紹介いたしました。その多くは、どこかで目にした、または耳にしたものかも知れませんが、実際に自社で同様の事案が発生し、労働局や労働裁判所から公文書が届くと、慌ててしまうものです。

もちろん、労働争議など発生しない事が一番ですが、そこでまずは発生しにくい状況を作る、例え発生したとしても対処できる環境を整えておく事が重要となります。

その環境とは、ずばり「雇用契約書」「従業員台帳(賃金台帳)」「就業規則」を整えておく事に他なりません。

 

労働法に違反しなければ、雇用契約が優先される

普段から争議など起きないように従業員との間に良い関係を築いておく事は言うまでもありませんが、例え良い関係を築いていたとしても、前回ご紹介したような「ユニオン屋」が介在した場合や、新規従業員がそもそも組合での利権待遇を目的に企業を渡り歩く従業員である場合もあります。

雇用契約書」「従業員台帳(賃金台帳)」「就業規則」の3つのうち、まず「雇用契約書」に関してですが、これは言うまでもなく、従業員の給与や雇用期間、そして福利厚生などの待遇について細かく規定しておく事が重要となります。

雇用契約とは個人との労働条件の契約となりますので、労働法に違反していない限り、のちに労働者が条件改善を訴えても、雇用契約の内容が優先されます。

逆に、もし雇用契約に記載されていない条件について、労働者が改善を訴えた場合、その時の労働局の判断が優先されてしまう場合があります。

就業規則は絶対に疎かにしてはならない

2つ目の「従業員台帳(賃金台帳)」。こちらは作成後、所管区役所の労働衛生課(商務省)に提出する必要がありますが、従業員との間に雇用期間や給金に関してのトラブルが発生した場合、有効となります。

最後にこの3つの中でも最も重要なのが「就業規則」。法律では10人以上の従業員が所属する法人は作成を義務付けられており、通常は労働法に規定されている必要項目と、法人独自での取り決めを加味して作成され、商務省に認可される事で効力を持ちます。

もちろん、弊社でも作成代行は行なっておりますが、労働法の勉強を兼ねて、商務省との折衝を行ないながら作成されるのも良いかも知れません。

労使紛争が起こったらどうするか

実は労働争議が発生した場合、最も重要視されるのがこの就業規則であり、労働局や労働裁判所ではこれを基にして折衝や公判が行なわれます。ですので、もし就業規則が存在しない場合や、何年も改定されていない、または項目が網羅されていない場合などは、その時の労働法の一番厳しい部分が適応されてしまい、組合の要求を全面的に認めざるを得ないという場合もあります。

ここ数年、タイ国政府は、労働者の待遇改善に注力している事から、上記の環境整備は大変重要だと言えます。

では、実際に労働争議が発生した場合、どう対処すれば良いのでしょうか。

タイでは、労働者は、労使紛争に関して、無料で労働裁判所に訴える事ができ、また労働裁判の場合は労働者の負担が少なくなるよう、7日以内に判決が出る仕組みになっています。よって、悪意のある従業員は、経営者が無防備だと見るや、自身の都合のみで訴えを起こす場合があります。

実際、労使紛争が発生すると、労働法に基いて、まず社内で組合側との折衝が行なわれます。できれば、折衝開始の時点で弊社のような法務顧問を同席させる事が肝心ですが、組合との折衝に参加するには社内の人間である事が条件となりますので、あらかじめ社内に法務に精通した担当を用意しておくか、弊社のような法務顧問を法務担当役員として登録しておく事をお勧めいたします。

労働局はタイ人労働者の味方

これらの折衝に関しては、労働局へ逐一報告しなければなりませんが、不調に終わった場合、通常数回の調停を所管労働局で係官立ち会いのもとで行なう事となります。

この場合もできれば、法務担当の弁護士か、法務に精通した者が行なうのが良いでしょう。

基本的に、労働局とはタイ人労働者の味方ですので、日本人が通訳を連れて折衝の場に赴くと、良い結果を招かない場合が多いようです。

労使紛争が発生し、通常業務に支障が出るような事がないよう、事前の環境整備と、専門家への早い相談が大事と言えます。

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内田知春(うちだ・ともはる)

アドバンスト・マネージメント・ジャパン株式会社代表取締役

1974年生まれ。立命館大学大学院国際関係科終了。インターンシップで初来タイし、終了後にタイの大学に就職。その後、貿易会社を起業する。企業間の裁判を何度か経験した事から、そのノウハウを活かすためにコンサルティング会社を設立。タイの政財界とのつながりを軸にプロジェクトの立ち上げや法律・財務のコンサルタントとして活躍中。タイの優秀企業賞を2回受賞。アジア経営者連合会タイ支局の副支局長も務める。「パワー・コンサルティング」を信条に総合格闘技の修練に励む。

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