すべてはタイから教わった Vol.6

第6回  ネット社会を使ったマーケティングがタイ人を動かす

私は経営やビジネスは素人なので、あくまでも身近に観察できているタイの音楽業界とネット社会について題材として取り上げたい。もともと、タイは古くから口コミによる情報伝達が一般的だった。そこへインターネットが登場し、あっという間にfacebookやツイッターなどのSNSが普及。それまで人づてだった口コミに、ネットという拡散手段が加わった。これがタイにおけるネットの位置付けだ。そして、それをどうビジネスに活かすことができるか。ここしばらくは、このネット社会の使い方が成功への近道となりそうだ。

 

ネットからスター歌手が生まれている

3年以上前の話だが、2014年8月、イサーン語で歌われた一つの曲が登場2週目で、ヒットチャートのトップに躍り出るという快挙を成し遂げた。何が快挙なのかというと、その歌手は大きな事務所に所属せず、ほぼ個人で活動をしているからだ。それまでタイでヒットする曲は、大企業が力任せのプロモートで、大宣伝をした曲がほとんどだった。時折、小さな音楽会社の曲も大ヒットするが、それは例外的な存在と言えた。

その歌手の名は、ゴン・フワイライ。タイ東北部サコンナコン県出身。少し前まで新興の音楽事務所に属して活動いたものの、売れないままに故郷に戻り、暇に任せて曲を書いてはネットで公開していた。「サイワー シ ボ ティム カン」、それが大ヒットした曲だが、心変わりして去って行った女性のことをくよくよと歌う歌詞だ。作詞作曲を自分で手がけ、ビデオは知り合いがボランティアで作られた。

「初めはfacebookにアップしたけど、6ライクしかつかなった」そうで、それをYouTubeにアップしたら、あれよあれよと100万ビューを超えてしまった。彼自身も、一体いつ何がきっかけだったのかは分かっていない。しかし、現実にコンサート出演のオファーもドンドンと入るようになってきた。東北の片田舎でアップしたビデオが、一人の青年をスターへと導いたのだ。それも大手がするような宣伝も何もせずに。

半年もしないうちに、バンコクで初めてのライブが開かれた。シーロム通りにも近いライブハウスで開かれたコンサート会場は、立席の余地もないほど超満員。ヒットした曲とは裏腹にロック調の曲がメインのコンサートは、2時間以上にわたって大盛況だった。この現象に旧来のメディアは完全に遅れをとっていた。ヒットチャートでトップになり、そのしばらくして慌てたように、トーク番組などがヒットの経緯などを盛んに取り上げるようになった。そしてそれは、ネットからスターが生まれる時代の幕開けを告げているかのようだった。

損して得を取った著作権フリー

ゴンは、1曲目から著作権フリーを宣言していた。タイでは、近年やっと著作権についての認識が一般化したばかりで、カラオケ店やアマチュアバンドの演奏でも、パブやレストランなどでは支払うことが浸透していた。CDが売れない中で、始まったばかりのネット配信も安定しない。残る収入源としての著作権料は絶対に手放せない収入源だからだ。そんな中での著作権フリー宣言は、小さな個人事務所で徴収する手間もかけられない苦肉の策だと言われ、大手からは今でも無視されている。

大ヒットから1年以上が経ち、やっとリリースされた2曲目「クーコーン」は、3チャンネル系のテレビドラマ主題歌となった。にも関わらず、著作権フリーという姿勢を続けていた。そして、このヒットには興味深い現象が起きている。それは、多くの有名無名の歌手たちが、その歌をカバーしたことだ。YouTubeでアップされていたり、コンサートで歌われたり、どこでも必ずと言っていいほど、この曲が演奏される。それがこの曲をさらに息の長いヒットとして、ドラマの放送が終わってもなお、ヒットチャート上位に君臨していた。この新曲のヒットにより、ゴンの人気はさらに、タイ全国区となった。

著作権についての認識が一般的でなかった頃から、タイでは人が演奏しているのを見て、聴いて、オリジナルに興味を持つということが繰り返されていた。かつてルークトゥン(タイの歌謡曲)で、史上初めてミリオンセラーとなった曲は、トップになるまでに2年の歳月がかかっている。これはとりも直さず、じっくりとじんわりと、口コミ的に人伝てに曲が広まったことを物語っている。こうしたことが、今回のヒットにも当てはまっている。つまり、テレビなどを見ない人であっても、何度もあちこちで同じ曲を聴く機会があれば、自然と感心も高まるものだ。

そうしたサブリミナル的とも言える戦略は、かつてテレビ局やラジオ局が限られていた時には、大手企業なら予算の許す限り宣伝を繰り返すということで、成果も得られた。しかし、タイでもデジタル多チャンネル化にいたり、こうした戦略も成り立たなくなってきている。そのかわりに提示されたのが、このネットから出てきた新たなスターの出現だ。

 

今までの宣伝戦略が通用しなくなった

タイのテレビの影響力は、今も大きい。しかし、それを見るスタイルはすでに大きく変わろうとしている。これまでは、テレビの放映時間にあわせてテレビの前で見ていた放送だが、タイのテレビ曲は、小まめにYouTubeなどの動画サイトに番組をアップしていることもあり、通勤時間や出掛けた先の暇つぶし、そして部屋で見るにしても、自分の見たい時間に見る。といったスタイルへと変化している。

現在はデジタル化したタイのテレビ放送だが、同時に開局された多くの放送局がチャンネルを再編成されるほどに撤退をしている。中華系の経営陣が多いタイでは、うまくいかないビジネスに対しては、撤退も早い。タイのビジネス界もテレビを取り囲む視聴者動向の変化はすでに察知しているようで、多くの放送局がスポンサーが見つからないことが撤退を決めた理由にもなっていた。

元来タイの人たちは、気ままで勝手、いや、自由にマイペースな面が多い。そんな彼らにとって、いつでも自分が見たい時に、好きなものが見られるネットは持ってこいということだろう。セブンイレブンが向かい合わせにあったりしても、成り立ってしまうのはそんな気ままで、横着なタイ人気質によるところが大きいと思う。音楽やテレビ番組となると、いつもでどこでも、が今のキーワードとなっていることは明白だ。

 

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そむちゃい吉田

フリーライター

在タイ18 年目。過去にタイで起業し た事もあるが失敗。現在、某日系企 業のマネージャーを務めながら、通 訳・翻訳もこなし、フリーライターと して取材に歩く日々を送っている。主な著作に、『大人のタイ極楽ガイド』 『大人のイラスト会話タイ語トラベル』 (いずれも有楽出版)がある。現在、 BizAiA!にて、タイのニュース記事やコラムを執筆する他、タイの歌謡曲 情報サイトにも寄稿中。

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