在タイ日本人コンサルタントの本音 Vol.6

第6回 労使紛争と組合への対処法 その1

前回の第5回は「タイで被害に遭ってしまった場合の手続き(総則)」について述べました。
今回の第6回では、依頼者が被った具体的なトラブルの実例をご紹介いたします。

 

労働法は人(タイ人)に優しく、会社(外国企業)に厳しい

皆様もご存知の通りかと思いますが、タイには労働省(Ministry of Labour)が存在し、その監督のもと、労働法(労働保護法、1998年)が施行されています。

この労働法に基づいて、労働者の権利が保証されているわけですが、その内容は一般的に我々がタイ国から受ける印象とはかけ離れていると思われる方も少なくありません。

われわれ外国人がタイ国から受ける印象としては、安価な労働力な割に、タイ人は従順かつ勤勉で、労働上の問題も、法律ではなく、おだやかに話し合いで解決できると思われがちです。

しかし、タイ国労働法は我々が考える以上に経営者側に厳しく、特に規模の小さい法人ほど、雇用契約もなく、就業規則でさえも不整備で、いざ労使間のトラブルが発生すると、足元をすくわれがちです。

私の印象では、以前はこの労働法の内容を知らないタイ人労働者がほとんどであったように思います。変化があったのは、皆様も記憶にある赤シャツ騒動の後でした。

現に2010年の赤シャツ騒動の翌年の2011年以降、労働局や労働裁判所に持ち込まれる争議の件数が急増しています。その中でも特に労働組合によるサボタージュや工場への道路封鎖等のニュースが増加したのもこの頃で、赤シャツ騒動以降、一般労働者の中に、何らかの意識の変化があったと言えるかも知れません。また後に紹介する「ユニオン屋」と言うものが耳に聞こえるようになったのもこの頃でした。

 

労使紛争が急増している

労働法の第7章96条には、「50人以上の労働者を擁する事業所においては、使用者は最低5人の労働者代表からなる福祉委員会を設置しなければならない」とあります。

この福祉委員会とは、同97条の定めによると、「労働者の処遇や福祉の向上のために、使用者に助言・勧告・要求を行なう」組織、つまりこれが一般的に言われる労働組合となります。

労働組合の設立に関しては、労働者が労働局に対して申告を行なう事により認可されるので、労働局からの通知により自社内に組合が設立された事を初めて知る経営者も少なくありません。

弊社に持ち込まれる労使紛争関連のご相談は、年間20~30件ほどありますが、その半数ほどが解雇手続や処遇等の労働者個人に関するもの、そして、残りの半数ほどが労働局や労働裁判所での争議等、労働組合に関するものになります。

労働組合に関する相談としては、「いきなり労働裁判所から待遇改善に関する要望書が届いた」「労働局から業務改善命令書が来た」「組合からの要望により、交渉のために労働局への出頭命令通知が届いた」ので、どのように対応すれば良いのか、というものが導入としては一般的です。

また、中には「悪意のある組合員に社内を牛耳られ、業務が立ちいかなくなり、どのように対処すればいいか」という末期的なものもあります。実際、弊社へのご相談時に、すでに様々な要求を受け入れてしまった挙句に赤字に追い込まれているという事案も少なくありません。

マッチポンプとして暗躍するユニオン屋

以前ご相談のあったサムットプラカン県にある日系法人では、新規技術者を雇用したところ、その技術者を中心に社内に組合が立ち上がり、ベース・アップに始まり、社員旅行や業務に直接関係のない手当等、数え切れないほどの組合からの要求が繰り返されました。

これに応じない場合は、意図的なサボタージュや嫌がらせ、挙句には工場前の道路を封鎖しての抗議活動が行なわれました。

また、アユタヤ県にある日系法人の場合も、要求に応じなかったところ、非組合員である従業員への嫌がらせやサボタージュ、組合員による欠勤が頻発し、大きく業務に支障をきたしました。

これらの事態を所管の労働局に説明しても、労働局からは組合に有利な指示しか出なかったそうですが、実はこの2件ともに、組合の指揮を取り、道路封鎖などに必要な道具やプラカードを貸し、労働局とのコネクションを行なっていたのは、いわゆる「ユニオン屋」と呼ばれる業者でした。

彼らは多くの場合、先払い金(上記案件では50万バーツ=約170万円)を受け取り、その見返りに労働争議を指揮、そして達成された場合に手数料を受け取るという方法で、以前は東部チョンブリ県を中心に、そして現在はアユタヤ県など中部地方にその活動の場を移しているようで、実際、弊社への組合関連の相談では、昨年からアユタヤ県におけるものが増加しています。

では、これらの労働争議に関して、どのように対処すれば良いのか。

次回の第7回は、その対処法をご説明いたします。
(この項、次回に続く)

 

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内田知春(うちだ・ともはる)

アドバンスト・マネージメント・ジャパン株式会社代表取締役

1974年生まれ。立命館大学大学院国際関係科終了。インターンシップで初来タイし、終了後にタイの大学に就職。その後、貿易会社を起業する。企業間の裁判を何度か経験した事から、そのノウハウを活かすためにコンサルティング会社を設立。タイの政財界とのつながりを軸にプロジェクトの立ち上げや法律・財務のコンサルタントとして活躍中。タイの優秀企業賞を2回受賞。アジア経営者連合会タイ支局の副支局長も務める。「パワー・コンサルティング」を信条に総合格闘技の修練に励む。

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